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魔法銃士ルーサー、嫌な予感を感じ始める

 ミツールのパーティーはダイヤとサーキを加え、再び下水道の中へ潜って戦っていた。


「ミツール殿! 前方から二匹来ます!」

「おっしゃ来――いっ!」


 ドガッ、ザクッ!


 エリックとミツールが体を這ってオオネズミを止めて攻撃した。


「大気に宿る火の精霊よ、我が手に集い力を集めよ、ファイヤーボール」

「フィリップさん、後ろ危ないっ! ハァッ!」


 ズシャッ!


 魔法詠唱しているフィリップを押しのけて、ダイヤが背後から襲い来るオオネズミをレイピアで突き刺した。

 その横をすり抜けて他のオオネズミが飛び掛かる。


 キキィィッ!


「舐めんじゃねーぞコラァッ! このネズ公がぁっ!」


 ドガッ、バキッ


 サーキがすかさず木刀でオオネズミを叩き落し、追い打ちをかける。


 ―――――― シルフィルド下水道B1 ―――――――


 回回回回回回回回回__炎炎炎_茶回回回回回回回回回回

 回回回回回回回回回__炎炎炎__回回回回回回回回回回

 回回回回回回回回回__炎炎炎__回回回回回回回回回回

 回回回回回回回回回__炎炎炎__回回回回回回回回回回

 回回回回回回回回___炎炎炎___回回回回回回回回回

 回回回回回回____目炎炎炎目____回回回回回回回

 回回回回回___炎炎目_鼠_目炎炎___回回回回回回

 _______炎炎炎_鼠ミ__炎炎炎________

 _______炎炎__エフダ鼠_炎炎_鼠______

 炎炎炎炎炎炎炎炎炎鼠__サ鼠__炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎

 炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎目炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎

 __________________________

 __________________________

 回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回


 回:下水道の壁

 炎:一段深い水路を流れる汚水

 目:水路を跨ぐ木橋

 鼠:土佐犬程の大きさのオオネズミ

 ミ:両手剣を振り回して奮闘するミツール

 エ:モーニングスターでオオネズミと戦うエリック

 フ:呪文を詠唱するフィリップ

 ダ:レイピアでオオネズミを穴だらけにするダイヤ

 サ:木刀でオオネズミをしばき倒すサーキ

 茶:距離を置いて見守るオオネズミ。

   他のオオネズミがドス黒い脂ぎった体毛を生やしているのに対し、やや色が抜けて茶色がかった体毛をしている。

   髭の一部は白髪になっており、同種だが高齢のオオネズミと思われる。


 ―――――――――――――――――――――――――――


 ミツール達は襲い掛かって来たオオネズミを撃退した。


「はぁ、はぁ。

 やっぱダイヤ達が居るとオオネズミ駆除がはかどるなぁ!

 撃退スピードも安心感も昨日と段違いだよ」

「サーキさんが加わったのも大きいですよ。

 後ろを完全に任せられるしとても頼もしいです」


 ダイヤはピシィッっとレイピアを振り、血を払ってからサーキを見る。


「貴方中々やるわね。

 でも防具無しは危ないわよ。

 それに何か普通の剣を買って来た方が良かったんじゃない?」

「ウチはこれでフル装備なんだよ!

 これも『怒慕琉挫悪ドボルザアク』っていう特別な木刀。

 石川先輩のソウルが込められてるんだ。

 ウチはずっとこれ一本でいくんだよ!」


「良く分からないけど神器ってやつなの?」

「神器? はっ(笑)。それ以上だよ」


 フィリップは一人だけ腑に落ちないといった顔で黙り込んでいたが、口を開いた。


「ミツールさん」

「ん? 何?」


「こういう事は早めに言っておいた方がいいと思うので言っておきますが……」

「あ、エリック、取れそうな素材全部取っといて。今日は持ち運べる量も増えそうだしさ」

「分かりました」


「ミツールさん、今日のオオネズミはどこか変です」

「変? 昨日と同じだろぉ――」


「明らかに変です。

 私は何度も色んなパーティーに入ってオオネズミの駆除をしてきましたが、今日のオオネズミはおかしいですよ」

「どこが?」


「思い出して下さい。

 今日下水に入って5、6回オオネズミの襲撃を受けましたが全て前後からの同時攻撃とか、3方向からの同時攻撃とかばかりですよ。

 まるで連携を取って、作戦を考えているみたいに。

 事実、今日もしもダイヤさんとサーキさんが後ろを守ってくれてなければ何度も私は倒れていたはずです。

 そして昨日と同じパーティーだったなら何度か壊滅していたはず。

 こんな事はおかしいんです。

 オオネズミは群れで襲ったり仲間を呼んだりする習性はありますが、こんな連携を取ったりする生き物じゃ無いんです」

「考えすぎだろぉ。なぁエリック」

「確かに今日はフィリップさんの言う通り、全部多方向からの同時襲撃ですね。

 でも偶然じゃ無いですかねぇ。

 たまたま音が聞こえて3方向のオオネズミが反応したとか」


「いえ、私達がクリアリングを終えた後ろの道に回り込んだりしてます。

 それも毎回複数のオオネズミが。

 そんな事は普通は滅多に無いから私は注意をおろそかにして、何度もダイヤさんとサーキさんに救われました。

 それに前後から襲われた時も、前の曲がり角と後ろの曲がり角の距離は100メートルくらいあったはず。

 オオネズミ程度の知恵で完全に息の合った連携を取る、連絡を取り合うなんて出来ないはずです」

「……」

「そう言えばミツール殿、今日はチラチラと覗いてるだけで襲って来ないオオネズミがずっといましたよね。

 私達にずっと付きまとっている気がする」


 ***


 俺は下水道に入るミツールを見送った後、ナオミと一緒に買い物を終え、町を流れる2メートル幅程の水路に面したテラスで食事を取っていた。


「美味しいですよねルーサーさん。

 この店のミートサンド。

 シルフィルドはミートサンドが名物ですが、この店はその中でも一番の人気店なんだそうですよ」

「うん。美味いな」


 正直、それどころでは無い。

 異世界転移者の二人目が来てしまった事で俺の悩み事が爆増しそうだ。

 多分あのサーキって娘、この世界でいう蛮族バンディット……いや、町のチンピラに近い存在だろう。

 俺はうんざりしながら何気なく水路の向こう側を見ると、建物の裏手に置かれた大きな開き蓋式のゴミ箱があった。

 建物の角から現れた二人の子供が大きなゴミ箱を指さして駆け寄った。


「あぁ――っ! また中身食われてるぅ!」

「マジかよぉ!」


 子供はゴミ箱の前でしゃがみ込み、落ちていた金属の小物を幾つも拾う。


「まじかよ信じられねぇ! 今度は難易度五つ星の知恵の輪7個でロック掛けてたのに全部外されてるぜ?」

「お前、本当にコレ、ネズミがやったのかよ?

 絶対嘘だろう?

 お前がやってんじゃないの?」


「そんな事する訳ないって。

 ゴミ箱守り切ったらお小遣い貰える約束してて何でわざわざ俺が失敗させるんだよ。

 それに俺は何回もここをゴソゴソ漁ってるオオネズミを見たんだよ。

 怖くて近寄れなかったけどな」

「ネズミ如きに五つ星の知恵の輪が外せるわけ無いだろう?」


「いや、この知恵の輪どれも歪んだり千切れたりしてないから力任せに外したんじゃない。

 正解の解法見つけて外してるよ全部」

「どうすんだよ、もう鍵かけるしかないぞ?」


「細工師の作る鍵は高いから駄目なんだって。

 だから親父は俺達にやらせてるんだろう?

 くっそ、絶対外せるわけ無いと思ってたのに!」

「ネズミに負けてんじゃねーよ!」


 俺はオレンジジュースを最後まで飲み切ると立ち上がった。

 ナオミが顔を上げる。


「もう行くんですか? ルーサーさん」

「いや、ちょっとだけあっちを見てくるだけ。

 すぐ戻るよ。

 ナオミはゆっくり食っててくれ」


 俺は水路に向かって走り、ジャンプして飛び越えた。


 ザッ


「よっと」


 そして子供がやり取りしているゴミ箱の前に歩み寄る。


「よぅ、ネズミがどうかしたって?」

「いつもこのお店のゴミ箱を漁って残飯を食ってるんだよ」

「オオネズミだよ。オオネズミ」


「知恵の輪がどうかしたって?」

「ゴミ箱を開けられないようにこの知恵の輪で蓋をロックする仕組みにしたのに全部解除されてるんだよ」


「見せて見な」

「これ」


 俺は子供から受け取った知恵の輪を摘まんで一つ一つ確認する。

 金属が複雑に絡み合った物、細工が組み合わされてボール状になった者、金属のカバーで中の機構が隠された物。

 どれも見た目で即座に解法が浮かぶような単純な代物ではない。


 ガタッ


 俺はゴミ箱の蓋を開けた。

 中には食い荒らされた生ごみが異臭を放っている。

 よぉく顔を近づけてみると、木製のゴミ箱の縁部分、ささくれ立った場所に動物の毛が挟まっていた。

 長さ、脂っこく光る茶色い毛、恐らく子供たちの言う通りオオネズミで間違いは無い。


「坊や、そのオオネズミの目は赤く光っていたかぃ?」

「いや? 普通のオオネズミと同じ、真っ黒でクリクリした目だったよ?」


 ユニーク個体は魔王軍陣営の邪悪なモンスターとエビル化した動物にのみごく稀に発生する。

 子供の言う事が真実であれば、少なくともユニーク個体の可能性は無いだろう。

 エビルアニマルではない普通の動物のユニーク個体など聞いた事も無い。


「そうか。

 坊や達、今下水を住処にするオオネズミを冒険者が駆除中だ。

 いずれ居なくなるからそれまでオオネズミに近寄るんじゃねぇ。

 子供なんて簡単に殺しちまう力は有るんだからな」

「冒険者ぁ――? またかよ」

「いつも失敗してるのに懲りないよな――」


「失敗してる?」

「ここ一年でもう5、6回冒険者が駆除に向かったんだよ。

 でも全員死んでるよね?」

「うん。

 大人達は言わないけど、血だらけの動かない死体になった冒険者が下水から運び出されるの何回も見たよ」


「一人として成功していないのか?

 オオネズミ駆除を?」

「駆除されたなんてここ一年一度も聞いたことないよね?」

「そういや、運び出される死体を見てたら下水管理人のおじさんに言われたよ。

 この事は誰にも言っちゃ駄目だってね」


 冒険者ギルドに対するクエスト依頼をする時、依頼者が特殊な事情を隠している事は良くある。

 危険度の高さを誤魔化して値切ったり、誰もが断るクエストを受けさせる為だ。

 俺は再び水路を飛び越えてナオミの元へ戻った。


「ナオミ、ちょっと俺は寄りたい場所が有る。

 午後の買い出しには悪いけど付き合えない。

 何かあったらその信号ワンドを使ってくれ。

 じゃぁな」

「ちょっと待ってルーサーさん。

 ルーサーさぁんっ!」


 俺は自分の分の代金をナオミに渡し、下水道管理人の所へと走った。

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