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岡山2.26

〜〜

「おろ、どうしたの早起きして。」

 玄関で靴のひもを結んでいると、お袋が台所から顔を出してきた。

「寝言は寝たまんま言ってくれよ、今日はミーティングなんだよ。」

「あ、そうか、朝ご飯いらないんだったわね、なんだ、せっかくいいあじの開き入ったのに。」

「・・・なら、私も貰おう。」

「何度も言うけどその波平さんのマネ、にてないわよ。」


 数分後、俺はあじの開きに舌鼓より数段格上の「舌キック」を打ち鳴らし、朝ご飯にありついていた、待ち合わせには完全に遅刻だ、とはいえその連絡を入れた時米原はまだ布団の中にいたんだから、おあいこという物だ。

「そんなに急いで食べなくても、骨がつかえるわよ。」

「こんな美味しい物出すのが悪い。」

「ありがたいお言葉。」

「そのほう腕を上げたな。」

 お袋は苦笑いすると、立ち上がって沸いたヤカンから急須にお湯を注いだ、いい香りだ、17年来ずっとうちは玄米茶だけれど、飽きが来ない。

「ねえあんた、本当に東京に行く気はないの?」

 訂正、このメシまずい。

「母ぁさん、朝っぱらからそう言う話はやめてくんないかな。」

「朝も夜もあったもんじゃないわ、重大な問題なのよ、これは。」

 重大な問題、というのはお袋の座右の銘で、これにかかればスクーターかっ飛ばして安売りに飛んでゆくのも重大な問題になってしまう、まあ、今回は本来の意味で言ったんだろうけど。

 俺は大いに機嫌を損ねて、背もたれに身を任せた。

「そうはいうけどさぁ。」

「東京、気に入らなかったの?」

「そう言う訳じゃないけど・・・。」

 目の前のアジの開きが「掛かったな」と言った気がした、どうやらお袋は最初からこの話をするつもりだったらしい、飯でつられた自分がほとほと情けない。

「まあ、こういう言い方するとあんたは気に入らないかも知れないけど、私はあんたのためになると思っていってるんだから、ちょっとは聞いておきなさい。」

「ちょっとってねえ母さん、東京と岡山は700キロも離れてんのよ?じゃあ間を取って名古屋にしましょうなんて訳にはいかないんだから。」

「そう言う問題じゃないわ。」

「じゃあどういう問題だっちゅうんじゃ。」

「だからね、よく聞きなさい、あなたのお父さんだってああ見えたって今までに大変な苦労してんのよ?旧帝大出なのに。」

「ああ。」

 少し、心が揺らいだ気がした、いやダメだ、今度こそは誰の意見でもなく、俺自身の考えで決めると決めたはずだ。

 それなのに親父から聞かされる愚痴話に、職場の学閥の話題がチラつくのを思い出して、俺の心は横風を受けたバイクのように危うくよろけた。

「私、みすみす手に入れた将来をフイにするのは、あまり賢い選択じゃないと思うんだけど。」

「いいよ、俺かしこくないもん。」

 本音は、米原やカヤといった、あの内燃機関部の連中と離れたくないというだけだ、我ながら情けない理由もあったものだとは思うけど、一番有力で説得力のある理由だ、あくまで自分的にだけれど。

「賢くない人間があんな大学に受かるもんですか。」

「運だよ、あんなもん、ガラガラポンで決まる。」

 俺は商店街のくじびきのジェスチュアをしてみた、そういえばあれ、正式名称はなんて言うんだろう、まあどうでもいいか。こうして俺はまた一つ賢くなるチャンスを逃した。

「なにをおっしゃい、ガラガラポンならあんた今頃みんな落ちてるわよ、くじ運悪いんだから。」

 そういうと今度はお袋が抽選器を回す手の動きをした。


 ああもう、こりゃ空想に逃げるしかないな、そういえば、俺がカヤと出会ったのも抽選会の時だったな、中学1年の春だ。


「ちぇー、またティッシュかよ。」

 説明するまでもない、俺たちは抽選器を回していた、謎の一等賞を目指して。

「お前本当にくじ運悪いんだな、どりゃ、俺が一丁回してやる・・・お?」

 米原が強引に俺から奪った抽選器は、その口から残念賞の赤色ではない、無駄に輝く金の球をはき出した。

「あ・・・あ・・・あたったあああああああ!!」

 物部二輪の前が抽選会場だった、店の手伝いでそこにいた女の子がカヤだったんだ。

「何、何!何がもらえるんだよ。」

「落ち着け米原、俺の抽選券だ。」

「回したのは俺だ。」

「なにを!」

 カヤは、やれやれこれだから野郎のガキは。とでも言いたそうな顔つきで俺たちの間に割って入った。

「まあまあ二人とも・・・。そんなとりあわなくっても、当たったのはバイク用のグローブ、ほい。」

 米原の表情から一気に熱が引いた。

「なーんだ、ケン、お前にやる、そこのNSRをもらえるのかと思ったのになー、なあ?ケン」

「いらねーよ、俺はバイクなんて、んな危ない乗り物には乗らないの。」

 こちらを「ガキ」と見下してかかっていたカヤの表情に、今度は熱が入った。

「え?あなたバイク嫌いなの?」

 カヤは珍しい生き物でも見るような顔で俺を見た、上から下から右見て左見て、なめまわすように。

 

 実はこれが私のバイクとの出会いなんです。

 なんて言ったら怒られるだろうけど、残念ながらこれが真相であり、この物語の大本であり根幹であり屋台骨なのだ、イヤなら帰って結構。


 で、一目惚れしたカヤがバイク屋の娘で、バイクに乗っていて、俺がメカ好きの女の子に憧れていたというだけの話。


「それに比べて米原クンはお目が高い。」

「だろぉ。」

「おいおいちょっと待ってくれよ、お前ら知り合いなのか?それになんだ、男だからバイク乗らなきゃならねえってのも妙な話じゃねえか。」


 そうは言いながらも、俺の頭の中はグチャグチャのメロメロに混乱していた。

 そのときの心境を何か別のわかりやすいシチュエーションで表すとすれば、正面に居たトラックの右折を待っていたら、突然空から戦闘機が降ってきたと言うところだろうか、よけい解りづらくなった。

つまりこうだ、その日まで俺の中にバイクという物が毛先の程も無かったわけではない、積極的に否定する対象だったわけでもない

つるんでいる米原は親父に連れられてサーキットに行って走るぐらいのバイク狂だったわけだし

ただあえてバイクに興味を抱かなかった理由を今から考えてみると、それは俺の持つ米原以外の人間関係にあったと思う。

俺はカヤとバイクに出会った後も中学2年生になるまでずっと

「電算機研究部」という、名前だけコアなナードコア集団の中に居た

その実18禁のエロゲーを共有し、データ化したアニメを見

萌えバブルの興隆に自分の趣味がとうとう昇華し

あたかも雲上の人になったかのような錯覚に溺れた紛う方無きネクラマッチョの集団だったのだ。

説明が長くなった、本編に戻ろう。


カヤは両手を組んで、俺の前に立ちはだかった、俺は好きな子に意地悪をするタイプなので、粋がってポケットに手を入れて、三白眼でカヤをにらんでいたものの、すぐにでもお友達になりたい気分だった。 

「妙じゃないわよ、それにここはバイク屋の前だよ?ちったぁオブラートに包みなさいよ。」

「そうだよ、バカ。」

今、米原からものすごく上手い崩しが入った。そう判断した俺は、腰を低く保ち、言った。

「あ、そう・・・じゃあ、半分コ。」

米原は何も言わずそれを受け取ると、俺の雰囲気を察してか、こう言った。

「物部はな、隣のクラスだ。」

「世間って狭いよぉ〜」

カヤは白い歯を見せて笑った、ここで、見たことある顔が完全に好きな顔に変わった。

内燃機関部のメンツがそろったのは、実は中学1年生での出来事という事になる、ここから俺たちはつかず離れず、同じ高校に入り、公道でバイクに乗れる年齢になり、内燃機関部を設立する頃には全員免許を持っていた。

ちなみにそれ以来、俺と米原は今でも半分こしたグローブを使っている。


「あんた聞いてるの?」

「はい?」

「なんか変よ、ぼーっとして、起きてる?」

「起きてますよ。」

突然熟女の顔が目の前に出てきたと思ったらお袋の顔だった。

「まあ、なんにせよよく考えて、悔いの無いようにしなさいね。」

「はーい・・・。」

悔いの無いように、か・・・。そう言われるとよけい悔いが残るんだよね実際。


俺は二十分前とまた同じ作業に戻っていた、スケートシューズというのはタンの下で結び目を作るのがツウだとか、米原に習った、米原は俺のバイクの師であると同時にファッションや音楽、その他諸々の先輩だと言っていい。

どうしてそんなにマメに人付き合いが出来るのか不思議になる人脈の広さは常に俺や、時にはカヤにさえ目新しい情報を提供し、楽しませる。

左足の甲の部分がチェンジレバーのせいで目も当てられないような状況になっているバンズのTNT2のヒモを、やはり米原の言うとおりタンの下で結び終えると、米原がこれを見てこんなことを言っていたのを思い出した。

「ハードコアでいいじゃない、スケーターに見せたらうらやましがるぜ?」

「なんで?」

「リフ(ボードと一緒に飛ぶアレ)に失敗してこうなったと思われるからだよ。」

「・・・それってすごいのか?」

「一応かっこいいって事になってる。」

無難なビグスクやアメリカンのあふれるこのご時世に2ストロークレプリカで目を三角にして走り回る高校生というのは、確かにハードコアに違いないが、かっこよさというのは非常にデリケートな物らしいというのが、ファッションに疎い俺にもよく解る出来事だった?なんのこっちゃ。





また、お袋が近寄ってきた、今度は何だ。

「あ、ちょっと。」

「なんだよ、もうその手には乗らないぞ。」

「違うわよ、これ、カヤちゃんちに届けてきて。」

「なんだこりゃ。」

お袋が差し出したのは小さな紙袋、虎屋のヨーカンと書いてある。

「うわ、美味そう。」

「食えるもんなら食ってみなさいよ。」

紙袋を受け取った右手ががくんと下がった、中身を見てみるとヨーカンではなく靴が入っていた、カヤが油で汚れるピット用に履いていたコンバースだ。

「あの子がこの間うちに来たときに忘れていったのよ、届けてあげて。」

「あ、納得。」

「食べちゃダメよ。」

こんなガソリンくさい物を食う息子なのか俺は、そうなのか。



それにしてもあいつ、何でうちなんかに来たんだ、しかも俺の居ないときに。

素朴ながら当然の疑問がわいてきたのは、駅前の交差点で信号待ちをしているときだった、解決するのは、また先の話になる。



この文章はOooWriterで執筆しているのですが

やはり書式がおかしくなってしまいますね。



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