表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/39

第6話 人の町

 人だけの町、見渡す限り人しか居ない、見慣れていたはずの光景に、私は目眩がしそうだった。獣人と人が暮らしていた町にいたのは、さほど長い期間ではなかったはずだ。


 黒尽くめの魔女の装束を遠巻きにする人々を後目に、私は町の宿屋に向かった。


「あら、あんた、あの犬を連れた子かい。ほら白い犬」

急に親しげに変わった宿屋の女将の言葉に、私は頷いた。

「そうかぁ。あの犬がいないから、わからなかったよ。またうちに泊まってくれて助かるねぇ。あの子、シロちゃんだったっけ?は、どうしたの」

「引き取ってくれる人がいたから、渡してきた。私の旅に付き合わせてばかりじゃ、可哀想だから」

「あらまぁそうかい。随分と懐いていたのにねぇ。一人旅で大丈夫かい。気をつけなよ」

「ありがとう」


 本来は、旅は危険だ。だが、魔女を襲う者はまず居ない。魔女は魔女に危害を加えた者を決して許さない。町や村が滅び、国が滅んだこともある。その伝承が、大規模な魔法も仕えない、薬草に詳しいだけの、私のような魔女も守ってくれている。私ではせいぜい、人一人を炎に包む程度のことしか出来ない。盗賊相手には、虚仮威しでしかないが、驚かせて逃げるための時間を稼ぐことは出来るだろう。


「番犬は連れておいたほうがいいよ。あの子を手放したなら、また犬を飼いな。牧場で分けてもらいなよ。牧場の犬は賢いのが多いと聞くからね」

「ありがとう」

女将の言葉は嬉しかった。でも、賢い犬はもう懲り懲りだ。きっと、シロを思い出す。


 女将から受け取った鍵で、部屋の扉をあけた私は、恐る恐る窓から外を見た。周囲の屋根の上に、あの山猫はいなかった。

「ほら、もう大丈夫だ」

中途半端な旅の仲間がいなくなった寂しさに、私は蓋をした。あの山猫も山に帰っただろう。

「山猫だもの」


 私は狼の毛皮を抱きしめた。シロは、迎えに来たあの獣人達のところに帰っただけだ。一人で旅をしていた魔女は、また一人で旅をするだけだ。女将に犬の話をされて、寂しくなっただけだ。


 私は目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ