魔弾のラーズ その1
「よぉボウズ。景気はどうだ?」
歳の頃は40の半ば。
年季の入った弓一張りを手に
いかつい顔を柔和に笑ませている。
傍らには数頭の剽悍な猟犬が佇み
主らしきその男と同じ顔つきをしていた。
背後の台車には主従の戦果が積んであった。
「……見りゃ判んだろ」
まだ真新しい弓を手に
そっぽを向き、拗ねた様子で
ボウズと呼ばれた少年は応えた。
彼の傍らに猟犬はなく、戦利品の台車もない。
元々戦果は期待されていなかったのだろう。
もっとも腰の箙の矢は減っているから
彼なりに相応の努力はしたようだった。
「ハハ。ま、そんな日もあらぁな」
男は拗ねた子供に屈託無く笑い、
台車から一匹、獲物を差し出した。
「貰えねぇよ」
「良いから取っとけ」
気まずそうな、葛藤する少年に
男は獲物を強引に押し付けた。
三々五々戻りくる仲間たちが
挨拶がてら微笑ましげに眺めている。
男同様、自身の獲物を分けてやる者も。
「なぁに、報酬の先払いってヤツだ。
春まできっちり村を護るんだぜ」
「……判った、約束する」
「おぅ、頼んだぜ」
真摯な顔で頷く少年に男らは満足げだ。
やがて仲間が揃うと彼らは、意気揚々と
村を目指した。厳冬がすぐそこにまで迫る
平原北東、大森林の外れでの事だった。
東西に長い楕円をした平原の中央には
南北に三つ、大国が鎮座している。
大部分が平野を占める中央の
肥沃な土地には共和制トリクティア。
トリクティアの南方、峻厳な山岳を挟んだ
その先の高原と沿岸域がフェルモリア大王国。
そしてトリクティアの北方、平原並みに
横長い大森林を天然の国境、防壁として
残る一国、カエリア王国が在った。
中原の気候は一年を通し穏やかだが
大森林を境として冬の激しさが一気に増す。
恐ろしいまでにしんしんと積もる豪雪が
大森林全域を、さながら長城の如くにして
空往く雲と鳥以外を完全に遮断するのだった。
平原北方を東西に長く占めている
カエリア王国の繁栄は西寄りに在った。
東部にも無論人は住んでいる。
がこちらはユミル雪原をはじめ原野が多く、
大抵の生活圏は大森林北辺に集中していた。
この辺りの人々の生計は大森林に依存している。
春から冬までは大森林を舞台として、狩猟や
採集、伐採などをして暮らしていた。(若しくはなどで)
もっとも冬場は大森林が豪雪に埋もれる。
そこで働き盛りの男らの多くは穏やかな
中原へと流れ、出稼ぎする。
就く職はそれこそとりどりではあるが、
大森林東部の南方とはすなわち平原東域。
群雄割拠にして乱世の気風に満つ東方諸国だ。
その界隈で最も需要のある職種。
それはとりもなおさず、傭兵だった。
カエリア王国東部の小村、特に狩猟を以て
成る村々では春から冬は大森林の獣を射る。
そして冬には南征し、獲物は専ら人となる。
空は凍える程青々と高く、木々の狭間を
駆け抜ける風はその鋭さを増している。
厳冬の訪れはすぐそこで、
今日は今年の狩り納めだった。
戻れば村を挙げての宴会だ。
そして翌朝男らは隊伍を組んで南へと。
絢爛なる東方諸国の戦場へ発つのだった。




