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魔法銃士ルーサー、ジョロネロ国に新たな風を巻き起こす

 俺達は魔王軍のドラグウォーカー騎兵を殲滅した後、彼らが元居た前哨基地へと踏み込んでいた。

 2、3の魔人兵が残ってはいたが、ジョロネロ兵の小隊の前では大した抵抗にもならず、棒で滅多打ちにされてロープグルグル巻きで転がされる。


「こっちミャ、こっちの部屋が一番偉そうな奴が使ってそうな部屋だミャ」

「よし、案内してくれ」


 俺とミツールとダイヤはジョロネロ兵に案内され、一番大きなテントの中へと駆け込む。

 部屋の中は荒れており、大きな机の周辺には紙が散乱し、床には点々とコインが落ちている。

 俺はじっくりと部屋の様子を観察した。


「どうやらここのボスは金目の物を持って自分だけ逃げたようだな。

 大方自分の配下達に命懸けでの反撃を強要して逃げる時間を稼いで、俺達の注意を反らせたのだろう」

「ヤバくないですかルーサーさん。

 もっと大量の軍隊引き連れて仕返しに来るかもしれないですよ?」


 俺はしゃがみ込み、散乱した書類から何枚か拾い上げながら言った。


「おそらくそれは無い。

 むしろここのボスは魔王軍の元へ帰らずに逃亡するだろう」

「えぇえ? 普通は重要な拠点が陥落したら報告するでしょ?

 逃げるだなんてそんな無責任な事……。

 何百人もの手下を連れたボスなのに有り得ないわよ」


 俺は拾った書類をミツールとダイヤに見せた。

 そこには魔王軍の中枢からのジョロネロ国への工作内容の具体的な指令、完全に懐柔した有力者の名前の羅列、工作資金の流れなどが記載されている。

 かき集めればジョロネロ国に対する何年にもわたる工作活動が完全に明らかにされてしまうほどの、重要な証拠の山である。


「責任感のある奴ならばこれらの資料は焼いていく。

 人の命、国の行く末のかかる軍の行動は、全て合理的に動いているはずだとお前達は思うだろうが、現実はこんなものだ。

 魔王軍は恐怖による支配をしている。

 ここのボスも素直に帰れば良くて投獄、下手すれば拷問や見せしめの処刑を受けるかも知れない。

 自分一人が助かる為、そして逃亡生活の資金とするために金銭だけを手にし、200人以上の部下を叱咤して命を捨てさせ、自分は存在を気付かれないように証拠隠滅もせずに逃げたのさ」

「なんて下衆な奴なんだ」


「実際ミツール、お前がここのボスだったならどうした?

 逃げるのは恰好が悪いから、命を捨てて名誉の戦死をするか?」

「それは……」


 俺はジョロネロ兵を束ねつつ指示をしている古参の上等兵に拾った紙を渡す。

 古参兵はしばらく読み込んで顔色を変える。


「お前達! 今すぐここに散らばっている紙をすべて回収するミャ!」

「了解ミャ!」

「了解ミャ!」


 ジョロネロ兵達があくせくと走り回る中、俺はミツールとダイヤに話を続けた。


「さっきも言った通り、現実は世間の理想通りの世界じゃなく泥臭い物だ。

 飼っている犬に子供の頃噛まれた恨みで、その家の所属する国に戦争をふっかけるような独裁者も居る。

 そういう奴らに共通するのは、形の無い尊い物という物が理解出来ないんだ。

 自分の意思で魔王軍に付いている連中は同じ。

 何があっても守られるべき規律や戒律も、概念も、そして神も信じないし理解出来ない。

 だから己の欲望のみが現実で真実となるし、自分が何でも出来る立場に立てば己の欲こそが最大の法となり信じがたい蛮行も行える。

 彼らを叱りつける神も精霊も存在しないんだからな」


 テントの外で大きな声が響く。


「み、皆、来てくれミャアアア! 大変だミャア!」

「何だミャ?」

「何があったミャ?」


 ジョロネロ兵達と共に、俺達も声の主の方へと移動した。

 声の主はドラグウォーカー厩舎の片隅でしゃがみこんでいた。


「ジョロネロ国で拉致された被害者ミャアアア!

 体中ボロボロでドラグウォーカーの餌にされていたミャアア!」


 地面には雌の十代後半と思われるペッパーワーキャットの死体が横たわっていた。

 既に手足が部分的にドラグウォーカーに齧り取られて欠損しており、体には生きている間に受けたと思われる怪我や傷が無数に付いていた。


「魔王軍め、何て酷い奴らだミャ」

「こっちにいっぱい散らばっている骨、頬の骨の形状からしておそらくペッパーワーキャットミャ。

 被害者は多分何十人も居るミャ!」

「可哀そうに、この娘は何も悪い事をしていないのに連れ去られたミャ。

 ジョロネロ国で頻繁に誘拐される子供はここに連れてこられていたに違いないミャ」

「ジョロネロ国の協力者の中にはここに訪れた奴も書類に記録されているミャ。

 同じペッパーワーキャットがひどい目に合わされているのを知りながら何て恥知らずだミャ」


 ザッ


 ミツールはペッパーワーキャットの雌の死体の横に歩み出て見下ろした。

 死体の横で座り込んだジョロネロ兵が嘆く。


「何でジョロネロ国はこんな酷い目に合わされるミャ。

 この娘が何か悪い事をしたのかミャ?

 天は、神はどうして彼女をお救いにならないミャ?

 何故魔王軍は許されるミャ?」


 ホテルの一件でペッパーワーキャットに情が移ったのだろう。

 俺はミツールの拳が強く握られているのを見ながら言った。


「魔王軍のような下道の集まりと真っ向から対立する思想、倫理、価値観を持った連合が、光輝の陣営だ。

 そして光輝の陣営の勇者は強大な力と、自分を律する強い心を持ち、この世の尊き物の存在を知らしめる使命を持っている。

 そしてそれ故に勇者は何者よりも強く、常に心弱き悪に勝利するのだ」


 ***


 俺達とジョロネロ兵はジョロネロ国へと帰還した。

 古参兵がまず行ったのはジョロネロ国軍司令官への報告。

 持ち帰った資料の名簿に記載され、魔王軍との協力関係にあった士官は速やかに全員捕縛された。

 軍曹の左にいた教官も資金を受け取っており、どうやら洗脳の被害者と言うよりは確信犯だったようだ。


「号外ミャアアア! 号外ミャアアア!

 ジョロネロ国軍の有志が異世界転移者と一緒にジョロネロ国から3キロの地点に隠されていた魔王軍基地を襲撃したミャア!

 ジョロネロ兵は200騎に及ぶ魔王軍のドラグウォーカー騎兵を撃退し、異世界転移者は超恐ろしいニズル族のアサシンに襲われながらも撃退したミャアア!

 基地では魔王軍のジョロネロ国への工作指令書や、工作員と協力者、資金の流れなどが記された書類が大量に見つかったミャアアア!

 さらに近年頻発していた拉致被害者の死体もあったミャアア!

 状況の詳細が判明次第、一週間以上は大特集ミャアアア!」

「号外! 号外ミャアアア!

 国外にこっそり逃亡しようとしていたジョロネロ国の大臣が逮捕されたミャアアア!

 魔王軍の秘密基地で見つかったコブレイ文書に載っていた工作員が続々逮捕されているミャアア!

 その中にはみんなびっくりの人物が続々ミャアア!

 ニュース・ニクニクの情報スクロール、一部300ゴールドミャアア!」


 町では情報スクロール売りがあちこちで声を張り上げる。

 ジョロネロ軍総司令官は工作員の捕縛に軍を使う事を考えはしたが、やはり文民統制をすべきだと判断して内政府の信頼できる人物に情報を託した。

 内政府は慌てて工作員を全て捕えさせ、情報スクロールの記者を集めた会見を行ったのだ。


「皆さん行ってしまわれるのかミャ?」


 俺達は人間の国に帰る為、ジョロネロ国の門を出る。

 後ろにはジョロネロ兵や外交官マルフク、シャーマンのモクロンの姿もあった。


「ああ、まだミツールもダイヤも未熟者、厳しい訓練が待っているからな」

「心配しないで下さい!

 必ずもっと強くなって戻ってきますよ!

 今度は魔王を倒す為にね。

 僕の心はいつも君達と共にあります!

 それじゃあまた!」

「またねー」


「さよならミャアア!」

「ずっとお待ちしているミャアア!」


 ジョロネロ国を歪めていた悪しき力は排除した。

 これから先どう転ぶかは分からないが、少なくともペッパーワーキャット族本来の社会が形作られていくだろう。

 癖の強い一筋縄ではいかない連中だが、部分的とはいえ光輝の陣営としての側面も持っている。

 それがジョロネロ国をどっちつかずの国にしている理由でもあるのだろう。

 俺達はジョロネロ国を去り、帰国の途に就いた。



 ――――――――― ジョロネロ国査察結果:ミツール報告書 ―――――――――

 いい奴らでした。

 魔王軍と戦って超強いアサシンに襲われましたが倒しました。

 ペッパーワーキャット達は頑張っているし優秀な奴も一杯いますよ?




 ――――――――― ジョロネロ国査察結果:ダイヤ報告書 ―――――――――

 糞が特に地獄でした。

 ジョロネロ国への女性の一人旅は絶対に禁止させてください。

 襲われる可能性が高いので最高レベルの注意喚起をお願いします。

 あっ、あと男性も襲われる可能性があるのでそれも注意をお願いします。




 ――――――――― ジョロネロ国査察結果:ルーサー報告書 ―――――――――

 〇ペッパーワーキャット族との付き合い方

 体が大きくて戦闘が強く、声が大きくて気の強い男を交渉に当たらせること。

 彼らとのやり取りは全てがマウンティングの為、決して弱みを見せず理不尽と思える程の叱咤をした方が上手く運ぶ。

 またそれは彼らにとっては言葉程度のコミュニケーションに過ぎないため、かえってなつく傾向あり。


 〇水車の活用状況について

 カラクリを理解し、水車を活用する潜在能力は人並みに有する。

 だが彼らの社会的なしがらみが有効活用を妨げており、水車技術者によるサボタージュ行為が生産性を下げている。

 しかし極めて有望な技術者候補がおり、名前をタロと言う。

 工場のマネージャーに直接掛け合って暗黙で彼を推してある為、人間、エルフ、ドワーフを巻き込んだ技術革新を彼が起こす可能性あり。

 長い目でもうしばらく状況を見守って頂きたし。


 〇ジョロネロ漬け生産工場について

 国そのものの衛生観念が低いレベルにあり、悪意や害意をもった毒混入ではない。

 道路や食堂、食品生産所と問わずに糞が転がっており、誰もそれを異常と認識していない。

 彼ら自身もその不衛生さゆえの疫病に苦しんでいる為、汚物分解スライムの彼らへの提供を強く進める。

 ジョロネロ漬けは人気商品で輸入が無くなる事は恐らく今後も無いと思われ、彼らの国の環境向上はジョロネロ国のみならず人間の国にとっても将来的に有益となる。


 〇徴用ペッパーワーキャット裁判について

 (以下略)

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