5話 僕、誘拐?される
ー時は少し遡り
「なっ…何だ!?」
「…!?この気配は!?」
「ハヤトさん!森の方からです!」
「…何よ…これ…?」
「…っ!」
エディエンヌの帰りを待っていた5人は、”目覚めの森”から普段感じたことの無い禍々しい気配を感じた。アレクシス、エミリア、フェイは、一度も感じたことの無い”モノ”に自然と恐怖し、ハヤト、ユーファはその気配を知っている感覚に陥った。
それは、まるで一度だけ会ってしまった”邪神”という存在に似たような…。
そう思った瞬間、ハヤトは森に向かって走り出した。
「ユーファ!子供たちを!」
「ハヤトさん!!」
もし、邪神かそれに近い存在がいたら、何故”目覚めの森”にいるのか疑問に思う。今持っている武器は自身の愛剣だけなので、戦うとなれば生きていられないかもしれない。しかし、ハヤトは自分の大切な息子が無事なのか、ただそれだけを思って走っている。
「っ!…エディ!」
「!?アレク!待ちなさい!」
「ちょ…!アレク!?」
「何してるんですか!?」
恐怖で動けなかったアレクシスだが、走っていくハヤトを見ると森にいるエディエンヌを思い出した。
ーあの時、自分が剣の打ち合いに誘わなければエディエンヌは記憶を失うこともなかった。そのことを今でも後悔しており、それからひたすら彼を守るために生きてきた。
そして今、エディエンヌに何か危険が迫っているのかもしれない。そう思うと、恐怖で動けなかった身体が動くようになった。
「(今度は、絶対守る)」
そう思いながらアレクシスは自身を止める声を無視し、ハヤトの後を追った。
・・・・・・
「(…なぜか嫌な予感がする)」
邪神ことカルウァさんが消えた後、僕はしばらく動けなかった(人って、予想外なことが起きると固まるって本当なんだね)。
とりあえず、父様にこの事を伝えるために戻ろうとしているけど…何だか嫌な予感がするんだよなぁ…。そう思いながら、森の外に出ようと祭壇から離れると…
「やっと、会えました」
「ふぁ!?」
突然、後ろから声が聞こえた。ウェェェェッ!?何!?何!?と、驚いて後ろを見ると長髪の青年がいた。
…次から次へとなんだよ!!絶対厄介なことが起きるよね!?これ!?
「…この3年間、待ち続けておりました」
「(しゃべり始めた…)ええっと…あなたは…?「あなたと出会ったあの日から、ずっと」(あっ、これ話聞いてないな)」
「しかし、今日この日、ようやくお迎えに上がることが出来ました。さあ、共に行きましょう」
…この人(?)、ヤバい(確信)。何か凄い誘拐犯っぽいんだけど、絶対父様たちの友達じゃないよね?。そもそも、3年前って僕が5歳のころだよね?その時から狙われていたの?僕?…そんなことを考えていると、青年がいつの間にか目の前に来ており、僕の手を取った。ヒエッ!?
「は、離して…「エディ!」父様!」
掴んでいる手を振り払おうとした時、父様の声が聞こえた。声のした方を見ると、こちらに走ってきている父様が見えた。良かった、助かった!
「チッ、勇者か…ご無礼をお許しください」
「えっ?うわぁ!?」
…と思っていたのに、青年が忌々しそうに舌打ちした後、僕の手を引っ張ったので、そちらに引き寄せられてしまった。…ちょ、この人(?)父様のことを勇者って言ったよね?…まさか父様と敵対してるんじゃないよね?そうだよね?
「なっ…ルシフェル!?なぜお前が!?」
「久しぶりですね、勇者。相変わらず忌々しい顔です」
はい、敵ですね。それにしてもルシフェルって…墜天使の?えっ、じゃあかなり強いよね?なんで僕みたいな子供に敬語使ってたの?
「ルシフェル!エディから離れろ」
「そうはいきません。私の目的がこのお方なのですから」
「!?どういうことだ!」
あっ、また敬語使った。というか、本当にどういうことだよ。たしか迎えに来たって言ってたけど。
「答えるぎりはありません。さぁ、行きましょう」
そう言い、ルシフェル…さん?が僕を抱えた。…まって!?何処に!?
「させるか!その手を離せ!」
「うるさいですねぇ。少し、失礼いたします」
「?どういう「キィン」…ファ!?」
なんということでしょう、斬りかかってきた父様の剣をルシフェルさんが(いつの間にか出していた)自分の翼で受け止めているではありませんか…そんな事言ってる場合じゃないな、うん。まさか翼で受け止めるとは思わなかったなぁ。
「腕が落ちましたね、勇者。今のあなたでは私に勝てませんよ」
「何?…ガァッ!?」
「父様!!」
剣で斬りかかっていた父様は、受け止めていない方のルシフェルさんの翼で弾き飛ばされてしまった。ちょ、ヤバいよこれ、なんとかしないと!そう考えていると、誰かがこちらに向かってきている足音が聞こえた。そちらを見ると、兄様が走ってきているのが見え、その後ろには母様たちがいた。
「エディ!大丈夫か!…なっ!?」
「兄様!父様が!」
「アレク!待ちなさい…!?ハ、ハヤトさん!それにルシフェル!?なぜあなたが!」
「な、何が起こっているの?…ッ!?エディ君!」
「ハヤトさんとアレクの勘が当たりましたね…」
全員そろちゃったけど…取り合えず父様を先に助けてあげて!
「癒手…ですか、また面倒な。それに子供が3人…その内の一人が勇者の息子、エディエンヌ様の兄君ですか…分が悪いですね。まあ、そろそろ良いでしょう、申し訳ございませんエディエンヌ様。今からお連れいたします」
「(!?やばいやばい!)離して!」
「エディ!?…お前、その手をエディから離せ!」
そう言い、兄様が背中に背負っていた剣でルシフェルさんに斬りかかった…が、父様と同じく翼に受け止められてしまった。
「……すみませんが、剣を収めて貰えませんか?兄君。貴方様はあまり傷つけたくありません…特にエディエンヌ様の前では」
「じゃあ、エディから離れろよ!」
「…仕方ありませんね」
「うわぁ!?」
「「「「アレク!」」」」
ルシフェルさんはそう言いながら、兄様を母様たちがいる方に弾き飛ばした。父様の時よりもずっと優しく弾き飛ばしていたが、それでも兄様にとっては強かったらしく、地面に叩きつけられていた…に、兄様ぁぁぁぁ!?
「兄様ッ!…兄様になんてことを!」
「申し訳ございません、エディエンヌ様。罰は後で必ずお受けしますので、今は共に行きましょう」
ちょ、こんな状況で連れて行かれるの!?ど、どうしよう。母様は父様を傷を治してるし、エミリアさんとフェイさんも兄様に駆け寄ってるから僕今フリーだよ!?…だ、誰かぁぁー!
「……待てよ」
そう思っていると、兄様の声が聞こえた。無事だったんだ!と思いそちらを向くと、兄様が顔を下に向けて立っていた…しかし、どこか様子がおかしい。よく兄様を見てみると、身体の周りが少し光っている。
…何あれ!?エミリアさんたちが何かしたの!?そう思いエミリアさんたちを見るが、2人も何が起こったのか分かってないようだ。でしょうね!
だけど、父様と母様、ルシフェルさんは、信じられないものを見たかのように驚いている。
「まさか…あれは…」
「何故アレクがあれを…?」
「…勇者の息子もまた勇者ですか…」
本当に何あれ、そう思っていると、何故か僕の紋章が浮かび上がってきた。紋章が黒く光り、その光が兄様に当たると、周りの光が無くなり兄様は倒れてしまった。…えっ?
「アレク!…エディ、その紋章はまさか…!」
「どうなっているんですか!?アレクだけではなくエディまで!」
「ア、アレクしっかり!」
「アレク!…気を失っているだけですね」
……ど、どうしよう。僕のせいで兄様が…。そう思っていると、ルシフェルさんは心配そうに僕を見ながら話しかけてきた。
「エディエンヌ様…行きましょう、ここに居たらあなたが辛いだけです」
「…うん、分かった」
「「「「エディ(君)!?」」」」
父様たちには悪いんだけど、今の僕にとってルシフェルさんが言っていることはとてもありがたかった。意図的ではないが兄様に何かしてしまった、その罪悪感で胸がいっぱいだったのだから。
「ごめんなさい、父様、母様、エミリアさん、フェイさん。兄様が起きたら、謝っておいてください。………さようなら」
「…それでは失礼いたします、エディエンヌ様」
ルシフェルさんが手を前にかざすと、目の前に紫色の光の渦が現れた。そして僕は、ルシフェルさんに手を引かれてその中に入って行った。
ー最後に見たのは、こちらに向かって手を伸ばしている父様たちの姿だった。
前回からかなり遅れてしまい申し訳ありませんでした。これから、投稿が遅くなってしまう可能性があるのでご了承ください。