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魔法銃士ルーサー、ノームピックへ逃げきる

 俺達が乗った馬車はミルトン王国のノームピックへ続く街道を走り続けた。

 俺は馬車の最後部の座席に座りながらも常に後ろを注意深く見守る。

 後ろからかすかに聞こえていたドドドドという音が徐々に大きくなり、ドラグウォーカーに騎乗した追っ手達の姿が近づいて来る。

 同時に何体かのドラゴンフライ・ライダーも急速に距離を詰めてきている。

 ちなみにここでのドラゴンフライは4枚羽のエビル化した巨大なトンボであり、耐久力やブレスなどの攻撃力こそドラゴンやドレイクに劣るものの、現時点分かっている中で最速の騎乗可能な飛行生物だ。

 ドラゴンの2倍は素早く機敏であり、エビル化生物を使役不可能な人類が苦戦している要因の一つでもある。


「畜生、思った以上に早く来やがった」


 ―――――― ノームピックへの街道 ―――――――


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 wwwww___騎_____騎____wwwww

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 w羽www_____騎________wwwww

 wwwww_______騎______www暗w

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 www羽w_____フ回ル______wwwww

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 wwwww_____回回回______wwwww

 wwwww_____ナ席ダ______wwwww

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 wwwww______________wwwww


 w:草

 馬:馬車を引く二頭の馬

 席:御者の長椅子

 ナ:こわばった顔で追っ手をチラ見しながら必死で馬を走らせるナオミ。

 ダ:背中の矢筒から矢を抜きながら背後を振り向くダイヤ。

 回:馬車

 エ:緊張した面持ちで盾とモーニングスターを握りしめながら外を見るエリック。

 サ:窓から後ろを覗くサーキ。

 ミ:両手剣を持って外を伺うミツール。

 フ:アンチ・ミサイル・プロテクションを詠唱するフィリップ。

 ル:最後のカートリッジが入ったエイジド・ラブを持って状況を見定めるルーサー。

 羽:真っ赤な目で以上に長い牙を持つドラゴンフライ。

 暗:ドラゴンフライに騎乗し、クロスボウを装備したダークエルフ。

   激しい挙動をするドラゴンフライには片手の手綱で常に掴まる必要がある為、ドラゴンフライライダーは片手で扱えるクロスボウや投げ槍を好む。

 騎:ドラグウォーカーに騎乗したリザードマン族の軽騎兵。

   武装が軽いので真正面からの戦闘力はそれほどではないが、軽装の彼らの主な任務は偵察や追跡である。

   装備しているのはトライデント、三又の長槍である。


 ―――――――――――――――――――――――――


「アンチ・ミサイル・プロテクション!」


 経験の豊富なフィリップさんの判断は早く、即座にダークエルフのクロスボウ対策の魔法を唱えた。

 ミツールが焦りながら俺に尋ねる。


「ルーサーさん!

 こんな奴らが居るなんてレンジャーの報告に無かったですよね!?」

「こいつらは魔王軍の中でも空、地面で最速を誇る兵隊だ。

 見張りのレンジャーが退避した後に現れたんだろう。

 それでもこの馬車に追いつくのは十分だったという事だ」

「逃げきれ……ませんよね?」


 馬はスピードでは上位にある動物だ。

 だが今6人の人間が乗った重たい馬車を引いているのでスピードには限界がある。

 二手に分かれて馬車を挟み込むように追い上げ始めたドラグウォーカー騎兵を見て、俺はエリックに指示した。


「エリック!

 奴らの任務は戦闘というよりも追跡して俺達を捕獲する事。

 ダークエルフやリザードマンは俺達よりも先に馬を狙う。

 フィリップさんは後ろを守っていて手が離せない。

 そこの窓から御者の席に移動して馬とナオミやダイヤに回避の祝福を!

 真ん中がナオミ、左がダイヤ、右がエリックだ!」

「分かりました!」


 エリックは窓から前に這い出て、ナオミと席を代わる。

 そして詠唱を開始した。


「ダイヤ、この長槍に持ち替えてドラグウォーカー騎兵から馬を守れ!

 奴らのトライデントには痺れ薬が塗られている!」

「了解です!」


 俺は馬車内にあった長槍をダイヤに渡した。


「フンッ!」

「やあっ!」


 カチン!


 ドラグウォーカーを横に並べ早速馬の腹を狙って突いてきたリザードマンのトライデントをダイヤが槍で払う。


 バシュッ! バシュッ! バシュッ!


 馬車と並走するダークエルフもクロスボウでの攻撃を開始し、辛うじてフィリップとエリックの魔法で回避している。

 ミツールがキョロキョロ周囲を見回しながら言った。


「ルーサーさん!

 どうするんです!?

 僕は近接戦闘しか出来ないし、あの奥の手は一撃で決めるには力不足です!

 ダイヤもフィリップさんも手が塞がっている今、追っ手を倒せるのはルーサーさんしか居ないですよ!?」

「いちいちうっさいなぁもう……。

 分かってるよ」


 ダイヤの弓をミツールに貸して……いや、無理だ。

 弓は結構スキルが必要な武器、ミツールに持たせてもまともな戦力にならず、矢を無駄に消費するだけだろう。


「何とか窓から剣を振り回すとか……」

「無理ですよ、踏み込めないし力を籠められないですもん。

 何よりそんな近くに寄ってくれませんよ!

 ルーサーさん早くやっちゃって下さいよ!」


魔法弾マジックシェルが後7発しかない。

 そもそも魔王軍の襲撃なんて予想してなかったし、結構防衛戦で使っちゃったからな」

「えぇっ!?

 1、2、3……良かった、足りるじゃ無いですか!」


「追っ手が増えないと思うか?

 特にドラゴンフライに乗ったダークエルフ、目茶苦茶素早いから後続のもあっという間に追いついて来るだろう。

 魔法銃士マジック・ガンナーはそう易々と弾丸の無駄遣いは出来ない。

 色々計算が必要なんだよ」


 言い合っている俺とミツールにフィリップが割り込む。


「後ろから追加でドラゴンフライ・ライダーが5騎迫ってきてますよ!?

 皆さんなんとかしないと!」

「ミツール、あそこのドラゴンフライの顔面に手裏剣をぶち当てろ!

 怯ませるだけでいい。

 少しだけ後退させたい!」

「こうですかっ!?」


 シュルルルルッ、ザクッ


 ミツールが手裏剣を投げ、目玉に食らったドラゴンフライが怯んで少し後ろに下がった。

 そして4匹のドラゴンフライが理想的な曲線になって並ぶ。


「スキル・シルフの迷惑な贈り物シルフス・アノイング・ギフト!」


 黒曜石弾オブシディアン・シェルはカーブを描いて飛び、4体のダークレンジャーの側頭部を貫通した。


 バシュッ! ドガッ、ドガッ、ドガッ、ドガッ

 ドサッ

 ドサドサドサッ!


「うわっ、スゲェ」


 ミツールが驚愕している間、じっと馬車の窓から外を見ていたサーキは突然窓の外に向かって蹴りを入れた。


「オルァア――!」

「うぎゃぁ」


 舐めて隣を走っていたリザードマンがドラグウォーカーから蹴り落されて後ろに転がりながら消える。

 サーキは窓からでてそのドラグウォーカーに飛び乗ると、別のドラグウォーカー騎兵の方へ走りながら寄らせる。

 乗っていたリザードマンは慌ててトライデントを突き出すが木刀で払ってさらに接近。

 木刀で殴りつける。


「オラオラオラオラァ――!」


 ドカッ、バキッ


 止めの蹴りでそのリザードマンも蹴落とされて転がって後ろへ消える。

 サーキはその手綱を掴んで馬車の方へと引っ張り寄せた。


「単コロぶんどったぞ!

 ミツール、てめぇも根性見せろコラァ!」

「グッジョブだサーキ。

 行ってこいミツール」

「なんなのあの人、凄すぎなんですけど」


 ぶつくさ言いながらもミツールは馬車からドラグウォーカーに乗り移る。

 そしてサーキと一緒に並走する他のドラグウォーカー騎兵へと向かって行った。

 追加のドラゴンフライ・ライダー5騎が到着してサーキを背後から狙い始める。

 だがサーキは気が付いていない。


「ちっ、スキル・シルフの迷惑な贈り物シルフス・アノイング・ギフト!」


 バシュッ! ドガッ、ドガッ

 ドサドサッ


 もっと纏めて落としたかったが仕方が無い。

 残り5発。

 後ろからさらに追加で3騎のドラゴンフライ・ライダーが到着する。

 フィリップさんが汗を流しながら小声を出した。


「マズい、マズいです、もうすぐアンチ・ミサイル・プロテクションが切れます。

 一度剥がれたら再詠唱にまた時間が……あぁ、切れる。

 切れるっ」


 シュゥゥ


 プロテクションの魔法が消えた。

 それに気づいたダークエルフ5人が同時にクロスボウを構え、フィリップを狙う。


「スキル・クイックショット!」


 パァ――ンッ!

 ドサドサドサドサドサッ


 5人撃墜、残弾ゼロ。

 だがさらに追加で2騎のドラゴンフライ・ライダーが迫って来る。


 カオォォォ――!

 ドガァッ!


 横からドレイクライダーが3匹現れ、ドラゴンフライの尻尾をすれ違いざまに食いちぎった。

 乗っていたダークエルフはドラゴンフライと一緒に錐揉み回転しながら墜落、後ろに消えていく。

 ドレイクライダーは馬車に並んで飛ぶ。


「大丈夫ですか!?」

「助かったよ、他の連中、逃げてる町の人々の様子はどうだ?」


「安全は確保してます。

 一部オーク兵の死体が街道に散らばっていたのでヒヤっとしましたが、両手剣を持った老人が片付けたそうで、犠牲者は居なかったとの事。

 逃げる人々に危害を加えうる危険な距離に居る魔王軍は片づけたので全員が逃げ切れるでしょう。

 貴方達がラストです」

「恐らくブラーディ様だな。

 ブラーディ様もノームピックに向かわれたか。

 まぁ良かった」


 最後のドラグウォーカー騎兵を片付けたミツールが馬車に寄ってくる。


「ルーサーさん! 見ました!?

 僕の凄い活躍」

「あ、あぁ。

 その、何だ。

 良かったよあの、斜めからの切込みが……」


「そうそう、あの斜めからの切込みが……」

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