魔法銃士ルーサー、ユニーク個体のコボルド・シャーマンを仕留める
俺とカルーノは坑道3Fへの階段を上った。
3Fは一本道の先の大きなフロアとなっており、一番奥で逃げ場を失ったコボルド・シャーマンが壁を背にしてこちらを見つめている。
―――――――――――――― 坑道3F ―――――――――――
回回回回回回回回回回回回回回回回回回
回回回回回回回回回回回____回回回
回___ル___________回回
回_凹____________祈回回
回___カ___________回回
回回回回回回回回回回回____回回回
回回回回回回回回回回回回回回回回回回
回:硬い岩盤
凹:坑道のB2Fへの階段
ル:ルーサー
カ:カルーノ
祈:追い詰められたことを悟り、杖を片手にこちらを見つめるコボルド・シャーマン
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「追い詰めましたな、ルーサー殿」
「よし、スキル・ガンナーアナライズ!」
俺はコボルド・シャーマンの特性を分析する。
【ガンナー・アナライズ、分析結果】
種族名:コボルド・シャーマン(ユニーク個体)
個体名:セローラ
危険度レベル:75
付加属性1:マインド・バリア(揺るぎない精神により、自分が認識した全攻撃を無効化する)
付加属性2:スーパー・マジシャン(魔力を2倍に増強する)
付加属性3:呪い返し(敵が攻撃を放ち、ヒットしなかった場合、威力3倍の魔法衝撃波にして攻撃者に返す)
付加属性4:イーグル・ゴッズ・アイ(どれほど小さく、遠く、素早い動きも完全に認識できる)
付加属性5:聖なる父(圧倒的カリスマ性を発揮しつつ、魔力を2倍に増強する。ただし非暴力主義の為、自分からの攻撃はしない)
付加属性6:サイコ・パワー・ハンド(発動魔法の威力を2倍にする)
付加属性7:グランドマスター・マジシャン(魔法は100%ヒットする。魔法威力2倍化)
付加属性8:マジック大好き(マジックが大好き)
「こいつは……途中で手を出さなくて正解だったぜ。
ヤバすぎる付加属性のコンボだ」
「というと?」
「俺達が普通に攻撃していた場合、イーグル・ゴッズ・アイでどんな攻撃も100%認識される。
そしてマインド・バリアで完全に攻撃が無効化。
攻撃が当たらなかったために呪い返しが発動し、威力3倍の魔法衝撃波がカウンターで放たれる。
さらに魔法衝撃波は魔法なのでスーパー・マジシャンで6倍、聖なる父で12倍、サイコ・パワー・ハンドで24倍、グランドマスター・マジシャンで48倍になり、なおかつ100%ヒットする。
奴を指先で弾いただけで、俺達は砂レベルまで分解する粉みじんになっていただろう」
「鬼すぎるであろう……」
「これだからユニーク個体のコンボは侮れないんだ。
魔法2倍程度なら大したことが無かったかも知れないが組み合わせ次第でな……こいつは稀に見る最悪の組み合わせと言えるだろう。
唯一の救いは聖なる父、相手が自ら魔法攻撃をしてこないという事、これに俺達は命を救われている」
「一体どうすればいいのだ?」
「攻撃を当てさえすればいい、そうすれば呪い返しの前提、攻撃ミスが起こらず、カウンターを受けずに済む」
「しかし、こっちの攻撃は完璧に無効化されるのだろう?」
「いや、実はマインド・バリアには弱点がある。
マインド・バリアは『揺るぎない精神』によって攻撃を無効化する。
つまり心を揺るがすことが出来ればバリアが剥がれるんだ。
俺は以前、同じ属性を持ったエビル・ガゼルのつがいを攻撃して心を乱し、バリアを剥がして倒したことが有る。
卑怯と言うかもしれないが、そのエビル・ガゼルは村を襲い、20人以上の罪も無い人間を殺してきてたからな。
心を乱すには、相手が何に関心を持っているかが重要だ」
俺はコボルド・シャーマンの目の前2メートルまで歩み寄った。
そして尋ねる。
「おい、セローラとやら、お前マジック大好きなんだって?」
「良く分かったバゥ、僕はマジック大好きどころか、マジックマスターと言っても過言ではないバゥ。
この世界中のマジックを研究して知り尽くしているバゥ。
もう最近では知らない事が無くなって飽きてしまったのでここに引きこもっているバゥ」
俺は銃をホルスターにしまい、ポケットからコインを取り出した。
そして両腕を前に出し、両手の平を上に向けて開く。
その右手の平には取り出したコインが載っていた。
「じゃぁお前はどんなマジックを見ても確実に見破れるという訳だ」
「当たり前だバゥ。
もう人間の技など飽き飽きだバゥ」
「よぉく見ろ、どっちの手にコインが載っている?」
「お前から見て右手の平に載ってるバゥ」
「間違いないな?」
「間違いないバゥ」
「ハッ!」
俺は素早く両手のひらをグーにして閉じ、手首を半回転させて手の甲を上側に向けた。
なお、グランドマスターの魔法銃士の鍛えた手と指の技により、人間はおろか動物でも目視不可能な速度でコインを左手側に飛ばして移動してある。
「さぁて、どっちにコインが有るか当てて見な!」
俺は鼻の穴を大きくして、笑みを浮かべながらドヤ顔でシャーマンに尋ねる。
「こっちだバゥ」
シャーマンは俺の左手を指さした。
「えっ? いやお前、ちゃんと見てたか?」
「最初右手に持ってたのは見てたバゥ。
でもお前は手を握る瞬間、素早くコインを左手側に投げて、左手でキャッチしたバゥ」
「ルーサー殿、ルーサー殿。
たしかこやつの特性はイーグル・ゴッズ・アイ。
どれほど素早くやっても確実に見破られるのではなかったか?」
「はっ、しまった!」
「正直僕の能力のおかげで、どんなに黒カーテン背景で細い黒い糸を使ったトリックをしても、完全に見えてしまって興ざめだバゥ。
透明化魔法を使って身を隠しながら、高名な人間の奇術師の公演を何度も見に行ったが、見ててアホらしかったバゥ」
俺は後ろに下がり、口をつぐむ。
完全に手詰まりかも知れん。
平和なやり取りに見えるが、命懸けの真剣勝負。
こちらから手出しできない以上、至近距離で相手を見下ろしていようとも、シャーマンの方が絶対的な優勢にあるのだ。
思いつく限りの事をやるしかない。
俺は再びシャーマンの前に出た。
「見て見ろ、俺の手の甲が見えるな?」
俺はシャーマンに右手の甲を見せ、親指だけ90度曲げる。
左手の人差し指で同じく90度曲げた左手の親指を包むように隠し、まるで右手の親指の根元と、左手の親指の先が繋がっているようにシャーマンに見せた。
「いくぞ?
1、2、3、ほらっ! (ササッ)」
俺は一瞬だけ右手と左手を離し、親指が千切れたように見せる。
「お前アホかバゥ」
「ちっ……」
俺は再び引き下がった。
「ルーサー殿、どうやらここは某が本物の筋肉魔法を見せるべき状況でござる。
ルーサー殿は後ろで、こやつのマインド・バリアが剥がれる瞬間を逃さぬよう見張っておいて頂きたい」
「策があるのか?
カルーノ」
「これはかなりKPを消費する魔法故滅多に使わぬが、やらざるを得まい」
「相当自信があるようだな。
頼むぞ」
カルーノはシャーマンの前に歩み出た。
そして道着の上半分を脱いで上半身裸になり、地面に落ちていた黒い石を拾う。
「よく見てみよ。
これが何か分かるか?
種も仕掛けも無い、今ここで拾った物だ」
「石炭だバゥ。
それがどうしたバゥ」
カルーノは石炭を持った手を突き出してシャーマンの顔の前に出し、グーにして握り込んだ。
「姑息なすり替えをしていない事を見せる為、あえて上半身裸になったのだ。
よいか?
注意深く見ておるのだ」
「いーから早くやれバゥ」
「ふんっ! ぬぅぅぅうううっ!」
カルーノは全身に血管を浮き上がらせ、力をこめ始めた。
半端では無いパワーが溜まっているのが見ているだけで伝わって来る。
カルーノの全身から汗がボタボタ流れ落ちる。
「ふぉおおああああああっ! ふんっ!
……よいかな?」
「何も起こってないバゥ。
確実にどこかに飛ばしても居ないし、小型のテレポートを発生させるような魔力も微塵も感じなかったバゥ。
確実に石炭はお前のその手の中にあるはずだバゥ」
カルーノは小指から順番に、指を一本一本開いていった。
キラリッ!
手の中からはまばゆく輝く透明な石が現れた。
「残念、某の手の中にあったのはダイヤモンドだ」
「……そんなっ!?
嘘だバゥ!
そんなはずが無いバゥ!
確実にっ、確実に石炭は手の中から出てないバゥ!
あり得ない! あり得ないバゥゥゥ――!」
コボルド・シャーマンは取り乱し、マインド・バリアの薄青いオーラが波打ち、あちこちに穴が開き始めた。
「隙有りっ!」
パァ――ン!
「はぐっ……バゥ……」
ドサッ
コボルド・シャーマンは額を俺のエイジド・ラブで撃ち抜かれ、即死。
そのまま崩れ落ちた。
シャーマンが死んだのを確認し、一安心してからカルーノに尋ねる。
「しかし凄いな今の手品、いったいどういうタネなんだ?
俺にだけ教えてくれよ」
「石炭とか炭はな、思い切り力を加えて圧縮したらダイヤモンドになるでござる。
もっとも、それが出来るほどの力は某の筋肉魔法くらいであるがな」
「すげぇ。
むしろその技使ってダイヤモンド売ったらカルーノ殿は大金持ちになるんじゃないか?」
「かなりのKPを消費する。
恐らく明日から一カ月間は全身筋肉痛でござる。
とても割にあわん」