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魔法銃士ルーサー、魔王軍第一ウェーブを誘い込む

 シルフィルドの北門前、一番早く到着したオーク大隊の大将はドゥモルガ、両手に波打ったハンドアクスを装備し、鋼のライトアーマーを装備した武闘派である。

 何年にもわたる光輝の陣営との闘いで生き残り、己の戦闘力のみで1000体のオークを率いる戦士長に成り上がった。

 勇猛だが純粋な戦い以外の戦術は不得意な為、オークの中で最も軽装で悪く言えば捨て駒にもなる歩兵大隊を任されている。

 上昇志向が強く、兵団が駐屯せずにガラガラの町の異世界転移者を倒すと聞いて配下のオーク達に無茶な進軍を強要し、望み通りオークの中では一番乗りで到着したのである。


「ドゥモルガ様、異世界転移者は城壁の奥に姿を消したそうです!

 オーク歩兵達はいつも通り城門にまで進軍させていますが、そう容易くは破れないでしょう。

 残念ながら、後続の大隊の攻城兵器を待つ事になりそうであります!」

「これは千載一遇のチャンス、普通は軍団単位で囲われているはずの異世界転移者を狩れる機会などそうは無いのだ!

 他の連中に手柄を横取りされてたまるか!

 正面が駄目なら回り込んで隙を探すのだ!」


 ドゥモルガが指令を出そうとすると、別のオーク兵が駆け寄って息を荒げながら報告をした。


「ドゥモルガ様!

 ハァッ、ハァッ……。

 開いてます!」

「開いてる?」


「城門を歩兵達が押すと手応えが……かんぬきが掛けられている手応えが無いんです!

 我々の急襲に人間どもは対応しきれなかったのでしょう!

 あの城門は開いております!

 もうすぐ手下たちが押して開き切る頃です!」

「全オーク兵! 城門前に集結せよ!

 門が開き次第なだれ込めぃ!

 俺もすぐに向かう!」


 ***


 巨大な内開きの城門、一つの扉に付き5体のオークが張り付き、地面に踏ん張って押していた。


 ギギギギ……、ギギギギ……


 人間ならば滑車やてこの原理を利用しなければ開け閉め出来ない重い扉だが、頑強な体躯のオークは10体で力を合わせ強引にこじ開けていく。


 ギギギギ……ガタッ、ガタッ


 ついに王都シルフィルドへの門が開かれた。

 少し後ろから様子を伺っていたドゥモルガはハンドアクスを持った手を振り上げて叫ぶ。


「なだれ込めぃ! 異世界転移者を見つけた者はすぐに俺に報告しろ! 行けえぇい!」

「うおおおぉぉ――!」

「突っこめぇぇ!」


 斧やナタを装備したオーク兵達が門の中へと突進する。


 シュゴンッ! ドガアァァ!

 シュゴンッ! ドガァァァ!


 突進して中に入ったオーク数人が吹き飛ばされながら外へと戻った。

 3、4人のオークの胴体を極太の槍のような巨大な矢が貫いている。

 バリスタと呼ばれる設置式の巨大クロスボウ型攻城・防衛兵器である。

 戦いになれたドゥモルガは地面に連なって倒れるオーク兵を見ながら叫んだ。


「この程度は予想出来た事だ!

 盾兵を前にして突撃を続けよ!

 異世界転移者を何としても殺すのだぁああ!」

「行け行け行けぇぇ!」

「ウゴアァァ――!」

「ウガアァァ!」


 ――――――― シルフィルド北門 ――――――――


 壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁豚豚__豚壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁

 ____障障障障_門_豚豚豚_門_障障障障____

 ____障障障障_門__豚豚_門_障障障障____

 回回回回回回回回__豚豚_____回回回回回回回回

 回回回回回回魔回___豚豚豚___回フ回回回回回回

 回回回回回回回回___豚_豚___回回回回回回回回

 回回回回回回回回_豚__豚____回回回回回回回回

 回回回回回回弓回__豚_盾__豚_回弓回回回回回回

 回回回回回回回回__豚豚__豚__回回回回回回回回

 回回回回回回回回__盾豚__豚__回回回回回回回回

 ___障障障障障___盾__盾__障障障障障___

 __回回回回回回_________回回回回回回__

 _荷回回回回回回_________回回回回回回__

 _父回回回回弓回_________回弓回回回回_荷

 __回回回回回回_________回回回回回回子子

 娘_回回回回弓回_________回弓回回回回_母

 __回回回回回回__塁塁塁塁塁__回回回回回回__

 ______兵衛_塁_弩_弩_塁エ衛兵__汚__父

 _____衛_衛兵__レ_ダ__兵衛_衛_____

 子_____衛__サ__剣__ミ__衛___ナ婆_

 _母回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回_荷

 __回回回回回回回回回回ル回回回回回回回回回回_婆


 壁:城壁

 門:開かれた門。

 回:二階建ての建物。門からの道に面した窓や扉は厳重に板が打ち付けられたり内側にバリケードを築き上げて補強されており、入ることは出来ない。

 障:岩やレンガなどを積まれたバリケード。少なくとも戦闘中に取り去って通過する事は不可能。

 豚:斧やナタを振り回しながら突撃する身長2メートル近いオーク歩兵。

 盾:巨体のオーク兵が体丸ごと隠れる事が可能な巨大なラージウッドシールドを両手に持ったオーク盾歩兵。

 塁:しゃがめば人が隠れる事が可能な高さまで積み上げられた土塁。

 弩:バリスタ。

 レ、ダ:バリスタを操作して次々と突撃するオークにぶち込んでいくレンジャーの男とダイヤ。

     ダイヤはレイピアや槍、そして弓など突き刺す系武器はオールマイティに使える。

 エ:緊張した面持ちで立つエリック。

 フ、魔:建物の屋根の上から攻撃魔法を放つフィリップと冒険者の魔法使い。

 弓:建物の屋根の上から矢を放つ弓衛兵。

 衛、兵:緊張で武器を持つ手に力の籠る元兵士のおっさん達と、槍で生き物を突くなど初めてでガクプルな衛兵達。

 汚:あまりの緊張で衛兵がゲロを吐いた跡。

 剣:鍛冶屋に用意して貰った両手剣を背負ってにこやかにオーク達を眺める剣聖ブラーディ。

 サ、ミ:緊張した面持ちでオーク達を眺めるサーキとミツール。

 父、母、子、娘、婆、荷:大慌てで荷物を纏めて脱出を図る町の人々。まだ全体の50%くらいは残っている。

 ナ:転んだ婆さんを助け起こしているナオミ。

 ル:建物の屋根の上から様子を見守るルーサー。


 _________________________


「オーク共が入って来たぞぉ――!」

「撃て! 撃てぇぇ!」


 二階建ての建物の屋根の上からは弓衛兵が一斉に矢を放ち始める。


「ライトニング!」

「エアカッター!」


 同じく屋根の上に居るフィリップと、たまたまシルフィルドに居た冒険者の魔法使いもオーク歩兵達に魔法を放つ。


 シュゴンッ! ドガアァァ!

 シュゴンッ! ドガアァァ!


「バリスタならウッドシールドくらい容易く貫通する!

 隣の姉ちゃん、もっと撃ちまくれぃ!」

「んしょっ(ガチャコン)、やってるわよ!

 でもこんな大きなクロスボウは初めてなの!」


 シュゴンッ! ドガアァァ!


「ナイスシュート! 今のは5匹貫通したぞ。

 上手いな姉ちゃん」


 今の所、開幕は一時間とはいえ入念な準備をしたこちらが一方的に攻撃している。

 だが相手は1000体のオーク歩兵。

 数の暴力でじりじりとミツールやサーキの方へと迫りつつある。

 俺は左右の奥でガクプルしている衛兵に大声を出して指示する。


「そろそろこの北門西二番道路、東二番道路周辺は危険だ!

 まだ残っている町の人が居れば家財は諦めさせて退去させるんだ!

 そして男手を集めてここが突破された場合に備えた第二のバリケードを築け!」

「分かりました!」

「了解です! 行ってきます!」


 左右の衛兵何人かが走り去り、町の人を追い立て始める。

 防衛線が突破される……それを想定して備えない奴は素人だ。

 間違いで支払う代償は大きいからな。

 相手は圧倒的多数でこちらは圧倒的少数、損失が許されるのは建物だけ。

 第一防衛線が突破されれば第二の防衛線に全員が後退出来るように備えている。


 シュゴンッ! ドガアァァ!


 ダイヤが俺を振り返って言った。


「ルーサーさん! もうすぐバリスタの矢が尽きます!」

「思ったよりオーク共の突撃の勢いが強いな。

 まだ第二防衛線は完成していない。

 何か手立てが必要だ。

 取りあえずエリック、消耗したダイヤを回復してやってくれ」

「分かりました!」


 そのやり取りを聞いてか、剣聖ブラーディはミツールとサーキを見てにこやかに言った。


「ミツール、サーキ。

 今目の前に迫りくるオークの大群、そなた達にはどのように見える?」

「……いや、ヤバすぎですよ。

 どんなって……筋肉の巨人の土石流?

 剣聖ブラーディ様やルーサーさんがすぐ傍で平然としてなきゃ僕は完璧チビってます!」

「あれに突っこむなら仲間に最後の別れを言うくらい覚悟がいるぜ」


「ふぉっふぉっふぉ。

 正直で宜しい。

 だがそなた達は未熟故に、物事の真実の姿が見えておらんのじゃ」

「真実の姿?」

「どういう事ですか? お師匠にはどう見えるんだ?」


「風にそよぐ葦の草原……と言ったところかのう。

 丁度良い、奴らはどうもそなた達を狙っているようだし、実戦形式の修行を始めるかのう。

 見たところ二つのバリスタの矢が尽きるのはもう少しじゃ。

 それが尽きた瞬間に、三人そろってオークの流れに逆らい、門の前まで進むぞぃ?」

「正気ですかブラーディ様! あんな所に突っこんだら殺されちゃいますよ!」

「……やってやろうじゃねぇか」


 下から何やら不穏な話し合いが聞こえてくるが……剣聖ブラーディを信じ、俺は黙って見届ける。


 シュゴンッ! ドガアァァ!


「畜生! バリスタの矢が尽きた!」


 シュゴンッ! ドガアァァ!


「私も尽きました!」


 ダイヤの叫びを聞き、剣聖ブラーディは剣を抜いて両手で構えた。

 そして老人とは思えぬスピードで前に出る。


くぞ、ミツール、サーキ!

 この修行では決して後ろに下がってはならぬ!

 止まる事も許さぬ!

 常に一歩、一歩と前に出よ!

 道を切り進むのだ!

 後ろへ流れるオークは放置で構わぬ!

 前へ出よ!」

「うわぁぁぁ! もうヤケだぁぁ!」

「おらああぁぁ!」


 剣聖ブラーディに続いてミツールとサーキも向かい来るオークの大群の方へと突撃していく。

 そして真っ先にその先頭に到達したブラーディはまるで清流を泳ぐ機敏な魚のように左右ジグザグにオーク歩兵とオーク歩兵の間をすり抜けながら進む。


 シュバッ!


「ゴボッ! カバッ」


 シュバッ! シュバッ!


「ブヒィィ!」

「フギィィィ!」


 シュバッ! シュバッ! シュバッ! シュバッ! ブシャー!


「グビィッ!」

「グオッ! グオッ!」


 ブラーディはオークとオークの間をすり抜けながら撫でるように剣を振るう。

 オークに当たっているのは刃先だけ。

 だがその斬撃は喉元、頸動脈、太ももや脇の下の動脈、手足の腱、そして瞼の上など的確に致命のポイントを切り刻み、遥か巨体で鋼の様な盛り上がった筋肉のオーク達が尽く無力化されていく。

 俺が感心したのは瞼の上、たった深さ数ミリ、長さ数センチを切っただけで垂れ落ちる血でオークが目を塞がれ、戦力が激減している事。

 与えた力など幼子程度の力であろうに、あの巨体のオークが立ち往生までし始めているのだ。


「ちくしょー食らえぇぇ!」

「オラオラオラオラァ!」


 ザシュッ! ドガッ バキッ!


 ミツールとサーキは言われた通りにオークの集団の中に突っこみ、そしておぼつかないながらも少しずつ前に進んでいく。

 直前のブラーディの指導の影響か、何とかしのげている。

 ……まぁヤバそうなオークは殆ど剣聖ブラーディが無力化している事も大きいが。


「前へ……前へ……。

 良いか我が弟子よ!

 ブラーディ流の剣は攻撃の剣じゃ。

 その型の神髄は切り進む戦いの嵐のさ中に有る!

 体得せよ、我が剣の型を!」

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