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魔法銃士ルーサー、こうなったら作戦を強行する

 俺はケルピーを全速力で走らせる。

 ピーネは俺の後ろに騎乗し、巨大なヘビークロスボウを片手で抱えたまま、片手で俺にしがみ付く。

 そしてその背後を無数のエビルアニマルが雪崩のように押し寄せて付いてきていた。


「何でこっちにきてクロスボウ乱射してんだ。

 只の偵察のつもりだったのに計画が台無しだろうが!」

「だって……、だってこの超破壊兵器が活躍する前にルーサーさんが全部倒しちゃうかと思って!」


「あのエビルアニマルの群れはピーネの畑の魔導起爆壺除去に使うって前日あれだけ作戦を練って仕込みしただろう!?」

「仕込み……?

 てっきりルーサーさんが先に行ってエビルアニマルを全部片づけてしまおうとしてるのかと……」


「えっと、お前、ピーネだよな? 俺に畑の魔導起爆壺の除去依頼をした」

「はい、間違いありません」


「覚えてないのか?」

「はい……恐らく昨日死んだ影響だと思います。

 死んで本体の木から復活したときにレベルダウンと共に直前のレベル帯で活動した記憶の一部がごっそり消えることが有るんです」


「仕込みしたのは起爆壺踏んで自爆して死んだ後だろう?」

「いえ……その……、昨日の深夜にカメリアちゃんの畑をこっそり見に行ってその……」


「ちょっ、お前軽々と死に過ぎだろう。

 もうちょっと冷静に、慎重になれよ。

 こりゃ起爆壺とエビルアニマルを早いとこ処理しないとピーネの寿命が尽きちまうな……」

「ごめんなさい」


「もういいや、もうスタンピードは始まっちまった。

 こうなったらこのまま強行するしかねぇ。

 カメリアは今どこにいる?」

「私の畑の近くの小川、昨日ルーサーさんがケルピーに乗る練習をした場所で、ケルピーの体を洗っています」


「よし。

 それじゃぁピーネ、お前の役目をもう一度言うから忘れるなよ?」


 俺はケルピーを走らせながら手早く作戦をピーネに説明した。


 ***


 カメリアはピーネの畑近くに流れる小川で、ペットのケルピーに水を飲ませながらその体をブラシで洗っていた。


 ドドドド……

 ドドドドドドド……

 ドドドドドドドドドドド!


 激しい大地の震動と地響きがどんどん近づいて来る。


「何?」


 ザバアッ!


 川の対岸の茂みからケルピーの背に乗ったルーサーとピーネが現れて叫ぶ。


「カメリア!

 急遽、作戦開始だ!

 急いでピーネの畑の位置につけ!」

「気を付けてね!

 カメリアちゃん!」


 ルーサー達はケルピーの走る勢いを落とさずに駆け抜ける。

 直後、カメリアは凄まじい光景を見て絶句した。


 ―――――――――― 小川 ―――――――――――

 

 ___口_口_口口_口倒口_口_川川川川____

 __口倒__口口_口口_____川川川川____

 ___口_口倒口口_口_口___川川川川____

 ____口_口_口口口_____川川川川____

 __口_倒口口口口口_倒_口__川川川川____

 _____口_口_口口_____川川川川____

 ___口__口口口_______川川川川____

 _____口_口口口_口__木_川川川川____

 ____口_口口口口______川川川川____

 木_____口口口_口_____川川川川__カ_

 ____口__口_口______川川川川_ケ__

 ______口_口口__木___川川川川____

 _____口_口________川川川川____

 __木_____________川川川川____

 _______ル__木_____川川川川____

 ___木____________川川川川____


 川:小川

 カ:絶句するカメリア

 ケ:ビビってるケルピー

 ル:ピーネと共にケルピーの背に乗り、全力で逃げるルーサー

 木:森の木

 倒:エビルアニマルの突撃を受けて折れたり倒れて踏まれまくる森の木

 口:暴走するエビルアニマルの群れ。

   遥か彼方まで大群が続く。


 ――――――――――――――――――――


 カメリアは慌ててケルピーに飛び乗り、ピーネの畑へと急行する。


 ***


 俺はピーネの畑に到着し、そのまま起爆壺が無い事を確認済みのルートを通り、畑の中央へと急行した。


 ドゴーン!

 ドゴーン!

 ドゴーン!


 背後では魔導起爆壺を踏んだエビルアニマルが何匹か崩れ落ちたり、空へと吹き飛んだり、燃え上がったりしている。


「ピーネ!

 あの中央の柵で囲われた場所に上から飛び移って入れ、出入り口は作ってない!」

「分かりました!」


 俺はカメリアが入る柵の前で少し減速し、カメリアはケルピーの背から柵の上端へ飛び移り、這い上って中へと降りた。


「これだけの大群だと正面から受け止めたらその柵も持たない!

 俺とカメリアは出来るだけ柵や棘の壁にダメージが行かないよう、ダメージが分散するようにエビルアニマルを引き付けて走りまくる。

 その間ピーネは出来る限り撃ちまくって敵の数を減らせ!」

「分かりました!」


 俺は柵を通り過ぎて畑の起爆壺のあるギリギリのラインを走る。

 

 ドゴーン!

 ドゴーン!

 ドゴーン!


 エビルヘラジカやエビルガゼル達が起爆壺を踏みまくり、あちこちで爆発や爆炎が上がり、吹っ飛んだり、燃えたり、崩れ落ちる。

 ピーネは柵越しに目の前を走り抜けるエビルアニマルの大群に圧倒されながらも、クロスボウを構えて撃ちまくる。


 ガィィ――ン

 バリバリバリバリバリィ!

 ドッゴォォ――ン!


 一発の矢が4、5匹のエビルアニマルを貫通して即死させ、周囲のエビルアニマルにも範囲攻撃の稲妻が走って体力を削る。

 ピーネの口元に再び笑みが浮かび、連射を繰り返す。

 だが敵は圧倒的多数、押し負ければ柵など破壊される。


 ゴンッ!

 ガキィ!

 ゴンッ!


 ピーネが弓を向けている反対側、背後側の柵が角で攻撃を受け始めている。

 相手はエビルバイソン、放っておけば柵など3分持たない!


「ダイコン泥棒さん!

 こっちよ!」


 ケルピーに乗って森から現れたカメリアが、柵を角で攻撃していた数匹のエビルバイソンに呼びかけて挑発した。

 エビルバイソン達はカメリアを追って柵から離れて走り去る。


 ――――――― 混戦状態のピーネの畑 ―――――――――


 森森森森枯森森森森枯森森森森森枯森森森森森枯森森森枯森森森

 森________口___カ________口口口___森

 森__口_口口口口_口__________口口口口口口_森

 枯__口_口_______________口口棘_回口_口

 森_口口_棘棘棘棘棘棘棘棘棘棘棘棘棘棘棘_口口棘_口口回口

 森_口__棘柵柵柵棘棘__口口口_口口口棘口口棘_回口猫口

 森口_口_棘柵ピ柵棘_口口口口_口_口口口口_棘____回

 枯口口__棘柵柵柵__口_棘棘棘棘棘棘棘棘__棘____森

 森_口口_棘棘__口口_棘__________棘____森

 森_口__棘_口口口_棘______竹___棘_____森

 枯_口口_棘_口案_棘____竹____________枯

 森口_口口棘口口口口棘__竹_口__竹__竹______森

 森__口口口口口口口口_口口_竹__ル_________森

 森____口口口_口口口口_口口_口__________枯

 枯_______口___________________森

 森森森森森森枯森森森森森木____森森木森森森森森枯森森森

 森森森森森森森森森森森森森____森森森森森森森森森森森森

 森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森


 森:青々と茂った森の木々

 木:100歳級の老トレント

 枯:魔王軍によって切られたり、燃やされて枯れたトレント

 棘:エルフスグリの木をいくつも絡めて作ったトゲトゲの壁

 柵:ピーネが入る為の丸太を並べて作った頑丈な柵。

   ヘビークロスボウを撃ち込めるがモンスターが入れない隙間が開いている。

 案:人型の案山子。

   狙い通り魔獣を引き付けはしたが、数回突かれて一つは破壊された。

 竹:竹を直径2メートルの束になるくらい寄せ集めて立てた竹束。

 ル:ピーネを柵に入れた後、必死で逃げるルーサー

 ピ:狂気の笑顔でクロスボウを乱射し、L字型の血肉の通路を製造するピーネ。

 カ:ピーネの柵に攻撃していたエビルバイソンを挑発して逃げるカメリア

 口:魔導起爆壺などお構いなしで突進するエビルインパラ、エビルヌー、エビルトナカイ、エビルヘラジカ、エビルガゼル、エビルオリックスにエビルバイソン、エビルシープ等の魔獣の群れ。

   総数一千近く。

 回:ひときわ体の大きいエビルアニマル。

   エビルサーバルの親衛隊。

 猫:皆と一緒にやってきたエビルサーバル


 ――――――――――――――――――――――――――――


 ドドドドドドドド!

 ドドドドドドドド!


 お互いに反対側の外周を一周し、遠巻きに俺の姿を見たカメリアが叫ぶ。


「ルーサーさぁあん!

 こんなの無理です!

 押しつぶされてしまいますぅぅ!」

「いいから全力で走り回ってピーネの居る柵を守れ!

 相手は所詮エビルアニマルだ!

 簡単に誘導できる!

 固定砲台のピーネを守り続けながら周囲を走り続ければ耐えきれる!」


 こういうシチュエーションは魔王軍との戦いで何度かあった。

 魔人兵ではなく、ゾンビやスケルトンと言った知性の乏しい大軍団に少人数で守る砦を攻められた時だ。

 この場合、砦に引きこもって戦えば、速攻で砦は陥落してしまう。

 命懸けで外を走り回り、敵を誘導し続ける者、魔法や弓等、敵を蹴散らす強力な固定砲台がいて初めてまともな戦いとなるのだ。

 そして移動火力である今の俺は、ピーネと共に敵を減らしていかなければならない。

 だが敵は大量、一発たりとも無駄には出来ない。

 エビルアニマルは頭蓋骨も硬質化して厚くなっているため、脳天を狙っても死なない可能性がある。

 ま、さすがに今のエイジド・ラブとデス・オーメンでは大丈夫だと思うが念の為だ。


「スキル・ハートピアーシング!」


 バシュウッ! ドサッ

 バシュウッ! ドサッ ドサッ

 バシュウッ! ドサッ

 バシュウッ! ドサッ ドサッ ドサッ


 敵の骨格、筋肉組織や腱や脂肪層の位置を瞬時に見切り、硬い部分を避けてダイレクトに心臓を撃ち抜いていく。

 位置取り、条件が合えば一発で3匹ほどの心臓まで貫く。

 流石に何百発も魔法弾マジックシェルを持ってきていないので、自分に追いつきそうな奴、柵や壁に興味を持って攻撃しようとしている奴、機転が利きそうな引っ掛かる動きをする奴に絞って始末していく。

 この作戦、もちろん周囲の魔導起爆壺も利用するが、作戦のキモは固定砲台化してアーティファクトのクロスボウを乱射するピーネに掛かっているのだ。


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