忘れ去られた記憶
生きるってどういうことなのかな?私のこんな答えのないような質問に君はいつも必死に答えてくれたね。私をどうにか繋ぎ止めようとして。
……あったばかりのとき、君はただただ無気力な子で自分の生きる意味を見失ってた。君の周りに平和なんてなくて、君の周りに救いなんてなくて。ずっと苦しんでた。
私はそれをずっと側で見てた。「助けたい」ずっとそう思ってた。でも子どもにできることはちっぽけで君をそんな地獄から救い出すなんて到底無理だった。
私は君の側にいることしかできなかった。そんな無力な私を君は責めなかった。しまいには「側にいてくれるだけで僕は救われるよ」なんて言ってくれる。でもそんな君の優しさを受け、私は自分の無力さにさらに絶望する。
成長するにつれ君は強くかっこよくなっていく。けど、周りの環境は変わらない。どれだけ強くなっても君はいじめられ続ける。何故か。それは君がすごく優しいからだって気づいた。君はイジメてくるような子でさえ傷ついて欲しくないって思ってたんだ。
でも、私は君が傷つくのを見たくない。だから必死に君を庇う。君はそんな私もまとめて守ろうとする。
……私は君を助けたい!でも君はそれを邪魔する。…………ねえ、私は君のことが好き…だから君の重荷を一緒に背負わせてよ…君が苦しむ姿を見たくないの。
そう伝えると君は驚いたような顔をする。
「……僕と居て楽しい?」君は突然そんなことを聞く。
なんで?なんでそんなこと聞くの!私が君と居て楽しくない時間なんてないよ!そう私が言うと、君は下を向いて呟く。
「だって…だって僕なんだよ?別にかっこよくもない。別に気が利くわけでもない。誰にでもできる会話ですら上手くできない。こんな…こんな僕に!負け続けてる僕に!なんで君は…!」
地面が濡れている。ポツ、ポツ、とにわか雨が降っているかのように。私は君の肩を掴んで叫んだ。思いっきりぶつけた。絶対に伝わるように。
「私は君が好きなんだよ!私の気持ちまで否定しないで!私は、私は君と一緒にいたいの!今の君のすべてを好きなんだよ…」
いつの間にか私の目の前は見えづらくなってきた。腕で目を拭って続ける。
「欠点なんて人間だからあるのは当たり前だよ。それを認めあって助け合って一緒に生きていきたいんだよ。君と!」
私は息も絶え絶えになりながら言った。君は黙っている。私は君を抱きしめる。強く強く。前を少しでも向いてほしいから。私を見てほしいから。すると君は泣きながら呟く。
「ねえ、僕はいじめられてるよ?」
私は言う。「それでも。」
君は言う。「僕はブサイクだよ?」
私は言う。「私は君をかっこいいと思う。」
君は言う。「僕は…僕は君のそばにいるほどの価値なんてないんだよ?」
私は言う。「それは私が決める。」
君は少し力を抜いて言う。「そっ…か。なら僕はもう言えることがないや。本当にこんな…こんな僕でいいの?」
私は言う。「言いに決まってるでしょ!しつこい。」
君は言う。「はは、そうだね。じゃあ……よろしく。」
君はそういってやっと笑う。私もそれにつられて笑った。涙でグシャグシャな顔だったけど、とても晴れやかな気持ちだった。君は私に幸せを教えてくれた。
その日から君との恋人としての日々が始まった。最初の方は両方とも不器用で、色々なことにあたふたした。デートはどっちが決めてもグダグダだった。途中の電車に落とし物をして一日中探したこともあったし、行こうと思ってたレストランが閉まっていたときもあった。
けど、そんな上手く行ってない時間でさえ二人でいると楽しかった。
二人でいると沈黙でさえも心地良かったから。
私は本当に君のことが好きなんだ。
そう強く思った。
ただ、この時期からだろうか。君へのイジメが過激になり始めた。悪口だけでなく、暴力や物を隠したり汚したりなどのことが起こった。
嫌いだった。そんなことをするクソどものことが。君を助けられない自分が。
目の前で消耗していく君。見るのが苦しかった。何もできないのが悔しかった。君の無理に作った笑顔が私の心に突き刺さった。こんなときに助けれるように側にいるんじゃないのかと何度も思った。
けど、私の力はちっぽけなままだった。
その頃だろうか。私は君と一緒にいるときに時々「ごめんね」と呟いてしまうようになった。君は察していたのだろう。私が君と一緒にいることで苦しんでいたことを。
君は私にお互いのために一度離れようと言った。私は嫌だった。大好きな君と、自分よりも大切なかけがえのない君と離れることが。
私は嫌だと叫んだ。でも君は困ったような顔で私を見つめるだけだった。
僕はどうしたらいいんだろう。君にとって僕はきっと重荷になっている。それをわかっていながら僕は君に甘えていた。
けど、目の前で君が悩んでいるのを見て、もう辞めよう。そう思ってしまった。悲劇のヒロインになるつもりはないけどこれ以上君を苦しめたくない.
僕の問題は僕自身が背負うべきだ。そう思った。そうしたらいつの間にか別れの言葉を口にしていた。
君は泣いていた。まだ一緒にいたいと言ってくれた。
僕も一緒にいたかった。
君は僕を離さないと強く抱きしめてくれた。
僕も抱きしめ返したかった。
君は何度も好きだと言ってくれた。
僕は……何も言えなかった。
その日を境に僕は君との連絡を絶った。
私はあの日から何度も連絡をした。でも彼はでなかった。返事がなかった。
何度も彼の家を訪ねた。でも彼のお母さんが出てくるだけで彼は出てこなくなった。
私は部屋から出れなくなってしまった。私にとって彼はそれだけ大きい存在だったのだろう。
初めは涙が溢れて止まらなかった。枕のカバーを何度も変えた。けど、しばらくすると涙さえ出なくなった。何も考えられなくなった。無気力だった。
君のことばかり考えていた。幸せだった時間が私の心を締め付けた。
後悔ばかりだった。あの日をこうすれば…あの日をこうしなければ…そんなことばかり考えていた。
絶望しかなかった。自分が大嫌いになった。
私は遺書を書いた。
僕は泣いた。泣き叫んだ。自分の選択が間違いだったと後悔した。君を傷つけないようにするつもりがむしろ傷つけていた。未熟だった、そんな言葉で済まされる話じゃない。怖かった。僕は殺人を起こしたも同然だから。好きなのに離したのが間違いだったんだ。受け入れたくない。こんなの真実じゃない。
嫌だ。嫌だ、嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
………ごめん、ごめんね…å¥�音
その日から僕は記憶を失った。
読んでくれた方、本当にありがとうございます。良ければ評価と感想を残していっていただけると幸いです。あんまり厳しいものだと心に刺さりますがw