魔法銃士ルーサー、魔王軍の虚を突く
俺達、サーキ隊は騎馬を走らせてシルフィルドの北側を行ったり来たりし続け、再び北門を視界にとらえた。
今まで既に5回ほどは遠巻きに眺めてスルーしている。
だが今回、様子が違う。
俺がじっと北門を注視しているのに気付いたダイヤが聞いた。
「どうしたんです? ルーサーさん」
「北門を守るオーク兵が少ない。
しかも、歩いて移動している奴がチラホラ居る」
俺はサーキ隊全員に響き渡る声で言った。
「カラム・フォーメーション!
強襲を掛ける。
全速力だ!
魔法兵はアンチミサイルの備えを!」
「ラジャー、カラム・フォーメーション!」
「了解!
カラム・フォーメーション!」
兵士達は一列縦隊となり、全速力で俺の後に続いてシルフィルドの北門へと突き進む。
俺のすぐ後ろに位置するサーキが俺に尋ねた。
「なぁルーサーさん、良く分からないんだけど何故今なんすか?」
「恐らく今、シルフィルドの北門を守るオーク兵は交代の時間か何かで多くの者が一時的に持ち場を離れている。
時間にして1分間、有るか無いかの隙だ。
今まで素早く駆け回っていたのはまさにこの瞬間に出会う為だったんだよ」
「え――?
でも、守備を解いた訳では無いんだろ?
どうせすぐ守り直してしまうから状況は変わってないと思うんすけど――」
「それが隙という物だ。
守っている側は『今まで8時間ぶっ通しで全神経を集中して完璧に守り続けて来たんだ。まさか、兵士の交代の一分弱の瞬間に襲われる訳が無い。瞬間的に防備が薄くなるのは分かっているが、今まで守った時間に比べればほんの一瞬の事、まさか狙われる訳が無い』と思う。
何度も俺達が遠くを走っているのは知っているが、今までただの一度も襲ってくる気配が無かった。
今回に限ってまさかという感情。
それが希望的観測に基づいた甘えという隙だ。
まさに今の奴らの状況、いまだにあそこのオーク兵はよそ見をしたまま俺達に気が付いて居ないだろう?
睨み合ってお互い精神集中しながらぶつかるんじゃない。
相手の精神の虚を突く、そうすればどんな鉄壁に思える防御でも突き崩す事が可能!」
俺達は一斉に北門から中へとなだれ込んだ。
見張りのオーク兵は何人か居たが、3、4人の軽騎兵が突撃して一瞬で葬り倒す。
物音に気付いて建物の角から何人か飛び出すが、やはり軽騎兵が寄ってたかって始末する。
守備オーク達は混乱状態で、統率する司令官の姿も見えない。
俺は声を張り上げた。
「このまま奥へと突き進み、ゴブリン駐屯エリアでゴブリン共を始末する!
伍長は懐中時計を確認!
今より三分間戦い、即座に離脱して北門から脱出だ!
行け――っ!」
「アラン組! 行くぞぉ!」
「モーリス組! ついて来い!」
「コリン組! 突撃ぃぃ!」
兵士達は作戦の最小編成数である5騎ずつに分かれて次々と建物の間を突っ走りながらすぐ奥にあるゴブリン駐屯エリアへと入り込む。
俺もサーキ達、ミツールパーティーのメンバーとミナを率いて路地を突き進む。
路地の向こう側からは騒ぎを聞きつけた武装オークが5体、斧を振り回しながら迎撃に来る。
「スキル・クイックショット!」
パパパ――ン!
ドサドサドサッ
通行の邪魔になる中央の三体を俺がヘッドショット。
「オゥラァアア!」
「ヤアアッ!」
ドガッ、ザクッ
ドサドサ
残り二体もサーキとダイヤが蹴散らす。
「ははっ、凄いすねルーサーさん。
まさかこんなにあっけなく突破できるなんて想像もしなかったぜ」
「包囲網ってのは完璧に作られていれば突破困難だが、不完全なまま崩されると脆いんだ。
北門の状況に気が付いて後から駆けつけても一旦崩壊してたら後の祭り。
どんなに焦って急いでも、只の戦力の逐次投入となって飲まれるのみだ。
それよりゴブリンを狩りまくるぞ!
コイツらを残しておけばバリスタやカタパルトとなって帰って来る!」
路地を抜けると広場が広がっていた。
そして粗末なテントが多数張られており、あちこちでゴブリン達が抵抗ままならずに軽騎兵達に狩られまくっている。
俺は少し心配になって横目でダイヤの様子を伺う。
「死ねぇこの糞ゴブ共がぁっ!!」
ザクッ、ズシャッ
ドサッ
片っ端から始末していっている。
うむ。
なんか慣れちゃったみたい。
***
ミツールと剣聖ブラーディは城門の中ほどまで踏み込み、襲い来る魔王軍の兵士達と対峙していた。
近衛兵達はブラーディの指示によって背後の重装騎兵と魔法騎兵の指揮を取りながら戦い続け、重装騎兵達は押し寄せるオーク騎兵と激しい攻防を続けている。
「ミツールよ、この城門の内側へも、外側へも一歩も出ずに戦うのだ」
「うあああぁぁぁ!」
ミツールは右左と往復して走り回りながらワラワラと出てくるオーク兵達に切りかかり、なぎ倒していく。
ブラーディはミツールが捌き切れなかったオーク兵をサクッ、サクッと切り殺す。
「ほれ、もっと無駄なく、もっと的確に敵を倒せ。
そうそう、そうだ。
動き続けるのだ。
手強い敵集団相手に足を止めて戦う愚かな動物はおらんからの。
常に自分に有利な位置へ移動し、敵に有利な位置からは離脱し続けるのだ!」
「はぁっ……はぁっ……」
ズシーン ズシーン
町の方から地響きと共に大きな音が近づいてきているのに、ミツールは気が付いた。
―――――――― シルフィルド南門 ――――――――
_家家家家家__右___豚______家家家家__家
_家家弓家家_右右右____左左___家家弓家__家
_家家家家家右右右右___左左左左__家家家家__家
_家家弓家家_右右__豚__左左左__家家弓家__家
_家家家家家________左左___家家家家__家
_______扉___豚_豚___扉________
________扉_豚_豚___扉_________
_________扉___豚_扉__________
回回回回回回回回回回門豚門門門回回回回回回回回回回回
回弓弓回回弓回回回回ミ門門門門回回回弓弓回回回弓回回
回回回回回回回回回回門門門ブ門回回回回回回回回回回回
狼____重_魔________魔_重狼_狼____
____狼重___近_____近__重狼_狼____
_狼_狼_狼重近_魔__近_魔__重狼狼______
___狼__狼重重______重重狼__狼_____
_狼__狼_狼_狼重重重重重重_狼__狼______
回:シルフィルド南門城壁
家:シルフィルド内の家。オーク弓兵が天井で張ってはいるが、チョロチョロ動くミツール一人に対し、次々押し寄せる味方のオーク歩兵が邪魔で射撃出来ない。
扉:開かれた扉。なお、城門は敵に外から埋め立てられるのを防ぐため、全世界的に内開きである。
豚:ミツールに襲い掛かる歩兵オーク達。
重:オーク騎兵とぶつかり合って、シルフィルドの中へと帰還するのを妨害するミツール隊の重装騎兵達。馬と共に固い防具で身を包み、スピードを優先したオーク騎兵よりかなり頑丈で優勢。
近:重装騎兵や魔法騎兵に指示しながら、危うい所は助けに入る百戦錬磨の近衛兵。
魔:上にアンチミサイル・プロテクションを張る魔法騎兵。
弓:狼狽えながら上から弓を撃ちおろすも、全てアンチミサイル・プロテクションで防がれて焦るオーク弓兵。
狼:ミルトン王国軍の全ての大型投石器を破壊完了し、シルフィルド内に帰還したくても帰してもらえないオーク騎兵達。当然ながら背後からは挟み撃ちのようにミルトン王国軍主力兵が押し寄せている。
右:巨大なミノタウロスの右足。ミノタウロスは城壁の上から頭がのぞくくらいの巨体で、人間など一発でペチャンコにする大槌を両手で持っている。
左:巨大なミノタウロスの左足。
――――――――――――――――――――――――――
ミツールは人間など一踏みでペチャンコに出来そうな巨大な蹄の足を見て、上の方へ視線を動かす。
プルルルロオオオオオオオオオオ――――!!
辺り一帯が響くほどの大きな声で、ミノタウロスは雄たけびを上げた。
「ぶっ、ブラーディ様!
あれは無理!
いくら何でもあれは無理ですよっ!
逃げましょう!」
「駄目じゃ。
ミツールよ、多くの敵が押し寄せ、狂気渦巻く戦場の真っ只中でこそ、風一つ無く波紋一つ無い湖のように冷静な心を持たねばならぬ。
ほらっ、気が散っておるぞ!」
よそ見するミツールの背に迫りくるオークのナタを、一瞬で距離を詰めたブラーディが弾き、そのままオークを切り捨てる。
「い、いや、今回ばかりは無理ですって!
あんな山の様な巨大な化け物、本来は空飛ぶ機械とか使って戦う相手ですよ!
物理的に勝てっこ無いです!」
「逃げてはならんミツールよ。
よいか!?
そなたに戦況をよく観察して考えろとは言わん。
こういう修行は今、この状況でしか出来ぬ事じゃ。
激しい戦いのさ中である今こそ、心を沈めて真実を見極めよ!
言葉ではなく、魂で見よ!
そして目の前の真実を感じ、見定めるのだ!」
ズシ――ン!
プルルルロオオオオオオオオオオ――――!!
ミノタウロスは再び一歩前進して雄たけびを上げる。
「いや、ブラーディ様、ほんと今はそういう状況じゃなくって……」
「相手の大きさや威圧感に気圧されてはならぬ!
声の大きさに騙されてはならぬ!
相手の威嚇に誤魔化されてはならぬ!
本当の真実が何か見破るのだ!」
「敵の大きさ……?」
ミツールは大きさと聞いて真っ先にオオネズミのラッグを連想した。
最初は侮ってかかり、ルーサーさんに助けて貰わなければ自分達のパーティーが殺されていた、恐ろしい敵。
小さいけれど恐ろしい敵。
戦いの最初から有った得体の知れない悪寒。
そしてミツールは気が付いた。
「あの怪物には……殺気が無い」
「ほほぅ、思ったより早かったの。
良い着眼点じゃ」
「どういう事です?
ブラーディ様、あの怪物は僕達を殺そうとしていない」
「それは奴が心の中でそなたを殺す事を決意していないから。
そなたを大槌や脚の蹄でペチャンコにしようと決意していないからじゃ。
覚えておけ。
何かを誤魔化そうとしている者、騙そうとしている者ほど威圧し、大声を上げ、あの手この手で威嚇しようとするものじゃ。
真実とはそういう者の手の中には無い!」
「決意? でも何でですか?」
「シルフィルドの南側の防衛にこの城壁も城門も必須じゃ。
大方、破壊するなと命令されているのじゃろ。
奴は巨体故にこの狭い城門のトンネルに入ることは出来んし、破壊せずに攻撃する事も出来ん。
タネはわかったの、ミツールよ。
後は後ろの、オーク騎兵達が壊滅するまで戦い続けるのじゃ」
ドシーン!
プルルルロオオオオオオオオオオ――――!!
ビュオオオォォ
ミノタウロスは城門の前でかがみ込みミツールを睨みつけながら再度雄たけびを上げた。
生臭い鼻息が突風の様にミツールの周囲を吹き荒れる。
だがミツールはそれを眺めつつも平然と走って来るオーク兵を狩り続ける。
一方、後ろ側ではオーク騎兵団はミルトン王国の騎兵や歩兵に攻撃され、ジリジリとその数を減らしていっていた。
「ハッハッハッハ!
あの異世界転移者、中々やるでは無いか!」
「オーク騎兵達を壊滅させるのだ!」
「この戦果は大きい、大きいぞ!
戦闘開始30分立たずしてオーク騎兵を壊滅させることになろうとは!」
「ドラゴン達よ、オーク共を食って食って食いまくれぇぇ!」
外に居たのはミルトン王国の主力軍ほぼ全部である。
オーク騎兵達はミツール隊にせき止められて逃げる事も出来ず、周囲から攻撃を受けると言う完全包囲状態になり、ついには最後の一匹が倒れ、壊滅した。
「やったぞ――!」
「ブラーディ様!」
「うむ。
この戦局の目的は達した。
撤退を指示するのじゃ」
***
シルフィルド王城の天守閣にて、総司令官のオーク、ジャトゥーバは苛立ちながらシルフィルドの南門を睨み付けていた。
側近のオークが報告する。
「ジャトゥーバ様……シルフィルドの北なんですが……」
「黙れっ!
そんな事よりオーク騎兵達はまだ入城出来んのか!?」
「南門をミルトン王国軍の一部隊にせき止められてまして……」
「北門側なんですが……」
「バカタレエェ――!
オーク騎兵達は我々の主力の一部だ、一刻も早く助けなければミルトン王国軍に潰されてしまうぞ!
なんとかせんかっ!」
ジャトゥーバは焦りながら望遠鏡で南門の方を眺める。
「援軍を送ろうにも兵力総数では我々にとって分が悪いのです。
何とかして南門を防いでいる隊を内側と外側から攻撃し続けているのですが、思った以上にしぶとくて……」
「聞いてください! 北門が破られて軽騎兵隊に侵入されたんです!」
「北が穴なのは分かってたから守備兵を割いただろう!
軽騎兵如き重装オーク歩兵を送って蹴散らせ!」
「それがその……現場は混乱していてオークの駐屯地からは家が立ち並ぶ中、幾つもの区画を超えないといけないので連携が遅れ、ゴブリンの8割が死亡しました」
「オークやダークエルフの駐屯地の部隊長達は、北門からの敵の侵入には気が付いて居たそうですが、それほど重大な事態になっているとは思わなかったそうです。
放っておけば守備兵が勝手に片付けているだろうと……」
「……おまっ……。
そんな……信じられ……。
今すぐダークエルフ大隊を向かわせて迎撃しろ!」
「いえ、既に軽騎兵達は北門から脱出しました。
ゴブリン如きでは騎馬兵に手も足も出ず、相手の損害は無しだそうです」
「……」
「大変ですジャトゥーバ様!
オーク騎兵団がついに壊滅しました!
そして大型投石器の代わりに、多数の破城槌が南の城壁に押し寄せて来ています!
城壁が破壊される恐れが有ります!」
破城槌とは、車輪がついた木造の小さな小屋みたいなものの中に寺の鐘を突く丸太みたいなのがぶら下がってる兵器です。
中に何人も兵士が入って、木の屋根で矢の攻撃を防ぎながら城門や城壁に隣接し、
「ヨイヤサー!」「ヨイヤサー!」 ドッカンバッキン
「ヨイヤサー!」「ヨイヤサー!」 ドッカンバッキン
と丸太の先端をぶつけて破壊して崩します。




