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ジョロネロ国の査察、その後

 ルーサー達が立ち去って数日後、ジョロネロ国の都市の門を十数人の大柄な獣人がくぐっていた。

 外交官のマルフクが出迎えて揉み手しながら挨拶する。


「ようこそいらっしゃいましたミャ!

 我々は貴方達を歓迎致しますミャ!」


 大柄獣人達を率いていた先頭の獣人がマルフクの頬を殴り飛ばした。


「おっはガウゥゥ――ッ!」


 ボッゴォオッ!


「ヒギャミャアアアア!」


 ズリョリョリョリョ……。


 吹っ飛ばされたマルフクはふらつきながら立ち上がり、服に付いた土をパンパンと払い落としながら抗議する。


「いっ、いきなり何をするミャ!

 びっくりするミャ」

「大袈裟だなぁ、ただの挨拶だガゥ。

 で、光輝の陣営から連絡があったと思うけど、俺達ベンガル・ワータイガー族は期間未定でジョロネロ国の不正監視にあたるガゥ!

 俺はここに派遣されたコイツラのリーダー、アルーシュだガゥ。

 今後お金をネコババする奴が居たら、容赦なく殴り飛ばして良いと言われてきたガゥ」


「ちょ、ちょっと待つミャッ!

 今、私は別にネコババなんてしてないミャ!

 それなのに殴り飛ばされたミャ」

「ん?

 今のは別に殴り飛ばしてないガゥ。

 只の挨拶だガゥ。

 おっは……」


 マルフクは全速力で反転して逃げ、柱の陰に隠れて顔をのぞかせる。


「噂に聞いていた以上だミャ……これはヤバイミャ……」


 アルーシュは振り上げかけていた手を下ろして左右を見回した。


「それにしてもルーサーはもう帰ったのかガゥ?

 久しぶりに会って色々土産話を聞かせて欲しかったのに……」

「ルーサー様は数日前にお帰りになったミャ。

 仕事が立て込んでて忙しいって言ってたミャ。

 多分もう次の任務をやってる頃だミャ」


「そっかぁ――。

 残念だガゥ」


 ***


 ジョロネロ国の食糧生産工場にて、四つある内の一つの水車はマネージャーの要望によりタロに全面的に任される事になっていた。


 ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン

 チュルルルル、チュルルルル、チュルルルル

 ガチャッカチッ、ガチャッカチッ、ガチャッカチッ


 完全に合理的に配置されたカラクリが動き、小麦粉の袋詰め、精米、調味料の製造と瓶詰が次々と進む。


「急ぐミャ、製品が溢れてしまうミャ」

「わたたた、今すぐ運びますミャ」


 タロの下に付いた手伝いは現在一人、仕上がった製品の運び出しで大忙しである。

 それを壁から顔を出して見守るのはシロである。

 しばらく見続けた後、テツトラの割り当てられた方のレーンへと駆け戻り、テツトラに報告する。


「親方、ヤバイですミャ。多分今のペースだとタロのチームは稼働開始三日にして我々の今月分、二十日分の成果を追い越してしまいますミャ」


 テツトラは眉をハの字にして困り顔で舌打ちする。


「ちっ、……ったく。

 あんな若造に舐められてたまるかミャ。

 仕方がねぇ、本気を出してカラクリを再配置するミャ。

 ちょっと製図道具を集めてお前も事務所に来い、他の作業員はとりあえず今のまま働かせ続けるんだミャ。

 ちゃんとマニュアルの場所は周知したかミャ?」

「大丈夫ミャ」


 ***


 ジョロネロ国の地下に掘られた下水道第一号。

 石積みの壁と天井のある下水道は町の外れまで続き、大きな貯水槽のようなところへと繋がっていた。

 その貯水槽を上から覗き込むのは新規採用された下水道管理ペッパーワーキャットと人間の国から派遣された技術者である。

 貯水槽でウニョウニョとうねる巨大なスライムを二人で見守る。


「汚物分解スライムは空気を沢山吸収することで動きが活発になる。

 だからこうやって貯水槽はしっかりと泡立てるようにかき回すんだ。


 ジャバッ、ジャバッ、ジャバッ


 技術者は先っぽに泡だて器が付いた長い棒を両手で持ち、貯水槽の中をかき回す。


「要領は分かったかい?

 じゃぁ今度は君がやってみたまえ」


 ***


 最前線のメイウィルド、勇者サリー達は魔王軍との戦いの勝利が重なり、ついに魔王軍の前哨基地の一つを陥落させていた。

 前哨基地の中央にある高い塔の天辺でサリーは腕組みをして、まだまだ遠くに広がる魔王領を眺めている。


「サリー、差し入れの紅茶とクッキーを持ってきたわよ」


 階段を上って辺境の魔導士キャロルが現れ、サリーは彼女が手にした盆に載っているティーカップを取った。


「ありがとうキャロル」


 キャロルはサリーの隣に立って同じく遠くの風景を眺める。


「ついに一歩、前進したわね」

「ええ、魔王軍の粘着質な攻撃が続いてさすがの私も心配してたのよ。

 兵士達の士気が萎え始めていたから……」


「でも不思議ね、ここの所魔王軍の底知れぬ耐久力が、撃退してもすぐに軍を再生して反撃してくる勢いが弱まって来た気がするわ。

 何故かしら。

 最近支給される武器の質が上がったそうだし、そのせい?」

「補給線が細くなったのよ」


「補給線?」

「ちらっと見たことが有ったでしょう?

 獣人、ペッパーワーキャットが補給物資を魔王軍に運んでいる姿を。

 どうも影で行われていたペッパーワーキャット族の支援が止まったらしいわ」


「あの史上最悪の糞獣人の?」

「異世界転移者が彼らを率いて魔王軍に加担する勢力を一掃したと情報屋に聞いたわ。

 で、その陰にはルーサーの姿があったとも」


「えええっ!?

 ルーサーの奴どこかに隠れてひっそり生活してるんじゃなかったんだ!?」

「異世界転移者はこの世界に来てまだ一週間程度、兵団の訓練兵の中でも最弱、かつ大馬鹿のクズと聞いてる。

 数百の騎兵を相手に軍に指示を出して、ニズル族のアサシンまで撃退なんて出来っこない。

 恐らく主導したのはルーサーね」


「……そう言えばあいつ、軍の采配は上手かったわね」

「……まっ、ルーサーが後ろについてるなら異世界転移者とやらも大丈夫でしょ。

 私達は私達のやるべき事をやるわよ」


 ***


 聖ハースト修道院にて、ミツールとダイヤは入院しているエリックとクレオの見舞いに訪れていた。

 二人の横たわるベッドは大きな一つの部屋の中で隣りあわせになっている。

 そしてクレオの隣にはココナが椅子に座っていた。

 クレオは眠っているようである。


「ミツール殿、そしてダイヤさん。

 お久しぶりです」

「久しぶりー」

「おう。

 どう? そろそろ復帰出来そう?」


「はい、もう明日か明後日には復帰出来そうです。

 すいませんね、ジョロネロ国視察というパーティー最初の任務に最後までお供出来なくて」

「クレオちゃんの方は……良かった、大分血色が良くなって来てるわね」


 ココナが和らいだ声で答える。


「お陰様で命の危険は去ったそうですニャ。

 今は体力の回復をしつつ、低下した運動能力を元に戻す為に少しずつリハビリを進めているニャ」

「良かったじゃないか。

 で、二人はクレオが完全に治ったらどうするつもりなの?」


「クレオはジョロネロ国に戻ると言ってるニャ」

「そうなんだよね」

「えぇぇっ!?」

「まじで!?」


「ここでジョロネロ国を去っては父上と母上の努力が無駄になるニャ。

 ミィム王家の血筋として、決して逃げずに向き合いたいと言ってるニャ。

 そして父上の意思と同じく光輝の力でジョロネロ国を導きたいと言ってたニャ。

 ルーサーさんやエリックさんを見ていた時にその決意は固まっていたそうニャ」

「僕は? 僕は? どこに行ったのぉ?」

「もちろんミツール殿もですよ」

「でもまだ10歳では政治は難しいでしょう?」


「ルーサーさんを宰相に迎えたいと言ってたニャ」

「子供なんだから遊んで暮らそうぜ?」

「多分ルーサーさんはそういうのやらないと思うわ。

 ココナちゃん、とりあえず貴方が補佐していく感じじゃない?」


「ワタシはルーサーさんのパーティーに入れて貰いたいと思ってるニャ。

 そ、その……クレオの為にもずっとルーサーさんの傍にいて、いざという時のコネクションの維持をしていかないといけないと思ってるニャ」

「ええぇ……まじかよぉ……」

「ははは」

「るっ、ルーサーさんはパーティー作らない派なんだからっ。

 いやっ、ほんっ、もぉ、なぁに?

 いきなり変な事言っちゃって」


「決して下心があるとかでは無いニャ」

「真面目な顔で誤魔化そうとしてる?

 じゃぁ何で顔が真っ赤なのよ?」

「はぁ――、何でルーサーさんおっさんのくせにモテるんだぁ?」


「あっ、あんまり騒ぐとクレオが起きてしまうニャ」

「……」


 ダイヤは黙ってココナの事をライバルとなり得る存在か見定めようとしている。

 見返すココナは誤魔化しつつも負けたり譲ったりする意志が無いのが薄っすら感じ取れた。


「まぁまぁ」

「そう言えばエリック、これを届けに来たんだ」


 ミツールは金貨の入った袋をエリックに渡した。


「これは?」

「ジョロネロ国査察依頼の報酬30万ゴールド、それのお前の取り分10万ゴールドだよ」


「三等分?

 いやいや、ルーサーさんの分はどうなんですか?」

「僕達のパーティーとして受けたんだから僕達で分けろってさ。

 初任務成功のお祝いだとさ」


「何か申し訳ないなぁ」

「そう思うんなら早く体を治して復帰するんだ。

 僕は今回の任務でヒーラーの重要性を物凄く思い知った。

 エリック、お前には超期待している」


 ***


「フーファーファンホンヒハヘホヘ(ルーサーさん、喉に詰まらせない様に気を付けなよぅ?)」

「うめぇ――、もう超うめぇぇ、やっぱおたゑちゃんの料理は最高だよ」


「フォフォフォ(ふふふふふ)」

「ジョロネロ国ってところ行ってたんだけどさ、ちょっと合わない食べ物ばかりで辛いのなんの。

 しばらく離れてておたゑちゃんの料理を食べれる幸せを改めて実感したよぉ。

 もぅ、バブゥ!」


「フォフォヘホフハヘホハ(ふふ、でもルーサーさんまた明日から別の仕事なのよねぇ)」

「ゴーレム、確か糞尿ゴーレム……よし、食事中はその話は止めようぜ」

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