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魔法銃士ルーサー、魔王軍への抵抗作戦に集中させて貰えない

 城門が閉じられ一時的にではあるが城壁の内側に平穏が戻った。

 城門からT字路までの道路には無数のオークの死体が並んでいる。

 そのどれもが体に矢を受けたり、剣で切られたり、数人纏めてバリスタの矢で貫かれていた。

 俺は声を張り上げて人々に指示をする。


「弓衛兵はオークの死体からまだ使える矢を回収するんだ!

 ミツール、サーキ、エリック、フィリップさん!

 もう一度城門の上へ行って後続の魔王軍を挑発しつつ、可能な限り時間を稼いでくれ!

 衛兵はオークの死体から武器を回収して第二防衛線の小型投石器カタパルトの弾の足しにするんだ!

 第二防衛線の構築も頼むぞ!

 ダイヤ、そして有志の方々!

 鍛冶屋で別のバリスタの調整が終わってる頃だろうから運んで土嚢の所に増設してくれ!

 バリスタの矢も出来るだけかき集めるんだ!

 急げ!」


 人々があちこちで駆け回る中、5、6人の小太りの中年男が近寄って来た。

 全員カラフルな刺繍入りのモコモコの服を着て、高そうな貴金属を身にまとっている。

 彼らはミルトン王国の貴族内政官である。

 ミルトン王国は少し特殊な国で、建国時は金持ちの貴族が寄り集まり、国王ウオラを擁立する見返りに内政の長を任された。

 全員家柄は良く、貴族故に教養も高いが実務は何をやっているのか知る人は少い名誉職と言われ、その配下の雇われ内政官が国家運営をほとんど行っている。

 俺は人々をシルフィルドから逃がす作戦を立てていた時も、あえて彼らを呼び内容を聞かせていたのだ。

 一人が心配そうな顔で俺に尋ねる。


「ルーサー君、状況はどうかね?

 ひょっとしてもう魔王軍は壊滅させてしまわれたかな?」

「最初に言った通り壊滅なんて無理だ。

 こっちは国を守る軍隊すらいない状況で、1万を超える魔王軍を迎え討っているんだ。

 このオーク兵共だって多数押し寄せている魔王軍の1部隊に過ぎない。

 それも一番身軽な最弱のな」


「やはりシルフィルドを本当に捨てなければならないのか?

 本当に?」


 他の貴族内政官も俺を囲む。


「町の中央噴水とか私の家が結構大金を寄付したんだぞ。

 彫像だって一流の名工を呼んでだな……」

「私は離れの演劇場に投資したんだ」

「私もそこは一枚かんでるんだぞ」

「あんた達も作戦は聞いてたし、仕方のない選択だと了承しただろう?

 反対者は居なかった。

 今更そんな事を聞く暇が有ったら、ご自慢の邸宅の財産かき集めて脱出を急げ。

 魔王軍に殺されちまうぞ!」


「執事が取り仕切って今やっている」

「私も家政婦達総動員でやらせている」


 正直言って構っていられない。

 逃げる時間とチャンスを与えられているだけ有難いと思って貰いたい所だ。

 それに迎撃態勢を整えるにも熟練者の指導が必要だ。

 俺は防衛線を固める有志達の所へと走り始めた。

 だがすぐに別の人たちに取り囲まれる。


「ルーサーさん!

 あんたが今取り仕切っているんだって!?

 私はシルフィルドの北西地区の自治会長だ!

 今の状況を、今の状況を説明してくれ!」

「私は南西地区の自治会長だ!

 魔王軍はどこまで来てるんだ?

 どれほどの間安全なんだ?」

「私はシルフィルド商工会の会長だ。

 ルーサー殿、説明を!」


 糞面倒くさい奴らが集まりやがった。

 俺は周囲を見回すと、幸いにも近くに衛兵隊長が居た。

 彼もまた作戦を机の真ん前でじっくり聞いていたはずだ。

 確か名前は……エンリコ。


「エンリコさん! 彼らに説明をしてあげてくれ!

 俺は今手が離せる状況じゃ無いんだ」

「どうなんですか!? エンリコさん?」

「状況説明をお願いします!」


 俺はその場から歩いて離れ、障壁のレンガを積んでいる男達の方へ歩き始めた。

 衛兵隊長のエンリコは頭をかきながら答え始める。


「えぇっと、まず第一目標が魔王軍を北門に出来る限り引き付けるという事でですね……。

 完全に守り切ってしまうと人々が脱出している南側の門にまで魔王軍が回り込んでしまう恐れがあるんですよ。

 だから適度に敵に隙を見せてちょっとずつ招き入れて撃退をですね……」

「魔王軍は大量にいるのだろう?

 持て余してる他の奴らが南門まで来ない保証は?」

「どれくらい持つんだ?

 タイムリミットは?

 私の地区の人々が今知りたいのはそれなんだよ!」


「えぇっと……それはその……、ルーサーさん!」


 ちっ


「お願いしますよルーサーさん、彼らに説明を……」

「あんた作戦はじっくり聞いてただろうが……」


「すいません」

「だから今本当に余裕無いんだよ」


 気が付くと俺の周囲に集まる人は増え、数十人に増えていた。

 全員が好き勝手に質問したり、怒ったり、泣いたりしている。


「そもそも、こういう町の人に対して責任を負うのは内政官だろう?

 そうだ、貴族内政官の方々、シルフィルドの長としての責任を持って彼らに対応を……」


「「「「(貴族内政官・政治スキル・存在感ハイディング!)」」」」


 貴族内政官達は近くの人の中に紛れて顔を反らしたり、ささっと積んである資材の影に移動し、全員揃って存在感を消した。


「あ、あれっ?

 確か後ろに皆纏まっていたはずなのに。

 そんな馬鹿な!

 文官如きが俺に気配を感じさせずに姿を消すなんて……まじかよ!」

「ルーサーさん!

 ちゃんと皆に説明をして下さいよ!」

「皆、命が掛かっているんですよ!?」


「だからだな!

 そもそも魔王軍は戦略的重要地でもないシルフィルドに大軍を送り込んできた目的は異世界転移者が居る上に、お前らの王様が軍隊を他所に金稼ぎに行かせちまってて町ががら空きだったからなんだよ。

 少数で大軍を相手にするには地の利が必要だ。

 だから異世界転移者を囮にしつつ、制御可能な数ずつ分断して招き入れる」

「そう言えば今日女神様からの啓示が有ったな!」

「おぉぉ確かにあった。確か異世界転移者のサーキとか」

「何だそれ、俺は知らないぞ!」

「あんたが帰って来るちょっと前の話なんだよ」

「ルーサーさん! 異世界転移者について説明をして頂こう!

 我々は何も知らされてないんだぞ!」


「今はそれどころでは無いんだって!

 見ろ!

 あの城門のすぐ外にわんさと魔王軍が居るんだぞ!

 もういつ門が破られてもおかしくない!」


「異世界転移者が目的なら、彼らが出て行けばいいのでは?」

「素っ裸のシルフィルドを魔王軍がそっとしておいてくれると思うか?

 あんたらも子供じゃ無いんだ。

 どうなるかは分かっているだろう?

 そりゃその気になれば馬車を走らせて俺と異世界転移者が一目散にこの町を逃げる事は可能だし、100%逃げ延びる事が可能だ。

 それをしないのはアンタ達の事を考えての事なんだよ!」


 俺が苛立ちながら説明をしていると、反対側からどこかどんくさそうな青年が歩いて近寄って来る。

 そして俺に話しかけた。


「ルーサーさん! 向こうの防衛バリケードの作り方で良いアイデアを思いついたんですけど!」

「あぁん!? 早く言え」


「細長い三階建ての古びた塔があるから、道に面した方の柱を切り倒して魔王軍の方に倒壊させるんですよ」

「ほぅ? 出来そうなのか?」


「出来るかなぁ? 分かんないからルーサーさんこっち来て見て判断して下さいよ!」

「出来るかどうかくらい自分と周囲の人で判断して、出来ると分かってから提案して来い!

 俺はそっちに行って検証している暇が無いんだよ!」

「ルーサー殿、ルーサー殿」


 気が付くと俺の隣に歩み寄っていた見知らぬ青年が肩を叩いていた。


「何だ? 誰だお前は」

「すいません、急いでこっちへ来てください」


「あぁん!?」

「急いで下さい! 早く!」


 何か緊急事態でも発生したか?

 俺は手招きする青年の後に続き、建物の曲がり角を曲がった。

 待ち構えていたのは貴族内政官の一人である。


「ルーサー君、私の御殿の蔵は北の城壁に接する位置にあるんだが、どれくらいの時間持つだろうか?」


 俺はそいつの質問に答えず、曲がり角から後ろに戻ってさっきまで取り囲んでいた人々の方に向いて叫んだ。


「この貴族内政官様があんた達の疑問に答えてくれるぞ!」

「貴族内政官が!?」

「行ってみよう」

「どうなっているんですか!? 状況説明をお願いします!」

「(貴族内政官・政治スキル・存在感ハイディング!)」


 さっきまで曲がり角を曲がった裏路地に居たはずの貴族内政官は再び姿を消した。


「私がお答えします!」


 再び俺の前に詰め寄ろうとした人々の前に立ちはだかったのはナオミである。


「私はルーサーさんの作戦を全部覚えています!

 一人一人お答えするので皆さん落ち着いてください」


 俺は城門の方へ歩き始め、振り返ってナオミに言った。


「すまんなナオミ。恩に着る」

「任せて下さい。ここは私が引き受けます!

 ルーサーさんはルーサーさんにしか出来ない事に集中して下さい」


「有難う。頼んだぞ」


 俺は人々に説明をするナオミを後にして、T字路の方へと戻った。

 そして今の状況を把握しようと門の方を眺める。


 ドガァァン!


「ルーサーさん! 大変です! 城門が破られました!」

「ファァ――――ック!」


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