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第2話 去った温もり

 明け方、寒さで目が冷めた。北にある獣人の国から南へと、冬の寒さから逃げるように旅をしているが、人の足で冬から逃げ切れる訳がない。


 薄い寝具を重ねたところで、寒さを防ぐには足りない。何年もシロと一緒にいたせいで、寒さに少し無頓着になっていた。


 拾った仔犬は、寝床を作ってやったのに、すぐに毛布を咥えて私の寝床に潜り込んでくるようになった。あの頃、寒さが残る春先だったから、私も仕方なく受け入れてやった。分厚い毛皮に包まれたシロは暖かかった。シロがいれば、寒くなかった。


 夏になると、シロの毛皮は暑苦しくなった。追い出そうとすると、黄色の瞳で悲しそうに私を見て、一生懸命に顔を擦りつけてきて、甘えるから負けた。夏は、シロと一緒だと、暑かった。


「寒さをなんとかしよう」

シロが居ないから、独り言には、誰も何も答えてくれない。寒い夜、温めてくれる、手触りのよい分厚い毛皮のシロはもういない。


「毛皮にしようかな」

毛布もいいが、狩人に毛皮をもらうのもいい。傷に効く薬草となら交換してくれるだろうか。シロの毛皮は、少し硬い毛の下に、分厚い柔らかい毛があって、とても手触りがよかった。


「あんな毛皮がいいな」

シロが毛皮になってしまったら、とても哀しいけれど、あの子は賢いからそんなことはないだろう。


「シロが聞いたら、怒るだろうな」

くだらない冗談に、一緒に笑う相手も、拗ねる相手もいない。前は当たり前だった。寂しいけれど、どうせすぐに慣れる。親と別れて師匠に引き取られた時も、一人前になって、師匠と別れた時も、寂しかったが、すぐに慣れた。シロとの別れも同じだ。どうせ慣れる。


 一人ぼっちという言葉を、頭から追い出した。


 荷物はさほど無い。空間魔法で、全部放り込むだけだ。


 前はシロが、ご機嫌で尻尾を振りながら、荷物を放り込んでくれた。拾ったばかりの頃、シロは、ぽっかりとあいた空間魔法の穴に、荷物が消えることに怯えていた。慣れてくると、何が楽しいのか、私にはよくわからなかったけれど、吠えて跳ねて大騒ぎしながら荷物を放り込んでくれた。

「楽だったな」


 シロは、荷物を放り込み終わると、尻尾を振ったり、ひっくり返ってお腹まで出したりして、撫でてくれと私に訴えてきた。言葉を尽くして精一杯褒めて、全身を撫でてやると、本当に嬉しそうにしていた。


 寂しい。本当に寂しい。魔女は本来、孤独な生き物だ。それでも寂しい。シロを拾うのではなかった。シロと一緒に暮らさなかったら、寂しいなど知らなかったのに。私を見上げてくる黄色い瞳が懐かしかった。


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