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魔法銃士ルーサー、クロリィちゃんの護衛をする

 俺はリンシンちゃんの家でおちょうちゃんが復活したのを見届けると、安心しておたゑちゃんたちと共に家の外へ出た。

 リンシンちゃんの家の大きな門を出て気付く。

 向かい側の遠くにある茅葺き屋根の家の戸を叩く男が居る。

 グレイのポンチョを羽織り、布の衣服に皮のブーツ、全体的に汚れなく整えられた小綺麗な服装である。

 俺の隣にいたクロリィちゃんがその男を見て声をかけた。


「ゴルトバさん! ゴルトバさんかい?」


 男は振り返ってクロリィちゃんを見ると笑顔を見せた。


「クロリィお婆ちゃん、そんな所に居たのかい。

 どう? 元気してた?」

「クヒッ、もちろんじゃ。

 ルーサーさんや、あの方は害虫駆除ギルドのゴルトバさんじゃ。

 いつもわしの家の床下のシロアリの駆除をしてくれてるのじゃ」

「シロアリか。

 そんなにいっぱいいるのかい?」


「どうもわしの家が藪に近いせいか、駆除しても駆除しても沸いて来てるそうでな。

 何度も調べては駆除薬を定期的に巻いてくれたり、外から入ってこない様に外の地面にも駆除薬を注入して下さったり、いつも親身になって面倒見てくれてねぇ。

 有難いよ」

「クロリィちゃん、クロリィちゃん自身はシロアリを見たことが……」

「クロリィお婆ちゃんっ! お久しぶり。

 おやっ?

 害鳥駆除ギルドのゴルトバさん?

 貴方もここにいらしたのですか?」


 別の男が手を振りながらクロリィちゃんへと走り寄って来た。


「ジェイさん、良いところに来た。

 ちょうどお金の目途が立ったところじゃよ」

「おぉぉ! 助かるよクロリィお婆ちゃん、これで俺の家族も安泰、うちの零細大工ギルドの30人の職人の家族もこの月を凌げる。

 本当にありがとうお婆ちゃん、全身全霊を込めて家を修理させてもらうからね」


「クヒッ、ジェイさんがいつもいつも独り身のわしを気にかけてくれてるからね。

 優しい職人さん達にもお礼がしたかったのじゃよ。

 ルーサーさん、この人は大工ギルドのジェイさん。

 しょっちゅうわしの家を修理してくれてるんだよ」

「ふぅ――ん。クロリィちゃん、たけのこ村の他の人とはあまり付き合い無いのかい?」


「みんな優しい人達じゃよ。

 でもわしはネクロマンサー。

 時々墓場を掘り起こしたり、死体を弄ったりしているのを見られてのぉ。

 心よくは思われんよな。

 皆わしを見るとき、顔が少し引きつっておるし、なんか心の壁がある感じがするのぉ」

「おたゑちゃん、そうなのかい?」

「ファンファエフフィフェ(考えすぎだよぉ。私はクロリィちゃんとよく世間話するよぉ)」


「おたゑさんだけじゃよ。

 ワシに良くしてくれるのは。

 いや、でもここ3か月くらい、ゴルトバさんやジェイさんが来てくれるようになってのぉ。

 本当に有難いことじゃて」


 ジェイと呼ばれた男はクロリィちゃんの前に立ってかがみ込み、閉じてるような細い目で笑顔を作りながら語り掛ける。


「クロリィお婆ちゃん、お金の工面がついたならさっそくドーラの町に運びましょう。

 お手伝いしますよぉ?」


 ゴルトバもクロリィお婆ちゃんのそばに駆け寄る。


「クロリィお婆ちゃんの為だもの。俺も手伝うよ」

「悪いのぉ皆。わしは幸せじゃ。

 それじゃぁ、牛車を用意しなきゃの。

 わしの家の隠し蔵の宝物をドーラの町の質屋へ出さんといかんからのぅ」


 クロリィちゃんは自分の家へと歩いていく。

 その後をゴルトバとジェイが着いていく。


「おたゑちゃん、悪いな先に帰っててくれ。

 俺もクロリィちゃんを手伝ってあげる事にしたよ。

 どうせ暇だしな」


 ***


「ほぃ、これも積んでっ!」

「ほいさっ!」

「よっこいしょっと(ゴトッ)」


 クロリィちゃんの家の壁の隠し戸が開かれ、そこに並んだ宝物をクロリィちゃんが選ぶ。

 ゴルトバがそれを持って玄関まで移動してジェイに渡し、ジェイはそれを牛車の前で待つ俺に放り投げる。

 俺はそれを次々と積んでいった。


「これで……最後じゃ」


 クロリィちゃんは黒い革袋に詰められた何かを持って隠し蔵から現れた。


「クロリィちゃん、それは何だい?」

「ゴールデン・ボーン。

 わしの先祖からの伝来の家宝でな、大陸を滅ぼした太古の魔王の側近であり懐刀でもあったゴールデン・ボーン・ナイトの遺骨の破片じゃ。

 全部で人間の骨の数同様206欠片ある。

 一つ一つが莫大な魔力を持っておる」


「いいのかぃ?

 そんな大切な物を売っちまっても」

「ジェイさんの大工ギルドの職人とその家族、総勢100人以上が路頭に迷うかどうかの瀬戸際じゃからの。

 蔵の中で埃をかぶっているよりは人の役に立った方が、この宝物もうかばれるじゃろうて」

「有難う! 本当にありがとうクロリィお婆ちゃん、この恩は絶対に忘れないよ」


「まぁ、クロリィちゃんがいいってのなら止めないよ。

 それじゃぁ荷物も集まったし出発しようか。

 ところでこの牛車、荷物一杯積んじゃったから俺とクロリィちゃんしか乗れなさそうだが……」

「大丈夫、俺とゴルトバはそれぞれ馬に乗ってきてるからそれでいくよ」


「そうか、じゃぁ、出発だ」


 ***


 俺とクロリィちゃんは宝物を積んだ牛車に乗り、たけのこ村を出て街道を進む。

 その前をゴルトバとジェイが各々の馬に乗って進んでいた。


「クロリィちゃん、ネクロマンサーってあれだろ?

 ゾンビとかスケルトンとかを動かして操るんだろ?」

「クヒッ、そんなのは初歩の初歩。ネクロマンサーを目指した初心者が一週間以内でやる事じゃよ」


「そうなのか、じゃぁクロリィちゃんならどのくらいやれるんだい?」

「わしは既にネクロマンシーの極意を極め、新たな術を探求する求道者の域に達しておる。

 スケルタルナイト程度ならば5千は操れるじゃろう。

 素材があればな。

 他にもドラゴンゾンビ、タイタンゾンビ、リッチの製造も何度かやったの。

 さらにはボーンマジックというものもあってな……」


「すげぇなぁ。俺は勇者サリーのパーティでいろんなのと戦ったが、そこまでのネクロマンサーは見た事ないぞ。

 なんか宝珠を持った奴がスケルトンを300体くらい操ってたのが一番強かったか……」

「アンデッドのコントロールに宝珠など必要とするのは、せいぜい中級者じゃな」


 ***


 俺達はドーラの町に入り、質屋でほぼ全ての宝物を換金し終えていた。

 換金された金貨は麻袋2袋分にもなっており、クロリィちゃんは最後の宝物、ゴールデン・ボーンの入った袋をカウンターに乗せては抱き寄せて引き戻すのを繰り返す。


「やっ、やっぱり駄目じゃ。これを手放すのは……」

「じゃぁ終わる?」

「クロリィお婆ちゃん、頼む、俺達にはそのあともう少しお金が必要なんだ。

 その金の骨のお金で別荘まで作ってあげるからさ」


 クロリィちゃんは目をきつく閉じ、震える両手でゴールデン・ボーンの入った袋を再びカウンターに押し出す。


「それでは鑑定をさせて頂き……」

「まっ、まってくれ。もうちょっと待ってくれ」

「クロリィちゃん、別に今それを換金する必要は無いよ。

 ジェイさんよ、別にこの分だけ後になっても構わないだろう?」


 それぞれ金貨の詰まった麻袋をいつのまにか背負っていたジェイとゴルトバは黙って顔を見合わせた。

 そして黙って頷きあう。


「クロリィ婆さんよ、最後だから教えてやるよ。

 俺達はドーラの町の住人でもなけりゃ、害虫駆除ギルドのメンバーでも大工でもねぇんだよ。

 婆さんの家の床下、虫なんざ一匹も居なかったぜ。

 週に2回ほど俺が柱に唾はいてしょんべんかけてやってただけなんだよ」

「俺が金に困ってるってのは本当だよ。

 酒と女、豪勢な料理を食う金にな。

 あっ、そうそう、愛用のシミターも新調したかったんだよ。

 今山賊界隈ではやってるんだぜ?

 宝石と真珠貝の殻を散りばめたデコシミター」

「……じょ、冗談はよしなさいな。ゴルトバさんもジェイさんも。

 いつもあんなに良くしてくれたじゃないかぃ」


「あっ? 俺達が婆さんの味方だと思ってたの?」

「はっはっは、傑作だなぁ!」

「おい、お前ら二人、クロリィちゃんを騙してたのかよ?」


 ジェイはクロリィちゃんが抱えていたゴールデン・ボーンの袋も奪い取ると、質屋の外へと飛び出して逃げた。

 ゴルトバも近くの机にあった、籠売りのビーズの安物宝飾品を俺とクロリィちゃんめがけてぶちまけ、後に続く。


「ぐぉっ、てめぇ! クロリィちゃん!

 追うぞっ!」


 ***


 ゴルトバとジェイは並んで馬に乗り、人の溢れる大通りを疾走する。

 俺はクロリィちゃんを横に乗せて牛車で後を追った。


「てめぇらっ! 逃げ切れると思うなよ!」


 俺はガタゴト揺れる牛舎の上でホルスターに手を掛ける。

 するとジェイはゴールデン・ボーンの詰まった袋を取り出し、大声で叫び始めた。


「オラオラオラァ!

 今から黄金をばら撒くぜぇ!

 これは天からの贈り物、拾った人のもんだ!

 黄金の欠片一個10万ゴールドの、ばら撒きダァ――!」


 ジェイはゴールデン・ボーンの欠片を取り出し、馬で走って逃げながら周囲に投げまくる。

 大勢の人々が歓声を上げ、ばら撒かれた欠片を拾いに群がった。


「ちっ、畜生!」


 俺は仕方なく牛車を止める。

 群がった人々に紛れてゴルトバとジェイは消えていった。

 例え泥棒を追う為とは言え、大勢の無関係の人を轢いて進むわけにはいかない。

 欠片を拾った人々が叫ぶ。


「黄金だっ! これ本物の黄金だぁ!」

「まじかよ! もらえるってよ!」

「早い物勝ちだぁぁ!」

「ま、まってくれ! その黄金はっ!」


 人々を止めようとした俺の肩にクロリィちゃんが手を掛け、かすれ切った声で言った。


「……もういいよ、ルーサーさん」

「いや、しかし」


「わしはネクロマンシーという邪法を扱う身でありながら、のほほんと平和な人生を享受してきた。

 世の中には血と涙、死と苦痛が溢れているにもかかわらず、全員がニコニコ笑うお人よしばかりの、幻想の中で生きてきた。

 ……これは無防備に他人を心の底から信じてしまった……わしの罪じゃ……。

 老齢まで本当の現実を知らずに生きてきたわしへの天の仕置き。

 老齢にして初めて本当の人の世界に開眼した、わしへの洗礼じゃぁ……ぐぅぅっ!

 ぐふぅ……。

 ひっ……ひっ……、わしの罪なんじゃぁ……」

「クロリィちゃん、そいつは間違ってるぜ。

 ここに居る、クロリィちゃんの隣に居るのは誰だ?

 光輝の陣営、伝説の英雄の血を引く勇者サリーの……元パーティーメンバー。

 ルーサー様だ。

 俺に任せてここで待ってな」

予測可能!

回避不可能!

次回予告! 貴方を泣かせます!


でも先に泣きたいせっかちな人は「マジックナイト・ストーリー 魔法剣闘士と盗賊フェアリーの放浪英雄譚」の第一章を見ようね?

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