魔法銃士ルーサー、影から全戦況を制御する
ジョロネロ兵の矢の嵐を受けながらも、何名かの魔人兵が坂を上り切って崖の降り口にたどり着く。
だがそこを包囲しているのはダイヤ、ミツール、そして4、5人のジョロネロ兵である。
同時に一番上まで来た魔人兵二人が体中に矢を受けて緑の血を流しながらも剣を振り上げる。
「くらえぇ!」
「死ねえぃ!」
だがジョロネロ兵達も負けてはいない。
「棒術スキル・溺れる犬叩きミャアア!」
「棒術スキル・罪人のケツ叩きだミャァアア!」
「棒術スキル・もっと寄越せスゥイングだミャアア!」
バシッ! バシッ! バシッ!
「ぐわぁぁぁ」
バシッ! バシッ! バシッ!
バシッ! バシッ! バシッ!
バシッ! バシッ! バシッ!
袋叩きである。
そしてダイヤとミツールが止めを刺していく。
「ヤァ――ッ!」
「メーン!」
「スキル・ノールックショト」
グサ!
バキ!
ドゴン! カーン!
ダイヤは魔人兵の剣を槍ではらってから胴体の鎧の隙間を正確に貫く。
日頃の訓練が伺える綺麗で迷いの無いフォームだが、初めての実戦で苦悶に歪む魔人兵の顔を至近距離で見て、ダイヤも顔を引きつらせている。
ミツールは興奮もあってか、剣に力は籠っているがまだ未熟で荒い。
横から別の魔人兵が放った剣のスゥイングがもろミツールの胴へヒットするコースだったので、エイジド・ラブで崖の下の弓使い魔人兵を狙撃しながら、デス・オーメンでミツールを狙って滑る魔人兵の剣をノールックショットで撃って弾く。
あえて魔人兵そのものは仕留めない。
この状況でジョロネロ兵を負傷させうる崖下の敵弓兵を漏らさず狙撃しつつ、ダイヤとミツールに注意を払って実戦訓練をさせながら危ない時はこっそり援護する。
そして魔王軍全体の動きに不審な兆候は無いか常に全方位にも警戒を怠らない。
まったく、大変だぜ。
「エイッ! ハァアアァ――!」
「おらああぁぁ!」
「スキル・ノールックショット」
グサッ、ズシュッ!
ズリャリャ!
パァンッ! キーン!
「ゴバァ」
「グプゥ」
ドサッ
ドサッ
横からのジョロネロ弓兵の援護もあり、何とか崖の上へ駆け上ろうとしていた魔人兵達を葬り終わったようである。
歴史上、数々の名門の武将が初陣で活躍して名を上げて伝説を残している。
だが実際は、本人がどんなに英雄を気取ろうとも一人の人間。
雑兵の攻撃がサクッと当たればサクッと死ぬ。
彼らがその名誉を手に出来たのは、その側近や親衛隊、百戦錬磨のベテラン達の裏の助力があったからだ。
ミツールとそのパーティーは特別な存在、さっくり戦死させるわけにはいかない。
この戦いの行く末は俺に全て掛かっているのだ。
ま、こんな気の使い方を戦闘時にすることになろうとは、サリーのパーティーで戦っていた時には想像すらしなかったがな。
「崖下の魔人兵はほぼ掃討が完了したミャ!」
ラクダの背に立って望遠鏡で周囲を見回していたジョロネロ兵が、東を指さして叫んだ。
「東方向に砂塵ミャ! 魔王軍のドラグウォーカー騎兵接近中!
数およそ100、盾剣6割、長物2割、弓2割といったところミャ!
あと100数える頃にはぶつかるミャアア!」
「まじか、マジでルーサーさんの言う通りになってるよ」
「はぁっ……はぁっ……、い、息を整えないと」
だだっ広い砂漠、騎兵と騎兵の戦いはそのぶつかり方が勝敗に大きく影響する。
何が起こったら不味いか、何をすれば優位に立てるか、何が勝敗に結び付くか。
何年にも及ぶ魔王軍との戦いの経験で、実感として知り尽くしている俺はすぐさま指示を出す。
「全軍、全速力で散開!
超拡大した一列半月陣で敵軍を大きく囲い、弓で迎え撃て!
相手は近接兵がメインだ、纏まってこちらの本陣に突入を好む!
だからその本陣を無くす!
各員、もし敵に狙われたら味方を見失わない程度に全力で逃げて遠くまで走れ!
追われていない者は弓を使って孤立している魔王軍騎兵を集中して仕留めていけ!」
「了解ミャアア!」
「了解ミャ――!」
――――――――――― ジョロネロ小隊 VS 魔王軍騎兵 ――――――――――――
崖崖崖崖※※※※※ 崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖
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~ ~ ジ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 騎 ~ ~ ~ 騎
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ジ ~ ~~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~騎~ 騎 騎 ~騎~ 騎
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 騎~ 騎 ~騎~ 騎 ~
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~ ダ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
~ ~ 衛 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
~ ミ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
ジ~ 衛 ~~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
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~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 騎 ~
ジ ~ ~~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~騎~覆 ~~
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ジ:前に棒術兵、後ろに弓兵の乗るジョロネロラクダ騎兵
ダ:前にダイヤ、後ろに俺の乗るラクダ
ミ:前にミツール、後ろにペッパーワーキャット・シャーマンのモクロンの乗るラクダ
騎:魔王軍のドラグウォーカー騎兵
覆:フードを深く被り、マントで全身を隠した謎の騎兵
衛:異世界転移者のミツールを守る為、自発的に守備位置に付いたジョロネロ精鋭兵
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ジョロネロ兵達は素早く散開し、魔王軍を迎え撃つ態勢を整える。
近接戦士で構成された騎兵は寄り集まって、敵の本体に突入し、正面からぶつかり合って押し潰す事を好み、それに特化した装備と技能を備えている。
まともにそれに付き合ってやるのは愚か者か未熟者だけであり、その先には敗北が約束されている。
大勢で一丸となって目指すべき本陣が無くなれば、ドラグウォーカー騎兵もまた散開して敵を追う事になり、それは近接騎兵の利点を捨てる事となるのだ。
魔王軍の最前列は一瞬周囲を見回して焦りの色を浮かべる。
そして崖から遠いほう、大きな半月型包囲陣の端を剣で示し、そちらへ進路を変えて突撃した。
俺は叫ぶ。
「狙われたジョロネロ兵は全力で逃げて魔王軍から一定距離を取り続けろ!
他の者は弓で魔王軍を掃射しろ!」
「うてミャアアア!」
「うちまくれミャアア!」
多数の矢が飛び、魔王軍が次々と倒れていく。
ドラグウォーカー騎兵は隊列の横、遠くから狙い撃つ弓兵を恨めしそうに睨むが、そちらへ単独で離れて突き進むのは自殺行為だと本能で把握し、唇を噛む。
そして魔王軍本陣もいくら追えどもジョロネロ兵を噛み殺すどころか、尻尾を捉える事すら出来ず弓の掃射を受け続けていた。
いつの間にかミツール護衛の位置についていた古参のジョロネロ兵が俺の方を向いて感心する。
「流石勇者サリーの元パーティーメンバー、ルーサー殿は只者では無いミャ。
ナチュラルにこんな凄い戦術を取れるなんて、世界中の軍師を探してもそうは居ないミャ」
「それだけ命懸けの場数をこなして来たって事だ。
大勢の味方の死体を乗り越えてな。
だが気を抜くな。
気になる奴があそこに居る」
「……あのフードとマントを被った二人組かミャ?」
「ドラグウォーカー騎兵に護衛されて隠されているだろう?
奴らはどうもミツールの方へ向かって来ている」
「あんな孤立特攻など弓のいいカモだミャ」
「違うな。
命懸けであの二人組をミツールの傍へ運ぶことに、戦術的な意味を、何か確信をもっている。
おそらくジョロネロ兵達の心の拠り所が見抜かれたようだ。
大将を狩りに来ている。
あの二人組、かなりの手練れだぞ」
「左翼弓兵! あの孤立した魔人兵共を集中攻撃して始末するミャアアア!」
古参のジョロネロ兵の指令に合わせ、無数の矢が飛んで集中する。
だが二人組を護衛する重装騎兵は、体中に矢が突き立って血だらけになりながらも全速力でミツールの方へと走り続けていた。
乗っているドラグウォーカーも特別らしく、極めて頑強で速度も速い。
太陽をまともに見ない生活を何十年も続けてると方角わからなくなりますね。
えぇと、西から登ったお日様が東に沈むの、反対の……