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魔法銃士ルーサー、シルフィルド奪還作戦に付き合わされる

 公開裁判は終わり、俺とミツールとサーキは無罪放免となった。

 代わりにウオラ王は失脚し、ノームピックの監獄に近衛兵二人と一緒に幽閉されている。

 新たな王が決められるのは残された大きな仕事が片付いてからである。

 その大きな仕事の為に俺達は足止めを食らっている所だ。

 俺は駐屯地の作戦会議室でミツールとサーキと一緒に、ミルトン王国やグロリア王国の将軍達と机を囲んでいる。


「我々ミルトン王国の本隊もノームピックに到着し、光輝の陣営のいくつかの国から協力の確約を得ている。

 国の威信をかけ、どうしてもシルフィルドを取り戻すつもりで居るし、それだけの兵力は集まっていると考えている。

 だが作戦を立てる前にルーサー殿、まずは貴方の意見を伺いたい」


 俺は両ポケットに手を突っ込んで突っ立ったままテーブルの上の地図を眺めながら言った。


「まずは敵の情報を調べるのが基本だ。

 冒険者ギルドには凄腕のシーフが何人も所属している。

 彼らに依頼を出し、シルフィルドの内部の状況を探らせるべきだ」

「ドレイク偵察竜騎兵に上空から探らせれば済むのではないか?」

「時間を掛けるのは得策ではないと思うぞ、その間にも魔王軍はシルフィルドの防護を固めてしまう」


「今、光輝の陣営は勇者サリー達が先頭に立って総攻撃を掛けている最中だ。

 シルフィルドを襲った今回の大群は異世界転移者を倒す好機だった為の特殊な状況。

 本来魔王軍はこちらに割く余剰リソースはあまり無い。

 時間を掛けてでも状況を正確に把握する価値は十分にある」

「しかしシーフ如きに任せて大丈夫なのか?」


「彼らは潜入のプロだ。

 特に夜間ならな。

 魔王軍があちこちでひしめく町の中を、音を殺し、身を隠し、視線を察知しながら動き回り、建物の奥深く、地下の奥深くまで探って情報を持ち帰れるのは彼ら以外に無い。

 魔王軍が効果的に利用出来る可能性のある施設は町の各所にあるし、防衛している司令官の戦略の傾向、方針を掴むために何か所も探って貰いたい場所がある。

 最低でもマスター以上のシーフを3名、危険度の高い部分を探る為グランドマスタークラスのシーフを1名雇って夜間を待って潜入させて欲しい。

 シーフと言う連中は楽して金儲けを選んだ連中が多いので、多少は性格に癖がある。

 発見した情報毎に加算方式の成功報酬で依頼するのが良いだろう」

「分かった。

 今すぐ冒険者ギルドに依頼を出そう」


「後は内側からの攻撃のキーマンとなる実力者が必要だ。

 勿論、協力して頂けるという剣聖ブラーディ様は間違いなく最強の実力者だが実戦もまた修行の場、ミツールへの指導を兼ねてミツールと同じ隊を希望しておられる。

 こちらは純粋な武力、一人で多数を相手に出来る戦闘系職業のグランドマスターが好ましい。

 傭兵ギルドを当たるといいだろう」


 ***


 シルフィルドの陥落と、ノームピックでの滞在開始から三日目。

 光輝の陣営からの応援の軍隊もシルフィルドに隣接する町や砦に集まって来ていた。

 作戦の総指揮を行うのは一番シルフィルドに詳しい、シルフィルド駐屯歩兵大隊を率いるロンメル将軍だ。

 そして奇跡的な町の人の脱出作戦を指揮した功績を認められ、俺の意見も最大限に重用されている。

 なお、本来のミルトン王国総司令官のマクシミリアンは、ウオラ王が幽閉された後、お腹が痛いとかでずっとお休み中である。

 まぁ下手に引っかき回される事が無くて有難いと言えるだろう。

 まずはロンメル将軍が口を開く。


「シルフィルド奪還の準備は整いつつある。

 おととい冒険者ギルドに依頼してシルフィルドに潜入調査をして貰ったグランドマスターシーフ1名、マスターシーフ3名が今朝全員無事に情報収集を終えて帰還した。

 まず最初に驚くべき情報がある。

 魔王軍の陣営に降臨した異世界転移者キュルカーズは死亡した。

 そこのルーサー殿の指示で王の間のオルタックの絵画に仕掛けたトラップに引っかかったそうだ」

「おおぉぉぉ!」

「マジすかルーサーさん!

 ……てか異世界転移者も容赦なく死ぬのか……」

「あのカエル野郎あんな大口叩いておいて情けねーな」

「何て男だ。

 町の人をほぼ全員無事で逃がすばかりか、只ではシルフィルドを明け渡さずに魔王軍の異世界転移者までも暗殺してのけるとは!」

「流石は元勇者パーティーのメンバー、異世界転移者を倒したと言うのはかなり大きな功績だぞ!

 光輝の陣営にとっては大きな朗報、魔王軍にとっては悪夢の様な知らせだ!」

「あぁ……えっと、このミツールの話を参考に仕掛けたから、コイツの成果って事でいいよ」

「おぉぉ! 流石は異世界転移者、敵の弱点を把握しておられるのか!」


「そしてシルフィルド内部の状況だが、攻めてきた魔王軍の大部分は北門周辺以外ほぼ無傷のシルフィルドに全員が入り込み、滞在しながら防備を固めつつある。

 ケンタウロス軍による物資運搬も継続しており、時間が経つほどに奪還が困難となるであろう。

 なお、グランドマスタ―シーフはかなり有能な男で、三体いたミノタウロスの内、一体の毒殺に成功している」

「流石はグランドマスターと言った所だな」


「そして気になる情報もある。

 異世界転移者が暗殺された事に激怒した魔王軍は、辺境のアサシン結社『恐怖の申し子』に対して光輝の陣営の異世界転移者の暗殺を依頼した。

 雇ったアサシンは女二人組。

 人間の『マリー』とダークエルフの『ヴェスパー』

 シルフィルドに残された金品をかき集めて雇ったそうだ」


 俺はその名前を聞いて衝撃を受けた。


「その情報を持ち帰ったシーフには特別報酬を与えておいてくれ。

 とんでもなく厄介な相手だ。

 予め知っていなければ暗殺を容易に許す事になっただろう」

「知っているのですか? ルーサー殿」


「勇者サリーと戦闘鬼神テンライは二人でそいつら二人を同時に相手に戦い、半殺しにされた。

 辺境の魔導士キャロル、奇跡の聖女セレナ、そして俺がその場に駆け付けなければやられていた」

「何という事だ!

 あの人類最強の勇者サリーと戦闘鬼神テンライよりも強い、そんな物がこの世に存在するのか!?」

「『恐怖の申し子』のアサシンは化け物だと言うからな」


「ドSのバーバリアン『ブラッディ・マリー』とドMのダークエルフ『ヴェスパー・ザ・ヴォイド』は物心ついた頃から『恐怖の申し子』の狂った教育で育てられ、いや、調教された完全に息の合ったペア、連携攻撃の凄まじさは人間の想像を超える。

 二人が別々に行動する事は無い。

 なんせヴェスパーの首枷に取り付けられたチェーンは常にマリーが握っているからな。

 そして二人共が異常な身体能力だけでなく、魔法と近接武器戦闘を組み合わせた魔法剣闘術を使う。

 暗殺と戦いのプロフェッショナル、世界中のアサシンの頂点に居る。

 はっきり言ってまともに戦って勝てる相手じゃない。

 そして二人は得物の悲鳴と絶叫が大好きなモンスターだ」

「勘弁して下さいよ……なんで僕ばっかが……」

「変態野郎ばっかかよ魔王軍……あ、こっちにも居たか」

「詳しい話は後で聞かせてくれ。ルーサー殿。

 こちらも全力で異世界転移者であるミツール殿とサーキ殿は守備させて頂くのでその参考にな。

 そんな手練れに狙われているとなると異世界転移者のお二人は常に多数の熟練兵に囲まれた外の隊に居るのが望ましいだろう。

 後、ルーサー殿が希望した内部攻撃作戦のキーマンとなり得る使い手を一人、傭兵ギルドから雇って来てもらっている。

 ルーサー殿と同じグランドマスターの魔法銃士マジック・ガンナーだ。

 入ってきてくれたまえ!」


 ガチャリとドアが開き、20代前半で高身長、グラマラスな体の女性が現れた。

 ホットパンツに生足に短めの編み上げブーツ、上はビキニアーマーにロングコートを羽織った金髪ロングウェーブの美人。

 腰の両脇にリボルバー式魔法銃、太ももにバンドをしているが、恐らくコートに隠れた位置に小型二連装の単発魔法銃を仕込んでいる。

 さらに右手ではポンプアクション方式の散弾魔法銃スカッター・マジック・ガンのバレルを掴み、左手で遠距離狙撃用の大口径ロングバレル魔法銃を担いでいる。

 若干不貞腐れ気味の顔をして入って来たが、俺の顔を見て呟いた。


「あっ、ルーサー」

「お前かよ……」

「知り合いか?」


 女性はむくれた顔で顔を斜めにして俺を見つめたまま、カツカツと真ん前まで歩み寄る。


「どうし……」

「ルーサーさん!

 この方はルーサーさんのお知り合いですか?」


 いつの間にか俺の横に張り付くように立っていたナオミが俺の腕を掴みながら聞いて来る。

 女性はナオミをじっとりと見てから俺の反対側の腕を取り、俺の肩に自分の頭を寝かせながらナオミをむくれた顔で見つめて言った。


「ルーサー、マイ・ダーリン。私を放って置いていくなんて酷いわ」

「ルーサーさん、この方と付き合っておられたんですか?」

「ミナ、師匠相手にはちゃんと『さん』を付けろって言っただろう。

 あと、ナオミをからかうんじゃない。

 あとその物騒な物の銃口を俺のみぞおちにグリグリ押し付けるな!」


「ルーサーさんのお弟子さんなんですね?」

「うん……そ」


 ミナは大筒と狙撃用魔法銃のベルトを肩にして背中側に移動し、リボルバー式魔法銃二丁をホルスターから出して両手でクルクルと回転させる。

 グランドマスターの魔法銃士マジック・ガンナーになっているだけあって慣れ切った手付きである。


「こいつ昔っから何考えてるんだか良く分からないんだよ」


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