魔法銃士ルーサー、より強力な魔王軍第二ウェーブに苦慮する
城門の頑丈な扉が外れて内側に倒れ、その後ろには破城槌が姿を現した。
※破城槌とは、木で出来た屋根付きの小さな小屋の前面から、お寺の鐘を突く木の棒を巨大にしたような丸太が飛び出たような形をした攻城兵器である。
城門に接する位置に到着後、中に入った6~8人のオークが力を合わせて思い切り門にぶつける。
本来屋根は降り注ぐ矢や落とされる岩から中のオークを守るために有るが、今回はそんな防御もほとんど必要なかっただろう。
「ウオオオオォォ!」
「オガァァァ――ッ!」
破城槌は後ろに引いて姿を消し、代わりに左右から雪崩のように大軍が押し寄せた。
今度は手押し車式の巨大な盾を前面に、より防御力の高い鋼の鎧を身に着けた重装オーク達が突入、その後ろからはケンタウロス達もついてきている。
――――――― シルフィルド北門 ――――――――
壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁馬馬__豚壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁
____障障障障__門豚豚門門__障障障障____
____障障障障__門門豚門門__障障障障____
回回回回回回回回__豚豚___馬_回回回回回回回回
回回回炎回回魔回__馬豚豚豚馬__回フ回回回炎回回
回志回回回回回炎工_馬豚豚豚馬__回回回回回志回回
回炎回回回回回回_豚__車車___回志回回回回回回
回回回回回回弓回__豚_盾盾_豚工回弓回回回回回回
回回回回回回回回__豚豚__豚豚_炎炎回回回回回回
回回回回回回志回__車車__車車_炎炎志回回回回回
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__回回回回回回_________炎回回回回回__
__回回回回回回_________回回回回回回__
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__回回回回回回_________回回回回回回__
__回回回回弓回_________回弓回回回回__
__回回回回回回__塁塁塁塁塁__回回回回回回__
長貴_ナ___塁_塁弩弩弩弩弩塁_衛___エ弓__
長長___衛_塁男_兵レ兵ダ兵__衛_衛_____
_男_貴男_男__サ__剣__ミ__衛______
__回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回__
__回回回回回回回回回回ル回回回回回回回回回回__
壁:城壁
門:破壊されて内側に倒れた門。もう閉じる事は不可能。
回:二階建ての建物。門からの道に面した窓や扉は厳重に板が打ち付けられたり内側にバリケードを築き上げて補強されており、入ることは出来ない。
障:岩やレンガなどを積まれたバリケード。少なくとも戦闘中に取り去って通過する事は不可能。
盾:手押し車に取り付けられた巨大な盾。頑丈な為、バリスタの矢が2、3本突き刺さっても突進を止めない。
車:手押し車。オークが二人掛かりで押して進んでいる。
盾ごとバリスタの矢に貫かれて押し手が死んでも、後続のオークが押して再び動き出す。
豚:重装オーク。前回と違い弓矢で簡単には致命傷を与えられない。フルプレートでは無いので高スキルの弓の使い手であれば鎧の隙間を狙って攻撃するのは容易だが、弓衛兵はそれほど鍛えられてはいない。
馬:ケンタウロス。遠隔攻撃出来る敵の存在は屋根の上の弓衛兵達にとっても脅威である。
工:オーク工兵。オイルボトルを多数携帯し、着火して建物に投げまくっている。
魔、フ:マナがかつかつの状態で、必死で瞑想して回復しながら魔法攻撃するフィリップと冒険者魔法使い。
弓:必死で矢を放つ弓衛兵。既に魔王軍の勢いは彼らが撃退できるキャパを遥かに超えている。
炎:オーク工兵が建物に投げ上げるオイルボトルだけでなく、城壁の外からもケンタウロス達が火矢を放ってくるので所々炎上し始めている。
志:必死で消火したり、籠に積んできたマキビシをばら撒く町の有志の男達。
塁:積み上げられた土塁。
弩:バリスタ。増設して5台になっている。
レ、兵、ダ:バリスタを操作して撃ちまくるレンジャー、元兵のおっさん、ダイヤ。
男:バリスタの所へ矢をリレーで運ぶ男達。一部貴族内政官も手伝っている。
衛:超びびってる槍衛兵。恐らく重装オークに対抗できるのは3人掛かりで1体が限度だろう。
ナ:町のお偉いさん達に説明をするナオミ。
貴、長:ナオミの説明を受けるお偉いさんと貴族内政官。
ル:こちらの数少ない兵力に危害を加えうるケンタウロスやオーク工兵を狙って狙撃を続けるルーサー。
剣、ミ、サ:再び後ろで待機する剣聖ブラーディとミツールとサーキ。
エ:負傷した弓衛兵を治癒するエリック。
_________________________
「撃てぇぇ――!」
「早く! マキビシをばら撒けぇ!」
「ファイヤーボール!」
町の有志は鍛冶屋と細工屋に急造させたマキビシを通路にばら撒き、重装オークは前回死んだ仲間の死体を踏み越えながら時々マキビシを踏んでうめき声を上げる。
「あっちだ! 燃え始めてるぞ!」
「早く消せぇ――!」
「切りがねぇよ、城壁の向こうからビュンビュン火矢が飛んで来る」
町の有志が水入りバケツを持って走り回って消火しているが、敵のケンタウロスやオーク工兵は負けじと放火を試み続ける。
ドガァッ!
「ゴッフッ」
バリスタの矢が盾を貫き、後ろで手押し車を押すオーク兵も貫いて止める。
「命中! 盾を一個止めたわっ!」
ギギ……
だがしばらくすると再び盾は巨大な矢がぶっ刺さったままジリジリ進み始める。
「駄目だ! 次から次へとやって来る後ろの奴が押してる!」
これが知性のある統制された軍隊との闘い。
所詮動物の域を出ない魔獣の群れとは違う禍々しさ、恐ろしさがある。
ボワッ……ボォォォォ
弓衛兵が屋根に構えている建物の炎の勢いが増し、大きな火柱を上げた。
バケツを持って駆けつけた有志の男はしばらく炎に対峙した後、必死で矢を放つ弓衛兵に叫ぶ。
「あんた!
もうこの建物は無理だ!
炎の勢いが強すぎて消せねぇ!
下がるんだぁ!」
俺から見て右の建物が炎上し、弓衛兵が後ろに下がる。
このままでは延焼して残りの奴が逃げ遅れる可能性がある。
俺は声を張り上げて人々に指示した。
「右側の建物の屋根で防衛をしている人! フィリップさんも第二防衛線まで下がるんだ!
もうそこは持たない!
ナオミ!
人々を下げさせろ!
T字路の防衛戦力はそこに後退して、魔王軍の濁流を右側へ流す!
バリスタはひとつづつT字路左側へ後退しろ!
衛兵はその護衛を!」
「分かりました!」
「ルーサーさん!
しかし右側の第二防衛線はまだ完成していません!
突破されてまだ逃げ切っていない町の人々が危険に晒されます!」
「何とかするんだ!」
「おいっ! オーク兵達が右の第二防衛線に来るぞぉ!
何とかしろぉぉ――!」
俺が必死で指示しながら人々と連携を取っている中、ミツールは迫りくるオークの大群を見てブルっていた。
見上げて俺に尋ねる。
「ルーサーさん……これ……、本当に勝てるんですかねぇ?
いや、勝つのは無理だから町の人が逃げる時間稼ぎと言うのは分かってますけど、僕達自身無事に撤退出来ますかねぇ?」
「さぁな。
戦場に絶対の安心なんて無い。
余裕で撃退出来る一方的な戦場に押し寄せて攻めてくる馬鹿な魔王軍は居ないからな」
ミツールはブラーディにも聞いた。
「ブラーディ様、あんな数の魔王軍、後ろにもまだまだ埋め尽くすほど居るんですよ。
僕達城門の上から見たんですから。
いくら何でも無理ですよねぇ?」
「だとしたら何だというのかね?」
「分かってます。
多分ルーサーさんもブラーディ様もどう言うかは僕は十分に分かってます。
でもこのままだと死んじゃいますよ?
世の中どうしようもない事だってあるんです。
だからその……、怒らないで聞いてもらいたいんです。
僕はお世話になったブラーディ様にあえて言うんですから」
「?」
「もう僕達は十分に頑張りました。
町の人も全員とは言わないまでも結構な数逃げられたはずです。
ベストは尽くしたんです。
後はその……逃げちゃいましょうよ。
もう無理ですよこんなの」
横で何気なく聞いていたサーキがミツールの前に歩み寄り、胸倉を掴み上げる。
「はぁ――!?
テメェ何言ってんだコラ。
タマ付いてんのかよ!?」
「いっ、いやっ、現実の話をしてるんですよ!」
剣聖ブラーディはナオミに詰め寄る人々、必死で町を守ろうとする人々。
俺、そして最後にミツールとサーキを眺めた。
そして憐れみが少し混じった声でミツールに言った。
「ミツールよ、そなたが只の一般人であれば、それもまた真実。
わしはそなたが一人逃げるのを黙って見逃すじゃろう。
じゃがそなたは異世界転移者、この世界の英雄であろう?
英雄にとっての真実とは、一般人の真実とはまた違う。
多くのあらゆる戦いを経験してきたわしからのアドバイスじゃ。
今そなたにとっての活路は」
ブラーディは左側、まだ魔王軍の侵攻を受けていない通路を指さした。
ナオミが貴族内政官や自治会長達に説明を行っている方向である。
「安全で傷を受けること無く逃亡出来るあちらの道にあらず」
ブラーディは右側、魔王軍の激しい侵攻が予想される右側の第二防衛線の先を指さした。
「あちらにある。
己を救わず、人々を救え。
己を守らず、正義を守るのだ。
それこそが真の活路。
殺意、混乱、悪意渦巻く戦いの混沌の中で、唯一英雄が、英雄自身を救う道。
間違えてはならぬ」