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第33話 旅に生きる魔女と弟子

 数ヶ月から半年毎に、私はシロが待つお城に戻った。獣人の国には、人の暮らす南にはない、様々な植物があり、薬効もそれぞれだった。


 私が獣人の国を旅するようになってから、数年後、私の旅の仲間はリンクスさんから、シロに代わった。


 シロが立派に成人の儀を乗り越え、一人前の大人の獣人となったからだ。


「魔女はシロちゃんと一緒」

私と二人でいるときは、シロは、相変わらずの甘えた口調になる。獣人として、一人前になったのに、シロの中身は、あまり変わらないらしい。大丈夫ですよと、リンクスさんが言っていたとおりだ。


「魔女、シロちゃんを、魔女のお婿さんにしてください」

一人前になったシロが、最初にしたことは、私への結婚の申込みだった。人の習慣とは違うが、真摯な結婚の申込みだった。


「私の名前を教えてあげる」

だから、私も真摯に答えた。魔女の名前を知るのは、魔女の家族だけだ。私と暮らし、魔女の風習を知るシロは、喜んで私を抱き上げ、くるくるとまわった。


 魔女の習慣を知らなくても、シロの態度で私の返事の意味がわかったらしい。お城の中は、ちょっとしたお祭り騒ぎになった。


 魔女は、魔女になったときに名前を捨てる。魔女の名前を知るのは、魔女を育てた家族と、魔女本人だけだ。魔女に逆恨みをする人が、魔女の家族に危害を加えることを防ぐための習慣だ。だから、名前を教えることは、魔女にとっての特別だ。


 シロは、お城で暮らすのでなく、私の弟子になり、私と旅をすることを選んだ。領主様もそれを許可して下さった。


 各地で細々と伝えられている知識を集め、体系化し、次代へ伝えることは、民の幸福、領地の発展につながる。領主の息子として、立派に努めを果たすようにと、お言葉を、旅立つシロに与えてくださった。


 シロの両親、領主様と奥方様は、長く一緒に暮らすことの出来なかった息子の旅立ちを、どういう気持ちで認めてくださったのだろう。魔女として生きることを決めた私を見送ってくれた、両親のことを思い出した。


「ねぇ、魔女、海に行こう、海」

シロが言った。これから私達は二人、旅をする。獣人の国が主だが、人の国にも行くだろう。私の家族が住んでいた土地に行く日もあるだろう。


「ねぇ、シロ。また時々、お城に帰ってこようね」

「そうだね。帰ってこようね。待ってくれているものね」

帰ってくる場所があるのは幸せだ。待っていてくれる人がいるのは幸せだ。旅する仲間がいることは、幸せだ。


 私達は、お互いの顔を見て笑った。


<本編完結> 父視点に続きます


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