昭和40年代を生きた爺は属性など知らない
関東某所のアパートの一室にて、55歳の男がパソコンのスクリーンを見て呟く。
「コロナウイルスだなんだって、嫌なニュースしかないな。パッとした話題はないもんかねぇ」
重度の腰痛と鬱で2年前からジジイニートになってしまった男に、やる気は全くない。
あと3年もすれば、生活保護申請まっしぐらなのは分かっているのだが。
「ありゃ、もう昼の2時かぁ、カップ麺でも喰うかな……ぐがっ!」
男の左胸に激痛が走った。
「ぐうっ! 心臓か!? はぁはぁっ……あれ? 俺死ぬの? かはっ!」
あまりの痛さと苦しさに男は苦悶の表情になる。
「(くっ、息が出来ない! そうか、死ぬのか。結構みじめな最後ではあるけど、青春時代は最高だったんだし、その思い出だけで、お釣りが来るほど充分幸せな人生だったな。居るか居ないか分からないけど、神様ありがとうございました……)」
呼吸ができなくなってから約1分の間にそんなことを思っていると、男の表情は苦悶から安らぎの微笑みになり、意識は闇へと沈んでいった。
「え? あれ、ここは?」
目覚めると真っ白い空間。ムクリと上半身を起こしてキョロキョロするも、上下左右ぜ~んぶ真っ白。どこまで続いているのか続いていないのかさえ分からない。
「おっ、起きたかえ?」
ビクッ!
「えっ、後ろ!?」
後ろを見ると老人が2人座っている。
「ほれ、こっちゃ寄れ」
話しかけてきた老人は和服だが、もう1人はなにか中世ヨーロッパ的な服装だ。
「えーっと、貴方がたは?」
ハイハイで近づきながら質問してみる。
「わしは日本の貧乏神、隣は異世界のヴァルタイナという惑星の神じゃ」
「その神様がたが、なぜ俺に?」
二人の対面に正座してみる。
「まず、お主が死ぬ間際に、神が居るか居ないか分からんちゅうとったから、神の存在を証明してみたんじゃ。で、次が本題じゃ。異世界のヴァルタイナでは人口もなかなか増えず、文明の進みも遅くての。でまあ、色んな異世界から魂を集めて、主に少年少女の死にゆく運命の元へ転生させとるんじゃ」
「でも俺高卒ドキュンだし、人口増加や文明の発達に貢献できるとは思えませんが」
「そんな事はないじゃろう? 若い肉体を与えられるんじゃ、ハッスルできるじゃろ。それに、何かしら現代日本から応用できるものもあるじゃろう?」
「そう言われましても……う~ん」
「何じゃお主、このまま平均よりかなり下回った年齢で死んじゃっても良いのか? それも孤独死で。わしらの誘いに乗るっちゅうんなら、すぐ発見されるように手配するぞ? 腐乱死体で発見されるのは嫌じゃろ? 想像してみい。腐ってウジがわいたお主自身を」
「ウォエッ! 確かにそれは大家さんや不動産屋さんに迷惑かけちゃうし避けたいですね」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
「だけど現代日本でダメだった俺が、異世界で喰って行けるのかどうか……少年に転生してもすぐに死んじゃうんじゃ……?」
「何じゃ、煮え切らん奴じゃのう。なら一つ良い事を教えよう。ヴァルタイナでは日本語が共通語じゃ。」
「言葉が通じても、死ぬ運命はどうやって覆すんですか?」
「そこはほれ、ヴァルタイナの神がお主の願いを一つだけ叶えて転生させるんじゃ。のう、ヴァルタイナの!」
「ウイ!」
「(えっ、フランス人?)」
「おい! 勘違いすなっ! ヴァルタイナでは日本語でおkじゃ!」
思った事も神には聞こえるらしかった。
「分りました。では何でも叶える事ができる魔法使いで転生してください!」
「ようやっと承諾したか。じゃあヴァルタイナの、奴の願いは叶えてやってくれ!」
「ウイ!」
「(本当に大丈夫なのかよ~)」
「カミサマ、ウソツカナーイ」
「そういう事じゃ。頑張れよ~」