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はじめてエリー(仮)の一人称にしました。
「♪」
鼻歌を歌いながら身軽な制服を身に纏い、リボンを整える齢15の少女。
つい昨日カットしてもらったヘアスタイルに鏡の前でうっとりすると、少女ーリムリは学生服を着て、
「よし!今日もバッチリ!」
今日も元気に扉を開ける。
ガチャ
「おはよー!ちょっと外出てくるねー!」
「?!」
扉の前で警備していた兵士はびっくりして、慌てて追おうとするが、彼女の若い瞬足に遅れをとったようだ。
ガチャガチャ!!
重い鎧で転ぶ音が聞こえたが、無視して進む。
すれ違った兵士は、挨拶をすると、
「今日も姫サマはお元気ですねぇ〜」
兵士と一緒にいた司書も
「ですねぇ。ところで侍女も警備もいなかったような気がしたんですが」
と割と呑気なことを言っている。
「きっと下で準備してるのでしょう」
「馬車の準備もなかったようでしたが?」
「ところで、今日って学校でしたっけ?制服でしたけど」
「午前の講義…でしたっけ?塀の崩壊とか、物騒なことが多かったですから…」
「では、いつも通りの≪こっそり警備≫増やしときますか?隊長?」
隊長と言われた甲冑の男は、
「うむ。ではいつも通りに!」
いつも警備をおいて一人で街に出かけるリムリに慣れた兵士達は、つかず離れずの距離を保ち、街にはいつも兵士が配備されていた。
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ところ変わり、街の中にある商会会長の一室―立派な椅子に座る体躯の良い髭の男は、気分が悪いのか青スジ立てながら、
「ご苦労であったな。」
と労いの言葉をかけてきた。
どうやら、部下から提出された『速報・建造物および器物破損状況報告書』の額をみて頭を抱えているらしい。
すまんな。
もっと静かに動くつもりだったんだが、ちょっと手間取ってしまったようだ。
「言いたいことは色々あるところだが、組織の規模を考えると『この程度』で済んだと溜飲を飲むこととしよう。」
お、さすが|会長≪トップ≫
心が広いな。
―チリン…♪
会長はベルを鳴らすと、執事がトレイに乗せられた金貨を持ってきた。
予定より少し多いような…
「約束の依頼料だ。多少の口止めも含まれているがな…」
「…ありがたくいただいておこう。」
商会の外に出ると、昼食の時間が過ぎた頃合いで、大通りは買い物客や露天商で賑わっていた。
俺?
俺の名はエリー(仮)。
人間の姿をしているが、名前も身体もそれぞれ借りものの半魔だ。
名前の持ち主との差別化のために(仮)を名乗っている。
訳あって、異世界を渡り、雑務をこなす、いわゆる『何でも屋』をやっている。
今回、街のなかの、ある闇組織壊滅の依頼を受けてこの街に来たのだった。
無事に壊滅させることは出来たのだが、ほんのちょっぴり壊しすぎてしまったらしい。
まあ、もらえるものは貰えたから良しとしよう。
ふふ…
手に持った報酬金の重さに、ニヤケ顔が止まらない。
今回は少し面倒な依頼だったが、思ったより多めに報酬がもらえたな。
天気も良いし、すこし街を見てから戻ろうかな?
「ねえねぇそこの方〜」
大通りを歩いていると、声をかけてくる商人がいた。
「ここらで見かけない顔だね。この街の名物・工芸品でも見ていかないかい?」
あっ、やべっ!
お金持ってるとこ見られたか……
水を得た魚かと思われるぐらい露天商はめっちゃ笑顔である。
……仕方ないか。
「この街ははじめてかい?」
「ああ」
そういえば先の戦闘で色々使ったから、魔法付与用のアイテムも心許なくなっていたな。
手頃な素材でもあればいいんだが…
「なら銀細工のアクセサリーや絹織物がオススメだよ」
「銀と絹か……」
「それだけじゃないけど、選ばれるお土産トップオブ工芸品だからね。」
銀糸でデカデカと「銀」と主張している艶やかな光沢のある織物と「silk」と象ってある細身の銀のブローチは、この商人の看板かジョークアイテムだろうか?
よく見たら、値札が付いている。
試しに手を出した方がいいのか頭を過ったが、値札をみて、無難に並んでいた小さい宝石がついた銀のブローチを選んだ。
「ここは商人の街だから、他にも色々揃うよ〜」
「何でも……武器もか?」
質次第では、投げナイフとか、少し補充してもいいかもな。
「え、あんた、なかなか物騒な事を言い出すんだね。そうだなあ、武具の類だったら、向こうの通りの方がオススメだよ。『ツバメYah!』って武器屋がお手頃だよぉ~」
途中からラッパーみたいなネーミングだな。
「そうか、親切にどうも。探してみるよ」
「変なのも多いから気をつけてねー。」
「ああ。」
手を挙げて立ち去った。
しばらく歩いていると、両側を壁に囲まれた路地に出た。
「角を曲がって、次を真っ直ぐ、……」
商人に云われた道のりを歩いているんだが…なんというか……うん…………面倒だな。
迷ったわけではない。
この街は、大通り、裏通り以外の細い通り毎に壁で区切られているが、隣の通りに行くには、限られた関所を通るしかないが、そこまで歩くのが面倒になっただけだ。
決して迷ったわけじゃないぞ。
……たぶん
よし、ちんたら歩いててもたどり着かなそうだから、近道するか!
そう思い、近場の塀を乗り越えることにした。
幸い、それほど高くないし。
「よっ!」
近くの壁をひと息に登り、1つ隣りの通りに降りようと降りる瞬間、ちょうど良い?タイミングで誰かが走ってきた。
「ぇっ!?」
やべっ!避けられねぇ!?
ドン!?
「っきゃあ!?」
「ぉわあ!?」
制服を着た女の子だった。
受け身を取ろうとしたが、バランスを崩し、女の子の上に馬乗りになってしまった。
「す、すまない」
「びっくりしたぁ!?……何?…何が起きたの??」
「怪我はないか?」
不注意だった。
幸い頭を打ってはいないようだ。
抱きおこしながら、声をかける。
「……は、ハイ…大丈夫みたい……」
角を曲がったところの出合い頭のロマンスかと思いきや、突然男が降ってきたのだ。
そりゃ混乱もするだろう。
「すまない。塀を越えて近道をしようとしたんだが下をよく見てなかった」
「近道?」
手を差し伸べるエリー(仮)の手を取りながら、女の子は立ち上がる。
「ありがと。いきなり床ドンされるとは思わなかったわ」
服に着いた土埃を払い、顔を上げると、こちらの顔をまじまじと見つめてきた。
な、なにか顔についてたか?
…
少女はニコッと笑顔を笑いかけてきた。
「気にしないで、私も周りよく見てなかったから」
「……すまん」
「それよりアナタこの街の人じゃないわよね?」
商人といい、少女といい、そんなに外の者に見えるのだろうか?
言われてみれば金髪はあまり見かけないような気がする……
服も動きやすい恰好をしているのだが、武器や金目の大事なモノは眼に見えないところに隠しているし、旅人のように大荷物を抱えているわけじゃないんだが?
「よく分かったな。ちょっとした所用でここまで来たんだ」
「そうなんだ。この辺りは入り組んでるから、迷いやすいんじゃない?」
「まあそんなところだ。塀の上を行けば迷わず近道できるかと思って。」
「あー、それでさっき空から降って来たのね。」
「すまない。前方不注意だった。」
「いーわよ。天使が降臨したのかとビックリしちゃっただけだから」
「天使って……」
召されそうになったのだろうか?
その割には楽しそうだ
「ホントだってばー☆
あ、さっき、お仕事で来てるって言ってたじゃない?それってもう終わったの?」
「ああ、さっき依頼人に報告してきたところだ」
「じゃあさ、これから時間ある?ちょっと付き合ってもらいたいトコロがあるんだけど。」
「俺でよければ、ぶつかったお詫びもしたいし」
買い物とか荷物持ち…とかかな?
無難にお茶代おごり……とか?
「よかったぁ!一人できちゃったから、ちょっと心もとなかったんだよねぇ。ラッキー!」
?
なんの話だろうか?
「こっちこっち!早くいかないと座れないー!」
そういうと少女は走り出したので慌てて追いかけた。
「そう言えば、アナタ名前は?」
小走りで走りながら、自己紹介を求められた。
「エリー(仮)だ」
「エリー(仮)?」
「色々あってな。親しい人にはそう呼ばせている」
「そう、なのね。あたしは……リムリって呼んで。友人にもそう呼ばれてるから、良ければそう呼んで」
長めのサイドヘアを顔の近くに持ってきて彼女はそう言った。
照れている……のだろうか?
ありがとうございます。
今回のは3話構成になります。