魔法銃士ルーサー、ミツールやサーキと共に公開裁判の被告となる
俺達はテントの外で石を積んで釜戸を作り、取り囲んで昼食の支度をしていた。
釜戸には薪をくべて火が付けられており、ナオミが大きな鍋をかき回しながら煮込み料理を作っている。
そこにエリックがザルに積んだ白菜と乾燥肉を持って現れた。
「皆さん、配給の食材を貰って来ました」
「おぅ、助かる」
「お疲れ様エリック。
後は私が材料を切って調理するわ。
包丁は……ミツール、その剣ちょっと貸してよ」
ダイヤに呼ばれたミツールは嫌そうに鞘に入った両手剣を背中側に隠す。
「嫌だよ……あのねぇ、刀は武士にとって命の次に大切な物なんだから包丁代わりになんて貸せる訳無いだろ?」
「貴方武士じゃないでしょう?」
「ウチのを貸してやるよ」
サーキが自分の両手剣をダイヤに渡す。
想像してなかった相手から剣を受け取り、ダイヤは少し驚きながら聞き返す。
「本当にいいの? リブの骨付き乾燥肉とかも石のプレートの上で叩き切ろうとしてたんだけど」
「おまっ、僕の剣だったら良かったのかよ」
「いいんだよ。
ウチはもうその剣を使うのは止めようかと思ってな」
「えぇ!?」
サーキは釜戸を囲んで小さな椅子に座っていた剣聖ブラーディの前に行き、正座をして両手をつき、頭を下げた。
「お師匠様、今まで奥深い剣術の極意を教えて頂き、有難うございました。
修行もとても為になり、お師匠様のおかげでかなり技術を上げさせて頂きました。
しかし申し訳ありませんが、自分勝手ながら私は両手剣を使うのは止めようと思います」
「ふぅむ。
何故かね?」
「ウチは元々は異世界の学校で女だてらに番をはっておりました。
喧嘩に明け暮れる中で、刃物を使う相手も多数相手にしてきました。
確かに刃物はとても強い武器、小さな力で相手に大きなダメージ、致命傷を与える合理的な武器です。
しかし相応の覚悟と根性を代償とせず、相手を簡単に血まみれにしてカタワにしたり殺してしまう、そういう武器は自分の性に合ってないと、オーク兵との闘いで思い知りました」
「そうじゃのう……、そなたの持っておる木刀、見せてみぃ」
ブラーディ様はサーキから木刀を受け取り、手に取って赤黒い剣先から柄までじっくりと観察する。
「うむ。
この木刀にしみ込んだ想念、そなたの生き様が良く分かるわい。
残念じゃのぅ。
ぶっちゃけミツールより強くて才能があったから期待したんじゃが」
「勝手な事を言ってすいません」
「……」
「じゃがそなたが本当の本領を発揮するのは刃物としての剣では無く、棍としての木刀。
そしてモンクの使う体術、拳法という事じゃな。
確かに戦闘中のそなたが剣劇の合間に放つ正拳と蹴り、光る物を感じたわい。
そうじゃのぅ……ではそなたに相応しい人物への紹介状を書いてやろう」
ブラーディ様は懐から紙と携帯用の筆を取り出し、スラスラと文字を書いた。
そして折りたたんでサーキに渡す。
「わしの知り合いに武羅輪と言う名のモンクがおる。
元々は大林寺というモンクの総本山の修行僧の一人だったのじゃが、長い修練を経て誰も右に並ぶものがない程に強くなってしまってな。
大僧正から自分の寺を持って門下生を育てるように勧められた程の男だ。
だが奴は一人旅が好きでそれを断り、寺を出て放浪の旅を続け、あちらこちらで武勇伝を残しながら彷徨い続けた。
今現在、わしと同じ程の老人となった今でもあっちへブラブラ、こっちへブラブラと放浪を続けておる。
彼に出会ったらこの紹介状を渡してその技を教えて貰いなさい。
彼の見つけ方は……そうじゃのぅ。
達人的な技を見たり、そういう噂が流れておれば近くにおると言っておこうかの」
「有難うございます。
頂戴します。
で、武羅輪様とはどんな感じの見た目なのでしょうか?」
「そこは言わずとも察する事が出来ねば、まだ教えを受ける域に達しておらんわい。
彼はこの世界で一番の拳法の達人、あの有名なテンライも彼に教えを受けたのじゃからの」
「分かりました。
必ずや自力で武羅輪様を見つけ出してみせます。
ウチはミツールのパーティに居るので今後も顔を合わせる事は多いと思いますが、弟子であった頃と変わりなく接して頂ければ幸いです」
サーキは再び深々と頭を下げた。
確かにサーキの戦いを見ていて、テンライと似たような物を何となく感じてはいた。
「すみませんねぇブラーディ様……」
「君がルーサーか?
こちらを向き給え」
俺がブラーディ様に話しかけようとしたが背後から別の男に呼ばれ、振り向く。
立っていたのは二人の騎士……どこかで見覚えが有るような……。
先に気が付いたのは騎士達の方である。
「きっ、貴様はっ!?」
「こっ、こいつは!?」
「……あっ、カエデちゃんの家に来てたあの……」
間違いない。
確かコイツらは太った男を護衛しながらカエデちゃんの家に来て、金を無心した挙句殺そうとまでしていた極悪二人組。
太っていた方は名前なんだっけ……ウーラ? いやウオラ様とか言ってたような。
ウオラ!?
ヤバイ事に気が付いて冷や汗を流す俺に二人の騎士が怒気を漂わせながら言った。
「お前だな!? 魔法銃を使うというルーサー!
大人しく武器を捨てて我々に付いて来い。
後は異世界転移者を名乗るミツール、そしてサーキ」
「僕ですか?」
「ウチに何か用か?」
「貴様らもだ。武器を捨ててついて来い。
抵抗すれば反逆罪の現行犯で命を失う事になるぞ!」
俺は黙って魔法銃二丁をナオミに渡し、ミツールとサーキも自分達の武器をエリックとフィリップに渡す。
「俺達が一体何をしたって言うんだ?」
「何をしただって?
白々しい事を抜かすな。
貴様が主導し、ミルトン王国の首都シルフィルドが魔王軍の手に渡ったのだ。
そして大勢の人間が財産を失った」
「えぇぇ……」
「ふざけんな! ほっとけば町の人たちが魔王軍に掴まってどんな目に合わされたか!?」
「おいおい、弁解をさせてくれ。
あの状況ではあれしか選択肢は無かったし、最善を尽くして可能な中でベストの結果を残したんだぞ」
「弁解ならばこれから行われる裁判で聞こう。
お前達のせいで被害を被った大勢の人々の集まるこの避難所のど真ん中。
そこに特別に急造した高台の上で行われる公開しょけ……違った。公開裁判の場でな」
「安心しろ、ウオラ様は寛大だ。
王城まで失う大被害を受けたにも関わらず、貴様達が苦しむ期間を最大限少なくする配慮をして頂いているのだ。
絞首台は既に設置済みだ。
嘆き、苦しむのは今日だけだ。
有難く思え!
くっくっく」
ナオミとダイヤ、エリックもあわてて立ち上がる。
「そんなっ! 酷い! ルーサーさんは皆を救ったのよ!?」
「貴方達馬鹿じゃないのっ!? そんな事あたしが許さない!」
「光輝の陣営全部を敵に回す覚悟で言っておられるのですか!?
ルーサーさんは元勇者パーティーのメンバーだし、ミツール殿とサーキ殿は伝説の異世界転移者なんですよ!?」
ナオミ達が今どんなに騒いでも状況は悪化しかしないだろう。
俺は三人を止めた。
「大丈夫、何とかなるさ。
説明すれば納得してもらえるはず、それが道理ってもんだ。
この二人に今手を出したってどうにもならない、ここで大人しく待っていてくれ」
「でも……」
「ルーサーさん……」
「確かにルーサーさんのおっしゃる通り、私達は私達で別な手を考えましょう」
二人の騎士はニヤニヤ笑いながら答える。
「ミルトン王国で一番偉いのはもちろんミルトン王国の国王、ウオラ様だ。
何とかなる?
ふっ。
なればいいな。
だが教えてやろう。
この男は過去、ウオラ様とその親衛隊である我々に、武器を向けたのだ」
二人の騎士が被っていたヘルムを同時に少し持ち上げて頭を見せた。
そこには一文字ハゲが今もくっきりと残っていた。
「はっはっは!
まさかルーサーというのがこの男だったとは!
ただでさえミルトン王国の最有力者達である貴族内政官達の財産に多大な被害を与えているのに、ウオラ様に喧嘩を売って恥をかかせた男だったとは!
万に一つの生き残る可能性も消えたな!」
「こりゃウオラ様も激おこだぞ。
憎悪渦巻く中でのリンチ裁判の後に絞首刑!
確定だ!
はぁ~っはっは!」
俺とミツールとサーキは高笑いする二人の騎士にトボトボと付いていく。
ナオミとダイヤは泣きそうな顔で意気消沈し、エリックはあまりの事態に放心状態。
ただ一人、剣聖ブラーディは落ち着いた様子で、沸かした白湯をすすっていた。




