魔法銃士ルーサー、2億ゴールドの酒でシャンパンタワーする
ルーサーはカエデの家に上がり、壁に銃弾で空いた穴の様子を指で弄って覗き込んでいた。
「御免よカエデちゃん、家に弾丸で穴開けちゃってよ。何とかして直すからさ」
「いいよいいよ。命を救って貰ったんだそんなもん安いもんだよ。
気にしないでおくれ」
トントン
再び誰かがドアを叩き、カエデちゃんが答えた。
「開いてるよぉ」
「カエデさぁん、家でちょっと集落の人で集まって歓迎会しようということになってね。
……あっ。
ルーサーさんここに居たのねぇ!
主役だからカフェー『ライオン』においでよぉ」
「え? 俺?」
「そうさね。ルーサーさんが仕留めたでっかいカニを使ったカニ料理もいっぱい作ったからおいでよぉ。
カエデさんもおいでぇ」
「そうかい、ルーサーさんの歓迎会なら行くしかないねぇ」
***
その日の夜、カフェー『ライオン』は貸し切りの宴会場となっていた。
店内に3つある丸テーブルには山ほどの料理が並び、中央でカニ鍋がグツグツと煮える。
集落から集まったのはおたゑちゃん、おちょうちゃん、カエデちゃん、そしてもちろんカフェーの主人のおていちゃん、ただ一人だけお団子2つついたような頭の18歳くらいの中華服の女の子がいたが、他は婆さんばっかり2、30人くらい集まっていた。
まさにルーサーにとってのハーレム状態である。
「いやぁなんか悪いね。俺なんかの為に歓迎会開いてもらって」
「何いうとるがね。お化けガニをやっつけて助けて貰ったのに歓迎しないわけないよぉ」
「ハハヒフォヒホヘホホホハフェハフォ(私もイノシシの化け物に殺されそうなところを助けて貰ったしねぇ)」
「私もルーサーさんに救われたわぃ。
そういやルーサーさん、これからどうしようとしてたんかね?
ここへは寄り道しただけじゃろう?」
ルーサーは目を閉じた。
ほんの今日起こった悲しい出来事が思い起こされる。
俺が死んだことにしとくから、魔王倒すまで世間に出てくるな……とか言ってたな。
人類の為だとか……婆専の変態がいたら兵士達の士気が下がるとか……ニューハーフの勇者が言ってた。
「実は色々あってな……特にどこへ行くあてもない……」
「じゃぁここに住めばよいよぉ」
「ファファヒホヘヒハヘ(私の家で住みなさいな)」
「そうじゃそうじゃ。ルーサーさんが居てくれたら頼もしいわぃ」
「そうか……、じゃ、お世話になってしまおうかな」
「ホウヘヘホウヘエ(そうしよう、そうしよう)」
「よし、それじゃぁ、ルーサーさんの『たけのこ村』への移住を歓迎して、乾杯ァィ――!」
「ファンファィ(乾杯)」
「乾杯!」
「乾杯!」
老婆達はお茶や酒の入った湯飲みを掲げて乾杯した。
「いやどうも、有難う、有難う。
つーかこの村『たけのこ村』って言うのね」
テーブルより一段高いカウンターに座った俺は、湯飲みに入った日本酒的なものをあおる。
すると隣の席におたゑちゃんが来て座り、急須からお茶を湯飲みにそそぐ。
「フォウホホウホ(どうぞどうぞ)」
「おっとっとっと」
俺が持つ湯飲みは日本酒的なものから、日本酒のお茶割りに進化した。
それを有難く飲む。
反対側にはおていちゃんが座り、茶碗にたけのこご飯を山盛りによそって俺の前に置いた。
「ルーサーさん、この村の名物、たけのこ混ぜご飯よ。一杯食べてってぇ」
「おっ、旨そうだな。頂くよ。ありがとう」
なんか俺、超歓迎されている。
やったぜ。
後ろのテーブルでチビチビとお酒を飲んでいたカエデちゃんが手を上げた。
「よぉ――し、この際じゃ。おていさん!
例のあの、4世なんとやらのやつをルーサーさんに開けておくれ」
おていちゃんは目を見開いて驚く。
「あらまぁ、カエデさん、いいのかぃ?
ヘネリー4世 コンニャックを?
カエデさんうちの酒蔵に置かせてって持ってきたとき、ボトル一つで2億4千万ゴールドするお酒だといっとったがね」
「ルーサーさんが『たけのこ村』に住む事になったお祝いだもの、3本、開けちゃいな!
ついでにあの、なんとかタワー」
「シャンパンタワーって言うのよぉ。ワイングラスを三角に積み上げて上からお酒注ぐのよねぇ」
「そう、シャンパンタワーしてあげな」
「分かったよぉ」
おていちゃんは席を立ち、調理室の方へと消える。
「えぇぇ、何? 2億ゴールド? マジ?」
俺はなんか悪い気になり、カエデちゃんの隣の席に移動する。
「いやっ、さすがに2億ゴールドのはどうかと思うよ?」
「こういう時に開けないで、いつ開けるんだぃ」
「凄いなぁ。カエデちゃんお金持ちなの?」
「なぁに、大したことないよ」
俺がカエデちゃんと雑談していると、反対側にそっと女の子が座った。
この店内で唯一若い、お団子頭の女の子である。
世間一般的な基準で言えば、かなりの美人さんである。
「ルーサーさん、お酒、入れますよ」
「お、おぅ、悪いな。あんたもこの村に住んでるの?」
「いえ、お婆ちゃんの家のお線香と呪符用の紙が無くなったから町から届けに来たの」
「お線香? 呪符? 君のお婆ちゃんって魔法使いか何かかい?」
「道士よ、妖怪や悪霊を退治するの」
「ここに居るの? どのお婆ちゃん?」
「あの人」
少女が指さす方向には、ピンクの道服を着て金属板が重なって開いたような冠を付けたお婆さんが居た。
お婆さんはルーサーの視線に気が付き、笑顔で手を振る。
「リンシンお婆ちゃんよ。ちなみに私はリンリー」
「そうかぁ」
「ルーサーさん、ルーサーさんって付き合ってる女の人とか居るの?」
リンリーは俺の手の甲に人差し指を当てて、頬を染めながら軽く撫でる。
ガラガラガラ
おていちゃんがワゴンを押して調理場から登場した。
「おまたせぇ。これからシャンパンタワー作るよ」
「よしっ、俺も手伝うぜ」
俺は立って机を離れると、おていちゃんのところへ移動する。
「オエェェェッ、ウエッ!」
「どうしたねルーサーさん」
「ハイホフハヘ(大丈夫かい?)」
「何でもない、よぉし、積むぜぇぇ」
俺はおていちゃん、おたゑちゃんと一緒に大きなテーブルにワイングラスを積んでいく。
1段、2段、3段、4段、5段、6段、7段。
「よ、よぉし、じゃぁこんなもんかな」
「ヘネリー4世 コンニャック開けるよぉ(ポンッ!)
はいどーぞぉ。
(ポンッ!)
はいどーぞぉ。
(ポンッ!)
はいどーぞぉ」
「行きます! シャンパンタワー!」
俺は2億ゴールドの酒をボトル3つ分、タワーにドバドバ注いだ。
黄金色の酒が次々とグラスを伝ってタワーの下まで流れ落ちる。
「やったねぇ!」
「皆、一緒に飲もうぜ! 2億ゴールドの酒、コンニャック祭りだぁぁ!」
俺は超高級酒が滴るワイングラスを一つ一つとって店内の婆さん達に配りまくった。
「ルーサー、一気飲みします!」
「ホエホエ(いいねぇ)」
「ほっほっほ」
ゴクゴクゴクゴク
「プハァ――! じゃ、もう一本!」
ゴクゴクゴク
「さらに一本!」
「いい飲みっぷりだねぇ」
「ルーサーさん、ルーサーさんなら毎晩私の布団で寝ても構わないけんども」
「ゴクリ……」
「はっはっは、カエデさん冗談上手いねぇ」
「やっぱりここで長く暮らすにはプライバシーも欲しいんじゃないかぃ?」
「ま、まぁ毎日泊めて貰ってるってのも気を遣うかも知れないな」
「よし、家、買ったげる」
「えぇぇぇ!? いやさすがにそれは」
「いいよいいよ。買ったげるよ」
ヤバイ。
俺、ヤバイ。
ヤバすぎ。
たけのこ村、天国過ぎ。
「2115年、アンドロイドの救世主」は私が小説を書き始めた頃から連載しており、序盤はまだ未熟な点もあり、いつか時期を見て手直しをしたいなぁとは思っています。
ただ、会心の出来と思われるエピソードもあり、挙げるならば
・ACT6 クラブ音音襲撃事件
・ACT7 ドレッド・ベレーとキャシー・パイロ
・ACT10 パワーゲーム
辺りでしょうか。
やはりマサコとティアラはキャラ立ち過ぎですね。
逆に主人公のマキはロボット故に情緒を込めるのが難しいのが悩みどころです。




