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転生初日その2

 男の姿を改めて見てみると、ガッシリした体格で、腰には短剣が吊るされていた。


 バーツは男に走り寄った。


 「僕はバーツです。おじさん、その格好は……?」


 「俺はリコ。Eランク冒険者だ。不覚をとってこのザマだがな」


 そう言ってレザーアーマーから露出した脇腹をペシッとはたく。


 「(バーツの父親と同じEランク冒険者か……)」


 「僕と母さんは、西一番街の集会所に避難していたんですが……」


 「あそこはもう壊滅してたな……」


 西門に向って歩を進めるリコと会話を続けるが、リコは言葉に詰る。


 西一番街集会所は西門から真っ直ぐ延びた道の200メートル程の所にあった。


 リコは更に後方100メートル程の所で戦っていて、フォレストウルフに脇腹を喰いちぎられたのだ。


 「結界を張りましょう!」


 バーツはそう言い、自分を起点に防壁の外側20メートルまで、高さ40メートルの物理攻撃無効、魔法攻撃無効の結界を展開するイメージを固め、言葉を紡ぐ。


 「この結界に触れた魔物には死を! 人間には全ての状態異常からの完治を!」


 すると、淡い青色の透明な膜のようなものが、バーツを起点に360度全方向に展開していき、あっという間にイメージ通りに結界は張り終わり、リコとバーツは早歩きで西門に向う。


 負傷して後方に送られてくる者達がその場で完治し、状況が飲み込めず呆けている、というのを尻目にどんどん西門に進む。


 「おいバーツ、お前すげえな! 魔力量は平気なのか?」


 「魔力量って、なんですか?」


 「(ここは惚けておこう……しかし俺も役者なみの演技だな)」


 「あー、まあいい、とにかく行こう。母ちゃんを探すんだろ?」


 「はい!」


 最前線で魔物と戦いを繰り広げている者たちにも衝撃が走った。


 なにしろ、魔物はいきなりバタッと倒れ、負傷者は完治し、疲労困憊だった者は元気ハツラツに、という具合なのだから。


 「ここが最前線か?」


 リコが顔見知りであろう冒険者と思しき人に問う。


 「ああ、そうだ」


 最前線はリコが戦っていた所より更に200メートルも後退していた。


 激戦だったのだろう。人の死体や魔物の死体があちらこちらに転がっていた。


 家屋などは倒壊しており、その瓦礫の下に埋もれて瀕死の重傷だった人達が、バーツの魔法により回復し、救助を求める声があちこちから聞こえてくる。


 「こりゃ酷でぇな。さて、助けに行くか」


 「魔法で助けます! 瓦礫に埋まっている生ある人間すべてをこの道に転移! そして状態異常をすべて治せ!」


 すると、バーツとリコが立っている後ろに、パッと埋もれていた人達が転移してきた。


 結界を張ったとき、一度回復したが、瓦礫の重さにより再び重傷を負ってしまった人達もすべて完治していた。


 『えええええええええ!?』


 転移させられた人達や最前線で戦っていた人達から、驚きと喜びの叫びが上がる。


 「さっき俺達を回復させたのは坊主が魔法でやったのか!? 青い膜みたいのが通り過ぎて行ったが!?」


 最前線で戦っていたらしい騎士と思しき人が聞いてくる。


 「はい、僕が魔法でやりました」


 「なにぃぃぃいいい!! 領主様に報告に行かなくては!」


 騎士と思しき人は、20メートル程後方に居た馬に乗って去って行った。


 「あーっはっはっは! バーツ! お前本当にすげえな!!」


 リコは背中をバンバン叩いてくる。


 「ちょっ!ちょっと待って下さい! 次は亡くなった方達を転移します。後ろの皆さん、すいませんが道の端に寄ってください」


 そして先程のポーズで言葉を紡ぐ。


「魔物の氾濫によって亡くなった方達を、なるべく原型に戻してこの道に転移! ご遺体の身元を示す遺品が有ればご遺体の上に転移!」


 すると、四肢や頭部、胴体を千切られて亡くなった方達はパズルみたいな形で原型に近く、また、二日前に門の外側に屯していた雑兵や門兵などは、さんざん魔物達に踏みにじられため、挽肉状態でペラッとした人の形で、そっと並べられていった。


 それと共に、全てのご遺体の上にカードと、そのとき所持していたであろう遺品が転移してきた。


 バーツの記憶で、カードは出生時に発行されるもので、絶対に汚れず損傷もしない古代文明の技術で作りだされる魔道具の一種であるのが分かる。


 また、外出時には所持を義務付けられているものでもある。


 最初だけ『おおおおおお!!』と驚きの声が上がったが、すぐに自分の家族や友人を探す者や、冥福の祈りをささげる者にと分かれる。


 そして、バーツも記憶にある人を見つける。母のアリアだ。


 腹部に穴を空けて横たわる痛ましい姿に、バーツは涙を流す。


 「(俺こういうのに弱いんだよな……バーツの記憶もあるし……)」


 「母さん……グスッ」


 「バーツ、お母ちゃん残念だったな。冥福をお祈りするよ」


 リコが慰めの言葉をかけてくる。


 「そういえばバーツ、お父ちゃんはどうした?」


 「父さんはリコさんと同じく雑兵兼Eランク冒険者で、二日前は西門の当番でした……」


 「そ、そうか……すまない事を聞いちまったな……ゴメンよ……」


 「ううん、魔物の氾濫が起こったって知らせが来たとき、覚悟してました……」


 「……そうか……この街に身寄りは居るのかい?」


 「いいえ、クル村に父方の祖父母と、バクド村に母方の祖父母か居ます。叔父や叔母は他所の街に居ます」


 「クルにバクドか、どちらも乗合馬車で半日くらいだな……どうだバーツ、少し落ち着くまでの間、俺ん家で過ごせよ。爺ちゃん婆ちゃん家に行くにも、馬車に乗る金を持ってないだろ? 魔物の氾濫が収まれば領主様からお前に報奨金が出るはずだ。俺ん家は嫁と二人暮らしだし、なーんも気兼ねしなくてもいいぞ。お前は命の恩人だしな!」


 「いえ大丈夫です。両親が遺してくれたお金が少しありますし、家も魔法で直しますので……グスッ」


 「(実は報奨金が目当てなんだよね、あはは)」


 「なに! そんな事もできるのか!?」


 「はい、まずは魔物の死体をどけましょう」


 バーツはそう答え、今度は両腕を前に突き出すようなポーズで言葉を紡ぐ。


 「魔物の死体を西の防壁の外に転移!」


 すると、そこらじゅうに転がっていた魔物の死体がパッとなくなった。


 続けて言葉を紡ぐ。


 「魔物の氾濫で壊れたものを全て直せ!」


 すると、西門周辺の瓦礫がパッときえて、パッと以前と同じ建物が現れた。


 『えええええええええ!?』


 驚愕の声が上がる。


 「マジかよ……何でもアリだな……はっ、そうだバーツ! お前、死者を蘇らせる事はできるか!?」


 リコが唖然とし、すぐハッと我に返り質問してくる。


 「え? いや、それは分りません……」


 「(それはさすがに無理だろう……と言うか、俺が嫌だ。なんかキモいし)」


 「なら試してみろ!」


 バーツは東にさがり、ご遺体に向かって言葉を紡ぐ。


 「魔物の氾濫で命を落とした人達を蘇らせろ!」


 「(蘇らせるな!)」


 『ああぁぁぁ~……』


 死者が蘇るということはなく、落胆の声が漏れる。


 「いくらバーツでも、さすがに無理か……これは仕方ないだろう」


 リコが呟く。


 「リコさん、ご遺体はこの後どうなるのですか?」


 「ん? ああ、身元の確認が済んだら、街の火葬場に送られるだろうな」


 バーツとリコがそんな会話をしていると、パカラッパカラッと音が聞こえる。


 「騎士が状況確認に来たか」


 リコがそう言ってからほどなくして騎士が到着する。先程去って行った騎士と、他に5人の騎士がやって来た。


 『えええええええええ!?』


 西門周辺の建物が倒壊前の街並みに戻っているのを見て、騎士達が驚きの声を上げる。


 「おい坊主! ひょっとしてお前が街を直したのか!?」


 先程去って行った騎士が問うてくる。


 「はい、僕が魔法で直しました」


 『なにぃぃぃいいい!!』


 騎士達は更に驚く。


 「それは本当か!? 皆の衆!」


 ウンウンと頷く目撃者達。


 「そんな魔法、聞いた事がないぞ!」


 「しかし事実は事実だ。ご遺体もバーツが転移してくれたんだし、身元確認を頼むぜ」


 「うむっっっ!」


 先程去って行った騎士はご遺体の転移を見ていなかったので、リコの言葉に答えを詰らせる。


 そして騎士6人が相談を始め、数分後、これからの事を告げる。


 「まず死亡者数を数える、次いで司教を呼んで身元の確認、確認後に遺品を遺族の元に。その後にご遺体を火葬場に運ぶ事とする」


 その後騎士3人が残り、3人は去って行った。


 残った騎士は2人が死亡者数とカードでの身元の確認を2人で二重チェックし、紙に書き込んでいた。もう1人は見張りを担当した。


 「(紙はあるんだ……)」


 死亡者は門兵や警備兵や騎士の正規兵が18人、雑兵が46人、冒険者が23人、一般人が54人で、合計141人にも上った。


 30分程経って、去って行った騎士3人の内の2人が馬車を先導して来た。


 馬車から教会の司祭が下りてきて、死亡者を確認した2人の騎士と共に、カードを元に本格的な身元確認を行う。


 司祭が呪文のような言葉を紡ぐとカードがポワァっと緑色に光った。


 ご遺体と遺品にカードをかざし、身元と遺品に間違いがないか確認しているらしい。


 リコに聞いてみると、霊的な魔法で、教会関係者のみにしか使えず、古代文明から続く魔法だそうだ。


 「リコさん、父さんと母さんの遺品を受け取りたいんですが、どうすればいいですか?」


 「ご遺体すべての確認が済んだら、騎士と司祭にお前のカードを提示して、お前の身分を証明するんだ」


 「カードですね……あ、あった、あった」


 バーツのカードはズボンの尻ポケットに入っていた。よく見ると、住所、名前、生年月日、両親の名前が刻印されていた。生年月日は142年7月7日となっていた。


 「(誕生日は七夕の日か……この世界にもあるのかな?)」


 「おっバーツお前、明日が12歳の誕生日じゃねぇか。明日さっそく冒険者ギルドに登録しろよ! 俺と組んで魔物の素材を剥ぎ取りに行こうぜ!」


 「(え! じゃ今日は154年7月6日か!)」


 「え? 冒険者って12歳からなれるんですか!?」


 「ああ、一応そうなってる。冒険者は魔物にやられて死ぬ事もあるから、依頼を受けるのは自己責任になっている。だから大抵の奴はきちんと成人した15歳で登録するんだが、孤児だとか親が働けないって場合は、成人扱いとされる12歳で登録する奴もいるんだ。」


 「冒険者になるのに試験とかあるんですか?」


 「ああ、登録に関する説明文を声を出して読めって言われるな。読み書きができないとダメって事だ。依頼書が読めないんじゃ話にもならねぇからな。お前は読み書きできるのか?」


 「はい、できます」


 「なら問題無い。依頼も討伐や護衛だけじゃなく、街の商店の使いっ走りなんてのもあるぜ。まあ、お前の魔法はすげぇから、どんな依頼でも大丈夫だろうがな」


 「ありがとうございます! 明日登録に行きます!」


 「よし、じゃあ俺もついて行くから、登録が終わったらすぐ西門に行こうぜ! 解体用の短剣なんかは俺が用意しとくからよ!」


 「えっ、魔物の氾濫でまだ危ないんじゃ……」


 「バカ言うな。お前の結界で魔物が死ぬんだ。今がかき入れ時だろうが! 西門の方を見てみろ。目ざとい奴等がもう魔物を解体してるだろ」


 「あ、本当だ……」


 「お、ご遺体の確認が終わったみたいだぜ、行ってこいよ」


 「はい、行ってきます」


 バーツが騎士と司祭の所に行くと、父と母の名前を聞かれる。


 「父さんはラウル、母さんはアリアです」


 そう答えると、騎士の一人が父と母のカードを持ってきて、2枚のカードを並べて司祭の方に向ける。そして司祭がバーツのカードを持って、両親のカードに近づける。


 「ラウルとアリアよ、ここに居るバーツがそなた等の遺児で間違いないと認めるか?」


 司祭がそう言うと、3枚のカードがポワァっと緑色に光った。


 これで確認がとれたらしく、別の騎士が遺品を持ってくる。


 遺品と行っても、財布が2つだけだった。中身を見せられ、銀貨と銅貨が入っているのが分かった。


 そして司祭が白い布袋に財布2つを入れてバーツに手渡した。両親のカードは死亡届的なことに使うらしく、騎士がそのまま回収した。


 バーツはリコのところに戻り、リコに聞く。


 「リコさん、いま何時でしょう?」


 「それは分らん。おーい! 誰か15時の鐘を聞いたか!?」


 「教会からここに来る途中で聞いたよ!」


 馬車を先導してきた騎士が答える。


 「とういことは17時位じゃないか? バーツ」


 「もうそんな時間ですか……」


 「なんだ? 腹減ったか?」


 「腹も減りましたが、それよりも喉がカラカラです」


 「そう言や俺もだな。おーい、騎士さんよ! 水は持ってきていないか!?」


 「持ってきてない! この道沿いに居を構える者が居たら、水を提供してくれないか!?」


 騎士が回りに居る住民に声をかける。


 「それでしたら私が! すぐお持ちしてまいります」


 近くに居た男がそう言って自分のすぐ後ろの商店に入って行き、まずテーブルを表に出してから、また店に入って行き、数分後、素焼きのでかい水差しと10個程の木製コップをお盆に載せて出てきた。男の店は雑貨屋だった。


 「いやぁ、驚きました! 家の中も全て元通りになってました! なんの汚れもなく!」


 バーツはコップ3杯分飲みほしてやっと人心地ついた。


 「店主! 食い物はないか?」


 リコが喉を潤したあと、雑貨屋の男に聞く。


 「果物がありますので持ってきます」


 雑貨屋の男はバナナを一房持ってきた。


 「(この世界にもバナナがあるとは!)」


 「おっ、すまないな。バーツ、頂こうぜ!」


 「はい! 店主さん、ありがとうございます!」


 「(自分で魔法をかけといてアレだが、食品まで再生してるとは驚きだ! 味も地球のバナナと同じだし!)」


 雑貨屋の男は気を利かせ、水差しのお代りと新たにもう1つ水差しを持って来た。そして椅子も10個出してきた。


 バーツは雑貨屋の男に礼を言い、ふう、と息をついて椅子にすわる。


 リコや他の人達も同様であった。みんな疲労を感じていたのだ。


 そうして一息ついていると、避難していた者達が戻ってきた。


 「おお! バーツありがとう! ありがとう!!」


 「騎士様から聞いて戻ってきたが、本当に街が元通りになっているとは!!」


 皆それぞれバーツに感謝の言葉をのべるが、やはり疲労しているようだ。


 「(あそこから此処まで歩いてきたんだしな……)」


 そこでバーツは、皆の疲労を回復すべく、言葉を紡ぐ。


 「半径100メートルにいる人達の状態異常をすべて治せ!」


 すると皆元気に回復した。


 避難していた人達もご遺体の確認に向かった。


 「リコさん、あとどれくらいで全て片付くんですかね……」


 「さあなぁ、すべての遺品引き渡しが終わるのは夜中になるんじゃねぇかな」


 そんな会話をしていると、18時の鐘が聞こえた。


 「リコさん、帰らなくていいんですか? 奥さんが心配してるんじゃ……?」


 「なーに、いいって事よ。この状況が落ち着くまではお前に付いている。負傷者収容所から今までの事を知っているのは俺だけだからな。言わば、保護者や後見人の代りだ」


 「(う~ん、早く一人になって、魔法でこの世界の事を色々と調べたいんだが)」


 「僕はもう帰っても大丈夫でしょうか?」


 「そうだな、騎士達に聞いてみたらどうだ?」


 「分りました」


 バーツは最初に出会った騎士のところへ行き、帰宅したい旨を告げる。


 「お前はバーツだったな? ご遺体を火葬場に運ぶのは明日になるだろう。その後、今日の件で事情聴取があるだろうから、それまで自宅で待機しておれ」


 「え? 僕は火葬場に行かなくてもいいんですか?」


 「そうだ。火葬場は魔道具でできていてな、死者の恨みや未練を取り除いて、灰すら残さず綺麗に火葬してくれるんだ。それも5分でな」


 「(早っ!)」


 「分りました。じゃあ家に帰ります」


 「……ちょっと待った、お前は転移の魔法が使えるんだよな? だったら明日の午前、教会の死者を運ぶ馬車にご遺体を転移してくれないか?」


 「はい、分りました」


 「うむ、では明日午前に騎士が迎えに行くので、外出せずに待っているように」


 「はい」


 リコのもとに戻ったバーツは経緯を告げる。


 「そうかぁ、明日の素材剥ぎ取りは諦めるか……バーツ、カードを見せてくれ」


 「はいどうぞ」


 「よし住所は覚えた。俺は一旦帰宅して嫁に無事なことを伝えたら、お前の家に行くから今夜は泊めてくれ。明日も後見人役としてお前と行動を共にする。いいな!」


 「(断れなさそうな雰囲気だな……多分ワケありだろう……)」


 「分りました、待ってます」


 「じゃあ後でな!」


 「はい!」


 そうしてバーツとリコは別れた。


 帰路で街並みを良く見たが、和洋折衷という感じだった。


 「(異世界転生の漫画だと、中世ヨーロッパ的な街並みってのが定番だろ……)」


 バーツの記憶に従って帰宅すると、日本の平屋の賃貸住宅とそっくりな家だった。


 ドアを開けると玄関があった。


 「(靴を脱いで上がるのか……)」


 「ライト」という言葉が自然に出てきた。すると家の中が明るくなった。バーツの記憶で生活魔道具を起動させる言葉だと分かった。


 家に上がり鏡を探して、自分の顔を確認する。金髪で青い瞳、そして当然だが見知らぬ顔だった。


 「(でもハンサムだぞ……、あとは物差し的なものはないかな?)」


 探すと箪笥の小さい引き出しに、30センチの木製定規とか鋏などがあったので、引き出しごと持ちだし、部屋の角の壁に、鋏で10センチきざみで傷を付けていき、150センチまで傷を付けたところで、自分の身長は130センチ位だと分かった。


 家は8畳2間といった感じで、今は寝室の方に居る。ベッドが3つに箪笥が1つ、押し入れタイプの収納スペースは、クローゼットで、服がハンガーで吊るされていた。


 居間のほうに移動すると、長方形のテーブルと、ベンチのような長椅子が2つあった。


 リコがいつ来るか分らないので、長椅子に仰向けに寝転がる。


 ふと時計が欲しくなり、カシ○・ベビ○Gをこの世界の日時に合わせた状態で、魔法で出現させて左手首に巻く。


 何となく壁を見るとカレンダーが掛っており、7月は31日まであるのが分かった。


 バーツの記憶を辿ると、曜日や閏年も含めて、すべて日本と同じだった。


 ちなみに今日は月曜日であったが、土日が休日という事は無く、休日は職業により、そして人によりさまざまだという事も分かった。


 「(そういえば、リコが泊まりに来るって言ってた時の雰囲気だと、明日一悶着ありそうだな。)」


 そう思い、自分の全身を覆う魔法ダメージ無効、物理ダメージ無効の、不可視のバリアを肌にコーティングさせるイメージで展開させる。


 「(あとは身体の強さか…)」


 怪我無効、病気無効、毒や危ない薬無効、疲労無効、身体能力は龍玉の背瑠をやっつけた時の超菜野人2の五半、といった魔法を自分にかける。


 「(あと攻撃魔法も考えないと……)」


 ここでコンコンとノックの音。


 「俺だ、リコだ! バーツ居るか!?」


 「はーい!」


 と返事をして玄関へ。


 「遅くなって悪い、シャワーして、ジュースとメシ買ってきたからよ!」


 「ありがとうございます! ささ、中へ」


 「邪魔するぜー」


 「こちらへどうぞー」


 と長椅子を示す。


 「よ~し、さっそく食おうか!」


 と言って腰に着けていた10センチ程の小袋に左手で触れ、右手をテーブルにかざし、


 「取り出し」


 と言うと、水筒とピクニックバスケットのような物がテーブル上に現れた。


 「リコさん、その袋は……?」


 「収納袋を知らないのか? これくらい誰でも持ってるぞ」


 「あ、あ~、知ってます! 家ではそういう使い方をしてなかったので……」


 収納袋と聞いて、すぐにバーツの記憶から探し出す。小さくても大容量の魔道具であった。


 「ふ~ん、さあ食おう」


 と言ってバスケットを開けると大量のサンドイッチが。


 「コップを2つ持ってきてくれ」


 と言われて台所からコップを持ってくる。


 「これはオレンジジュースだ」


 と、水筒の中身をコップに注ぎながらリコが言う。


 「(なにいいい!そんなものまで在るのか!!)」


 「いただきます」


 「おう、沢山食えよ!」


 食べながらリコが話しかけてくる。


 「明日の事だがな、ここの領主様は良い人なんだが、部下に狡賢い奴が居るんだ」


 「そうですか……」


 「お前が凄い魔法使いだっていうのは伝わっているはずだ。明日お前が受ける事情聴取に奴が絡んでくるようだと、お前の身が危ない。どんな手を使ってでも、お前の力を手に入れようとしてくるはずだ。」


 「うわぁ嫌ですね……」


 「お前は利口そうだが、まだ子供だ。世間を知らなすぎる。違うか?」


 「おっしゃる通りの世間知らずです」


 「明日騎士の迎えが来て、それ以後にまずいと思ったところは俺が口をはさむ」


 「お願いします」


 「問題は場所がどこか? 相手が誰か? ってとこなんだが」


 「領主館でしょか?」


 「あそこなら安全だ。騎士の詰め所もまあ安全だろう。騎士は正義漢ぞろいだしな。俺が嫌なのは警備兵の詰め所だ。そこで相手が狡賢い部下だと荒事もありえるな」


 「警備兵の詰め所だと危険なんですか?」


 「ああ、警備兵の中には、街の悪党とつるんでる奴が多く居るからな」


 「悪徳警備兵と狡賢い部下の組み合わせだったら最悪なんですね?」


 「そうだ。だから俺が付いて、そうならないようにする」


 「分かりました、よろしくお願いします」


 話し合いが済んで、食事も終えたところで時計を見ると22時10分だった。


 「もう22時過ぎですね、シャワーしてきます」


 「おいバーツ! それ時計か!?」


 「はい、そうですが……」


 「伝説の神話級魔道具ベビ○Gじゃねぇか!!」


 「え? そうなんですか? 今度ベビ○じゃないGを差し上げますよ……」


 そんなこんなで浴室で自分の裸体をみたバーツ。


 「(すげー痩せっぽち。ちゃんと食ってたんだろうか?)」


 石鹸やシャンプーが無いことに気付き、バーツの記憶を辿ると、台所、浴室、洗面台から出る水やお湯は生活魔道具で作られる魔法水で、石鹸やシャンプー、食器洗剤不要らしい。


 「(髭を剃るときは何使うんだろうな?)」


 など思いつつ着替えの肌着を見ると、パンツはトランクスタイプで、ウエスト部分はゴムではなく紐だった。シャツはTシャツっぽいが、ちょっと違う。グ○ゼタイプか? まあいい、とばかりに着る。


 さて寝るかとなって、リコに父のベッドを勧めるが、長椅子で寝るとのことだったので、自分だけ寝室のベッドへ寝ころぶと、リコが「ライト・オフ」と言うのが聞こえ、明かりが消えた。


 「(はあ~、長い1日だったな~)」


 と思いつつ、朝6時に目覚める魔法を自分にかけて就寝した。

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