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魔法銃士ルーサー、ミスリルブーツを作ってもらう

 ミスリル鉱山の糞尿ゴーレム、コボルド、そしてそれらを使役・統率していたコボルド・シャーマンは打ち倒され、鉱山は再びドワーフ達の手に戻った。

 そのニュースは瞬く間に広がり、元々ミスリル鉱山のお陰で大繁盛していた鉱山都市オウレルには先を争うように人々が駆けつけ、超スピードで再興が始まっていた。

 まだ打倒の翌日、午後だというのに既に町の大通りには行商人が5、6人品物を並べて声を上げ、商売を再開し始めている。

 俺は酒場でカルーノと、炭鉱ギルドのマスター、コベリと机を囲んでいた。


「さすがはルーサー殿、町のドワーフも、幾度となくやって来た冒険者パーティーにも出来なかった困難な依頼をよくぞ達成して下さった。

 元々ミスリル鉱山は金の生る木でもある。

 鉱山が復旧すればこの町を一度は捨てて去っていった連中も、目を血走らせながら殺到して戻って来るだろう。

 全てアンタのおかげだ。

 ささっ、飲んで飲んで」

「いやいや、シャーマンを倒せたのはカルーノ殿の筋肉魔法があったからだ。

 カルーノ殿が居なければ完全に詰んでいた。

 それにしてもカルーノ殿、大丈夫か?」

「問題ござら……アタタタタ。

 最後のあの大魔法の影響で既に筋肉痛が全身に広がって……イテテ」


 カルーノは全身が硬直したようなぎこちない動きをしながら、ジョッキを手に取りビールを飲む。


「大丈夫、この痛みを超えればそれがしの筋肉魔法もさらに一段階、強化されるはずでござる」

「しばらくはあまり無理をしない方がいいだろう。

 栄養を取ってよく眠る事だ。

 おーい! ウェイトレスの姉ちゃん、チキンの丸焼きステーキを彼に頼む」


「アタタ……脂肪は削いだのを頼む」

「姉ちゃん、チキンの脂身とか皮は削いだステーキでよろしく!」

「脂身抜きのチキンステーキですね?

 オーケーよ」


 ウェイトレスの女性はメモを書いてカウンターの方へと戻っていった。


「それにしてもほんの二日前にはこの店に客も居なけりゃ、店員はカウンターの親父だけだったよな?」

「緊急で雇ったそうだ。

 かつての様にすべての席が客で埋まって満席、こうなることは明らかだったからな。

 それより、我々の感謝の意も込めて、何かミスリルで武器か防具かを作ってルーサー殿に進呈したいが、何が良いかな?」


 俺は少し考えこむ。

 ミスリルと聞いて思い出すのは、俺がパーティーを追放される前に履いていたミスリルブーツ。

 敵の巻いたマキビシでも針をへし折って踏み進む事が出来、人間の急所である足の腱も完全にガードされ、ミスリルの特性で羽のように軽い。

 そしてかなりの高級品でもあった。


「気持ちは有難いがミスリル製品は最高ランクの高級品だ。

 そう簡単に貰う訳にはいかないよ」

「その高級品を再び幾つも販売出来るようにしてくれたのだ。

 十分に見合うだけの活躍をアンタはしてくれている。

 で、何が欲しい?」


「……いや、しかしさすがに気が引けると言うか、この依頼の報酬の10倍以上値が張るような物を貰う訳には……」

「はっきり言わんか。

 何が欲しい?」


「ブーツが有れば嬉しいな。

 乗馬用のブーツのように少し長めで、先端が尖った感じの」

「よし、早速鍛冶屋に向かうぞ。

 ミスリル武具を作りたくてウズウズしているベテラン鍛冶師が待っておるからな」


 ***


 俺は町の外れにある鍛冶工房へコベリと一緒に来ていた。

 底に居た鍛冶師は俺に注文内容を聞くと、素早く俺の足のサイズを測り、作り立てのミスリルインゴットを持ちだして炉に入れては打ち延ばしていく。


 カーン! カーン! カーン! カーン!


「手慣れたもんだな。

 素人の俺が見ても分かるが、叩き上げていくミスリルの形に一切の無駄が無い」

「そりゃそうだ。

 彼はかつてこの町に居た大勢のミスリル鍛冶師の頭領だったからな」


 カーン! カーン! カーン! カーン!

 コンコンコンコン、コンコンコンコン


 大まかな形状が出来上がった赤熱するミスリルプレートに、小型のハンマーやノミのような物を使って仕上げをしていく。

 動物の皮ではない金属であるミスリルが組み合わされ、足の指、くるぶしなどの可動部分は蛇腹状になって柔軟に動くように繋げられていく。

 ふくらはぎ部分は履きやすくするためにユリの花の花びらのように開くようになっており、足を入れたら閉じてカチッと留め金をはめて固定する仕組みである。


 トントントントン! トントントントン!


 釘や鋲のような物は一切なく、全てを知り尽くしたベテラン鍛冶師による一体成型のパーツが組み合わせられていく。

 仕上げに表面にデザイン的な彫刻のような物が素早く掘られていくが、その作業は超高速、超正確、そして何年も練り上げた芸術家の如く素晴らしいデザインである。

 鍛冶師のドワーフは俺を振り返って尋ねる。


「そういえば乗馬用と言っておられたが、拍車は付けたほうがいいかね?」

「あぁ、可能なら頼む」


 拍車と言うのは一部地域の乗馬用ブーツの踵に付いている、小さな丸ノコギリのようなパーツである。

 馬に乗っているときはここを馬の腹に当てて転がし、馬に指示を伝えるのに使う。

 鍛冶師はあっという間に拍車も作り上げ、ブーツの後ろ、ふくらはぎ側に折りたたんで収納も可能な形式で拍車をかかとに付けた。


「仕上げだ」


 鍛冶師はまだ熱を帯びるミスリルブーツを、傍にあった釜戸のような物の中に入れる。

 その底には魔法陣とルーン文字がびっしりと彫られており、ミスリルを最終的に硬化させて性能を上げるのに使い、魔導炉と呼ばれている。

 魔導炉の中のルーンが眩い光を放ち、ミスリルブーツはシュワシュワ音をたてはじめる。

 そしてその音は徐々に小さくなっていった。


「完成だ。こりゃちょっと傑作を作ってしまったな」



【鉱山奪還記念ミスリルブーツ『ルーサー・ジ・エグザイル』 強化+5】

 〇足部分性能

  防御力:110

  風・水・雷・魔属性耐性:50%

  地・火耐性:100%

 〇全身波及性能

  物理ダメージ低減:-20

  トレジャー発掘運:+50

  移動速度:+30%


 特徴:ミスリル防具は量産品であっても最高級品だが、最上級のベテラン鍛冶師が素材を惜しまず、一切の妥協無し、自分の趣味的情熱を全力で注ぎこんだ記念品であり、その性能は量産品の3倍以上である。

 きわめてレアな属性として物理ダメージ低減が付いている為、20以下のダメージは全身に向けて100発来ようが、1000発来ようが無効化する。

 それに加えて超々レア属性としてトレジャー発掘運まで付いてしまうとなると、もはや国宝級にまで価値が上がる。

 また、度重なる強化の末に火属性防御が100%に到達してしまった為、赤熱した溶岩の上だろうが歩行可能。



「凄いな、これ国宝級だろ貰っていいのか?」

「気にしないでくれ。

 むしろルーサー殿以外には持ち主は居ない。

 なんたってここ、脛の外側部分一番上に、名前を彫りこんでしまっているからな。

 もう仕上げ工程を終えて固めてしまったから削る事も消す事も出来ん。

 永久にルーサー殿の物だ」


「名前があるのは有難い、似たようなブーツが並んでいる場合ならな。

 まぁ似たブーツなどこの世に存在しないだろうが。

 『ルーサー・ジ・エグザイル』?

 追放者ルーサー……、俺の境遇をよくご存じで」

「まっ、まぁなんか響きがカッコイイでは無いか!」


 ***


 俺は貰ったミスリルブーツを履いて、鉱山都市オウレルの門を出て振り返る。

 カルーノ、コベリ、そして大量の鉱夫ドワーフや鍛冶屋ドワーフが手を振っていた。


「達者でな――! ルーサー殿!」

「ミスリル武具が欲しけりゃいつでも戻って来い!

 ルーサー殿は特別に値引きをしてやるぞ!」

「有難う!

 それじゃまたな!」


 俺は手を振って応えた後、鉱山都市オウレルを後にした。

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