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魔法銃士ルーサー、エビルサーバルの様子を探りに行く

 ケルピー騎乗の練習を終えた夜、俺はピーネの畑の近くにある農具倉庫で蔦のハンモックを用意して貰い、そこで夜を過ごす事となった。

 ハーフ・ドライアードは自分の本体の木に戻って、一体化して眠るので居住する為の家は持たないそうだ。

 俺は近くの机に用意して貰ったナッツ類や果物を摘まみながら眠りについた。


 ***


「おはようございます。 ルーサーさん」

「ん? もう朝か。

 おはようカメリア」


 農具倉庫の扉を開けて立っていたのはカメリアであった。

 自分の背丈の七割くらいありそうな巨大なヘビークロスボウを抱き抱えている。

 クロスボウは所々が金や銀、そして青く輝く宝石などで飾られており、ルーン文字も彫られていて見るからに凄まじい魔力が立ち昇っている。


「凄い物を持ってきたな。

 それが例のヘビークロスボウか?

 えーと」

熾天使セラフィム稲妻渦サンダー・ヴォルテックス大砲キャノンです。

 私の8代前の祖先がこれを使って当時の魔王と戦ったそうです」


「そうすると当時の勇者の仲間だったという事か?

 そいつはスゲェな」

「当時は『グラス・キャノン』という通り名で呼ばれていたそうですよ?

 グラスってあの透明でキラキラした物ですよね?

 やっぱりそれだけ美貌もあったって事ですよねぇ」


 カメリアは目を閉じてうっとりした顔で当時の先祖の姿を想像している。


「そ、そうだな。当時の活躍や立ち位置も想像出来るな」


 グラス・キャノンと言うのは要するにガラスの大砲。

 途轍もなく高い威力の攻撃を放つが、攻撃を受ければガラスのように砕け散る貧弱さだったという事。

 ま、カメリアがそれを知る必要も無いだろう。

 そしてそういう通り名が付くという事は、このヘビークロスボウの威力は本物だという事だ。

 俺は安心してハンモックから降り、昨日の食べ残しのフルーツをかじり、余りのナッツ類をポケットに詰め込んで支度をした。


「カメリア、俺はこれからエビルサーバルの様子を探る為に偵察に行く」

「そうですか?

 では私が案内を致します」


「いや、エビルサーバルが今占領してねぐらにしているカメリアの畑、その位置は昨日描いてもらったこの地図で間違い無いんだろう?」

「はい、かなり正確に描けていると思います」


「それじゃぁピーネが起きてきたら、そのヘビークロスボウで撃つ練習をさせてやってくれ。

 いくら弓使いとしてのスキルが高くても、手に馴染んだ武器でなければ性能を発揮出来ないからな。

 そういえば矢は用意しているか?」

「はい、こちらに」


 カメリアはビークロスボウを抱き抱えたまま体をよじり、俺に背を見せた。

 柴刈りのおじいさんが背負うような巨大な籠に、みっちりとクロスボウの矢が詰まっている。


「うむ、それだけあれば十分だ。

 それじゃぁ頼んだぞ」

「はい。 お気をつけて」


 俺は小屋の隣に繋いでいたケルピーに跨り、カメリアの畑の場所を描いた地図をもってその場を去った。


 ***


「ルーサーさんおはよう……あれ?

 カメリアちゃん?」

「おはようピーネちゃん。

 ルーサーさんはケルピーに乗って私の畑にエビルサーバルの様子を見に行きました。

 あと言伝ことづてだけど、ピーネちゃんにビークロスボウを使う練習をさせてあげてくれって」


「わぁ凄い、持ってみてもいい?」

「はい、どうぞ」


 ガチャリッ


 ピーネは片手で軽々とヘビークロスボウを受け取り、周囲をキョロキョロ見回す。

 そして50メートル程離れた場所に生えた枯れ木に狙いを付ける。


「フレームにまったく歪みも無いし、狙いやすい。素晴らしいヘビークロスボウね。

 カメリアちゃん、一本、矢を頂戴」

「はいこれ」


 ピーネはカメリアからクロスボウの矢を受け取ると、片手で巨大なヘビークロスボウを構えたまま、片手でフレームに付いたレバーをガチャリと引いて弦をロックし、矢をつがえた。


「やっぱり凄いねピーネちゃん。

 私その弦どんなに頑張っても引けなかったもの」

「ヘビーなクロスボウだもんね。これは結構力がいるね」


 ピーネはトリガーを引いた。


 ガィィ――ン

 バリバリバリバリバリィ!

 ドッゴォォ――ン!


 ピーネが狙っていた枯れ木は粉々に粉砕され、矢の弾道に沿って発生した稲妻と衝撃波が2メートル以内の雑草や小木を吹き飛ばし、木の幹をゴリゴリと削っていた。

 カメリアは驚いて尻もちをついて絶句。

 ピーネも驚いてあんぐり口を開けて目を見開き、額から冷や汗が垂れている。

 が、口はゆっくりと閉じて笑みに変わり、目の表情は驚きから高揚へと変わっていく。


 ***


 俺は慎重に風向きを読み、風下からカメリアの畑に接近していた。

 エビル化したものだけに限らないが、野生動物は人間よりも臭いに敏感だ。

 風上から近づけば数キロ先から感付かれる。

 俺は畑までもうすぐの場所でケルピーを降りて近くの木に繋ぎ、足音を立てない様に注意しながら身を低くして近づく。

 そして茂みの隙間から畑を覗いた。


 ――――――――― カメリアの畑 ――――――――――


 森森森枯森森森森枯森森森森森枯森森森森枯森森森森森

 森_______________________森

 森____雄____________雄_____枯

 枯_______________________森

 森__________皿衛皿____雄_____森

 森_______皿衛_皿皿皿_皿________枯

 枯__雄_____衛_皿猫皿_衛_____雄__森

 森_______皿__皿皿皿皿_________森

 森_________衛_皿_衛___雄_____森

 枯_____________皿_________枯

 森_____雄__________雄______森

 森___________雄________雄__森

 枯_______________________森

 森_______________________枯

 森森森枯森森森森枯茂茂茂森森枯森森森森枯森森森森森

 森森森森森森森森森茂ル茂森森森森森森森森森森森森森


 ※分かりやすくする為に少なく描いていますが、実際は1000匹単位で群れています。


 森:森の木々

 枯:爪や角で受けた傷がびっしり付いて枯れたトレント

 茂:低木と草の茂み

 ル:茂みに身を隠して畑を覗くルーサー

 雄:エビルインパラ、エビルヌー、エビルトナカイ等、角を持ったエビルアニマルの雄

 衛:エビルアニマルの中でも一回り体の大きいボス級の雄。

   エビルサーバルの周囲を守る様に立っている。

 猫:エビルサーバル。

   畑の一番作物の茂っている位置を占領し、大根や人参をムシャムシャ食っている。

 皿:立派に育った大根や人参達。


 ――――――――――――――――――――――――――


「確かにカメリアの言う通り、畑の一番餌の多い場所を占有しているあいつがボスに違いない。

 ま、何よりもまずは特性確認か。

 スキル・ガンナーアナライズ」


【ガンナー・アナライズ、分析結果】

 種族名:エビル・サーバル(ユニーク個体)

 個体名:ゴクスケ

 危険度レベル:79

 付加属性1:友情パワー(仲間一体存在する毎に、攻撃力が1%上昇)

 付加属性2:それは〇〇のことかぁ――っ!(仲間一体死ぬ毎に、体格と力と素早さが永続的に1%上昇)

 付加属性3:空気読みマスター(仲間に同調して食生活から行動、意見まで仲間に合わせてしまう。ハブられるのが怖い為、多数派の意見にほど影響される)

 付加属性4:肉大好き(肉を食らう毎に経験値を得る)

 付加属性5:うっかりさん(ちょぉっとうっかりしてる)

 付加属性6:人参嫌い(人参を食って口に入れている間は全能力が最大値の3割減る)

 付加属性7:ピーマン嫌い(ピーマンを食って口に入れている間は全能力が最大値の3割減る)

 付加属性8:セロリ嫌い(セロリを食って口に入れている間は全能力が最大値の3割減る)


 俺は分析結果を見て冷や汗を流した。


「危ねぇ危ねぇ、群れは仲間扱いだから……友情パワーでこれ、攻撃力1000%とか上昇してるのかよ。

 一撃貰ったら蒸発するぞオイ。

 つーか本当は人参嫌いなのにあんなムシャムシャ食ってやがったのか。

 多分本当は肉大好きなのに周りのエビルアニマルに襲い掛からないのも、草食動物に99.9%囲まれてるから空気読みマスターの同調圧力で流されて、皆と同じもの食ってるんだな。

 こないだのコボルド・シャーマンは芸術的な付加属性の構成だったが、こいつは何て危うくていびつな組み合わせなんだ」


 さて、どうしたものか。

 俺がカメリアの畑を観察しながら思案していると、俺の背後に何者かが走って駆け寄って来る音がした。

 俺は警戒して振り向く。


「ルーサーさぁぁ――んっ!」

「ちょ、馬鹿!

 しぃぃっ!」


 走って来たのはピーネである。

 カメリアから受け取った巨大なヘビークロスボウを持ち、背中に大量の矢が詰まった籠を背負って走って来る。


「ルーサーさぁぁん! 待ってぇ! その動物達を殺さないでぇぇ!」

「いやっ、だからっ、気付かれるから静かにっ!

 しぃぃっ!」


 ピーネは俺の横を通り抜け、ザバッと茂みからカメリアの畑に姿を現した。

 そしてガチャコンとレバーを引いてヘビークロスボウを構え、矢をつがえる。


「全部は殺さないでぇ! 私の分も残しておいてぇぇ――!

 やっほ――ぅっ!」

「わぁぁ、ちょ、ま」


 ガィィ――ン

 バリバリバリバリバリィ!

 ドッゴォォ――ン!


 ピーネはエビル・アニマルたちに向けて連射をし始めた。


 ビヒヒィン!

 グヒィ!

 ヒヒィン!

 グチャッ!

 ズバッ!


 あちこちで血煙が上がり、エビルインパラやエビルヌーのなぎ倒された死体が出来上がっていく。


「ひゃっは――っ!」

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ!」


 エビル・サーバルはこちらを向いて背中を曲げ、威嚇の体勢を取っていた。

 全身の毛が逆立って、肌で感じるほどに怒気が高まっていく。

 そして目で確認出来るほどに体格も少し前より大きくなってきている。


「くそっ、ピーネいい加減にしろっ!

 今ので多分30%くらいパワーアップさせたぞっ!

 エビルアニマルはただの小型ガゼルであっても普通の大人のグリズリーよりも強くなってるんだ!

 まともに正面からやり合って勝てる相手じゃねぇ!

 逃げるぞっ!」


 俺はピーネを小脇に抱えて全速力でケルピーの元に戻り、ピーネを抱えたまま飛び乗る。

 その後ろを大地を揺るがす足音を響かせながら何百匹ものエビルアニマルが走って迫りくる。


「行けっ! 進めっ! 全速力だ!」


 さすがのケルピーも藪から姿をだした多数のエビルアニマルを見てビビり、全力でピーネの畑の方へ俺とピーネを背に載せて走り始めた。

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