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魔法銃士ルーサー、久しぶりに本気の戦いを見せる

 ミツールとサーキは剣聖ブラーディに見守られながらも一歩ずつ、なだれ込むオーク歩兵の群れの中を遡って進んでいた。

 ミツールが必死で左前側のオーク歩兵に切りかかっている間、右側のオーク歩兵がミツールにナタを振り下ろす。


 ガィン、シュバッ!


 危ないと思った瞬間、滑り込むように現れたブラーディがそのオークのナタに剣を滑らせてミツールに当たらないように弾き、そのままオークがナタを持つ手の指を4本切り落とす。


「ウグァァアアッ!」

「隙があるぞミツールよ!

 体を止めて戦えば多数の敵に切ってくれと身を差し出すも同様じゃ!

 攻撃相手に向かって進み、常に攻撃の行動にて他の敵の攻撃を回避せよ!」

「はぁっ……はぁっ、わ、分かりました!」


 オークの歩兵達の目標は異世界転移者であるミツールとサーキ。

 それが自分達の方に切り込んで進み、自分の横を抜けて後ろへ進んでいく。

 前に出てしまったオーク達は慌てて体を反転する。

 集団の突撃の勢いは停滞し始め、混乱が広がり始める。

 それを見てエリックがダイヤに言った。


「ダイヤさん!

 私達もミツール殿とサーキ殿を手助けしなければ危ないです!

 先頭のオーク達は私達に背を向けて後ろに気を取られている!

 こちらからも飛び込んでプレッシャーを与えましょう!」

「あいつ等本当にミツール達の事しか見てないわね。

 馬鹿にされてる気分だわ」

「我々も行こう。

 俺だってこれでも昔はオークキラーと呼ばれてたんだ」


 元兵士のおっさん、4、5人がエリックとダイヤの周囲に武器を持って集まる。

 この状況、あまり良いとは言えない。

 後ろには2番目、3番目の魔王軍、それももっと武装を整えた重歩兵や騎兵が控えているはずだ。

 時間が経つほどに急激に状況は悪化する。

 城門内部を早急に一旦クリアし、立て直しを図る必要がある。

 俺は建物の屋根の上からエリックとダイヤに呼びかけた。


「時間が無い!

 二人共これを一つずつ持って門までの中間地点まで急いで行ってくれ!

 道中のオークは無視してもいいから最速で頼む。

 俺が来たら二人並んでこういう感じで上に掲げ上げてくれ」


 俺は魔法弾マジック・シェルのカートリッジを二人に一つずつ投げて渡した。


「急げ!」

「分かりました!」

「了解です!」


 エリックとダイヤは突進し、まるでお祭り騒ぎ状態のオークの集団をかき分けるように進んでいく。


 ***


 ミツールとサーキは剣聖ブラーディに助けられながら、門のすぐ前にまで到達した。

 そこには両手に波打ったハンドアクスを装備し、他のオーク歩兵に比べてはるかに上等な鋼のライトアーマーを装備した大柄なオークが立っていた。

 大将のドゥモルガである。

 お互いに顔を2メートル程の至近距離で視認し、ドゥモルガの口は笑みで歪み、汚れた牙がのぞく。


「オーク兵共よ!

 良くやった!

 この異世界転移者は俺が直々に狩る!

 貴様らは安心して町の中へと突撃せよ!」


 ドゥモルガは響き渡る大声で叫び、両手のハンドアクスをクルリと回転させると、左右に広げて少し前に出した戦闘の構えを取った。


「……進めぇぃ!」

「ウオオォオォ!」

「ウォ――!」


 後ろを気にしていたオーク歩兵達は一斉に前に向き直り、雪崩の様な突進を再び始めた。

 ミツールやサーキのすぐ傍に居たオーク兵もしばらく眺めた後、前を向いて突進を始める。

 オークの大将が自ら異世界転移者と戦い、首を狩る名誉を得ると宣言した。

 それを邪魔して武名を汚す事など許されないのである。


「……ちょっと前までオオネズミ狩ってたんですけど……。

 いきなりレベル上がり過ぎじゃ……」

「タイマンか? おぅ? タイマンかぁ?」


 シュバッ!


 歩兵オークを一体切り捨て終わったブラーディはドゥモルガの前に出て、ミツールやサーキを眺めながらドゥモルガに言った。


「お前は斧を二つ持っておる。

 ミツールとサーキは各剣一本のみ。

 という事は2対1で釣り合うという事で良いかの?」

「何を言うかと思えば。

 アホらしい。

 構わんぞ。

 むしろ望む所だ」


「というわけだ。

 ミツール、サーキ。

 二人でこいつをやってしまえ」

「この不平等感! 大好物だ!」

「豚野郎! てめぇ自分で言ったんだから後で撤回すんじゃねぇぞ!」


 ミツールとサーキ、オーク大将ドゥモルガのにらみ合いが始まり、ブラーディはその周囲でサクサクとオーク歩兵を減らし続ける。

 両手に手斧を持ったドゥモルガと対面するミツールとサーキ。

 その状況は少し前にブラーディに訓練を受けていた状況と酷似していた。

 極限の緊張の中で、ミツールとサーキはブラーディから木の棒で受けた剣筋を思い出し、何度も何度も頭の中で再現する。

 以前ならば焦るだけで何も頭に浮かばなかったであろうこの状況。

 二人にはドゥモルガの取り得る剣筋が幾つも幾つも頭の中に浮かんでいた。


 ***


 ブラーディによって数を減らされ、致命的な負傷をしたオークが多いとは言え、それでも圧倒的な数のオークがルーサーが屋根に立つ建物の前まで押し寄せていた。

 T字路の左右にはまだ逃げ惑う町の人が見えて居る。

 そして槍を持った実戦経験皆無な衛兵は震えあがり、元兵士のおっさん達も嫌な汗を流す。

 正直言って1対1でもこのオーク兵に勝てる者は少ない。

 その上オークは圧倒的多数、前線の決壊を覚悟しT字路の突き当りまでオーク兵の群れの大波が押し寄せた時、周囲の人々は終わりを覚悟し、ある者は固く目を閉じ、誰もが祈った。


 (神様、どうか我々をお救い下さい)


 チャキッ!

 チャキッ!


「Let’s Rock!」


 俺は横回転を交えながら屋上から前へとジャンプした。

 そして回転しながら魔法銃を持った両手を左右斜め下へと広げ、体内のマナを爆発的に高める。


「スキル・硫黄の天使・降臨サルファー・エンジェル・アドベント!」


 バリバリバリバリ!

 ドガガガガガッ!


 けたたましい落雷の様な音が鳴り響き、T字路周辺に殺到して二手に分かれようとしていたオーク共が次々と脳天を撃ち抜かれて倒れていく。

 さらにそこから周囲にまで電撃が走り、激しい電撃をいくつも食らって範囲内のオークもまとめて倒れていく。

 この技には電撃弾ライトニング・シェルを使用する。

 火属性、雷属性は汎用的故に属性弾も極めて高価。

 土や風の3倍はする。

 普段は持ち歩かないが今回たまたま持ってきていた。

 ナオミの奴がハイオーク・ブルートくらいの暴漢が10匹来ても撃退出来る人とか、クエスト依頼で脅してたからな。

 いや、信じては無かった。

 信じて無かったがまぁ念の為だった。

 それがたまたま今回功を奏したという事だ。


 ドサドサドサドサッ!

 シュタッ!


 オークの死体の絨毯が出来たところに俺は着地する。

 だがこれで終わりではない。

 門の方を向けば、まだ大量のオーク共が押し寄せてきている。


 ガチャッ、ドサッ。

 ガチャッ、ドサッ。


 カートリッジを地面に捨てて、


 カチャン、カチャン。


 今度は風属性弾ウィンド・シェルの詰まったカートリッジを二丁の魔法銃にセットする。

 ここまで激しい戦いを行うのは久しぶり、勇者サリーのパーティーに居た時以来だろう。

 呼吸を整え、脚にマナを蓄積させ、オークの群れに向かって走る。

 そしてジャンプ。


究極アルティメットスキル・バレットハリケーン!」


 空中で反転しながら両手を左右に広げ、逆さまで回転しながら進む。

 そして上下反転した世界で、自分より少し頭の上に見える無数のオークの脳天を撃ちまくる。


 バリバリバリバリィ!

 ビュオォォォォ――!


 凄まじい連射速度で周囲に打ち出されたウィンドシェルは、普段の小さなカマイタチではなく、嵐のような強風に変わり、それが渦巻いて突風が吹き荒れる。

 この技では自分のマナを属性弾本来の魔力に上乗せしている為、一発で4、5匹のオークの頭部が切り裂かれる。


 ドサドサドサドサッ!


 強風を受けた水田の稲の様にオーク兵が倒れて肉の絨毯が円状に広がりながら門の方へと進む。

 そしてその隙間から、二人並んで必死の形相でこっちを見てカートリッジを掲げ上げたエリックとダイヤが見えた。


 ガチャッ、ドサッ。

 ガチャッ、ドサッ。


 俺は反転して地面に一旦着地と同時にカートリッジを捨てる。

 そして勢いを殺さずに再びジャンプ。

 エリックとダイヤが掲げたカートリッジに直接エイジド・ラブとデス・オーメンの二丁の魔法銃を合わせ、そのままリロード。

 二回目のバレットハリケーン。


 バリバリバリバリィ!

 ビュオォォォォ――!

 ドサドサドサドサッ!


 ダイヤとエリック、二人を守る元兵士のおっさんを残して、オーク達は再び倒れていく。


 シュタッ!


 二回目に地面に着地したのは城門のすぐ前である。

 目の前ではミツールとサーキが焦りの表情を隠し切れないドゥモルガに前後から剣を振り下ろす光景が見えた。


 ザシュッ!

 ズバッ!


「グアアアアァァァ!

 そ、そんな馬鹿なぁぁ!」


 ズシーン


 ドゥモルガは倒れて絶命する。

 ミツールは興奮した表情で俺に言った。


「ルーサーさん!

 僕の超凄い戦い見ました!

 物凄い激闘だったんですよ!」

「えっと……あぁ。

 見た見た。

 あの……あれだ。

 側面からのあの一撃良かったな」


「そうなんですよあの側面からの……」

「それより一旦城門を閉じるぞ。

 手伝え!

 ブラーディ様もご協力をお願いします」


 俺とミツールとサーキ、そして剣聖ブラーディは素早く門の前のオークを一掃し、城門の左右内側で待ち構えていた衛兵が急いで滑車のレバーを動かして城門を閉じる。


「せぇのっ!」


 ガタン


 今度はしっかりかんぬきを掛けた。

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