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戦士の歌  作者: Iz
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閃剣のグラドゥス その5

次にグラドゥスの前に現れたのは、右手に槍、左手に方形の

大盾であるスクトゥムを装備した重装歩兵風の闘士だった。

胴には横長の板を重ねて留めた、スケイルメイルの一種である

ロリカセグメンタータを装備しており、鉄の腕輪に鉄の脛当。

頭には目や口元の開いた兜であるガレアを被っていた。

総じてかなりの防御力を誇っているようにみえた。


「剣対槍ならそちらに分があったが、今度はこちらも槍使いだ。

 さらにお前と違って重武装。防御はこちらが格段に高い。

 まぁつまり、お前に勝ち目はないということだ」


新たな闘士はそう言い放ち、武器を構えた。


「おいおい、そいつは些か短絡的かつ楽観的に

 過ぎるんじゃないか? 腕の差ってものが欠片も考慮されてないぜ」


本当はもっと憂慮すべき点があるのだがそれは口にせず、

グラドゥスはそう言って鼻で笑った。


「多少の腕の差があったとて、このスクトゥムに敵うものか。

 大人しく串刺しか挽肉になるのだな」


闘士もまた鼻で笑い、身を低くしてスクトゥムを構えた。

闘士の身体はスクトゥムでほぼ覆い隠され、盾の縁に添えた

槍がグラドゥスを捕捉していた。


そして試合開始の銅鑼が鳴った。


グラドゥスは一戦目よりもさらに無造作な恰好となった。

右足を前にほぼ棒立ちとなり、左足は右足の後方で直角に

左方を向いていた。


そして何より特徴的なのは、槍の構え方だった。

槍の石突き付近を握りしめ、前方目掛けて剣の様に

まっすぐ突き出したのだ。グラドゥスは突き出した穂先を

スクトゥムの表面にピタリと付けてニヤリと笑った。


「さて、どうする坊や。スクトゥム料理とやらをご馳走してくれよ」


グラドゥスのニヤついた顔に怒りを覚えた闘士は、まずは

突進して穂先を弾き飛ばそうとした。しかしグラドゥスは

闘士が突進した分同様に後方へと下がり、突進を無力化した。


ならばと闘士は槍を繰り出そうとするが、

グラドゥスはスクトゥムを最大限に伸ばした槍で牽制しており、

どう繰り出してもグラドゥスの身体まで自らの槍を届かせることが

できそうになかった。


「ぬ、小癪な真似を……」


闘士は側面を取って一気に攻めるべく、左右に回り込もうとした。

しかしグラドゥスはそれより遥かに素早く軽やかに動き、常に

闘士の正面を保ってスクトゥムに槍を突き付け続けた。


闘士はグラドゥスの突き出す槍を外そうと押しては引き、

寄せては返し、ぐるぐる回り、を繰り返した。しかし如何様に

挑んでも、グラドゥスの構えた槍を外すことができなかった。

闘士とグラドゥスはさながら舞踏会の主役のごとく、

円形広場をゆらりゆらりと舞い遊び、観客はどっと大笑いして

手拍子までし出した。


闘士は屈辱に顔を歪めさらに必死に動き回ったが、やがて

自らの重装備に振り回されはじめた。足がふら付き、手が

下がり出し、肩で息をするという有様だった。

もっと憂慮すべき点とは、装備の重量だったのだ。

重装備での戦闘は体力の消費が甚大であり、突進など

到底連発できる代物ではない。初手で突進主体の短期決戦を

封じられた時点で、既に勝ち目は無かったとも言えた。



「そいじゃ最後のひとさしを舞うか」


そう言うとグラドゥスはタタン、トタタンと左右の足で

高速かつ不規則にリズムを刻み、槍を突き出した姿勢を保ったまま、

闘士の周囲を縦横無尽に駆け巡った。観客はグラドゥスの

華麗な足さばきに歓声を上げ、グラドゥスは観客の手拍子に合わせ

回転を加えたり跳びあがったりと、まさに舞を舞っていた。


闘士は必死に動きを追おうとしたがもはや身体が

いうことを効かず、最後の賭けに出ることにした。

グラドゥスが跳ね回るのみで仕掛けてこないのを利して、

正面に来るのを待ち、狙い澄ましてスクトゥムを投げつけ、

自らの姿を盾で隠しつつ、瞬時に左右の体側を入れ替えて、

気合と共に苛烈な突きを繰り出そうとしたのだ。


しかし、これはグラドゥスが待ちに待った瞬間でもあった。

盾を放り投げたことで、闘士の足元がむき出しになった。

グラドゥスは、突きに先立って闘士の左右の体側が

前後に入れ替わる瞬間、丁度両足が揃って身体が棒立ちになる

その瞬間を見逃さず、闘士の両足を槍でさっと薙ぎ払った。

闘士は呆れるほど軽々と吹き飛び、盛大な音を立てて大の字に倒れ、

ついに疲労困憊で動けなくなった。


2万を数える観客は一瞬にして静まりかえり、さらに一瞬を経て

割れんばかりに吠え讃えた。またしてもグラドゥスは観客を虜に

して勝利を得て、優勝まで残り3戦というところまで来たのだった。

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