第4話 山猫は猫じゃない
私には、狩人の言葉の意味が分からなかった。
「猫じゃなくて、山猫とはどういうこと」
狩人は首をすくめた。
「一瞬だったが、山猫だろう、あれは。山猫は、野生の獣だ。気性が荒い。村で鼠をとっているような猫じゃない」
「あれ、人間についてくるもの」
「山猫というくらいだ。山で縄張りを持ち、狩りをしている」
私は溜息を吐いた。私は何を間違ったのだろうか。山猫は、何を間違えているのだろうか。
「もしかして魔女さん、あれ、あんたについて来てるの」
「ここ暫く、近くで見て、変だなと思っていて」
「犬の次は山猫かい。もの好きだねぇ」
「犬のときは、思わず拾ったけれど。あの猫は違う」
「何かやったね」
狩人の妻の言葉に、私は反論できなかった。
「雨の日に、雨宿りさせてやって、干し肉を分けてやったけど」
狩人と狩人の妻の二対の目に見つめられ、私は肩身の狭い思いをした。
「一回だけ。土砂降りだった」
あれは、失敗だったとおもう。つきまとわれるようになって反省している。
「縄張りで、獲物を狩るより、楽だからなぁ」
「一回だけなのに」
狩人も妻も、私の言い訳に苦笑しただけだった。
シロの二の舞いだろうか。せっかく手放したのに、今度は山猫か。シロは懐いてくれたけど、付かず離れずついてくる山猫は、このあとどうするつもりなのだろう。
「放っておいたら、そのうち諦めて山に帰るよね」
人に懐かないという狩人の言葉を、信じることにした。
「頑張りな」
狩人の妻は、気のない励ましをくれた。