魔法銃士ルーサー、ルーサー故に一般人の認識出来ないラッグの恐ろしさを察する
ミツール達はオオネズミ達の仕掛けた罠を辛くも潜り抜け、さらに奥へと進んでいた。
襲撃が止んだ隙にエリックが全員をヒールし、万全の状態を維持してより慎重に進む。
エリックはランタンを掲げ、じっくり地面にも注意を払いながら進む。
「あのオオネズミ達が私達が思っている以上に狡猾な事は分かりました。
信じ難い事ですが事実は事実です。
しかしそう考えてみると障害物だらけのこの通路もどこに何が潜んでいるか分からない。
不気味で恐ろしい物に感じてしまいますね」
「注意をし過ぎるという事は無いでしょうから、念の為全員に暗視魔法を掛けて置きましょう。
賢いゴブリンがよく冒険者パーティーの灯りを狙って消すことが有る。
この下水のオオネズミならやりかねませんからね。
虚空の狭間に住まう光の精霊よ、我がマナをと祈りを対価に、指し示す先のヒューマンに集い、加護を与え給え。
求むるは漆黒の闇を見通す光の眼、ナイトビジョン!」
フィリップは一人一人にエンチャント魔法を掛けた。
「凄い! 風景がまるで真昼みたいに明るく見えるじゃないか。何で今まで使わなかったんだよフィリップさん」
「そこそこマナを使うんですよ。
それにせいぜい15分程度しか持たない。
このパーティーで常用なんてしてたら私が耐えられない。
今は緊急事態だから仕方が有りませんが」
「それにしても襲撃が来ないわね。
来ないなら来ないでかえって不気味だわ。
オオネズミ達が遠くから様子見とかしてるのかしら?」
「……気に食わねぇな。この空気」
慎重に歩いていたエリックが立ち止まり、後ろを振り返った。
「何か音が聞こえませんか?」
……ドドドドドドド
ドタドタドタドタドタドタ!
「後ろから敵襲だぁっ!
かなり多いぞ!」
「きゃあっ!」
「うっは、マジかよ!」
下水道の通路を覆いつくし、一部は壁まで這いながら大量のオオネズミがミツール達に襲撃を掛ける。
「ミツール殿! 我々は前側も警戒しないと!」
「くそっ!」
ダイヤはレイピアで超高速の突きを繰り出し、次々と襲い来るオオネズミに正確に致命打を与えながら空中に飛び上がるオオネズミにも迎撃を繰り返す。
サーキはダイヤの横で木刀を振り回しつつ、蹴りやパンチでオオネズミを血祭りに上げる。
バシャァッ!
カランコロン
突如上からバケツのような物に入った液体が降り注ぎ、フィリップをビショビショにした。
上を見上げると梁のような部分を茶色いオオネズミが走り去るのが見えた。
「うわっ! ぺっ! ぺっ!
天井から不意打ちを食らいました。
心配ない濡れただけです、大丈夫!
大気に宿る火の精霊よ、我が手に……」
後ろから来るオオネズミの雪崩のような群れと激闘していたサーキが何かに気が付き、フィリップを振り返って怒鳴った。
「気を付けろおっさん!
アンタ、オイルの臭いがするぞ!」
「えっ……?
やられたぁっ。
これじゃファイヤボールなんて使った途端に火だるまだ!
仕方が無い、大地と空を旅する風の精霊よ、最高速の渦巻く刃となって対象を切り刻め。
エアカッター!」
フィリップがダイヤ達に加勢するも、止まる事の無い怒涛の襲撃を抑えきれず、パーティーはジリジリと奥へと追いやられる。
「おらぁっ! このっ! くそネズミ!」
「マズいですよミツール殿! 我々は奥へと追いやられています。
冷静になって何とかして立て直さないと!」
「どうにもならないわよ――ッ!
数が多すぎる上に……はぁっ、はぁっ。
後ろからどんどん来てる!」
ミツール達は何度も振り返って後ろを守るダイヤ達に加勢しようとするが、数は少ないながらも前からの襲撃も続いている。
極限のプレッシャー、止むことの無い怒涛のラッシュ。
ミツール達は焦りと緊張で視界が狭まっていく。
そしてミツール達は天井の高いホールへと追いやられた。
不自然に立て掛けられたいくつかの巨木、その仕掛けに気付く余裕など既に無い。
ドサドサドサッ!
「うわぁぁぁ! 上からも大量に降って来たぁぁ!」
ホールの上、ミツール達の視野外で待機していたオオネズミ達が一斉に真上から飛び降りて攻撃をする。
「てめぇらいい度胸じゃねぇか! やってやんよぉっ!」
サーキは激怒して後ろから襲い続けるオオネズミ達に突っこんでいく。
それを見たエリックは慌ててサーキの後を追った。
「駄目ですサーキさんっ! 一人で行っちゃ駄目だぁっ!」
ガリガリッ! ガリガリッ! ギギギギィ――!
ガララララッ!
突如、ホール内に不自然に立て掛けられていた複数と木の柱が倒れ、土砂が降り注ぐ。
―――― シルフィルド下水道B2:ホール ―――――
回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回
回回回回回回回回回回回回回茶回回回回回回回回回回回回
回回回回回回回回____礫礫____回回回回回回回回
回回回回回回______礫礫礫_____回回回回回回
回回回回回______礫礫礫__礫____回回回回回
_鼠_鼠________礫礫_________鼠__
鼠炎鼠炎炎炎炎炎炎炎炎礫礫礫炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎
炎鼠鼠鼠鼠鼠炎鼠炎礫炎礫礫礫炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎
鼠鼠_鼠鼠_鼠サ____礫礫_鼠__ミ鼠____鼠_
回回回回回_鼠鼠_エ鼠_礫礫礫_ダ_フ__回回回回回
回回回回回回______礫礫______回回回回回回
回回回回回回回回_____礫礫___回回回回回回回回
回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回
回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回
回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回
回:下水道の壁
炎:浅い下水の汚い水
サ:激怒状態で木刀を振り回し、パンチ、キック、踏みつけから頭突きと持てる技を駆使して奮闘するサーキ
エ:いくらかのオオネズミを戦いつつもサーキが死なない様に隙を見て必死でヒールするエリック
ダ:オオネズミと戦いながらも愕然とするダイヤ
フ:油まみれで必死に状況把握に努めるおっさんマジシャンのフィリップ
ミ:前からくるオオネズミ相手で必死のミツール
礫:崩れ落ちてミツール達を分断した越えられそうにない瓦礫の山
茶:ホールの遥か上にある突起に乗り、状況を見守る老ネズミのラッグ
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フィリップはしばらく瓦礫の山を茫然と見回していたが呟いた。
「何てことだ……我々は分断されてしまいました。
くぅぅ……私がもっと注意を払うべきだったぁ……」
「無理だあんなの、後ろから鬼の様な大群に襲われてギリギリの戦いしてる最中にこんな罠に気付く余裕なんてある訳ないだろう!?」
「そう……私達がそこまで気を回す事は無理だった。
私とミツールは必死で戦ってたし、フィリップさんも不意に油を浴びせられて正気を失っていたでしょ?
私達は偶然じゃなく、作られた状況で抗いようもなく動かされていた……。
しょっちゅう遠巻きにチラチラ見ていたあそこの、上の突起に居る茶色いオオネズミに……」
***
俺は下水道の1Fから潜り、奥へと一人侵入していた。
あちこちにオオネズミの死体や血痕が残っている。
ミツール達の戦った跡だろう。
タタッ
「ん? スキル・サイレントショット!」
パシュッ
キキィ……パタ
通路の影から俺を見て即座に背を向けて逃げようとしていたオオネズミを俺は音を立てずに撃ち殺す。
魔法銃士は只のガンマンではない。
魔法と名がつく通り、スキルによって魔法の障壁を銃口周りに作り、音を消す技も持っている。
「ご丁寧に入り口近くに見張りまで残すたぁ、やっぱ普通のオオネズミじゃねぇな。
しかしコイツ、通路の奥と言うよりは角の方に走ろうとしていたな。
何でだ?
穴でもあるのか?」
俺は撃ち殺したオオネズミの方へと歩み寄った。
―――――― シルフィルド下水道B1 ―――――――
回___回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回
回形____________________形回回回
回回回回回回回回回回回回回回回回回回回__鼠_回回回
回回回回回回回回回回回回回回回回回回回____回回回
回回回回回回回回回回回回回回回回回回回_ル__回回回
回回回回回回回回回回回回回回回回回回回____回回回
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炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎
炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎
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回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回
回:下水道の壁
炎:浅い下水の汚い水
鼠:俺が撃ち殺した見張りオオネズミ
ル:慎重に音を殺して周囲への注意を怠らずに近寄るルーサー
形:壁に立て掛けられた30センチほどの身長の木製人形。
画家がデッサンに使う奴だった気がする。
壁を背に座っているように見えるが、右手は下に下げ、左手は上に上げた格好で静止している。
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「……なるほど。
こいつは手旗信号、いや、魔導通話貝の無かった時代に国家間の通信で使われた腕木通信みたいなもんだな。
連なる山々の山頂に数キロおきに木製で可動式の腕が付いた柱を立て、その番人が連携先の柱を見ながら目視で同じ形にそろえていくことで数百キロ離れた場所に最短1時間で複雑な情報を伝えたと言う。
コイツなら連携すればそのうち下水の奥まで届くし、音を出さないし周囲のガラクタに紛れて風景に溶け込む。
それぞれの人形に番人、いや番ネズミが貼り付けば数秒で下水の隅から隅まで指令を送る事も可能だ。
ラッグか……下手な人間の軍師より頭のキレる奴のようだな。
こりゃミツール達には荷が重かったか。
間に合えばいいがな」
俺は奥へと急いだ。