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魔法銃士ルーサー、最近流行りのジャンクナルドで肉サンドブレッドを食する

 俺とカルーノは残ったファブリオイルで臭いを消し、宿屋で風呂を借りて体を洗った。

 俺の作戦によって糞尿ゴーレムが封鎖された坑道内で崩れ落ちるまで6時間ほど待つ事になる。

 その間やる事も無い。


「いやはや、あれだけの激臭の中に居た後で体を洗い流して清めると、普通の空気と言う物がとても美味くかんじるでござるな」

「日常の幸せは失って初めて気付くもんさ。

 ところでカルーノ殿、そろそろ昼飯時だ。

 この辺の事詳しいならどこかお勧めの料理屋とか教えてくれないか?」


「お勧め……、お勧めでござるか?

 そうそう、そう言えばルーサー殿、『ジャンクナルド』と言う物をご存知か?」

「聞いたことが無いな。料理の名前か?」


「ドワーフの国とその近場の人間の国で最近流行り始めた料理屋でな、『肉サンドブレッド』と言う肉をパンに挟んだ料理を売っている。

 最初はパン工房に勤めに出た肉屋のせがれが発明したそうだが、これが旨い、施設さえ整えば高速量産出来る、中毒性があると大受け。

 最初は一店舗から始まり、瞬く間に店の数は10を超え、ついには店名でもある『ジャンクナルド』という名のギルドを作って手広く商売しておるそうだ。

 実は最近、隣町にそのチェーン店が出来たと聞く」

「チェーン店?」


「ま、要するに『ジャンクナルド』ギルドが隣町にも店を出したという事であるな」

「その『肉サンドブレッド』って高いのかい?」


「高ければこれほど庶民の間に流通はせぬ。

 ま、選ぶメニュー次第だが、それがしは何度かそこで肉サンドブレッドを食しておる故、安くて満足いく選び方を知っておる」

「面白そうだな。連れて行ってくれよ」


「あい分かった。

 それでは、参りますかな?」


 俺はカルーノの案内で隣町にある噂の『ジャンクナルド』の店舗へと向かった。


 ***


 俺とカルーノはジャンクナルドの店舗の前に立っていた。

 お昼時と言う事もあり、窓から中を覗くと大盛況で全ての机が人で埋まっている。

 入り口から正面奥にはカウンターがあり、若い女性が笑顔で注文を受け、大勢の人がその前に列を作っていた。


「凄いな、よっぽどの名店とか祭りの時しかこんなに人は集まらないぞ。

 いや、そもそもこれだけの客をさばけるのか?」

「それをさばけるシステムを構築したのがジャンクナルドの功績と成功の秘密でござる。

 良いかルーサー殿、初心者のルーサー殿にお勧めのメニューを教えておく。

 ルーサー殿は結構多く食べるタイプであるかな?」


「ああ、体も大きめで一応戦闘職だからな。

 多分普通の男の1.5倍くらいは食うんじゃないかな」

「ならば『ノーマル肉サンドブレッド』と『ベーコン卵マフィン』、『ポテトSサイズ』、『アップルパイ』、『ブドウ水Sサイズ』辺りを頼むと良かろう。

 ささっ、そうこうしている間にも人が来る、注文の列に並ぶのだ」


 ――――――――― ジャンクナルド店舗内 ―――――――――


 壁__壁壁壁壁壁壁壁板板板板板板板板壁壁壁壁壁壁壁壁__壁

 _______売______売______売_______

 カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ

 __客__鼓台客台鈴__鼓台客台鈴__鼓台客台鈴_____

 _机机机__台台台____台台台____台台台__机机机客

 客机机机客__客______客______客__客机机机_

 客机机机客__客______客______客___机机机_

 _______客______客______客_______

 _机机机客__客______客______客__客机机机_

 客机机机___客______客______客___机机机客

 _机机机客__客______客______カ__客机机机_

 _______ル______客______客_______

 _机机机客__急______客__________机机机客

 客机机机____________________客机机机_


 壁:カウンターの裏の壁。奥には調理場があると思われる。

 板:上の方に大きな絵入り看板で、セットメニューが描かれている。

 売:客の注文を受けるジャンクナルド店員。

 客:注文を待つ客や、食事中の客。

 台:高さ50センチほどの台座。そこに登って注文する。

 ル:ルーサー

 カ:カルーノ

 急:イライラを募らせる急いでいる客

 鼓:腰に太鼓を括り付け、両手でスティックを持った店員

 鈴:両手でブドウの房のように鈴がくっついた楽器を持つ店員


 ――――――――――――――――――――――――――――


 俺はカルーノと離れ離れになって列に並ぶ。

 前に並ぶ客の頭の上には、カウンターの背後の壁に掛けられた絵入りのメニューが有った。

 相当絵の上手い絵描きに描かせたであろう肉サンドブレッドとポテト、ドリンクの絵が描かれている。


「限定メニューのフォアグラセット、950ゴールド?

 そこらの店の定食が高くて700ゴールド、主流は600ゴールドと言うのを考えると高すぎるだろう……。

 えーと、確かカルーノ殿は何を頼めって言ってたっけか。

 ま、マフィン……、マフィン何とか。

 おかしいな、無いぞ?

 絵のどこにも載ってない。

 いやだって、あれがメニューだろう?」

「ったく遅ぇなぁ。昼休みが終わっちまうぜ(イライライライラ)」


 後ろの客は神経質に貧乏ゆすりを始めている。

 そうこうしている間にも列は進んでいく。

 あっという間にルーサーの二人前の客が注文の順番である。

 その客がカウンターの前にある高台に立つと、両隣で楽器を持つ店員が鈴と太鼓を打ち鳴らし始めた。


「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ~~♪

 楽器の終わりに合わせてご注文をどうぞっ!!

 エイッ!」


 ドコドコドコドコドコドコドコドコ!

 シャンシャンシャンシャンシャンシャン!


「さぁ選んで選んで――? 宜しいかなぁ? 宜しいですねぇ?」


 ドドドドドドド……

 シャラシャラシャラシャラ……


「ハイッ!」

「チーズ肉サンドブレッドセット、ポテトにミルクで」

「あっりがとうございまぁあ――す! 650ゴールドになりまぁす!」


 俺は目を見張った。

 何だこの注文方法は!?

 プレッシャーが半端じゃない。

 つぅかチーズ肉サンドブレッドって言ったっけ?

 載ってないぞそんな物、あのカウンターの上の絵に。


 混乱している間にも客は商品を受け取り、今度は俺の前の客が高台に登る。

 そしてまた騒がしく太鼓と鈴が打ち鳴らされる。


 ドドドドドドド……

 シャラシャラシャラシャラ……


「ハイッ!」

「ダブル肉サンドブレッドセット、鳥ミンチ揚げにリンゴ水で」

「あっりがとうございまぁあ――す! 700ゴールドになりまぁす!」


 ダブル肉サンド!?

 無いっ! 無いぞそんな物!


「お次のお客様! 注文台の上へどうぞっ!」

「お、おぅ」


 俺は注文台とやらの上に上がった。


「メニューこれか!?」


 注文台の上に登るまでカウンターが高くて見えなかったが、カウンターの机の上に絵が張り付けてメニューが書いてある。


「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ~~♪

 楽器の終わりに合わせてご注文をどうぞっ!!

 エイッ!」


 ドコドコドコドコドコドコドコドコ!

 シャンシャンシャンシャンシャンシャン!


 えーと、マフィン、マフィン、無いんだが。

 どこにも見当たらないぞカルーノの奴嘘教えやがったな?


「さぁ選んで選んで――? 宜しいかなぁ? 宜しいですねぇ?」


 ドドドドドドド……

 シャラシャラシャラシャラ……


「い、いや、ちょっと待って、焦らせないでくれ」

「あぁぁぁっ! イライラするっ!

 早く注文決めろよっ!」


 後ろの客がキレ始めている。


「仕方が無い、確か前の客が選んでたダブル何とか……」


 それらしいものは有るが絵がごちゃごちゃしてて何が選べるサイドメニューか分からん。


 ドドドドドドド……

 シャラシャラシャラシャラ……


「ハイッ!」

「えっ、えっとその……」

「早くっ! 早くっ!」


「フォアグラセットでお願いします」


 ***


 俺はベーコン卵マフィンを頬張るカルーノの横に、フォアグラセットの乗ったトレイを置いて座った。


「おや?

 はっはっは、ルーサー殿やられましたな?

 はっはっは」

「カルーノ殿、前もって教えてくれてもいいだろう。

 どうしていいか分からなくなってつい高いセット買っちまったよ……」


「すまぬすまぬ。

 慣れてしまうと初心者が上がってしまうという事を忘れてしまうものでな。

 ま、あれがジャンクナルドの戦略の一つ、客側も駆け引きが必要という事だ。

 というか、前もって注文すべきものは教えたであろうに」

「やられたぜ……俺もまだまだだなぁ」


 俺はフォアグラ肉サンドブレッドの包み紙を開けた。


「それも旨そうではないか」


 俺はフォアグラ肉サンドブレッドを食した。

 まぁ、流行っているだけあって美味かったよ。

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