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魔法銃士ルーサー、ドワーフの鉱山都市オウレルへ訪れる

 俺はおたゑちゃんの家で一日休んだ後、今度は請け負った二つ目のギルドの依頼をこなす為にここ、オウレルへとやって来た。

 オウレルはドワーフ領内の山岳地帯にある都市で、近くの鉱山から産出される様々な鉱石、特にミスリルを使った武具類の輸出が主産業になっている。

 俺も過去に一度、ミスリル製の魔法銃を作ってもらうために訪れたことが有る。

 山奥だというのに世界中から商人が押し寄せ、中央通りは常に人や馬車で溢れて売り子の声が響き、大都市に匹敵する賑やかな町だった。


 ヒュルルル……


 ひと気の全くない中央通りでは、一人二人のドワーフの女が桶を抱えて横切るのが見えただけ、他に動くのは風で舞う木の葉だけである。


「さびれちまったもんだなぁ……」


 鉱山が糞尿ゴーレムに占拠されて以降、もうここは町としての役目を終えた感すら漂っている。


「酒場は確かこっちだったな……まだ営業してるのか?」


 俺はこの町の酒場へと歩いた。

 冒険者ギルドでの説明によると、酒場で現地協力者と落ち合うように手配してくれているらしい。

 酒場の建物は記憶通りの場所に見つかり、俺は木のドアを開いた。


「こんにちわ、まだやってます?」

「ひょっとして彼がそうか?」

「こっちだ! こっち」


 中に居たのは隅っこのテーブルを囲む二人のドワーフと、カウンターに立つ初老のマスターのみである。

 ドワーフはその種族特性として二人共あごひげをモジャモジャ生やしており、多分俺より一回り年上といったところだろうか?

 一人は作業用の長ズボンの上に白い服を着てサスペンダーでベルトを引き上げるフォーマルな恰好をしており、もう一人は東洋の空手の道着のような服を着て腰でしっかり帯を締めている。

 俺は手招きをするドワーフ達の方へ進み、同じテーブルを囲んで座った。


「どうも、俺は冒険者ギルドの依頼で例のゴーレム討伐にやってきたルーサーだ」


 フォーマルな恰好の方のドワーフが答えた。


「初めまして。

 俺はここの鉱山労働者達が所属する炭鉱ギルドのマスター、コベリ。

 そしてこちらの方が同じドワーフ族にして魔法使いのカルーノだ」

「お初にお目にかかる。それがしはカルーノと申す」


 空手着っぽいのを着ている方は魔法使いらしい。

 こう言っちゃなんだが、ドワーフと言う種族はあまり魔法は得意では無かったはずだが。


「へぇ――。

 ドワーフの魔法使いは珍しいな。

 やはりファイヤーボールとか放ったりするのかい?」

「火を使う術もあるにはあるが、そなたの想像している魔法使いとは魔法体系が違うのだ」

「まぁ、取りあえずは仕事の話を始めようではないか。

 内容についてはどの程度聞いているかね?」


「魔王軍の魔術師が人間の町の下水から糞尿を集めて、数百匹の糞尿ゴーレムに作り替えて鉱山内を占拠したんだろう?

 で、その討伐依頼を国が出している。

 この鉱山から算出されるミスリルの国家財政への影響は無視できないからな」

「まぁそんな所だ。

 問題はそのゴーレム、俺達ドワーフも撃退を試みたんだが死なねぇんだよ。

 破壊しても破壊してもしばらくすれば復活する。

 どうも術者を倒さなければゴーレムは滅びないらしい。

 そしてその術者はコボルド族の可能性が高いと見ている」


「コボルド?

 犬頭の小型獣人のか?」

「そうだ。

 コボルドは集落単位でリーダーに従って土地から土地へ流れて生きる魔族だが、鉱山内に糞尿ゴーレムが溢れるようになった頃から、コボルドの兵隊共がチラホラ中で目撃されている。

 恐らく彼らのリーダーにして術者はコボルドのシャーマン、だが普通のシャーマンはここまで大規模なゴーレム使役など出来ない。

 ユニーク個体だろう。

 しかも飛び切り強力な奴のな」


「うーむ、術者を倒さない限りゴーレムが不死だとすると厄介だぞ。

 奥に突入したら完全に出口封鎖される危険性がある。

 ドワーフ族も暇してるくらいなら何十人かで手伝ってくれると嬉しいんだが」

「いや……その……皆嫌がってやりたがらないんだよ。

 なんせ糞尿だから、斧で思い切り叩きつけたら周辺と自分自身に飛び散るんでな。

 汚物が。

 この町の戦えるドワーフは大体一人一回くらいは撃退に向かったが、糞まみれで戻ってきてからは誰一人もう一度行こうとしない。

 だから自分たちでの解決は諦めたんだ。

 国に掛け合って討伐依頼を出して貰った。

 遠距離攻撃が出来る奴推奨でな。

 もちろん我々も黙って後ろで見ている訳でもない。

 魔法、つまり遠距離攻撃が出来て土地勘のあるカルーノを呼んだわけだ。

 彼が君をサポートしてくれる」


「……鉱山の中について教えて貰おうか。

 地図とかはあるのか?」

「その言葉、待っていた。

 俺が最初に見て直観した通り、アンタはベテランの冒険者だ。

 何も情報無しに飛び込もうとする素人だったら追い返そうと思っていた所だ。

 鉱山の中に死体を増やしたくは無いしな。

 これが地図だ」


 コベリは何枚かの地図の描かれたスクロールを取り出し、机の上に広げた。


 ―――――――――――――― 坑道1F ―――――――――――


 岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩

 岩岩__岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩

 岩岩___________岩岩岩岩岩

 口___岩岩岩岩岩岩岩岩__岩岩岩岩

 岩岩__岩岩岩___岩岩岩__岩岩岩

 岩岩________岩岩岩岩_岩岩岩

 岩岩__岩_岩___岩岩岩___岩岩

 岩岩岩岩岩_岩_________岩岩

 岩岩岩岩岩_岩___岩岩岩___岩岩

 岩岩岩岩岩_岩岩岩岩岩岩岩___岩岩

 岩岩________岩岩岩___岩岩

 岩岩________岩岩岩___岩岩

 岩岩_凹____________岩岩

 岩岩________岩岩岩__凸岩岩

 岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩


 岩:硬い岩盤

 口:坑道の入り口

 凸:坑道の2Fへの階段

 凹:坑道のB1Fへの階段


――――――――――――――――――――――――――――――――


「坑道はB1Fから3Fまである。

 おそらく3Fに術者のコボルド・シャーマンが居ると推測している。

 ちなみにドワーフの若い衆は7割が最初の広間で糞尿ゴーレム5、6体と戦い、臭過ぎて脱落。

 最高記録は奥の2Fへの階段のある部屋に何人か辿り着いたが、それより先に進んだら帰れなくなると考えて引き返した」

「厳しいな。

 中が狭くて入り組んでるから遠距離攻撃でも力を発揮出来ないぞ。

 見通しも悪そうだしな。

 ゴーレムを外におびき出す事は出来ないのか?」


「奴らは忠実に自分の守備範囲を守る。

 それを越えて追う事はせずに引き返す」

「煙で坑道全体をいぶってみるとか……いや、そもそも入り口封鎖して放置すればいいんじゃないか?

 コボルド達だって飲まず食わずじゃ生きられないだろ」


「俺達が毒気で事故を起こさない様に換気口は無数に掘ってあるからいぶっても効果は薄いな。

 コボルド共はそもそも外へ出てくる気配がない。

 恐らくなんだが、B1Fに地下水脈があふれ出ている個所があるし、そこではカニや魚、カエルやウナギまで採れたりする。

 それで自給自足出来ているのだろう」

「多分クロリィちゃんなら骨騎士の軍団突入させて一発で終わらせるんだろうなぁ。

 あっ、ジョロネロ国で鬼軍曹の訓練に耐えてたあの連中でも戦えるかもしれん」


「おおおっ! 何か心当たりがあるのか!?」

「問題は、大勢の人、スキルある人に手伝ってもらうってのはその分コストがかかるんだ。

 ちゃんとした依頼ならちゃんと見合った報酬を出さないといけないからな。

 親しき中にも礼儀ありって奴だ。

 今回の件はとてもじゃないがそんな報酬を出せるほどの額は提示されていない」


「世知辛いもんだな」

「それが社会ってもんだ。

 とりあえずカルーノ殿、少ししてからまずは一度様子見に行くというのはどうだ?

 所謂、威力偵察と言う奴だ。

 1Fにちょっとだけちょっかいを出してみたい」

「いいだろう。それがしはここで待っておる故、ルーサー殿の準備が整い次第呼んでくれ」

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