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魔法銃士ルーサー、魔導起爆壺と魔獣の群れの掃討方法を検討する

 俺は畑の傍の空き地にあった木の切り株に座り、同じく近くの切り株に座るピーネと彼女の友達、カメリアから話を聞いていた。


「カメリアちゃん、この人間が魔法銃士っていう職業の冒険者のルーサーさんよ。

 貴方の畑を荒らした魔獣について詳しく話を聞きたいんですって」


 カメリアと呼ばれたハーフ・ドライアードの女の子はピーネよりやや身長が低く、ピーネと同じような服装をしているが両手を揃えて膝に置き、静かで大人しい印象を俺は受けた。


「初めまして、カメリアです。

 私の畑を荒らした魔獣の話を聞いて下さるという事は、魔獣を退治して頂けるのでしょうか?」

「まぁ依頼自体はピーネから受けてるんだが、場合によっては纏めて片付ける事が可能かも知れない。

 だがまずは魔獣の事を詳しく聞かせて欲しい」


「分かりました。

 この辺りには元々大型の野生動物はイノシシ、熊、狼、鹿くらいしか居ませんでいた。

 でもあれはたしかピーネちゃんの畑に魔王軍の前哨基地が出来た時期だったと思います。

 真っ赤に輝く目をして狂暴化したイノシシや熊がちらほら現れ始めたのです」

「エビル化だな。

 魔族の瘴気に当てられて育つとそうなる。

 魔王軍は侵略した先々の土地で土壌を腐食させて自分たちが活動しやすい環境に変えようとする。

 その腐食した土地に生えるカビの胞子が瘴気となって周辺に漂うんだ。

 人間と違って生まれてから成長して大人になるのが早い野生動物はかなり影響を受けやすいんだ」


「最初のうちは畑を守るために周囲に植えてあるトレント達が追い払ってくれていたのですが、徐々に出没する魔獣の数が増え、力も強くなってきてついには100歳級の魔法まで使えるトレントまでも打ち倒してしまったのです。

 そこからはもう、堤防に開いた穴のように大量の魔獣が入り込むようになり、畑の作物の味を覚えました。

 最後には1000匹に達すると思われる魔獣の群れが彼らのリーダーに率いられてなだれ込み、畑を蹂躙してしまったのです。

 もはや手の打ちようもなくて途方に暮れていたところなのです」


「魔獣の種類は何だ?」

「この辺りでは見ない動物ばかりで、この世界動物図スクロールによると……。

 エビルインパラ、エビルヌー、エビルトナカイ、エビルヘラジカ、エビルガゼル、エビルオリックスにエビルバイソン、エビルシープくらいでしょうか」


「凄い組み合わせだな。

 普通野生動物も魔獣も同じ種で群れるもんだが、全員が混ざって群れてるのか?」

「はい。

 そして恐らくそれらの動物のリーダーをやっているのはエビルサーバルだと思います。

 エビルサーバルが先頭に立って走り回って、指揮をしている雰囲気がありました」


「幾らなんでもおかしいだろ。

 サーバルって猫科だろう?

 エビル化してるとはいえ、餌はむしろ周囲の動物だと思うが」

「いいえ。

 エビルサーバルは親衛隊と思われる大きな角を生やした動物に囲まれながら、私の畑のダイコンや白菜を貪り食っていました」


「……間違いなくそいつがリーダーっぽかったんだな?」

「はい。

 間違いなく」


「魔獣はエビル化していても元々の性質を受け継いでいるもんだ。

 そうでないって事は特殊な変異をしているという事。

 ホント勘弁してほしいよ」

「特殊な変異?」


「そのエビルサーバルは恐らくユニーク個体だ。

 大量の他の魔獣を引き連れてリーダーになっているのも、特殊な属性の影響だろう。

 迂闊に手を出せない相手だ。

 そして統率能力のあるリーダーがいるという事は、無秩序な暴走を利用しにくいという事でもある。

 何とかして真っ先にそいつを始末したいもんだなぁ」

「どうしましょう?」


 俺はしばらく考え込む。

 ピーネとカメリアは不安そうに俺が答えを出すのを待っている。


「戦闘スキルを持っている者は?」

「私は弓とクロスボウを扱えますが、普通の動物ならともかく力が数倍になった魔獣に通用するかは怪しいと思います。

 しかも大量にいるとなると近寄られる前に仕留めるのも無理でしょう」

「申し訳ありませんが私は戦闘スキルは有りません。

 ピーネちゃん、私の家に伝わる家宝のヘビークロスボウを貸してあげてもいいよ?」


「えぇ? いいの?」

「うん」


「どんなヘビークロスボウなんだ?」

「『熾天使セラフィム稲妻渦サンダー・ヴォルテックス大砲キャノン』というアーティファクトでドラゴン相手でも3発当てれば狩れると伝えられてます。

 要求筋力は高いけどピーネちゃんなら扱えると思います」

「楽しみー」


「なんでそんなとんでもないアーティファクトがカメリアの家にあるのかはまぁいいとして、ヘビークロスボウなら射出速度も遅いだろうし、安全を確保しないと1000匹の魔獣の群れ相手に正面から戦う訳にはいかないな。

 まぁいい。

 ピーネ、魔王軍が畑に前哨基地を作っていた時の配置を覚えているか?」

「あちこちの木陰から何度も覗いてたのである程度は覚えています」


「じゃぁちょっと思い出せるだけでいい、そうだなこの木の皮の裏に描いてくれ」


 ベリベリベリッ


 俺は近くに有った枯れ木の皮をはいでピーネに渡した。


「えーと、たしか……」


 ―――――――――― ピーネの畑 ――――――――――――


            魔王領方向


 森森森森枯森森森森枯森森森森森枯森森森森森枯森森森枯森森森

 森___________________________森

 森___________________________森

 枯______________柵柵柵柵柵________枯

 森______塔塔塔塔____柵___柵________森

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 枯______________建建建建建建_______森

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 森___________________________森

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 森___________________________枯

 枯___________________________森

 森森森森森森枯森森森森森木__ピル森森木森森森森森枯森森森

 森森森森森森森森森森森森森丸丸_カ森森森森森森森森森森森森

 森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森


            光輝の陣営領方向


 森:青々と茂った森の木々

 木:100歳級の老トレント

 枯:魔王軍によって切られたり、燃やされて枯れたトレント

 建:建物が有ったとピーネが記憶している物。

   魔王軍兵士達はその中で寝たりしていたらしい。

   今は所々に焦げた木材が地面から突き出ているのみ。

 塔:高い矢倉のような見張り台が作られていた箇所。

 柵:人の背丈の倍くらいの高さの丸太の柵が張られていた箇所。

 丸:積み重ねられた丸太

 ル:ルーサー

 ピ:ピーネ

 カ:カメリア


 ――――――――――――――――――――――――――――


「なるほど」

「前哨基地が有った頃はこの柵で囲まれた檻を見て、ここに魔王軍に捕まえられた人々が詰め込まれる事になるのかと心が痛みました。

 幸いにもそうなる前に光輝の陣営の兵団の方たちが駆けつけて追い払ってくれました」


「確かに捕虜を捕えた場合ならそういう使い方をしただろう。

 だがこの前哨基地には弓兵が多かったんじゃないか?」

「えぇっ!?

 どうして分かるんです?

 確かに7、8割は弓を持った兵隊達でした」


「この柵は敵の襲撃を受けた時に、弓兵が入る為に用意されてたんだよ。

 弓兵は近接戦闘をする兵士や、騎兵に突撃されればひとたまりもない。

 だが柵で囲われた中に居れば、少なくとも柵を破壊されるまでは一方的に弓で攻撃出来るからな。

 もちろん矢倉の上から弓を撃つのが一番効果的だが、足元がおろそかになりやすい。

 だからその死角をカバーする意味もある。

 恐らく畑の外周に魔導起爆壺が重点的に埋められている。

 逆に中央付近、これらの建物が並んでいる付近には埋まっていないだろう。

 そして魔王領側に一か所、建物群の左右どちらかに一か所、外へ出る為の安全な道が用意されているはずだ。

 魔王軍だって出入りするし、襲われた時の逃げ道や裏取りの道が必要だからな」

「凄いですねルーサーさん。

 これを見ただけで地面に埋まってる物の分布を看破してしまうなんて!」


「軍隊という物は合理的に動くからな。

 予想は付けやすい。

 よし、まずは俺が中央のエリアへ行ける安全な道を探す。

 そしてピーネとカメリアはその道を通り、畑の中央付近、俺の指定する場所に同じように柵で囲われた部分を作るんだ。

 ごっついヘビークロスボウを持ったピーネは戦闘時その中に入って動物達を狙撃する。

 そして動物の移動を制限する壁も同時に作る」

「壁? 侵入を阻止するのではなくですか?」


「弓を扱えるなら横に全速力で移動するターゲットよりも、自分から見て直線状を移動するターゲットや、方向転換の為に足を止めたターゲットの方が狙いやすい事は分かるだろう?」

「言われてみればそうですね」


「敵がそういう動きをするように誘導するのさ。

 別に完全に囲んで阻止するだけが壁の役割じゃない。

 後早く走れる騎乗動物が必要だな」


 カメリアが手を叩いて答える。


「それならば家にケルピーが二頭居ます。

 あっ、でもよその人には懐かないかも。

 ルーサーさんが騎乗したら川に引きずり込んでしまう恐れが……」

「おいおい……、まぁ試してみるさ」

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