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岡山

〜〜

それで、あさってがそのツーリング当日。

すべてから解放された、イヤな事は何もしなくていい、せいぜい朝親父の出勤とともにたたき起こされる位だ、そして何よりも、明後日はいつものメンバーとつるんでのツーリング。

小学校の遠足の前日ぐらいにテンションがあがっていても良さそうなものだけれど、こうして今俺が座っている夕食の食卓では、それどころではない光景が繰り広げられている、それも今日に限ったことではない、家族3人の団らんとなる夕食の場面においては、俺が東京から帰ってきたあの日以来毎日こんな光景が繰り広げられている。 


「一番好きなところに行かせてやるのが、一番ケンの幸せにかなっとろうが!」

「何言ってんのよ、それとコレとは訳が違う、もう将来が約束されたようなもんなんよ?」

「だからって、親戚も友達も居ない所にいきなりほっぽり出すなんて、なあケン?」

「・・・。」

あえて俺は返事をしなかった、親父と眼があっても努めて視線を逸らす。

商社マンの親父は、このまま岡山にある学校へ行けと、帰ってきてから何度も何度も何度も、恐らく俺の顔を見る回数に2乗しただけ、言って来た、一方お袋はというと、これまた同じく東京の学校へゆけという。

「だって、名門もいいところじゃない、首相も輩出してるし、政界には相当太いパイプがあるのよ、だったらOB会の力だって強いだろうし・・・。」

というのが、主な理由で、そのほかにも

「東京で洗練されたセンス」を学べとか、「偏差値ではなく格の問題」だとか、失礼だが学歴なんかとは縁遠いはずのお袋が、今や我が家の超現実主義の総合商社のような顔をして、俺に圧力を加えつつある。

最初は俺も親父の言うことに賛成だった、しつこいほどに言われたこともあったけれど、なによりせっかく仲良くあの2人と合格したというのに、それをむざむざ捨てるのは惜しいと思ったからだ。

俺の大学受験は別に東京に行くためでもなければ政界に首をつっこむ為でもなく、正直なところあの二人について行くという意味の方が、強いような気がしてきた、東京であの番号を見つけたときに気づいたその事実は、親父とお袋の論戦を観戦する度に、確信へと変わりつつあった。

そしてそれは、俺を親父の側から、お袋の側へとなびくようにし向けるには十分以上の説得力を持っていた、ともかく、俺が帰ってきてから毎晩のように繰り返されるこの問答に、俺は少々嫌気がさしていた、明後日を直に楽しみに出来ないのはこの毎晩繰り広げられる舌戦のせいなのだ。


俺は席を立った。

「ごちそうさま!」

「まだ話は終わってないぞ。」

「うるさいなあ、俺は寝る。」

「おい・・・。」

後ろ手にリビングの扉を閉めると、あの議論が再開された。

朝生もしっぽを巻く白熱具合だ、二人とも、俺の事なんて関係ないんじゃないのか?

未練がましく磨りガラスの向こう側を見る俺の胸に、そんな手前上手なメンタルが芽生える、でも、そんなはずはない、あの二人は俺の親であって俺の幸せを考えないはずがない、二人は形は違えど、それぞれ俺の幸せを案じているのには間違いない、手段と目的が交錯することなんて親とはいえ人の子だ、俺はイヤというほどそう言う目に遭ってる。

 もしも俺のこの考えを甘ちゃんだと思うなら、それは結構身勝手すぎる考えだ、死ぬまで反抗期を続ける事になりかねない。

「・・・ったくよー。」


俺はながら作業で部屋の扉を開けた、頭の中がいっぱいだ、親父とお袋の考える幸せのギャップがどうこうというより、今一番手を焼いているのは、自分がどうしたいかがだんだん読めなくなってきていることだった。


気づくと俺は椅子に座って「萌える単語帳」を広げていた、どうやらこの間まで相当必死に受験勉強にいそしんでいたようだ、こんな行動がルーチンワーク化されているとは、世も末だ。

ふと目をやったふとんの上で携帯電話が光っていた、メールが届いている、米原からだ。

「なになに・・・」

 明日会わないかって、どうしたんだろう改まって。

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