転生二日目その1
コケコッコー、というけたたましい鶏の鳴き声で朝6時に目が覚めた。
「(うわっ! 目覚ましの魔法ってこんなのかよ~! 目覚まし魔法取り消し!)」
スッキリと、とは言えないが、完全に目覚めたバーツは考える。
「(何か便利な魔法を作ろう。まずは昨日のご遺体確認がどこまで進んでるのか知りたいな。えーと、何処でも、何処までも見える、千里眼とか良いな……いや待てよ……もっとこう、何でも見通せる目……神眼にしよう! では見てみるか……おっ、見えるぞ! ……いやこれは脳裏に浮かぶって感じだな。ご遺体のカードや遺品は……お、全部なくなってる! ……騎士達が何か会話してるな……神眼に音声収集機能も付けよう。『ふわ~、眠みぃなあ、結局徹夜か~、交代の奴ら何時頃に来ると思う?』『さっき6時の鐘が鳴ったから7時半位じゃないか?』……そうか、じゃあ引き継ぎをするとして、家に来るのは8時半頃かな……うん、良い魔法が作れたな!)」
「(次はレーダー的なもの……サーチでいいか。魔物は赤、魔物の死体はショッキングピンク、人間は青、人間の死体は黒、悪人は黄、鳥や獣や魚は深緑、俺及び俺と一緒にいる者へ害意のある人間は紫、でいいな。じゃ取りあえず半径3キロをサーチ! ……うわ! 紫が結構多いぞ! 20位か? 悪徳警備兵と狡賢い部下か? まあそれ以外も混じってるんだろうが……)」
「(リコのGショ○クを作るか。箱付き、説明書付きでと……、あとは俺と同様にして、そうだ、電池無限と、絶対に汚れず損傷しないようにしよう。いでよGショ○ク!)」
6時45分になったので服を着て居間に行くと、リコも目覚めたようだ。
昨夜の残り物を朝食にする。台所に行き、出来上がったコーヒーを魔法で出して、テーブルに置く。
「お、いい匂いだな。何だそれ?」
「(コーヒーは無いのか……)」
「コーヒーという飲み物です」
「苦いなかにも、わずかな甘み……美味いな!」
「(俺も好きなモカ、うめぇ~)」
「そうだリコさん、これGです。どうぞ」
「マジか!?」
「はい」
箱を開けて、手首に巻くリコ。
「うおおおお! マジかよー!! もし売れば一生贅沢しても、まだ余る金額になるぞ!!」
「大事に使って下さい」
「勿論だ!! だけど、どこで手に入れたんだこれ!?」
「箪笥の奥にありました」
「お前の父ちゃん、すげえ奴だったんだな! びっくりだ!! でも形見なんだろ?いいのかよ?」
「はい、これからも色々お世話になるのだし、ぜひ受け取って下さい」
「分かった、ありがとうな!!」
話は変わるんですがと、先程魔法で見た事を告げる。
「お前に害意のある者が20人? ……多いな」
「荒事になった場合はどうします? リコさん、武器を持って来てないですよね」
「武器はある。長剣と短剣を収納袋に入れている」
「僕も何か武器を用意したほうが良いですか?」
「得意な武器は何だ?」
「なにもないです」
「じゃあ丸腰のほうがいいな。扱い慣れていない武器を持つと、かえって危ないからな」
「分りました」
時計を見ると7時46分。両親のお金を取りに行くと言って寝室に。
「(容量無限で時間経過の無い亜空間収納を作ろう! 魔法の名前は……収納でいいや。入れるときは収納で、出すときは取り出し、と念じればいいだろう。はい魔法完成!)」
両親の財布を開けてお金を収納し、はた、と思い付く。
「(面倒だから、害意のある奴等を気絶させておこう。……俺に害意を持つ人間全て魔法解除するまで気絶しろ!)」
そして居間に戻って、また気付く。
「(リコとテレパシーで会話ができれば都合良いな……)」
「リコさん、言葉に出さず、思ったことを相手に伝える事ができれば便利だと思いませんか?」
「どういう事だ?」
「僕とリコさんの心の中で会話するんです」
「ああ、そういう事ができれば、今日のような時には便利だな」
「じゃあ、リコさんとテレパシー!」
魔法は完成した。
「リコさん、心で念じるように、語りかけてください」
――おいバーツ、聞こえるか?――
――はい、聞こえてますよ。魔法完成ですね――
「おお! こりゃいいな! だけどテレなんとかって何だ?」
「ただの魔法の名前ですよ。気にしないで下さい」
「ふ~ん、お前ってやっぱすげえよな……」
「え、いや~、あははは」
その後しばらくして騎士が迎えにくる。
リコは長剣を左腰に短剣を右腰に吊るして、バーツは丸腰のまま、ご遺体安置場所に着く。
近くに荷台の長い荷馬車が3台と乗用馬車が1台あった。
「ではバーツ、ご遺体の転移をしてくれ」
迎えにきた騎士が言う。
「えっ? どのように積むのですか?」
「ご遺体を横にして4~5段の山積みにしてくれ」
「(うわー、この世界って、遺体の扱いが酷いな)」
「分かりました、ご遺体を馬車に転移!ご遺体を馬車に転移!ご遺体を馬車に転移!」
「よし、ご苦労。では事情聴取のため領主館に向かう。あの馬車に乗ってくれ」
「はい、分かりました」
「騎士さんよ、俺も同行するが、いいよな?」
「ああ、構わん」
リコと馬車に乗り、領主館に到着すると、門で降車させられ、門兵にカードの提示を求められた。
門兵は詰め所に入って行き、カードを箱のようなものに挿入した。
「リコさん、あれは?」
「ああ、領主館への入出を記録してるんだ」
二人の記録はすぐに終わり、カードが返却される。
「迎えが来るまで待っててくれ。それと腰の武器はこちらで預かる」
「分かった、ほらよ。ところで事情聴取は領主様がするのかい?」
「ああ、先程そのように変更されたようだ」
「(気絶が原因だな……)」
「じゃあ最初は違う場所の予定だったのか?」
「そうみたいだ」
そこで執事みたいな人がやって来た。
「お待たせしました。私が案内しますので、付いてきて下さい」
一応敬語だが、明らかに下に見ているのが分かる。
執事風の男に着いて行き、執務室の前に到着すると、執事風がノックする。
「バーツとリコを連れて参りました」
「入れ」
執事風がドアを開け「どうぞ」と言った。
「失礼します」
と会釈してバーツは部屋に入る。
「失礼する」
リコも軽く会釈して入る。
「よく来た、バーツ、リコ」
「初めまして、バーツです」
「おはよう、サウズ様」
リコは何回か領主に会っているので、そんなふうに挨拶をした。
「堅苦しいのは無しにしよう。俺がこのエミテラルの街の領主、ジュニール・フォン・サウズ男爵だ。そこに掛けてくれ」
領主がソファーに座り、バーツとリコは対面のソファーに座る
「セバス、メイドに茶を用意させろ」
「畏まりました」
執事風は去って行った。
「俺は冒険者あがりで、堅苦しいのは苦手なんだ。そんなに畏まるなよバーツ」
「は、はい!」
「バーツ安心しろ。ここは安全だぜ。なあサウズ様」
「ああ、そうだとも。バーツ街を救ってくれて、ありがとう」
「い、いえ、そんな……」
「サウズ様、今日の事情聴取、本当はチョンボがする予定だったんじゃないか?」
「そうだが、なぜ知ってる?」
「ただの予想さ。あいつの悪い噂をよく耳にするんでね」
ここでコンコン「お茶をお持ち致しました」とメイド。
「入れ」
「失礼致します」
メイドが茶と菓子を置き「失礼致しました」と去って行く。
リコが茶を口にする。
「美味い! やっぱここのお茶は最高だぜ! バーツも飲め! 菓子も食え!」
「リコは相変わらずだな。バーツも遠慮はいらんぞ」
「はい、いただきます。美味しい!」
「(紅茶か……普通に美味いな)」
「ところでバーツ、街をグルッと囲む結界はお前が張ったのか?」
「はい、魔法で張りました」
「どういう結界なんだ?」
「あれに触れると、魔物は死に、人間はどんな状態異常からも回復します」
「昨日の昼、俺の酷い肩こりと疲労が一気にぶっ飛んだんだが、結界のおかげか?」
「……はい、そうなります……」
「西門からは、あれに触れた魔物が即死して、バタバタと防壁寄りに倒れてきてると報告が来ているが」
「やっぱりか! おいバーツ! これが済んだらすぐギルドに行くぞ!」
「リコ、まだ話の途中だろが、まったく。あー、バーツ、素晴らしい結界だが、いつまで持続するんだ?」
「僕が解除するまでですが……」
「だったら、ずっと張りっ放しにしといてくれ!」
「え? でもそうすると、街の治癒士や薬師や医者達の迷惑になるんじゃないでしょうか?」
「ちゆし? やくし? いしゃ? なんだそれ。聞いた事ない言葉だが」
「えっ! 怪我や病気を治したり、そのための薬を作る職業の人達ですが」
「そんな者達はおらんぞ。リコ、よその街とかで聞いた事はあるか?」
「いや、よその街どころか王都でも聞いた事ないな。でも冒険者の中に、まれに回復魔法が使える魔法使いが居るらしい、って噂は聞いた事があるな」
「じゃ、じゃあ、張りっ放しにしておきます」
「是非そうしてくれ!」
「サウズ様、あれはマジですごいぞ! 生きてさえいれば、あれに触れるだけで、千切れた腕や足が再生するんだぜ!」
「しかし、そんな凄い魔法をどこで覚えたんだ?」
「昨日魔物に襲われて、死の淵を彷徨っている間に授けられました」
「そういや昨日、負傷者収容所でも言ってたな」
「そういえばバーツ、上空には結界が無いようだが?」
「はい、上空には張ってません、飛竜とか飛んでくるのですか?」
「そういう事は今までに無いが、なぜ上空は結界が無いのかと思ってな」
「街を囲んでいる結界は高さが40メートルあって、魔法攻撃や弓矢、投石などの攻撃を撥ね返します。それで40メートルも高さがあれば大丈夫かなって思ったんです」
「そうか、この国、現ヴァルーテ王国はいつか戦争が起こるかも知れなくてな。王国紀154年というのは、前王朝が倒され、現王朝になってからの年数なのだ。だから上空にも結界を張ってくれんか?」
「サウズ様は庶民に優しいからな……どうだバーツできるだろ?」
「はい、できます」
「それじゃ、全ての攻撃を撥ね返す結界を上空にも頼む!」
「おっとサウズ様、それはギルドを通して、バーツに指名依頼してくれ。領主権限で、登録したての新人冒険者にも指名依頼できるだろ? 領主様からの指名依頼達成となりゃ、一気にEランクまで上がる可能性大だからな」
「うむ、そうだな、そうしよう。今手紙を書くから待っててくれ」
「じゃバーツ、書き終わるまで飲み食いしてろ! はっはっは!」
「……はい……」
しばらくして手紙を書き終えた領主が、リコに手紙を渡した。
事情聴取は終わり、バーツはリコと共にギルドへ向かう事となった。
サウズが天井から垂れている紐を引くと、すぐに執事風の男が来て、門まで案内される。
門ではまたカードの遣り取りをして、リコは武器を返され、馬車に乗ってギルドへ。
ギルドに入ると、正面に依頼書掲示板、右側に酒場、左側に受付窓口があった。
リコに連れられ受付に行く。
「よう、サーラ! こいつの登録を頼む!」
バシッと背中を叩かれるバーツ。
「すいません、冒険者の登録をお願いします」
「はい、ではこの用紙に名前、年齢、冒険者としての職業をお書き下さい」
バーツは、名前:バーツ、年齢:12歳、職業:魔法戦士と書き込んだ。
「では、カードをお預け下さい」
バーツはカードを渡した。すると受付嬢はカードを箱のようなものに挿入した。
――おいバーツ、魔法戦士っておまえ戦闘もできるのか?――
リコがテレパシーで聞いてくる。
――はい、たぶん結構強いはずです――
「バーツ様、この水晶玉に手を乗せて下さい」
バーツが水晶玉に手を乗せると、水晶玉がポワァっと光った。
「この水晶玉は、なんですか?」
「はい、ギルド登録に必要な情報が水晶玉を通してカードに送られるのです。バーツ様、この登録に関する説明文を声を出して読み上げてください」
「1:冒険者にはランクがあり、登録当初はGランクであり、その後依頼達成数や依頼達成内容、何らかの功績により、F、E、D、C、B、Aへとランクが上がっていく。2:依頼は依頼書掲示板から依頼書を取って受付窓口で申し込む。3:申し込みできる依頼は自分のランクの一つ上のランクまで。例・Gランクの者は、GランクとFランクまで申し込む事ができる。4:冒険者ギルドへの登録は12歳からできるが、依頼や常時討伐などにおける行動や行為については全て自己責任であるため、いかなる事態になろうともギルドは一切関知しない。5:依頼書に書かれている報酬金額は、ギルド手数料と税金が引かれた手取りの金額である。6:魔物の素材などはギルドでも買い取り可能。7:冒険者ギルドに登録されたカードは全世界で通用する身分証明となり、全世界の冒険者ギルドで依頼申し込みが可能。8:冒険者同士の諍いについて基本的にギルドは介入しないので注意する事。以上」
「はい、これで登録完了です。こちらが冒険者ギルドに登録されたカードです。お検め下さい」
冒険者ギルドに登録されたカードを受け取り良く見ると、住所、名前、生年月日は以前のままで、両親の名前は消えていた。そして新たに、冒険者ギルド:ヴァルーテ王国エミテラル支部Gランク、と刻印されていた。
冒険者ギルドの登録が終わると、リコが領主からの手紙を受付嬢に渡す。
「サーラ、サウズ様からバーツへ指名依頼だ」
「今登録したばかりの新人に領主から指名依頼だと!?」
付近に居た冒険者達がザワつく。受付嬢は上司に報告に行くと言って、事務所に入っていった。
5分ほど待つと、上司であろう40代と思しき男が現れた。
「リコさん、この内容は本当ですか!?」
「おい! サウズ様が嘘をつくはずがないだろ! バーツが新人だからってナメてんのか!」
「い、いえそんな事……バ、バーツさん、指名依頼をお受付け致します、依頼を完了しましたら、この用紙に領主様から署名を頂いて来て下さい」
と、一枚の用紙がバーツに手渡された。それには依頼達成証明書と書かれていた。
カードと用紙を収納してギルドから出ようとすると、リコが酒場に寄っていこうと言う。
「酒場って言っても、食堂と同じだ。ジュースもあるし食い物もあるんだぜ」
「じゃあジュースでも飲みますか」
「オレンジジュース2つくれ!」
注文した後、いいだろと聞いてくる。はい、と答えてテーブル席に着く。リコが奢ってくれた。
「サウズ様の依頼って、いつまでに終えればいいのでしょうか?」
「早い方がいいだろうな。今日中にできるだろ?」
「できますけど、例えば竜騎兵が攻撃してきて、攻撃を撥ね返した結果、竜も騎兵も死んでしまって、街の上空に落ちてきたら、それをどうしたらいいのか分らないんです」
「そういう問題があったか……何かいい方法は無いのか?」
「攻撃を撥ね返すのではなく、消滅させる。それしか思いつきません」
「もう一度サウズ様の所に行って、打ち合わせしてみるか?」
「そうしたいです」
「じゃあ、飲み終わったら行くか! すぐ飲み干せ!」
「はい! ゴクゴクゴク! じゃあ、僕の手を掴んで下さい。転移!」
パッと領主館の門前に転移する。
先程と同じ手続きを経て、執務室へ。
サウズに経緯を話すと、サウズも悩む。
「なあバーツ、屋根のような形にして、死体が転がり落ちるってのはどうだ?」
「僕も考えましたが、落ちた先に人が居たらどうすます?」
「やはり全て消滅が最善策か……」
「僕はそう思います」
「では消滅にしよう。時が経てば何か妙案を閃く事もあるだろう」
「では上空に関しては現段階では消滅にしたいと思います」
「うむ、それで頼む」
「それから、今張っている結界に手を加えたいと思っています」
「ほう、聞かせてくれ」
「機能はそのままで、高さを50メートルに上げて、青く見える部分を50センチまで下げて、その他の部分は目に見えないようにして視認性を確保します。上空の結界も見えなくします。また、この街に害意を抱いて入ってくる者を、入れないようにして、回復の恩恵も与えないようにします」
「ほう、それは凄いな。試しにそれでやってくれ」
「分りました少々お待ちを」
バーツは目をつむり、イメージを固める。そして数分後。
「完了しました。確認の手配をお願いします」
「もう終わったのか! 確認は昼食後にしよう。お前達も食っていけ」
例によってザウスが紐を引くと、すぐに執事風がやってくる。
「3人分の昼食の用意を!」
「畏まりました」
「さて、食堂に行こうか」
ザウスに着いて行くと、そこはザウス専用兼来賓客用の個室の食堂であった。
「普段は従業員と一緒に食べたりもするんだが、今日は依頼の件があるからな」
席に着いてから10分程で料理は出揃った。バーツは驚いた。料理が豪華なのだ。
ステーキ、野菜が沢山入ったスープ、サラダ、ロールパン、赤い色の飲み物。
給仕が素早く皆の前に 配膳する。
バーツはまず赤い色の飲み物を飲んでみると、イチゴジュースだった。
「(なにいい! こんなものまで存在するのか!!)」
バーツはかなり驚いた。次にスープを口にする。鳥肉が入っており、鳥と野菜の旨味が凝縮され、しかもそれぞれの素材の風味も損なわれていない。これにもびっくりだ。パンに良く合う。
ステーキに手を伸ばすと、何の肉か分らないが非常に美味しい。サラダは普通だった。
「このステーキは何のお肉なんですか?」
「ん? これはオークだな。食べた事ないのか?」
バーツの記憶を探ると、屋台の串焼きで食べた事があるのが分かった。
「家は貧乏だったので、串焼きでしか食べた事がありません。これは別格です! 非常に美味しいです!」
「はっはっは、それなら沢山食べていけ」
「リコさんは平然と食べていますね」
「ああ、俺は色んな所で色んなものを食べてきたからな。お前も今後冒険者として各地を巡るうちに慣れていくだろうさ」
食事を終え、2階の来賓客用のラウンジに移動する事になった。
驚いたことに、エレベーターがあった。高価な生活魔道具らしい。
ラウンジには丸テーブルが幾つもあり、広々としたスペースだった。テーブルの回りには一人用のゆったりしたソファーがあり、一面ガラス張りの東側のテーブルに着いた。
「ほう、青い結界はもう見えないな。ところで、結界の内側から外への攻撃は通るのか?」
「はい問題無く」
「ちなみにだが、結界の内側から外に放った攻撃の威力を増幅させる事は可能か?」
「はい、できます」
「うーむ、それを施してくれ」
「はい、少々お待ちを」
バーツは目をつむり、イメージを固める。
「はい、できました。約10倍の威力を付与します」
「なにいいいいい!!」
「おいバーツ! マジかよ!!」
「確認を急ごう。そこのメイド、至急セバスを呼んでくれ」
「畏まりました」
執事風はすぐにやって来た。
「まず、東門と南門の門兵に、今日から不審者はこの街に入れなくなったので、それを伝令、入れないからと騒ぐ奴がいたら、追い帰すよう徹底させろ。お前は弓矢を持って東門から出て結界の内側を北上し、人気の無い所で大きめな木に矢を射って来きて、それを報告しろ。大至急だ」
「畏まりました」
執事風は去って行った。
「ところでサウズ様、今日の事情聴取は当初、チョンボがする予定だったんでしょう? その他に事情聴取に参加する予定だった者も居たはずだと思うが、なぜ急に予定が変更になったんだ?」
リコが聞く。
「ああ、チョンボと、参加する予定だった警備兵がいきなり倒れて、まだ目覚めないんだ」
「何だと!? ふ~む、その警備兵って、黒い噂が流れてる奴じゃないのか?」
「そうだ。チョンボにしろ、警備兵にしろ、噂は聞こえて来るんだが、証拠が無くてな」
「あのう……昨夜リコさんから注意を受けまして、実は今朝、僕に害意を持っている人達を魔法で気絶させました。」
「おいバーツ! そりゃマジか!」
「はい、リコさん……」
「サウズ様、そいつ等を馬車に乗せて、東門から一旦結界の外に出て、すぐ引き返して来る事はできるか? 俺は悪党共が街に居るってのが気に喰わねえんだ!」
「すまないが、証拠を押さえないと処分できんのだ」
「サウズ様もお手上げか……バーツ、そいつらはいつ目覚めるんだ?」
「僕が魔法を解除するまで目覚めません」
「なあバーツ、今後公的な事でチョンボをお前に当てる事はせんから、魔法を解除してくれんか」
「分りました、気絶解除! これで目覚めたはずです」
「すまんな、見張りを付けて、少し泳がせてみる」
「サウズ様、攻撃を撥ね返すってのは、どうやって検証するんだ?」
「そうだな……矢は危険だから、大盾を持った兵士が結界の外から投石して、すぐ大盾に隠れる、そんなところだろうな」
「あのう、サウズ様は、外に出る事はできますか?」
「ん? まあ短い時間ならな」
「では僕が大盾の代りに内側から攻撃できる結界を張りますから、セバスさんが戻ったら、東門から外に出ましょう」
「ではそうするか」
ここでセバスが戻ってきた。
「サ、サ、サウズ様! 木が倒れてしまいました!」
「落ち着かんか。で、どうだったんだ?」
「はい、幹の太い木を狙って矢を射ったのですが、矢が結界から出た瞬間、ゴウッと音を発して飛んでいき、幹に当たったら、木がバキッと倒れてしまったのです」
「そうかそうか、では今度は我等も共に外に出るから、馬車を用意せよ」
「畏まりました」
セバスは去って行った。
「あの様子だと、かなりの威力だったようだな」
「ああ! 次が楽しみだぜ!」
「では我々も行くとするか」
バーツ達は下に降りていき、領主館の門までやってきた。
「サウズ様、また面倒くさい手続きをするんですかい?」
「いや、俺が同行するので構わん」
「さすがサウズ様!」
「じゃ馬車に乗ろう」
馬車に乗ったバーツは、攻撃魔法のイメージを固める。そして空中で自由に行動できる魔法を考える。
東門に近づいたところで、護衛が付いていないことに気づき、結界を張る。
「半径10メートル、高さ3メートルの円筒状に内側から攻撃できる、魔法無効、物理無効の結界を展開!」
「おっ! バーツ張り切ってんな!」
「からかわないでくださいよ~……」
馬車は東門から出て50メートル程のところで街道から左へ外れ300メートルほど北上して止まった。
全員馬車から降車し攻撃準備をする。
「セバス、町に向かって矢を射ってみよ」
射られた矢が撥ね返され、こちらに向かってくると、バーツ以外の者達は恐怖を感じ、さっと身を沈めた。カンと音がして矢は地に落ちた。
「ふぃ~、こっちにも結界があるとは言え、ビビッたぜ~!」
「ああ、本当だな」
「私もでございます」
「じゃあ、魔法攻撃を打ちますね」
「ああ、頼む」
「ファイア・ランチャー、アイス・ランチャー、ロック・ランチャー」
3種、3連発の攻撃魔法が放たれ、撥ね返された魔法が、ボウッ、ドウッ、ゴウッと迫り来ると、皆悲鳴を上げる。
「分かっていても恐ろしいな」
「マジっすね! でもこれで、結界の効果は実証されましたね」
「まだ上空が残ってますよ」
「どうすんだ? バーツ」
「セバスさんが倒した木を上空に転移して落下させましょう」
「ではやってくれ」
「セバスさんが倒した木を領主館上空100メートルに転移!」
セバスが倒した大木がパッと上空に現れてゴーッと落下してきて、上空50メートルにある結界に触れると、カッと光って消滅した。
「次は魔法ですね、飛空!」
バーツは上空70メートルまで上昇し、先程と同じ魔法を街に向けて放つ。カッカッカッと3度光って、魔法は消滅した。
「文句無しだな、ってか飛べるのかよ!」
「サウズ様、あいつは何でもアリだから、いちいち驚いてたらきりがないぞ」
検証が済み、サウズの執務室に戻った。
「サウズ様、依頼完了の署名をしてやってくれ。バーツ用紙を出せ」
「はい、お願いします」
「よし、ちょっと待っててくれ」
「サウズ様、今日の依頼とは別に、昨日の功績の分の報奨金は出すんだろう? こいつは成人扱いとは言っても、まだ12歳のガキで魔物の氾濫で両親を亡くした孤児だ。たっぷりはずんでやってくれ」
「ああ、分かっている。じゃあこれをギルドに提出してくれ」
「はい、ありがとうございます」
「それから、これと、これ」
布袋が2つ出された。
「えっ! 俺にもくれるのかい?」
「ああ、しばらくバーツの面倒を見てやってくれ」
「それは勿論だが……ひゃっほー!」
「ありがとうございます!」
「バーツにリコ、今日はご苦労だった」
バーツとリコは領主館を辞するとギルドに戻り、署名された用紙の入った封筒を受付嬢に渡す。
「バーツさん、依頼達成を確認しました。カードをお願いします」
カードはまた箱のようなものに挿入された。
「カードと、今回の報酬です」
カードを見ると、Dランクになっていた。
「Dランクだと!! おいバーツ、すげえじゃねえか!!」
「リコさんもカードをお願いします」
なんとリコもDランクになった。
「リコさんは、バーツさんの後見人役として、この街への貢献が大きかったため、ランクアップするように、と手紙に書かれていましたので。それからバーツさん、また指名依頼です。今から一人で領主館に来てほしいそうです」
「おいおい何だ~、俺は除け者かよ!」
「ま、まあまあ、すぐ帰ってきますよ……転移!」
またもや領主館に来たバーツ。
「や、バーツすまんな」
「いえ、今度は何でしょう?」
「俺の机の横、ここんとこに、全ての状態異常を治す結界を張ってくれんか?」
「ここですね、色は付けますか?」
「いや、見えないようにしてくれ」
「はい! 完了しました」
サウズは何度か結界を通り、そのたびに体がホワンとするのを感じて納得した。
「おう、ありがとう。さ、用紙をよこしてくれ」
署名をもらい、門から出るとギルドに転移し、用紙の入った封筒とカードを受付嬢に提出する。
「はい、カードと報酬です」
Cランクに上がっていた……小声で受付嬢に聞く。
----何ですかコレは?----
----領主様への貢献が大だそうです。そう書いてありました----
「…………」
無言で収納し、酒場で待っているリコと合流する。
「なんだ、ずいぶん早かったな」
「ええ、結界のちょっとした見直しでした……」
「もう17時か、魔物の素材剥ぎ取り行くか?」
「いえ帰りましょう。昨日から色々あって疲れちゃいましたよ」
「そうだな、報奨金もたんまり貰えたし、家でゆっくりするか」
「そうしましょう」
「じゃあ明日9時頃、お前の家に迎えに行くから」
「はい、待ってます」
それじゃ、と別れて転移で帰宅した。