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魔法銃士ルーサー、伝説的な剣聖と出会う

 あれから下水道のオオネズミの僅かな生き残りは合流したミツール達が一掃した。

 その報告としてミツール達が大量の尻尾と共に、ラッグの死体を見せると下水道管理人は傍でしゃがみ込み、ラッグの死体を黙って隅々まで凝視する。


「……ラッグだ。

 間違いない」


 下水道管理人は肩の荷が下りたような安心感で表情を明るくしながらミツールを見上げて言った。


「有難う……ラッグを止めてくれて。

 本当にありがとう。

 ミツールさん、そしてパーティーメンバーの方々。

 貴方達は私がこれ以上重い罪を背負い込むのを止めてくれた。

 これ以上、人を死に追い込む事も、それを隠し続ける事も、口止めをする事もせずに済む」


 横で見ていた俺が横槍を入れる。


「ラッグ程の強敵ならば、本当はもっと高い報酬で高ランクの冒険者か、大勢の傭兵や軍隊を動員すべきだった。

 直接的に悪意を持って人を殺したり、好んで騒動を起こしたわけでは無くてもあんたの責任も大きいぞ」

「それが出来るなら、そうしていたんだ。

 私個人が出せる報酬では騙し騙しでもやるしかなかった。

 複数の冒険者ギルドから冒険者を派遣してもらって少しずつでも数を減らし続けなければ……。

 そうしなければラッグの率いるオオネズミの群れは確実に数を増やし、いずれは町の人々に手を出していた。

 仕方が無かったんです」


 ダイヤが言った。


「普通は町全体の問題ならば国が何とかするもんでしょう?」

「役人達に何度も厳しい状況にあることは訴えたんです。

 でもネズミごときお前が勝手に何とかしろの一点張り。

 腰抜け扱いでラッグの事なんて信じて貰えません。

 私自身ももし自分が当事者でなければ信じなかったでしょう。

 武装した人間を次々葬る天才ネズミなんて……あり得ないですからね」


 ミツールは言った。


「貴方のせいで僕達全員死にかけました。

 なので約束の報酬、それに加えて特別報酬を頂く事で手を打ちましょう。

 一人頭追加で30万ゴールド頂きましょうか」

「そ、そんな無茶な、確かに貴方達には感謝しているがそれとこれとは話が違う。

 約束は約束、決められた額以上にお支払いは出来ませんよ」

「ミツール、いくら何でもそりゃボッタクリ過ぎじゃ……」


「いいんですか!?

 僕達は下水道の中で20体以上の冒険者の白骨死体を見ました。

 ルーサーさんから聞いた経緯も含めてギルドに報告しますよ?

 ギルド登録時の説明でも聞いてるんですよ。

 な?

 エリック」

「え、えぇ。

 危険性を隠してのクエスト依頼をすれば依頼者はブラックリストに入れられて以後依頼を拒否されます。

 それによって冒険者に死者が出た場合、聞き取りや調査の内容によっては冒険者の過失による自責ではなく依頼者の詐欺と判断します。

 その場合はギルドの所属国内では刑罰を受けますし、外国の場合は国を通じて罰則を与えるように要求する事になります。

 私達の所属する冒険者ギルドは信頼が厚く、コネクションも広いので、大抵の場合は外国も面倒臭がって従ってくれるそうです。

 それでも受け入れられない場合、最悪の場合は程度に応じてシーフやアサシンが派遣される事も有ります。

 シーフなんて存在自体が犯罪じゃないかと思われがちですが、強制的に罰金を回収する役割を持った正規のシーフが居るそうで、どんな厳重な金庫や秘密の隠し場所に隠してもきっちり取り上げてくるそうです」

「そんな無茶な! あんた達は鬼畜か!?

 私にだって家族が居るんだ!

 日々の生活で精いっぱいで子供はボロ着を着ているし、妻は私の稼ぎじゃ足りないから働いているんだぞ!?」


 ミツールは腕組みして下水道管理人を見下ろし、エリックの話に頷きながら言った。


「どっちが得かよく考えましょうよ。

 貴方はようやくラッグの悩み事から解放されたんですよ?

 別な悩み事や不安を抱えたいですか?

 それに僕は知ってるんですよ。

 貴方のような公務員って実は給料いいですよね?

 このくらいの金、どーんと吐き出して世間に還元すべきです」

「ぐっ(何故それを知っている)。

 ……はぁ……。

 分かりました。

 負けましたよ」


「やっぱり嘘でしたね、生活が苦しいなんて」

「ふぅっ……ヨット買うのもうちょっと先になっちゃうなぁ」


 ***


 ミツールは下水道管理人からギルド報酬とは別に大量のゴールドを受け取る事に成功し、パーティーメンバーに分配した。

 ダイヤとサーキは今日からの参加だったので半分だが、それでも報酬外で一人15万ゴールドはオオネズミ駆除としては破格である。

 ダイヤは早速レイピアや鎧を鍛冶屋に修理に出し、フィリップも油まみれの服を新調した。

 パーティーメンバーはドリンクや軽食を買い込んで、広場に集まって初クエスト成功の打ち上げの酒盛り開催である。

 俺はナオミと一緒に離れた長椅子に座ってそれを遠巻きに見守る。


「しかしミツール、お前交渉は上手いもんだな。

 俺じゃあんな事出来なかっただろう」


 俺は根がお人好しだからあの下水道管理人の演技を真に受けてしまっていただろう。

 罪悪感を感じてあんなことは出来なかった。

 踏み込む事は出来なかったし、見破る事も出来なかった。

 俺より何もかも下っ端と見ていたミツールの、俺には出来ないスキルというところか。


「しかし下水道管理人の給料がいいってどこで知ったんだ?」

「僕が元居た世界ではそうだったんですよ。

 実はそこらのサラリーマンなんかよりがっぽり貰ってるんですよあの手の人達は」


「良く分からんがそういうもんなのか……」

「まったくルーサーさんも甘いですね」


「ちっ」


 サーキが酒瓶を持って泥酔し、がぶ飲みしながらダイヤの肩に手を回している。


「オメーもよ、腕はいいんだ。

 アラシはちょっと見直してたんラ。

 後は根性!

 根性が足りネーんら」

「ちょっ、酒くさっ」


「オォゥ?」

「はいはい分かったから……きゃっ。揉まないで」


「なんらよデッカイもんもってんろ……」


 俺はミツールが傍に置いている金属製の鳥籠、その中に入っているラッグの子ネズミを見ながらミツールに尋ねた。


「ところでそいつをどうするつもりなんだ?」


 ミツールは買い込んでいたピーナッツを摘まみ、鳥籠に差し入れながら言った。


「どこか人里離れた場所で逃がしますよ。

 ラッグは大勢の人を殺した悪者ですが、子に罪は無いですしね。

 イダッ」


 子ネズミはミツールの指に噛みついた。


「そうか、まぁお前の好きにするといいさ」


 トッ、トッ、トッ、トッ


 ミツール達が浮かれている中、杖をついた老人が広場に現れた。

 ゆっくりと中央を通り過ぎ、少し離れたベンチに腰掛ける。


「よっこらしょっと」


 誰もその老人の事など気に掛けないが、俺は見て直観した。

 その歩き方、動作、佇まい。

 只者では無い。

 武を極めた者の動き。

 だがそういう人間に俺は過去に何度も会って来た。

 その中に居たような……。

 どこかで……見たような……。


「そこの爺さん!

 聞いて下さいよ!

 今日は僕達は初クエスト成功したんですよ!」

「フォッフォッフォ。

 それはおめでたい事ですな」


「お祝いのおすそ分け。

 ほらっ饅頭あげるよ」


 ミツールは買い込んでいた饅頭を一つ取り出し、爺さんに投げる。


 パシッ


 爺さんはそれを受け取り、モグモグ食べ始める。


「こいつは美味じゃのう。ありがたや。ありがたや」


 ダダダダダッ!


 広場の向こうから今度は別の人間が走ってくる。

 がっしりとした体格で腰に長剣を備えた男である。


 ドガッ ジャラッ


 男はエリックが地面に置いていた果実やキャンディー入りのボウルを蹴飛ばし、中身が地面に散らばった。


「こっ、これは失礼した!

 申し訳ない。

 すぐに拾い戻しますのでお赦しを」


 男は足を止めてしゃがみ込み、地面に散らばった物を一つずつ拾ってはボウルに戻す。

 エリックは遠慮がちに言った。


「いえ、そんな気にされなくても大丈夫ですよ。

 自分で拾いますので。

 元々こんな場所で宴会している私達が悪いんですし」

「いやいやいや、止めてくれるな。

 私はこういう事はきっちりやらないと気が済まない性格なのだ!

 ほらっ、あそこの御座ござの下にも一つキャンディーが転がっていったのを見ましたぞ。

 ほーら有った。

 一つでも残ると気持ちが悪いですからな」


「有難う。

 でも本当にいいですよ?」

「私は礼儀だけは忘れぬよう、しっかりしておきたいのです」


 少し離れた場所でサーキが泥酔し、酒瓶を持ったまま伸びをしてそのまま後ろに倒れ込もうとしていた。

 背中側ではダイヤが座っており、後頭部に迫りくる酒瓶に気が付いていない。

 このままではぶつかる。


「危ないですぞっ! そこのお嬢さん!」


 男は素早く走り寄って酒瓶を受け止めた。

 ミツールはその様子を見ながらエリックに聞いた。


「誰あれ?」

「知りませんが、しっかりした人というか、感じのいい人ですよね」


 男はグデグデのサーキをしばらく介抱した後、離れて腰かける老人の前へと走り寄った。

 そして両手をついて地面に額を擦り付けながら土下座する。


「偉大なる剣聖、プラーディ様!

 貴方様を捜し歩いて半年、ようやくお目にかかる事が出来ました。

 私の名はメンティロスと申します!

 幼き頃より剣技を極めんと修行を重ね、武者修行に励む中、貴方様の伝説的な剣技や武勇伝のお噂を聞き、どうしても教えを受けたいと心より願い続けておりました。

 どうかこの私めを、弟子にして下さい!

 よろしくお願いします!」


 思い出した。

 剣聖ブラーディ、両手剣の扱いを極め、その技は既に人の域を超え、物質ならざる刃を放ち、岩石を両断し、魔法じみた剣技スキルを持ち、タイタン6匹に囲まれても殲滅に10秒掛からなかったという伝説の剣豪。

 現代を生きる神話……俺がもう少し早く生まれていればその神話を直に見る事も出来ただろう。

 なんにせよ剣術を目指す者で知らぬものは居ない。

 ミツールはしばらくポカーンと口を開けてみていたが、そそっと俺に歩み寄って小声で聞いた。


「ルーサーさん、あの人って凄い人なんですか?」

「剣聖ブラーディ様、剣を目指す者にとって神様のような人物だ。

 俺は最初はうっかり忘れていたが超有名人だ。

 今の時代のこの世界では彼に勝る者は居ない」


 それを聞いたミツールは剣を取って素早く走り、メンティロスと名乗った男の隣で同じように土下座した。


「僕はミツールと言います!

 貴方はとても凄い方だそうで……

 どうか僕にも剣技を教えて下さい。

 どうしても強くなりたいんです!

 どうかお願いします!」

「フォッフォッフォ。

 せっかく隠しておったのに正体がばれてしまったわい」


 意外だ。

 ミツールがこんなに真剣に行動するなんて。

 下水道で何か心境の変化でもあったんだろうか?

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