魔法銃士ルーサー、朝起きたらおちょうちゃんが冷たくなってて焦る
チュンチュンチュン
「はっ!」
俺が目を開けると既に周囲は明るくなっていた。
目の前には小川が流れて、せせらぎの音が聞こえる。
そして俺は何故か全裸で体操座りしていた。
「なんだ? 何が起きた?
えぇっと、昨日ヘネリー4世コンニャックとかいう高級酒を何杯も飲んで騒いで……それから先を覚えてない!
それにここは一体……うぉっ!」
左右を見回すと、お婆さん連中が小川に沿って一列に並んで、全裸で正座していた。
おていちゃんも、おたゑちゃんも、カエデちゃんも、まだみんな寝ているようだ。
器用に座ったまま、いや、2、3人は何故かバックドロップを食らった後のようなあられもない恰好で寝息を立てている。
「昨夜俺達は一体何してたんだ……婆さん連中まるで地蔵みたいに座ってるし……、あっ!」
一人だけゴロンと地面に倒れて動いてないお婆さんを発見した。
俺は心配になり、立ち上がってそのお婆さんに近寄る。
「おちょうちゃん? おっ、おちょうちゃん!?」
俺は草の上に全裸で横になって倒れているおちょうちゃんの体を揺する。
激しく揺さぶったが、おちょうちゃんの体は完全に冷え切っており、頭はゴロンゴロンと揺れるのみ。
「だっ、誰か! 皆起きるんだ! 誰か! おちょうちゃんが息をしていない!」
「フアア(ふわぁ……)」
「んん……もう朝……ひぇえっ!」
「あんれまぁ! おいらだちなんで全裸になってるんだ?」
「助けてくれ! 誰か! おちょうちゃんが!」
「おちょうさん? おちょうさん!?」
「このおばばが見てしんぜよう。どきなされ」
全裸のリンシンちゃんが歩み寄り、おちょうちゃんの手首を握って親指をしばらく押し付ける。
さら瞼を指で開いて瞳孔を観察する。
「これはこれは……お亡くなりになっておりますな」
「おちょうちゃぁぁ――んっ!
グズッ。
御免よおちょうちゃん、俺が調子に乗って羽目を外しまくったばっかりに。
そうだっ、セレナなら!
奇跡の聖女セレナならば蘇生の呪文を使うことが出来る!
セレナの所に連れて行かないと!」
「むこ殿」
「むこ、俺?」
リンシンちゃんが悲しそうな顔で言った。
「聖女は確かに奇跡の秘術で死んだ人間を蘇生出来る。
死後3時間以内ほどであればじゃがな。
だがもうおちょうさんは死後硬直が全身に広がっておるからプリーストの秘術での蘇生は不可能じゃ」
「そんな、おちょうちゃぁ――ん!」
俺は動かないおちょうちゃんを抱きしめて突っ伏して泣いた。
だが、俺の肩をリンシンちゃんが叩く。
「聖女におちょうさんの蘇生は出来ぬが、このおばばが出来ないとは言っておらん」
「でっ、出来るのか!? 頼む!」
リンシンちゃんは周囲を見回し、少し離れた木陰で全裸で眠っていたリンリーを見つけると叫んだ。
「リンリー! リンリーやぃ!」
「ふむん……、まだもうちょっと寝かせて……」
「リンリー!」
「んん?」
全裸のリンリーは目をこすりながら上半身を起こして周囲を見回した。
そして俺と目が合うと慌てて両手で胸を隠す。
「きゃぁぁぁ! ルーサーさん見ないでぇ――!」
「リンシンちゃん、本当になんとかなるのか?」
「おちょうさんをおばばのお屋敷に運んで貰おうかの。
リンリー!
四方神招魂法の法術の準備をするのじゃ」
「わ、分かったわお婆ちゃん、ルーサーさん見ないでぇ――!」
「よし、俺がおちょうちゃんを運ぶぞ」
俺はおちょうちゃんの死体を背負い、たけのこ村へと全裸の婆さん達と一緒に引き返した。
***
リンシンちゃんの家には大きな作業場のような10メートル四方ほどの部屋があった。
部屋には朱色の太い柱が等間隔に並んで屋根の重量を支えているようである。
その内四角形に位置する4本の柱に通行止めのようにロープが3段になって張り巡らされ、ロープには隙間なく黄色い呪符が張り付けられている。
既に青白く変色したおちょうちゃんの死体はその中央に配置された台の上に寝かされていた。
ピンクの道服を羽織ったリンシンちゃんは銭剣、5円玉のような穴の開いた銅貨に赤い紐を通して繋げ、剣の形にしたものを持ち、剣舞のようなものを舞う。
ババッ! バッ! ババッ!
「マーボ、ハルサメ、ホアンチュウ。
天よ我の願いを聞き給え。
ここに眠るおちょうさんの魂を黄泉の国より、呼び戻したまぇぇ――。
リンリー、鳥の血ともち米、子供の尿を!」
「はいっ、お婆ちゃん」
リンシンちゃんはリンリーから受け取ったもち米に祈りをささげると、おちょうちゃんの体に振りかけた。
そして鳥の血の入ったお椀に筆を浸すと、サラサラサラっと黄色い札に何か文字を書く。
「おちょうさんや、元の体へ戻って来るのじゃぁ!」
リンシンちゃんがさっきのお札を空中に投げて銭剣で貫き、ジャンプしてトリプルアクセルを決めてからビシッとおちょうちゃんの方へ突きを繰り出す。
ビシッ、ボワァ
お札がおちょうちゃんの体にとんで炎が上がる。
「おちょうさんの魂は今、元の体へとたどり着いた。
これから元の肉体に入り込むのに四神の力を借りる。
東方の守護神、青龍!」
リンシンちゃんがバク宙してから、おちょうさんの西側に置いた机の上のお椀に向けて銭剣で突きを放つ。
それに合わせてリンリーがお線香を両手で持ったまま連続バク転してそのお椀まで移動し、線香を指した。
「南方の守護神、朱雀!」
「西方の守護神、白虎!」
「北方の守護神、玄武!」
次々とおちょうちゃんの四方に置かれたお椀に線香が立つ。
「リンリー、子供の尿!」
「お婆ちゃん、子供なんてこの村には居ないよ」
「……え?」
「どうしたリンシンちゃん、何か問題でも起こったか?」
ガタガタガタガタッ
ガタガタガタガタッ
おちょうちゃんの硬直した体が激しく痙攣し始めた。
「子供の尿が無い?
こりゃ不味い」
「リンシンちゃん!?」
ビシッ
おちょうさんの右手がまっすぐ伸びた状態で天に伸びる。
「きょ、狂暴……」
「狂暴!?」
ビシッ
おちょうちゃんの左手がまっすぐ天に伸びる。
気が付くとその指先の爪は異様に伸び始めていた。
「このままではおちょうさんは狂暴キョンシーになってしまう」
目の下にクマのあるお婆ちゃんが歩み出た。
彼女はネクロマンサーお婆ちゃんのクロリィちゃんである。
「くひっ。結局アンデッドで蘇らせるならわしがやった方が良かったんではないかぃ?」
「忘れておったわぃ、この村に子供なんておらんかったんじゃ。こりゃうっかり」
「ンガァァ――!」
おちょうちゃんは両手をまっすぐ伸ばしたまま重力に逆らって起き上がり、怨念で歪んだ顔で牙をむく。
「ンガッ!」
ビタッ
素早くリンシンちゃんがおちょうちゃんの額に護符を貼り、おちょうちゃんは動きを止めた。
「とっ、とりあえず生き返ったな。
うん。
めでたしめでたしじゃ」
「マジックナイト・ストーリー 魔法剣闘士と盗賊フェアリーの放浪英雄譚」
長編として最初に手を付けた作品で、ちょっと掴みが甘いかなと最近は思い始めましたが、それでも作者自身でも読み返せばそのストーリーに涙が浮かぶことしばしばです。
主人公のスヴェンはなろうで良くある超パワーとか、完全無敵とか、超絶スキルで戦うのではなく、『プレイヤースキル』で戦う事を基本としています。
MMOでは運営者があの手この手で、有り得ない強いモンスター、有り得ない難しすぎるシステム、隠し要素を作りますが、あの手この手で誰かが抜け道を探し出して攻略してしまいます。
時には殺せない設定のはずのゲームマスターまで殺してしまうことも。
そういう『プレイヤースキル』の体現者として、どんな苦難も潜り抜ける最強の主人公を目指しています。
あとキョンシーは中国古来の伝説妖怪で著作権とかはないそうで。
あとプーリストじゃなくてプリーストなのに最近気が付きました。
その内直さないと。