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第22話 獣人の国

 獣人の国に着いても、私とシロの旅は終わらなかった。


「旦那様も奥様も、坊っちゃんに早く会いたいと思っておられるのですが、お立場もございます。お出迎えにいらっしゃる事はできませんことを、ご理解ください」

「はい」

私はリンクスさんの言葉に納得した。乳離れしたばかりの幼いシロは、それなりに守られていたはずだ。そのシロが攫われたのだ。シロの両親の安全を考えたら当然だ。


 私の隣で身を固くしたシロは、何も言わなかった。

「シロちゃん」

シロは、黙ったまま、私に頭を擦り付けてきた。目に涙が滲んでいた。


「シロちゃん」

その日の晩、シロは私の寝床に潜り込んできたが、何も言わなかった。行くとしか言えないシロも、覚えていない両親に会うことを楽しみにしていたのだろう。何も言わず、目に涙を滲ませたまま、頭を私に擦り付けてくるシロを、私は抱きしめてやった。


 翌朝、人型になることを止めてしまったシロは、朝ごはんも食べずに馬車の床で丸まった。窓の外を眺めることもしない。つい昨日までは、一緒に外を見ていた。少しずつ増えてくる獣人達の様々な姿に、シロは目を丸くしていた。


 そのシロが、今日は大人しい。

「シロちゃん」

名を呼ぶと、尻尾だけが揺れる。別れたとは言え、私には家族の記憶がある。何も覚えていないシロの気持ちを、私はわかってやれない。


「おいで」

両手を広げると、仔犬の頃のように甘えてきた。大きくなった今は、抱きしめてやるのも大変だ。

「よしよし」

甘えた声を出すシロを、私は精一杯甘やかしてやった。


 獣人の国の宿は、人の国の宿とさほど変わらないと、リンクスさんは言った。リンクスさんが嘘をいうはずがないから、多分そうなのだろう。だが、安宿しか知らない私には、確かめようがない。


 国境から離れるにつれ、泊まる宿が高級になっていくのだ。どうやら、町にある最高級の宿を、リンクスさんが決めているらしい。気にしなくて良いというリンクスさんの言葉に、私は甘えることにした。


 高級な宿で寛ぐ私と違い、シロは落ち着きがなくなった。人型になることを止めたシロは、私の足元から決して離れなくなった。結果、私とシロは同室だ。

「魔女様には、本当に申し訳ありません。坊ちゃまの我儘にお付き合いいただき、本当にありがとうございます」

リンクスさんは、平謝りだ。


 シロは、私にひっついて甘えているだけだ。人型になることに、慣れていないだけだ。宿や町ですれ違うだけの獣人達は、そんなシロの事情を知らない。


 魔女である私に、完全な獣の姿になれる能力の高い獣人が付き従っているように見えるらしい。魔女である私に、獣人達は丁重に接してくれた。


 リンクスさんは、違う意見だった。

「この国に、足を踏み入れて下さった魔女は、おそらくですが、魔女様が初めてです。人族の国のことを、ある程度知るものであれば、魔女様を丁重に扱って当然です」


 魔女は、人よりも多い魔力を持ち、代々の師匠達から受け継いだ知識を持つ。魔女は人とは少し異質だ。魔女を受け入れてくれる人は多いが、毛嫌いする人も少なくない。どこからも、嫌悪の視線を向けられず、敵意も感じないことに、最初、私は戸惑った。警戒の必要がないことに慣れるにつれ、少し心の余裕もできた。元気のないシロに、寄り添ってやる時間が増えた。


 シロと過ごす時間が増え、高級な宿に慣れたら、もとの一人旅に戻ったときに辛くなることはわかっていたけれど。私は、心の声に蓋をして、不安一杯のシロに寄り添った。


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