蝶々
蝶々にならない奴が一人だけいた。
最初は他と同じだったその子の蛹は今では、他とは比べ物にはならないほどに大きくなった。周りの奴等にどう見えていたのかは知らないけれど、僕にはやけに大きく見えた。誰かが声を掛けても触れても、その子はなにひとつ反応をしなかった。そもそも蛹の中のその子が、僕等に気付いているのかすらわからない。それくらい分厚い壁だった。試しに僕も声を掛け、壁をノックしてみたけれど、無反応だった。まだ蛹の中で、深い深い眠りについているのだろう。けれどもしかすると、あまりに分厚くなりすぎた壁に自分ではどうにもできずに、蛹の中で死んでいるかもしれないし、生きているかもしれない。苦しみながらもまだ、必死に生きているかもしれない。小さい頃から周りより耳が良かった僕は、蛹の中のその子がなく声を一度だけ聞いた。それだけで充分だった。今にも死んでしまいそうなほどか細いなきごえは、震えていた。その声を聞いてすぐに持てる力の全てで壁を叩いた。叩いたなんてもんじゃない。殴って殴って、何度も何度も殴って、解いた(ほどいた)。まだ息をしているとわかったその子を助け出すことは、今しかできない。声を聞いた途端駆られた衝動のままに、ひたすら殻を壊して、解いた。解いた壁の隙間から見えたその子の姿は、酷く弱っていて解く手を早めた。やがて、殻を全部解いて壊した僕の瞳に映った、他のものとは比べものにならないほどに、綺麗な乳白色の翅。
そうして漸く、彼女に出会う。
読み手によって捉え方が変わり、それらの捉え方どれもがその人にとっての正しいものだと思います。なので、様々なジャンルで設定させてもらいました。