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魔法銃士ルーサー、ミルトン王国の首都シルフィルドに入る

 俺とナオミはミルトン王国の首都シルフィルドに到着し、町の門の前で衛兵に止められていた。


「一人一万ゴールド?

 おいおい、いつからそんな物取る様になったんだ?」

「とにかく二人で2万ゴールド出してもらわない事には入ることを許可出来ん!

 まぁ、それに相当する物品で払うか、後払いの為にこんな感じの相応の価値の物を俺に預けるという事でもいいがな」


 衛兵は黒い小さなプレートを俺に見せた。


「ん?

 ひょっとしてそれ、4人組のパーティーが預けなかったか?

 女騎士の頭の上に載っていたんじゃないか?」

「良く分かったな。知り合いか?」


「その女騎士、キレてなかったか?」

「なんか大喧嘩してたぜ。

 で一人だけあそこに居る。

 入っていいって言ってるのにな」


 衛兵が離れた場所に生えている大木を指さした。

 その裏側に鎧を着た女騎士がもたれかかって座り込んでいる。

 馬車を一旦道の脇に止め、俺とナオミはその女騎士の正面に回り込んだ。


「ダイヤ?」

「グズッ……」


 女騎士は伏せていた顔を上げる。


「ルーサーさん……」

「やっぱりダイヤか」


「ルーサーさぁぁあんっ!」


 ガバッ


 立ち上がったダイヤが俺に抱き着いて胸に顔を埋めた。

 俺はダイヤを押し戻しながら言った。


「なんとなく状況は分かってるが、ミツール達のパーティーから離れてあいつ等だけでオオネズミの駆除にいかせちゃ駄目だろう。

 たかがオオネズミとはいえ、何人も齧られて死人を出してるんだ。

 エリックもミツールもまだ戦士としてはヒヨッコで危ういしな」

「だって……だって……」


 ナオミもダイヤの頭の上に載っているスマホを支える土台だけになったティアラを見ながら言った。


「誰にもこれだけは譲れないってポイントは有りますよ。

 それを彼女の意思を無視して奪ったミツールさんは酷いと思います」

「あいつ最悪よ! 勝手に死んじゃえばいいのよっ!

 酷いっ、私の大切なスマホを……。

 ルーサーさんっ!

 ……黙って優しく抱きしめて下さい」


 再び両手を広げて駆け寄ろうとするダイヤの前に、両手を広げたナオミが滑り込む。


 ガバッ


「……」

「……よしよし」


 俺に代わってナオミがダイヤを抱きしめた。


「まぁミツールのやった事もパーティーメンバーへの裏切り行為だからな。

 パーティーメンバーの持ち物はパーティーリーダーの私物じゃねぇ。

 俺が厳しく言ってやるから戻ってやってくれないか?」

「嫌ですっ!」


 まぁそんな急には許せる気持ちにならないか。

 ダイヤにも少し頭を冷やす時間が必要だな。

 だがそれ以前に問題が一つある。


「しかしどうやって町に入るかだなぁ」

「お金が無いわけではありませんが……商品の買い出しに来ているんですし」


「いや、そもそも不当な要求だからナオミが出す必要はねぇよ」


 護衛依頼三日間の報酬5000ゴールドだったし、そんな儲かってもいないだろう。

 しばらく悩んでいると、シルフィルドの門の内側から馬に乗った男とそれに付き添う三匹の犬が現れ、衛兵に何かを見せて町の外へと進み始めた。

 つば広の帽子を被った初老の男で動物の皮製の袖の長いロングコートを着ている。


「おや? ひょっとしてそこに居るのはナオミちゃん?」


 男は馬を止め、付き添っていた三匹の犬は揃って道の脇でお座りの体勢を取る。


「フォルさん! お久しぶりです」

「知り合いなのか?」


「はい、近くで牧場を経営しているフォルさんと言う方です。

 ミルトン王国への買い出し時はいつもフォルさんから肉類を売って頂いています」


 フォルは馬を歩かせてナオミの前に近づき、馬から降りた。


「久しぶりだねぇ。そろそろ来る頃かなとは思ってたよ。

 ところでこんな所でどうしたんですか?」

「それが町の衛兵の方に止められまして、入国税として一人一万ゴールドを払うように言われまして……」


 フォルはああ、そういう事ねという表情で苦々しく衛兵の方を振り向いて言った。


「入国税、高いよねぇ。

 俺達、ミルトン王国の他の商人達も困ってるんだよ」

「そうなんですか?」


「町にやって来る人が減るし、交易商人も敬遠してミルトン王国を回避しようとするしで散々だよ。

 俺達にとって何の得もありゃしない」

「税金だから多少は町に還元されるもんじゃないのか?」


「いやいや、全然。

 完全にウオラ様の個人的な金集めさ。

 噂だけどウオラ様は水蒸気を使った大規模なカラクリ工場を作ろうとして失敗し、大きな借金を抱えたらしい」

「どこかで聞いたような気もするが変わった王様だな。

 そんな商売に興味を持つなんて」


「元々が樽職人だか樽商人だったらしいからね。

 やろうとしてた事は今までに無い事で側近達も賛美しまくってたそうで、アイデアが盗まれる前に第一人者になるんだとノリノリで突っ走ったそうだ。

 絵師を集めて大量のコンセプト広報資料を作らせて、ミルトン王国内に留まらず外国各地を飛び回って王自らプロモーションに励み、高い金を払って高価な機材を購入したり細工職人や鍛冶職人を集めたり」

「ほぅ、それで?」


「まずそのカラクリ工場ってものがイマイチ良く分からないからさ。

 各地の農民やら商人は遠巻きに眺めるだけで誰も利用しようとは思わない訳。

 勿論俺達ミルトン王国の人間もね。

 別に今のままで十分商売やっていけてる訳だしさ」

「ふむ」


「しかもカラクリ工場ってのもイマイチまともに作成が進まなくてさ、集められた職人もウオラ様に呼ばれて何度も会議しても一向に何をどう作ってよいかも纏まらず時間だけが過ぎていく。

 勿論彼らにも給料を払い続けなければいけないしさ。

 ああ、そう言えば変わり者の農夫が一人だけその工場での商売の話に乗ったんだけど、ウオラ様は大張り切りだったんだけど、結局カラクリが上手く作れなくて失敗しちゃったの。

 損害賠償支払ったってさ」

「なんというか色んな意味で凄い変な王様だな」


「結局アイデアが絵空事だったんだね。

 実現には天才が必要だったけど、現実そううまくはいかないって話だ。

 で、そっち方面ばっかりやってて魔王軍に攻められて破壊された町もほったらかし。

 自国の兵隊すら傭兵の様に他国に半ば貸し出すようにして資金集めに使い、国防すらも危うくて俺達が冒険者ギルドに依頼して何度も危機を回避している」


 商売人の一人であるナオミが突っ込む。


「無くても困らない、誰も求めていない物に全力を注いでる辺り、お客様のニーズを考えようとしてないのが問題よね」

「そう!

 さすがナオミちゃん鋭い!

 入国税だって正直俺達にとっては災害でしかないんだ」


「でも忍び込むわけにも……いかないんだろ?」

「勿論だ。

 ちゃんと入国税を払ったっていう証明書を持ってないと、国内での抜き打ち検査で見つかれば牢屋行きだ。

 で、俺達もただ従うだけのお人好しじゃない。

 あんた達ナオミちゃんの仲間なんだろう?」


「あぁ、護衛依頼を受けた護衛人だな。

 ……ついでにそこの女騎士も」

「美人ばかりに囲まれて羨ましいね。

 ほら、受け取りな」


 俺とナオミとダイヤはフォルから短冊形の紙を一枚ずつ受け取った。

 特別通行手形と記載されており、ミルトン国王の印鑑まで押されている。


「いいのかよこれ、……多分偽造だろう?」

「国王は徳をもって国を治めるべき。

 それがなって無ければ代償が有るって事さ。

 ついて来な」


 俺達はフォルの後に続き、町の門まで引き返した。

 衛兵が再び俺達を止める。

 フォルは俺達にさっきの通行手形を見せるように合図した。

 それを確認した衛兵は考え込む。


「確かに……間違いなく本物の通行手形だ。

 疑いの余地は無い。

 しかし……あんたらさっきは持ってなかったはずだろう?

 一体これをどこで」

「衛兵さん、ちょっとこちらへ」


 フォルは衛兵を物陰に誘導するとコソコソ話をしながら小金を手渡した。


「あんたも大変だよな。

 一日中入ろうとする人の抗議を受け止め続けなきゃならないもんな。

 別に入国税なんてあんたが手に入れられる金でも無いのにな。

 これ、いつも頑張って門を守ってくれてるあんたへの感謝の気持ちだ。

 受け取ってくれ」

「し、仕方が無いなぁ……」


 フォルと一緒に物陰から戻った衛兵は言った。


「通行を許可する。

 通ってよいぞ」

「よし行くか」

「待ってルーサーさんっ!

 私のスマホ……」


 そういやそうだった。

 ダイヤにも機嫌を直してもらって、ミツールのパーティーに復帰してもらわなければ困る。


「すまないがスマホをこいつに返してやってくれないか?」

「それは許可出来ない。

 先に入ったパーティーからは入国税はまだ貰っていないからな」


「町の出入り口は他にもあるのか?」

「あることは有るが基本、国外から来たものは入国時に特徴を記録した門からしか出国は許可出来ない。

 例え通行手形があってもだ」


「だったらもし出国時にミツールがゴネたり、逃げようとしたら俺の名前を出してくれていい。

 『払うと一度約束したものはちゃんと払わないと魔法銃士ルーサーがお前をしばくと言ってた』とな」

「魔法銃士ルーサー!?

 勇者サリーのパーティーの……あんた、まさか!?」


「そういう事だ。よろしく頼む。

 その、何だ。

 良かったらこれ、お子さんがいるなら土産にでもしてやってくれ」


 俺はエイジド・ラブを取り出すとカートリッジを抜き、装填されていた魔法弾マジック・シェルを一発だけ取って衛兵にこっそり渡した。


「仕方ない、この黒いプレートは返そう。

 だが見逃すのはあんた達だけ、それも今回だけだ。

 俺だってあまり面倒ごとを抱え込みたくないんだから察してくれよな」

「約束する。

 それじゃぁ通らせて貰うぞ。

 フォルさん、有難う、助かったよ。

 この恩は忘れない」

「いいって事よ。

 ナオミちゃん、いい肉いっぱいあるから明日か明後日辺りでも俺の所に寄ってくれよな」

「はい!

 そのつもりでここに来てるので寄らせて頂きます!

 今日はありがとうございました!」

「衛兵さんありがとー♪」


 ***


 一方、ミツール達は下水へ入る入り口階段の前に立っていた。

 下水管理人が鍵の束をもって念を押す。


「本当に大丈夫かねぇアンタ達。

 オオネズミは犬より大きいんだから、結構怖いよ?」

「ミツール殿、やっぱりダイヤさんも呼んできましょうよ。

 大事なパーティーメンバーですし」

「あの野郎思い切りぶん殴りやがって。

 女だから俺が手加減して反撃を我慢してやったら調子に乗りやがって!」

「あ、あれぇ――?

 ミツールさん目の周りに痣作られた後、思い切りダイヤちゃんに殴りかかろうとして全て回避、パリィされてたように見えましたが……気のせいかなぁ――?」


「うっせぇ、一言多いんだよ!

 フィリップさんはちゃんと役割を果たしてくれますよねぇ!?」

「も、もちろです! すいませんでしたぁ!」


「くっそ……このおっさん思ってた以上に言い返しやがるなぁ。

 とにかく!

 火力のフィリップさんが居て、壁の俺が居て、壁兼ヒーラーのエリックが居る。

 オオネズミ如き三人居れば十分なんだよ!

 開けてくれ!」

「万が一のことが有っても深い場所までは助けに行けないからね?

 気を付けてね?」


 下水管理人が鉄の格子戸の鍵を開いた。

 ミツール達はその中へと消えていく。

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