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魔法銃士ルーサー、仲間たちの応援に感謝する

 俺への事情聴取がひと段落し、皆がしばらく黙り込んで一瞬静寂が訪れる。

 だがウオラ王の隣の貴族内政官は、ウオラ王の様子をチラ見して気にしながらミツールとサーキに質問を投げかけた。


「ルーサー君の隣に居る君達、ミツールとサーキ。

 君達は異世界転移者と名乗っているそうだね?」


 俺が即座に答える。


「その通りだ。

 サーキに関しては女神様より直々に啓示があった。

 シルフィルドにその時居た人達全員が目撃しているはずだ」

「私はミツールとサーキに聞いているのだよ。

 ルーサー君は黙っていたまえ。

 今、君の発言は認めていない」


 ミツールとサーキはそれぞれ答えた。


「そうです」

「実際そうなんだから仕方がねぇだろ」

「君達のような下賤な人間があの伝説の異世界転移者を名乗るなど、恐れ多いとは思わないかね?」


「いや、だから本当なんですって」

「てめぇちゃんと人の話を聞けよ」

「そもそも今回、魔王軍がシルフィルドに侵攻してきた理由の一つは、君達、異世界転移者を名乗る者が町に滞在していたからと言うでは無いか!

 今回の問題は君達が招いたのだよ。

 責任を感じないかね?

 嘘つき君」


「それは……」

「何だよ!

 ウチらが居たら迷惑だって言うのかよ!」


 黙って聞いていた将軍達や貴族内政官の一部も慌てて口をはさむ。


「君ぃ、本当に異世界転移者様だったらその発言はマズいだろう」

「異世界転移者は光輝の陣営においても重要な存在、貴方こそそう軽々しい発言をは控えるべきでは……」


 だがウオラ王の隣の貴族内政官は冷酷で強い声で言い放った。


「顔を見れば一目で分かる。

 コイツらは只の屑だ。

 何なら今すぐ確かめる方法がある。

 今からこの二人を絞首刑にしてみようでは無いか。

 もし本当に伝説の異世界転移者であるならば、女神の加護を受けたアバタールであるならば死なないはずだ。

 何かの奇跡が起こって二人共助かるはず」

「いや、さすがにそれは……」

「冷静になりましょうよ……」


 ざわめく中、ウオラ王が机に肘をついて両手を組み、全員を制すようにして言った。


「ミツールとサーキを絞首台に……」


 俺は慌てて止めさせる。


「分かっているのか!? 貴方達は大きな間違いをしようとしている。

 二人は本当に異世界転移者、今まで何百年に一度か地上に降り立ち、常に光輝の陣営を勝利に導き、当時の魔王に対する勝利をもたらしてきた存在だ!

 そんな事をすれば只では済まなくなるぞ!?」


 ウオラ王は慌てふためく俺の顔をじっくりと睨むように観察し、口元に笑みを浮かべた。

 そして絞首台を指さして言葉を続ける。


「二人を絞首台に吊るせ。

 そしてその様子をこのルーサーと言う男にじっくりと見せつけるのだ」


 俺とミツールとサーキは後ろの兵員に強引に回れ右をさせられ、後ろを向く。

 そしてミツールとサーキは背中側から押されながら一歩ずつ絞首台へと移動させられていく。


「嘘だろ、マジかよ。

 ルーサーさん、何とかなるはずですよね?

 僕達異世界転移者ですよ?」

「ふざけんなこの野郎! 後でしばくぞオメェ!」

「……」


 本当は手荒な事はしたくなかったが流石に状況が悪すぎる。

 魔法銃士マジック・ガンナーはメインウェポンが魔法銃とは言え、両手が塞がった状態で戦う専用の格闘術やスキルも会得している。

 事態がこじれるので本当に最後の最後まで使いたくは無かったが、しかし……。


「お待ちください!

 証人を一人連れて来ました!

 どうか刑を執行する前に彼の話を聞いてください!」


 あの声はエリック。

 声のする方を見るとドレイク竜騎兵が着地しており、ドレイクライダーの背に掴まっていたエリックはドレイクの背中から地面へ降り立った。

 エリックに続いてもう一人がドレイクの背中から降りる。

 ペッパーワーキャットの外交官マルフクである。

 エリックはマルフクの手を引いて公開裁判の行われている高台へと走り、マルフクの尻を押し上げて上に載せる。


「マルフクさん、本当にお願いしますよ!

 ミツール殿のとサーキ殿の命が貴方に掛かっているんです」

「任せるミャ。

 大船に乗った気で見ていればいいミャ。

 私はこういう交渉事のプロフェッショナルミャ」


 マルフクはつかつかと歩き、俺の前に出て立ち、ウオラ王達の方を向いて背筋を伸ばす。


「(プロの外交官の技に恐れおののくミャ。

 外交官スキル・ジョロネロファーストストライクミャァァアア!)

 えー、私はミルトン王国の10倍の経済規模を誇り、(嘘)

 5倍の軍事力持ち、(嘘)

 半万年の歴史を誇るワーキャット族の中で最も高貴な伝統を誇る、(嘘)

 ジョロネロ国より全権限を任されて参上した外交官のマルフクミャ。(嘘。名前と職業は本当)」


 いきなり現れた獣人に貴族内政官や将軍、ウオラ王は困惑して言葉を失う。


「私が聞くところ、ミツール殿は生まれた瞬間に歩き始め、次の週には言葉を話していたそうだミャ。(嘘)

 そしてミツール殿がこの世界に降臨した際は夜にも関わらず昼間の様に眩く輝く星が天に現れ、空に二重の虹がかかり、全ての動植物が歌い踊って祝福したミャ。(嘘)

 ミツール殿は我が国に蔓延る魔王軍の力を追い払う為、ある時は一呼吸の間に数十キロを移動して西に東に飛び回り、(嘘)

 100体のオーガ兵に囲まれた時は地面に落ちていた松の葉を拾い、千切ってばら撒くとそれが数百人の武人に変化してオーガ兵を一網打尽にしたミャ。(嘘)

 その文化的功績も極めて大きく、ジョロネロ国に滞在した三日間の間に1500冊の本を書いたミャ。(嘘)

 そして三日間の間、大便も小便もしなかったミャ。(嘘)

 一万騎以上居た魔王軍のドラグウォーカー騎兵の内半数をミツール殿が一人で片付け、(嘘)

 襲い掛かる100人のアサシンも一人で撃退して見せたミャ。(嘘)

 間違いなくミツール殿は異世界転移者ミャ。(本当)」


 場は静まり返った。

 マルフクはキラキラした目をして俺を振り返り、グッと親指を立てる。


「……遠い所からわざわざ来てくれてありがとうマルフク殿」


 1%の真実を99%の嘘でぐっちゃ混ぜにして……1%の真実の信憑性を下げてくれてありがとう。


 貴族内政官の一人が呆れ声で言った。


「そんな事より君、ジョロネロ国に帰ってミルトン王国からの債務10億ゴールドをちゃんと返済するように上に催促してくれたまえ」

「アアァァァアアア!

 お前のような下っ端とでは話にならないミャ。

 そこに居るウオラ王と1対1での対話を希望するミャ!」


 ウオラ王は若干頭から湯気を立てながら、両手を組んで目を伏せたまま言った。


「私が大金をつぎ込んで手を出した造船業、君の国が不当に安い物を売りまくるせいで大失敗したのだが?

 赤字の40%はそれが原因だ」

「それとこれとは話が別ミャ。

 ここはツートラック外交で……」


「君達の顔を見るだけで不快な気持ちがムクムク沸き上がって来るのだよ。

 とっとと帰りたまえ。

 死刑執行官よ!

 ルーサー、ミツール、サーキの三名を絞首台へ連れて行け!」


 やったぜ、俺も二人の仲間に加わった。


 俺も背中を押され、絞首台へと進まされる。

 そんな中、周囲から甲高い多数の黄色い声が上がった。


「ルーサーさんは悪くないわっ!

 解放しなさいよこの卑怯者!」

「不当な裁判よ!

 こんなの無効だわっ!」

「ルーサーさんを解放しなさい!」

「何? あの薄らデブ! 感じ悪いーい!」

「私達はルーサーさんを絶対守り抜くわよっ!

 えい、えい、おおぉ――!」

「おお――!」

「おお――!」


 ナオミとダイヤだった。

 多分シルフィルドに居た友達を30人くらいかき集めたのだろう。

 全員女の子で10代後半から20代前半と言ったところ。

 そして全員が世界一般的な基準で言うところの美人ばっかりだ。

 中には貴族っぽい豪華絢爛な衣装をした娘も居る。

 多分ダイヤとの繋がりか。

 中でも特に美人で、特に高級そうな衣装をした娘が声を大きくする。


「あたし、1年前にあのウオラ王に求婚された事あるのよ?

 見た目も豚なのに、中身も薄汚いのが透けて見えるってかキモクて泣いちゃった。

 パパが四苦八苦して私をダンスパーティーから退場させてくれて助かったわ!」

「私も一緒にダンスパーティーに呼ばれたわよね。

 あいつロリコンよ!」


 ありがとうナオミ。

 ありがとうダイヤ。


 ウオラ王の頭の上に立ち昇る湯気が濃くなって見える。

 目が完全に尖がってきている。

 手と肩もプルプル震えている。

 ウオラ王は声を震わせながら言った。


「そなたは大勢の若く美しい娘達に好かれておるようだなルーサー。

 ああまで声を上げられてはそなたを絞首刑にかける訳にはいかなくなった。

 おいっ、死刑執行官よ!

 ルーサー用に用意した絞首台を取り除け!

 代わりに十字の張り付け台と、釘とムチと焼き印と肉削ぎナイフを準備するのだ!

 ルーサー専用にな!」


 やったぜ、俺だけ特別待遇だ。

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