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第16話 シロの事情2

 リンクスさんは、獣人のことを何も知らない私にもわかるように、説明をしてくれた。


 獣人の国にも人の国と同じで、権力争いがある。シロの両親も権力争いの只中にいた。シロには、兄も姉も数人ずついるそうだ。少し年齢が離れて生まれたシロを、家族全員かわいがっていた。だが、シロは、乳離れした頃に、攫われた。両親や兄達や姉達、リンクスさん、沢山の大人たちが探したけれども、見つからなかった。


「私達の国、周辺の国々にまで捜索しましたが、手がかりすら、何一つ得られませんでした。こうなると、人の国にいるのでは、ということになり、私を含め数名が、南に向かうことになりました」


 獣人達の国は北にあり、多くの獣人は北に暮らす。人の国は南にある。人は人、獣人は獣人で争う。かつて人と獣人が争った時代もあったが、過去のことだ。大地が凍りつく北は、人が暮らすにはあまりにも寒く、太陽が砂地を焼く南は、獣人が暮らすにはあまりにも暑すぎた。お互いに、相手の土地に、血を流してまで手に入れたいほどの魅力を感じなくなったことが、長く争いは起きていない理由だと言われている。


 人の領域と獣人の領域の境目に、緩衝地帯のように、獣人と人が入り混じって暮らす国が出来たことも、大きい。互いの文化の理解と、混血がすすみ、啀み合うことが難しくなりつつある。


 私がシロを連れて行ったのは、そういった国にある町の一つだった。偶然、リンクスさん達が、故郷と人の国とを、行き来するときの中継地点にしていた町だった。


「坊ちゃまを探していた仲間達が、坊ちゃまをつれた魔女様をお見かけしたのです。本当に偶然でした」

人の姿のリンクスさんが、目を細めて嬉しそうに笑い、シロが恥ずかしそうに頭をかく。


「黒い犬だと思ったら、目の前で人になって、びっくりしていたら、『あなたもお出来になるはずです』って言われた。びっくりして、でも、出来て嬉しかった」

シロが握ったままの私の手を振り回す。


「魔女と一緒になったから」

そのまま嬉しそうに飛び跳ねる。人型になっても犬の姿のときも、シロは変わらない。


「人型になったのを、魔女に見てもらおうと思って家に帰ったら、魔女は寝てたから。一緒に寝た」

「そうね」

あの日、少年の姿のシロを見た日のことだろう。あれが、シロが初めて人型になった日だったのだ。


「もう一度、人型になって、魔女に見せてあげようと思ったのに、人型になれなくて。そうしたら、魔女は、隣の黒猫を家にいれて、シロと魔女の家なのに。酷いよ。魔女、家と一緒にいなくなるし、シロを一人で置いていっちゃうし」

シロの金色の目に、涙が浮かんだ。


「魔女がどこにいったかわからないし、町の人も知らないって、黒猫も知らないって言うし、どうして、シロちゃんを捨てたの」

泣き出しそうな声で、叫ぶシロに、私は何も答えられなかった。私はシロを捨てたわけではない。シロを捨てたかったわけではない。だが、シロにしてみたら、捨てられたようなものだ。私は、突然姿を消したのだから。


「どうして、魔女。シロちゃん、なにか悪いことをしたの」

シロの金色の目から、涙がこぼれ落ちた。


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