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魔法銃士ルーサー、なんか助かっちゃった

 俺とミツールとサーキは後ろから兵士に押され、じりじりと絞首台、俺は特別待遇で張り付け台へと近づいていた。

 思い出したように貴族内政官の一人が俺に尋ねる。


「そう言えばルーサー君。

 君は今どこに住んでいるのかね?

 一応親族には連絡を入れてやらなければいかんからな。

 最低限の情けとして。

 正確に答えたまえ、手続き上、必要な事だからね」

「グロリア王国のドーラの町の近くにある『たけのこ村』で世話になっている」


「たけのこ村か……」

「あそこか……」


 俺は再び背中を押されて進む。

 最悪自分が死ぬ事が有っても異世界転移者だけは逃がさねばならない。

 俺は最後の反撃のチャンスに備え精神を整える。

 と、その時。


「坊や! 駄目よ、危ないから離れていなさい!」

「離して、離してよおぉぉ!」


 近くで子供が騒ぐ声が聞こえる。


「あぁぁっ!」


 ドタドタドタ!


 太ったおばさんに掴まれた手を振りほどき、6歳くらいの男の子が公開裁判をしている高台に走り寄った。

 そして近くにあった木箱を踏み台にして上に登り、声を張り上げて叫んだ。


「お前らは皆、糞じゃ――っ!

 糞野郎ばっかじゃぁ――っ!」


 男の子を止めていた太ったおばさんはアワアワして動けずにいる。

 壇上で叫び続ける男の子に対して兵士が一人、引きずりおろそうと歩み寄った。


「こら、ボウズ。

 ここはお前が来る場所じゃない。

 今のうちに大人しく下りないと……イテテテッ」


 男の子は自分の腕を掴んだ兵士の手に噛みつき、兵士が手を離した隙に壇上を駆け回って反対側に移動し、叫ぶ。


「僕は今日、一回死にかけたし、大勢の大きなオークに囲まれて何度も蹴られて、指も反対側に曲がったり息が出来なくなって体中すごく痛くなるくらい蹴られたんじゃ――っ!

 お父ちゃんは目の前で殺されたし、僕はもう少しで片手を斧で切り落されそうになったんじゃ――っ!

 恐ろしいオークに取り囲まれて、もう二度と友達にもおばさんにも会えないと諦めてたんじゃ――っ!

 お前みたいなへなちょこなんか今更怖い事あるかぁあっ!」


 兵士は焦りながら高台の上から男の子に近寄ろうとする。

 だがウオラ王が手で兵士を制しながら言った。


「可哀そうに。

 ルーサー一味のずさんな指示のせいでこんな小さな子供が犠牲になってしまっておるではないか。

 坊や、君と君のお父さんを酷い目に合わせた糞野郎は今すぐ報いを受けさせてあげるからね」

「糞野郎はお前じゃ――っ!」

「ぼ、坊や。

 そんな恐れ多い事をいっちゃ駄目です。

 早く戻っていらっしゃい」


 高台のそばでおばさんがアワアワしながら男の子に呼びかけるが男の子は聞く耳を持たない。


「オークはな。

 逃げようとしているお父ちゃんを背中から切りつけて倒した後、僕を捕まえてお父ちゃんの前引きずって行ってな。

 目を反らしたら頭をたたき割るって僕を脅しながらお父ちゃんが止めを刺されて死んで動かなくなる様子をじっくり見せたんじゃ――っ!

 僕が泣きわめいても何しても絶対に許してくれなかったんじゃ――っ!

 あいつ等は僕が泣くのを見て皆で笑っとったんじゃぁ――っ!

 お父ちゃ――んって泣いてもあいつ等皆笑っとったんじゃぁ――っ!

 ひぃぃぃぃいぃい……ひっ……ひっ……」

「なんと惨い事を……」

「坊や、もう分かったから高台から降りなさい」


 兵士が再び男の子の手を、さっきよりは優しく掴もうとしたが振りほどき、男の子は必死で叫ぶ。


「……ひっ……ひっ……ひぐっ……ズズウゥゥ……。

 でも……、でも……」

「坊や、お話は後で聞いてあげるからね」


「あそこにいるお兄ちゃんは僕が片手を斧で切り落されようとしてた時に恐ろしいオークがいっぱいいるところに駆け込んでやっつけてくれたんじゃぁ――っ!

 あのお兄ちゃんだって本当は怖かったはずなのに、勇気を振り絞って僕を助けてくれたんじゃぁああっ!

 自分よりはるかに大きくて筋肉だらけのオークを7匹、全部一人でやっつけてくれたんじゃぁああ――っ!

 なのにお前ら、糞共は自分達は皆を置いて一番に逃げたくせに、安全な場所に来たら偉そうにお兄ちゃんをよってたかって虐めて、殺そうとしとるやないかぁ――っ!

 お前らはオーク以下の糞じゃあああっ!」

「ぼ、坊や、流石にウオラ王様に向かってそういう口の聞き方は……」


「僕はもう一回死んどるんじゃ――っ!

 あのお兄ちゃんに助けて貰ったんじゃぁ――っ!

 あのお兄ちゃんの為なら死刑にされたって元々じゃああっ――っ!

 うわああぁぁぁん」

「そんな、死刑だなんて……そんな覚悟まで……」


 男の子は声を上げてわんわん泣き続け、高台の上の大人たちは押し黙る。

 その高台に老婆が杖をつきながら歩み寄り、下から声を上げる。


「私もあそこのサーキという少女に助けられました。

 倒れたタンスの下敷きになり、周囲には人の気配もなく、魔王軍が押し寄せるのも時間の問題と言う中でわたしも命を失う覚悟を決めていました。

 でもそんな限界状況であの少女は家を見回って私のうめき声を聞き逃さず、助け起こして逃げる人の荷車の荷を無理矢理捨てさせてまで私を載せてくれたのです。

 彼女が居なければ今頃私もここにおりません。

 どうか絞首刑という不当に重すぎる裁き、再考して頂けませんでしょうか?」


「グズッ……」


 男の子の泣き声に交じり、あちこちで大人が鼻をすする音も混じり始める。

 シルフィルドに本来駐屯していたはずの歩兵大隊の兵士達である。

 手を顔に当てる者、歯を食いしばって背を反らし黙って耐えるが頬を涙が伝う者まで出始める。

 周囲を見回しウオラ王は言った。


「見てみろ。

 シルフィルドの兵団の兵士達も、慣れ親しんだ駐屯地を奪われて屋根なしの生活に追い込まれ、泣いておるわ」

「失礼ですがウオラ王!」


 シルフィルド歩兵大隊を率いる将軍が手を上げた。


「シルフィルド歩兵大隊の兵士に、駐屯地を失った事が悲しくて泣いておる者など、只の一人もおりません!

 シルフィルドの町の住民が危機に陥っていた間、あの少年が父親を殺され、命の危機に有ったその瞬間に、本来町を守るべき自分達が、その場に居て戦えなかったことを。

 最前線に立って人々を守ることが出来なかったことを悔やんで泣いておるのであります!

 我々の本来の任務では無く、ウオラ様の金稼ぎの為に遠方へ出ざるを得ず、果ては一番の功労者や光輝の陣営の救世主、異世界転移者を……。

 危険を顧みずに正義を守り切った誇るべき象徴が処刑されるのを傍観する事しか出来ず、何よりも守るべき町の人々の一人である少年に……」

「ウオラ王!

 今ならまだ間違いを正せます。

 お考えを変える気はございませんか?」


 潮目は変わりつつあった。

 ウオラ王は発言した将軍を睨みつける。


「貴様……、将軍に任命をした時、私に忠誠を誓ったでは無いか?

 自分のやろうとしている事、理解しておるのだろうな?」

「私はウオラ王の王冠に対して忠誠を誓った訳ではございません。

 元商人でありながも有力諸侯をまとめ上げ、一つの国を築いた。

 そしてその国を広げ、100万人もの人々をまとめ上げ、多くの人と家族と人生を養い、導いていたウオラ様に忠誠を誓ったのです。

 その人々をないがしろにして、死と不幸へ追いやろうとしているウオラ様ではございません」

「私もいずれウオラ様が当初の心を取り戻して下さる事を信じて今まで耐えてきましたが、それも限界に来ております。

 私自身も、そして私に従う兵士達もです」


 泣き続ける男の子の一番近くに座っていた将軍が、男の子の方を向いて小声でささやく。


「案ずるな少年よ。

 この国の正義はまだ、死んではおらん」


 周囲の様子を黙って観察していた一人の貴族内政官が立ち上がった。

 そして大きな声で俺に聞いた。


「ルーサー君。

 私はシルフィルドが陥落するギリギリ最後まで、最前線で戦っていたよな?」


 あぁ、なんか意外だったから覚えてる。

 この人バリスタの矢運びの手渡しリレーに交じって参加してたわ。


「あぁ、確かにアンタはバリスタの矢を運ぶリレーの……」

「諸君!

 今ルーサー君も認めたが……。

 私、貴族内政官クリーモスは、私は文官であるにも関わらず、オークの大群が押し寄せる最前線で最後まで残って戦い続けた

 ミルトン王国には私のような愛国心溢れる者が沢山いるのだ!

 ここにいる、真っ先に逃亡したウオラ王と違ってな」

「なっ、クリーモス……貴様ぁ」

「確かに……」

「我々をも見捨てて逃げておられましたな。そう言えば」


「ミルトン王国は新しい王国、故に他の国とは違い、王の適性が問われる状況に陥った場合、貴族内政官は訴追によって弾劾を行い、王を解任する権利が保障されている!

 そしてそれがまさしく今である。

 この私、『シルフィルドで最後まで最前線で戦った貴族内政官クリーモス』が今をもってここに訴追する。

 ウオラ王はミルトン王国の王として不適格であーる!」


 人々は一斉にざわめき立つ。

 ウオラ王は焦りながらクリーモスを怒鳴りつける。


「貴様ぁ!

 王を前にしてその言い草!

 無礼ではないかぁ!

 今すぐ発言を取り消せこの恥知らずがぁ!」

「無礼?

 無礼ですと?

 一人の王に対して真実を根拠に目の前から責任を問う無礼な発言と、100万の国民に対して堕落した政治を行い、あまつさえその命まで奪おうとする貴方の無礼な統治。

 どちらの方が恥知らずでしょうかね?」

「ウオラ王、元々我々と共に貴方が決めたルールですぞ?

 ちゃんと憲法にも記載されている」

「あの頃は私も期待していた。あの頃の貴方はまだマシだったが今となっては……」


 場の空気が変わったのを敏感に察し、貴族内政官達は次々に反旗を翻した。


「私も訴追に賛同する」

「私もだ」

「私も賛同する!

 それに私だって結構最後までシルフィルドに残ってたんだからね?」

「私も賛同する。さぁてあと一人だが」

「賛同する。これで決まりだ」

「待て! 無効だ!

 こんなものは無効だぁ!

 こんな一時の感情に流された訴追など無効だぁ――っ!」


「そこの兵士達、ウオラを拘束せよ。

 ただいまを持ってウオラは王としての任を解かれ、全ての強権は剥奪。

 被告となって沙汰を待つ身となる。

 そして貴族内政官と、各国の地区長による選挙をもって、貴族内政官の中から次の王を決定する」

「無効だ! 無効だぁ!」

「これも貴方が建国時に興奮しながら目をキラキラさせて決めた事だろう、ウオラ君」


 俺とミツールとサーキは拘束を解かれ、代わりにウオラ元王と武器を持って壇上に上がろうとしたお供の騎士二人が拘束された。

 ウオラ元王は引きずられながらも俺を憎悪の籠ったまなざしで睨み付け、呟いた。


「ドーラの町……たけのこ村……カエデの住んでいる村か。

 ……覚えておれルーサー」

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