魔法銃士ルーサー、シルフィルドの周囲の草原を兵を率いて疾走する
ミルトン王国の軍隊を主戦力とし、応援で駆け付けた光輝の陣営の国々の加勢を得て、俺達は今シルフィルドに迫りつつあった。
ミツールは剣聖ブラーディ様と共に8人の精鋭近衛兵、300人の騎兵を率いた小隊の隊長として、南側の真正面から叩く主攻の軍団に入っている。
ブラーディ様は軍隊を率いつつ敵軍と戦う方法をミツールに指導したいとの事。
暗殺者の不安はあったが、屈強な精鋭の近衛兵を付けて貰ったしブラーディ様も居るので大丈夫だろう。
で、俺はサーキ、エリック、ダイヤ、フィリップ、そしてミナと共に100人の軽騎兵を預かり、シルフィルドの周囲を走り回りながらの遊撃と偵察の任務についている。
馬を走らせながらシルフィルドの城壁の様子を観察していると、ダイヤが聞いてきた。
「ルーサーさん。
ルーサーさんとミナさんは内部攻撃の為に下水から侵入するのかと思ってたけど違うんですね?
いえ、私としてはとても頼もしいですし、安心してるんですが」
「それはもうちょっと状況が進展してからだな。
作戦的な第一フェーズは精鋭グラディエーター部隊がドラゴンフライを狩って、城の天守閣をドラゴンが炎上させるまで。
それまではミツールとブラーディ様の居る南の主攻が総攻撃をかける。
その間に俺達は魔王軍の隙を見つけ、見逃さずにそこを突くのが重要だ。
そして第二フェーズで敵軍の息の音を止める為に俺とミナ、そしてミルトン王国の精鋭部隊が突入する」
「緊張するなぁ……」
「さっきからずっと馬を走らせてばっかりだし飽きて来ちまったよ。
さっさと突っ込もうぜ、ルーサーさん」
「サーキも異世界転移者だし、他のパーティーメンバーもいずれ軍を率いる状況は出てくるだろう。
今しっかりと学び、慣れておくんだ。
いいか、レッスンワンだ。
軍隊の戦闘と言う物は、敵とド派手にぶつかる瞬間よりもそれに至るまでの状況作りが重要だ。
敵軍の弱点を探すには必死で動き回り、脚でチャンスを稼ぐ必要がある。
トロトロ、ダラダラしていればそのチャンスに巡り合う可能性が下がるからな。
それでは偵察を兼ねつつスピーディーに動く為の陣形に変えるぞ」
俺は大きな声で叫ぶ。
「ウェッジ・フォーメーション!」
後ろに従って付いてきている兵士達も各々が確認の声を上げながら陣形を整えていく。
「ウェッジ・フォーメーションだ!」
「ウェッジ・フォーメーション、了解!」
「ラジャー、ウェッジフォーメーション!」
―――――― 疾走するサーキ隊 ――――――――
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_木__________________木___
________________________
__________ルサ____________
_________ダ__エ___________
___木____フ____ミ____木_____
_______兵______兵_________
_______________兵________
_____兵__________________
_________________兵______
___兵____________________
___________________兵____
木:シルフィルドの周囲は所々に木の生えた見晴らしのいい草原地帯である。
ル、サ、ダ、エ、フ、ミ:馬に乗って疾走するルーサー、サーキ、ダイヤ、エリック、フィリップ、ミナ
兵:馬に乗って従うミルトン王国の軽騎兵達。武装は槍がメインで護身用の短剣を持つ者が多い。
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「エリック、ドーラの町の兵団でも陣形は習っただろう?」
「はい。
ただあくまでも僕達は一般兵として言われた通りに動くくらいで、正直効果までは良く分かってなかったりします」
「ウェッジ・フォーメーションは敵陣に切り込むよりも、今の俺達のような索敵に向く。
後ろが詰まってないから機敏な挙動に対応出来るし、兵士達の目線が右翼は右側を、左翼は左側を満遍なくカバーしてくれる。
一人で走っていれば左右を交互に見ないといけないが、反対側は反対側の兵士が見てくれているからな。
全兵士の目が怪しい物や敵を発見してくれるわけだ」
***
ミツールは剣聖ブラーディと共に馬を並べ、周囲を屈強な重武装の近衛兵に守られながらシルフィルドの南城壁へと進んでいた。
後ろには多数の重武装の騎兵が連なっている。
横を見れば地平線を埋め尽くすほどに他の騎馬兵や歩兵も列を作っており、上空には巨体のドラゴンに乗ったドラゴン竜騎兵もあちこちを飛んでいた。
「いやぁ、ドキドキしますよ。
ブラーディ様、魔王軍はもう僕達に気付いていますよね?」
「当然じゃ。こちらからシルフィルドの城壁が見えておるから、向こうの見張りもこちらを見つけておる」
「まいったなー。
僕この300人隊の大将ですよ、大将」
「300人だから隊長じゃの」
「いざ戦闘が始まったらロンメル将軍から伝令兵が来るって言うけど、本当に来るかなぁ。
不安で不安で仕方ないですよ」
「馬鹿め。
何のためにここに隊長が居ると思っておる?
お飾りでは無いぞ。
言われた通りに動くだけならば下級兵だけで十分じゃわい。
ミツール、そなたが自分で判断して動くのじゃ」
「ええぇっ!?
(小声で)無理ですよ、僕ルーサーさんみたく戦術とか知らないし。
むしろ僕なんかが隊長やっちゃって本当にいいのかなって気持ちも有りますし。
絶対回りを囲んでるゴツい人達の方が経験有りますよ。
ぶっちゃけ気が引けてるというか」
「ルーサー殿はそなたが兵を仕切りたがってたと言っておられたぞ?」
「多分それ、最初のドーラの町の兵団の野外訓練の時の話でしょ?
あの時は僕もちょっと調子に乗りすぎてたと言いますか……その……」
「フォッフォッフォ。
よいかミツールよ。
リーダーなんて者はその立場に相応しい者がやるものではない。
なりたい奴が勝手にいきなりやるもんだ。
委縮しておると50年修行したってリーダーになれんぞ?」
「いやいやいや……さすがに生き死にの掛かった戦場で人の命を預かるというのはちょっと……」
「この世のどんなリーダーも最初はそなたとたいして変わらぬ。
風格など後で付いて来るものじゃ。
それよりそなたは陣形を知っておるか?」
「ドーラの町で命令通りの陣形に組む訓練はしましたから、ある程度は知ってます」
「練習じゃ。
声を張り上げてそなたの部下達に陣形の指示を出せ」
「えぇっ?
な、何の陣形ですか?」
「好きなので構わん。
ほれ。
早く腹から大声を出して指示を出さんか!
敵が来てしまうぞい?」
ミツールは息を整え、大声で前を向いたまま叫んだ。
「セミ・サークル・フォーメーション!」
周囲のいかつい精鋭近衛兵達はジロリとミツールを睨むように見て、一呼吸置いてから後続の兵達にも響く声で呼応した。
「(ったく……遊びでフォーメーション取らせるんじゃねーよ)総員! セミ・サークル・フォーメーション!」
「(ブラーディ様が指示したんだろう……仕方が無い。従っとこう)セミ・サークル・フォーメーション! 急げぇぇいい――っ!」
「(うっぜー奴だなぁ……)セミ・サークル・フォーメーションだ!」
「了解! セミ・サークル・フォーメーション!」
「ラジャー! セミ・サークル・フォーメーション!」
―――― ジリジリ前進するミツール隊 ―――――
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_兵__________________兵___
_兵__________________兵___
_兵__________________兵___
__兵________________兵____
__兵______近__近______兵____
___兵_____近ミブ近_____兵_____
____兵兵____近近____兵兵______
______兵兵兵____兵兵兵________
_________兵兵兵兵___________
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ミ:自分の一声で壮大に騎兵達がキビキビ動いてビビりまくるミツール。
ブ:ミツールを見てヘラヘラ笑ってる剣聖ブラーディ。
近:無表情で感情を隠しながら足並みのそろってない一般兵に檄を飛ばす近衛兵。
兵:一列の半月状にミツール達を取り囲む騎兵達。
※実際は300人級の壮大な半月が出来てます。
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「どっ、どうしようブラーディ様。
戻した方がいい?」
「フォーッフォッフォッフォッフォ!
愉快ではないかミツールよ」
「ヤバいですって。
あの辺の人たちなんか無意味なの分かっててこっち睨んでますもん!」
「ハッハッハ。
ところでどうしてセミ・サークル・フォーメーションを選んだのかね?」
「ジョロネロ国で魔王軍のドラグウォーカー騎兵達と戦った時、ルーサーさんが指示したこの陣形で圧勝したんですよ」
「ひょっとすると味方の兵は弓騎兵だったのかの?」
「凄い、何で分かるんです?
ラクダの後ろに座った弓兵ペッパーワーキャットがその時の主戦力でした」
「流石はルーサー殿、恐らく近接がメインの魔王軍とのぶつかり合いを避けたのじゃろうな。
だが、今回はこちらも近接騎兵、そしてそなたの今の参謀はこのわしじゃ。
今回はその時とは別な戦い……いや、修行がもうすぐ始まるであろうな」
「修行ですか?」
「この前のオークの流れに逆らって切り進む修行、それを遥かにハードにしたものが良いかのう」
「……あれよりハードって……」