魔法銃士ルーサー、おたゑちゃんに入れ歯を作ってあげる
「フホヘホフホ(さすがだねぇ。ルーサーさん)」
「こんな大きなカニ初めて見たよ。わたすはもう死ぬかと思ったよ」
「こりゃ――本当にでっかいカニだねぇ。うんしょっ」
脱皮したてで死んだエビル・シオマネキのそばでしゃがみこんだおていちゃんは、包丁をカニの腕の関節に当ててゴリゴリと押す。
メキョッ
「あぁ――らぁ――取れたねぇ。ちょっとカニ鍋でも作ってみようかぃ?」
俺はそれを見て閃いた。
「そうかっ! エビル・シオマネキの殻は脱皮したてなら包丁でさばける程度の柔らかさ。
だが俺の知識が確かならば、空気中に触れていれば半日で元のダイヤモンド並みの硬さに戻る。
つまり、今の内に加工すれば素晴らしいアイテムを作ることが出来るというわけだ。
おたゑちゃん、家に彫刻刀みたいな木材加工道具はあるかい?」
「ハフフォヘハヘ(あぁ、確か置いてあったよ)」
「よしっ、おていちゃん、お湯を沸かして貰ったままで悪いが、時間が勝負なんだ。
今すぐおたゑちゃんの家にいって、やりたいことが有る。
悪いがそのカニの爪の身がつまってなさそうな端っこ貰えるかい?」
「いいよぉ。はいどーそ。はいどーぞぉ」
俺はおていちゃんから大根ほどの大きさのある爪の先の殻二つを受け取った。
そしておたゑちゃんを背負うとカフェーの外へと出る。
「ルーサーさん、一体何を始めるつもりねぇ」
おちょうちゃんも後から付いてくる。
「まぁ、完成してからのお楽しみよ。
おたゑちゃん、家に案内してくれるかい?」
「ファッフィ(あっちだよぉ)」
***
「ここがおたゑちゃんの家かい、いい家じゃないか。
こんちわー。
邪魔するよぉ?」
ギィィィ
俺は木造の平屋のドアを開けると中へと入った。
すると即座に家の奥から身長50センチほどのリスザルが走り出てキキィと鳴く。
俺とおたゑちゃんとおちょうちゃんの姿を確認すると、リスザルは玄関の横にあった戸棚を開け、スリッパを3足、玄関に並べて置いた。
「こいつは凄いな。おたゑちゃんのペットかい?」
「フォフォ(ミミちゃんだよぉ)」
リスザルのミミちゃんに慣れているのか、おちょうちゃんはしゃがみこんでミミちゃんの頭を撫でる。
「ミミちゃんいつもお留守番、偉いねぇ。
おぉぉ――よしよし」
「俺も撫でていいかい?」
「フルファフォ(ミミちゃん、この方はルーサーさんだよ)」
「よしよし……。落ち着いた子だなぁ」
「ミミちゃんはとっても賢くて、気配り上手なおサルさんなんだよぉ。
スリッパだって、誰も教えてないのに出してくれるようになったんだよねぇ」
ミミちゃんは俺に撫でられてうっとりした顔でじっとしている。
見知らぬ人間に撫でられてここまで落ち着いてるなんて大したもんだ。
おっと、だが俺には今、急いでやることが有る。
俺はミミちゃんが用意してくれたスリッパを履くと部屋の中へと入っていった。
***
ゴリゴリゴリッ、シュッ、シュッ
俺は囲炉裏の傍で胡坐をかいて座り、おていちゃんに貰ったカニの爪を丁寧に削り、彫刻刀で掘って形を整えていく。
カニの殻が固まるまで時間の勝負。
気を抜くことは出来ない。
シュッ、シュッ
おたゑちゃんとおちょうちゃんも一緒に囲炉裏を囲んで座布団に座り、俺の手元に注目している。
「ようし、ある程度形が整ってきたぞ。
おたゑちゃん、ちょっと大きさの確認をさせてくれ」
俺はおたゑちゃんの背後に移動し、後ろから手をまわして馬蹄形に削ったカニの殻をおたゑちゃんの口元に当てた。
「ようし、大きさは間違いない。
だんだんエビル・シオマネキの殻も硬くなってき始めているし、仕上げといくぜ」
ゴリゴリゴリゴリゴリッ!
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ
ミミちゃんはいつの間にか姿を消すと、肩掛けを持ってきておたゑちゃんに着せる。
凄いよミミちゃん。
***
「よしっ! 出来た!
そしてちょうど殻も固まって刃物が通らなくなったし、本当にギリギリだったぜ」
「わくわくするねぇ、おたゑさん」
「フホフホ(何だろうねぇ)」
俺は完成した入れ歯を持ち、再びおたゑちゃんの背後に移動して座る。
「おたゑちゃん、口を開けてくれ」
「フアアァ(ふあぁぁ)」
カポッ
入れ歯はおたゑちゃんの口にハマった。
ぴったりフィット、俺の目測に寸分の狂いもない。
「どうだ!
ルーサー特性、エビル・シオマネキの殻製入れ歯だ。
完全に固まったらもうその入れ歯には弾丸も通らないぜぇ?」
おちょうちゃんとミミちゃん、そして俺の注目を浴びながら、おたゑちゃんは黙って口をモグモグさせた。
そしてしばらくの静寂の後、口を開いた。
「ルーサーさん、ありがとねぇ。この入れ歯をはめてからしゃべるのが楽になったよぉ」
「おぉぉぉぉ!」
「やったねおたゑさん!」
全員が喜びに包まれる。
で、関係ないんだが、突然俺は別な事を思い出した。
おたゑちゃんの家に入るとき目に入ったんだが、洗濯物が物干し竿に干しっぱなしになっていたことに。
今日はなんか空が曇っていたような……。
「ところで今日って、雨降るかな? そうなら洗濯物早く取り込んでおかないと濡れちまうぞ」
「どうだろうねぇ。わたすは降らないと思うねぇ」
「いやぁ、わたすは降ると思うけどねぇ」
「……」
「……」
「……」
「キキィ!」
ミミちゃんが突然おたゑちゃんに飛びつき、口を開かせて入れ歯を強奪した。
「なっ、何するんだミミちゃん!」
「ウキッ! ウキキィ!」
「フハフハヘホ(ミミちゃん、せっかくルーサーさんに作ってもらった入れ歯を、返しておくれ)」
「おかしいねぇ。ミミちゃんは普段は大人しいんだよ。
こんな乱暴な事はしないのに」
俺は慌ててミミちゃんを捕まえようとするが、ミミちゃんは入れ歯を持ったまま部屋中を駆け回って逃げた。
「おいおい、返してくれよミミちゃん」
「キキッ、ウキキィッ!
キャラ……カブリ……
キキィッ!」
「フホホヘホ(ミミちゃん、どうして返してくれないんだい)」
「普段はよく気が利くいい子なんだよぉ? ミミちゃんは」
俺はその後、しばらくミミちゃんを追いかけまわしていたが、結局ミミちゃんは入れ歯を返してくれなかった。
「フハハヘヒヘヘ(仕方が無いねぇ。ごめんねぇルーサーさん)」
「ミミちゃん、ルーサーさんが作ってくれた入れ歯、気に入っちゃったんだねぇ。
ずっと手放そうとしないし、あれはもう返してくれないねぇ」
「そっかぁ、別のを作ろうにも、カフェー『ライオン』においてある他の殻もカッチカチに固まってしまってるだろうし、無理そうだな。
残念!
諦めるか」
「2115年、アンドロイドの救世主」の売りは未来世界の様々な極限空間、未知の環境の冒険と、主人公の少女型軍用アンドロイド、マキの恰好いいアクションです。
所謂80年代から90年代のテンプレ的なスーパーロボ娘の活躍をお楽しみください。