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魔法銃士ルーサー、スケバン異世界転移者に出会う

 ここは天上界にある宮殿。

 その中に有る特殊な白い部屋である。

 白い衣を身にまとい、長い金髪を後頭部でシニヨンの髪型で丸めた女性が椅子に座っていた。

 その女性の前の床に描かれた魔法陣が発光し始め、霧のような物が立ち昇って人の形となる。

 現れたのは17歳くらいの少女。

 薔薇の刺繍の入ったセーラー服を着て、足首まで届くロングスカートを履き、ソックス無しで底が薄く紐の無いシューズを履いている。

 髪型は茶色いストレートロングヘアーで前髪の一部が紫に染まっている。


「天上界へようこそ、雨宮 紗季。

 貴方はたった今、地上での人生を終えました」

「誰だよ、テメェ……」


「私は女神エレーナ。

 命を終え、地上を離れた魂を選別し、その行き先を決定する役割を任されています。

 地獄へ行くか、天国へ行くか、それとも再び輪廻転生を続けるか、その決定権は私に有ります。

 己の立場をわきまえて素直で誠意ある態度を取っていれば、貴方に対する私の印象も上がるでしょう」

「やっべ、マジ?

 ウチ、あれで死んじゃったの?

 うっわぁ、ダッサ。

 カッコワリィィ!」


「貴方が身を挺して直進するトラックから救った子猫であれば無事です。

 献身の善行ポイントとして、本来2ポイントですが代わりに自らが命を失った事を加味して、4ポイント加算扱いとしています」

「そっかぁ。まぁそれならこのまま天国に行っても諦めがつくってもんだなぁ」


「え? 天国? ……コホン。

 審査はまだ終わっていません。

 少し後ろを向きなさい」

「はぁ? 何で?」


「いいから後ろを向きなさい。

 あまり反抗的な態度を取ると行き先に影響しますよ?」

「はいはい」


 紗季はエレーナに背を向けた。


「ふむ。

 靴の踵は履き潰していないようですね。

 少し私の好感度も上がりましたよ。

 最終善行ポイントに1加算しておきましょう」

「踵ペラペラだと喧嘩する時、動きにくいからな」


「まぁ、それが普通です。

 えーと、トータル善行ポイント800からが天国なので……あと300ポイントか」

「え? あと300ポイントで天国?

 まるで少しここでいい態度取ったら天国行けるような事言っておいて最初から無理って決まってるのかよぉっ!

 なんだよお前キタネーなぁっ!」


「いい加減にその態度を改めないと怒りますよ?

 私は女神。

 その気になれば戦艦だろうとティラノサウルスだろうと滅多打ちに出来るのですからねっ!?」

「上等だよコラァ!

 喧嘩売ってるってなら買ってやんよ!!」


 ズシズシズシズシ……


 紗季はエレーナの方へと歩み寄り、両手で胸倉を掴んで椅子の背もたれに押し上げる。

 身長自体は紗季がやや上でエレーナを見下ろすような恰好である。


「ちょ、止めなさい!

 本当に天のいかづちを落としますよ!?」

「女神だからってだけで偉そうにしやがってよぉっ!

 文句があるなら掛かって来いよコラァ!」


「わ、ちょ……暴力反対! 落ち着きましょう?

 ね?」

「……ちっ」


 紗季は手を離した。

 彼女はある意味純正なスケバンだったので、恐ろしい相手に立ち向かう事には躊躇は無いが、只の弱い物虐めに見える行動は好まなかったのである。

 エレーナは紗季が少し引き下がると、手元に本を出現させてパラパラめくりながら紗季に聞こえているのを知りながらぶつくさ言い続ける。


「ったく。

 順当に輪廻転生ルートに送ろうと思ってたけど、こんなゴミクズが私の担当内に存在し続けるなんて有り得ないわよ。

 輪廻転生すら不相応!

 前の担当者は何でこんな奴を地球圏に残したのかしら。

 魂を浄化する為に地獄へ落とすってのも……」


 エレーナは明らかに侮蔑の籠った白い目で紗季をチラ見して言った。


「あくまで見込みのある魂の救済策。

 魂の不純物として放逐したいな――。

 もうどこか遠くに隔離したいな――。

 でもあんまりやると私の審判の正当性が疑問視されちゃうんだよな――」

「んだよっ!?

 言いたい事があるなら面と向かってウチにはっきり言えよ!」


「かと言って異世界に転移させるってのは超法規的措置だから相応な理由が必要だし、そこで魂が無意味に死んじゃうと大問題になるんだよね――。

 なんか面倒見良さそうな現地人でも居たら……あっ」

「文句あるなら掛かって来いよっ!

 天のいかづち

 上等だよ受けてやんよっ!」


 エレーナはパタンと本を閉じるとニッコリして立ち上がった。


「雨宮 紗季。

 貴方が天国に登る為には多数の善行ポイントが必要となります。

 それが可能となる特別な任務を貴方に与えましょう」

「あぁん?」


「貴方を異世界へ勇者として転移させます。

 その世界は魔王アバドーンによる侵略を受け、現地の良き人々が恐怖に怯え、滅亡するかしないかの瀬戸際の戦いを日々続けて居るのです。

 魔王アバドーンを倒し、善良な人々を救う事が出来ればあなたの願いも叶う事でしょう。

 無論、着の身着のままでそこに放り込もうとは言いません。

 その世界にどうしても持っていきたいという物があれば一つだけ許可します。

 武器でも身の回りの小物でも良いです」

「武器と言えば木刀。

 木刀と言えば思い出すなぁ、石川先輩が青森県のレディース『蔵美死唖くらみじあ』との抗争で死んだ時、先輩の棺桶に一緒に入れて火葬を皆で泣きながら見守ったなぁ……」


「いいでしょう。

 そこでちょっと待っていなさい」


 エレーナはマスクを付け、両手にゴム手袋をはめるとドアを開けて隣の小部屋に入った。


 ガサゴソ、ガサゴソ、ガサゴソ

 ビリッ、ビリリリリリ……、シャッ、シャッ


 しばらくして先端が赤黒く汚れた木刀をゴム手袋をした片手で摘まんで元の部屋に戻る。


「受け取りなさい」

「こっ、これはっ!

 石川先輩の愛用木刀『怒慕琉挫悪ドボルザアク』!」


「火葬された死者の魂が天に昇る様に、火葬された愛用品もまたここへ届くのです。

 そして今!

 時空を超え、貴方の到着を現地の人々に示しておきました。

 異世界転移する勇者として、貴方に私の名前から一文字『ー』を与えます。

 貴方はこれから旅立つ世界で『サーキ』と名乗るのです!

 さぁ、勇者サーキよ、旅立ちなさい!

 貴方の事はすぐに現地の人々が迎えてくれるでしょう!」


 紗季、いや、サーキの体が発光し始め、霧が体を覆っていく。


 ***


 下水道の入り口で俺がミツールを説教していると、突如太陽が激しい光を放ち始めた。


「なんだぁ?」

「一体何でしょう?」


 俺達だけでなく、シルフィルドの町の人々も太陽を指さして騒ぎ始める。

 まぶしくて目も開けて居られないほどの強い光の中、天から威厳ある女性の声が町全体に響き渡った。


(心清き善良な人々よ。

 これより天から貴方方の元に、異世界より光輝の勇者『サーキ』を転移させて向かわせます。

 彼女と共に魔王アバドーンを打ち倒すのです。

 最初に彼女を目にした者、彼女が目にした者こそ、彼女を導く天の使命を背負いし者。

 命を賭してその使命を果たすのです)


「何だ何だぁ?」


 声が止んで一呼吸ほど置いた後、俺の目の前の空間が激しく音を立てて発光し始めた。


 ピシィッ!

 シュワシュワシュワシュワシュワシュワシュワ!


「うおおぉぉ、何だぁ?」


 眩くて目を開けて居られない状態が続いた後、音が止む。

 俺はおそる恐る恐る目を開いた。


「ん? 誰だオメェ。

 どこだここ?」

「女神様……勘弁して下さい」


 俺の目の前に見た事も無い衣装の少女が木刀片手に立っていた。

 皆が茫然とした表情で少女を見守る中、エリックがポツリと言った。


「彼女……異世界転移者ですよ。多分今のが天の啓示です」


 天の啓示で俺が直接指名されるとは夢にも思わなかった。

 だが、光輝の神の導きとあらばやるしかない。


「よぅ、俺は魔法銃士ルーサー。

 君の名は?」

「雨宮……、いやえっと、サーキだ。

 迎えてくれる現地の人々ってあんた達か?」


 サーキは周囲に居る俺やナオミ、ミツールパーティーを見回した後、蟹股のウンコ座りでその場にしゃがみ込み、威圧するように木刀を肩にかける。

 俺はミツールの方を向いて、サーキを指さしながら目で合図を送る。

 こいつは一体どういう奴か、同じ異世界転移者のミツールなら分かるかもしれん。


「ん?

 あぁ、ルーサーさん。

 聞けって?

 サーキさん、こんにちわ。

 僕はミツールで2020年の東京から来ました。

 サーキさんは?」

「2020年?

 未来かよっ!

 ウチは1984年の秋田県から……」


「へぇぇ――。

 ルーサーさん。

 多分この人超ヤバイですよ。

 一番荒れてる時代の一番ヤバイ人です」

「あんたが面倒見てくれるって?

 夜露死苦よろしく!」

「……その、なんだ。

 戦士かも知れんがとりあえず女の子なんだから、使わないときは武器をしまってだな。

 もっと上品に座ろうか。

 勇者は皆の模範とならないといけないからさ」


「んなっ!

 ……仕方ねぇなぁ、あんたはこういうのが好きなのかぁ?」


 サーキは俺から少し離れた場所で段差に膝を揃えて座った。

 どことなしか楽しそうな表情をしている。


「……」

「……」


 ササッ

 ササッ


 しばらくの沈黙の後、ダイヤが駆け寄って俺の隣、サーキの反対側に座り、ナオミが俺の背後に駆け寄って張り付くように立ち、苦笑いしながらサーキに注目する。


「異世界転移者二人も同じ時代に現れるなんて前代未聞ですよね――」

「ルーサーさん、次から次へと大変ですね――」


「ミツール、取りあえず今日の下水道での討伐にサーキをパーティーに加えてやってくれ」

「えぇぇ……」


 サーキは立ち上がり、木刀を肩にかけてミツールに詰め寄って睨みつけた。


「あぁんっ!?」

「いぇ……その……。

 ルーサーさん、オオネズミと言っても手強いんですよ。

 ずっと兵団で訓練してた僕でも生き死にをさまよう戦いでしたし」

「彼女多分、そこそこ強いぞ」


 サーキはミツールにメンチを切る。


「……そうかも知れませんが喧嘩と実戦は……」

「動きや身のこなしに隙が少ない。

 なんだか知らんがそこそこ実戦で戦ってる。

 俺の見立てでは現時点のミツール以上、ダイヤ以下といった所だ」

「……」

夜露死苦よろしくゥ!」

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