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魔法銃士ルーサー、コブレイ渓谷に襲撃を掛ける

 俺達は五十騎のラクダに騎乗した百匹のジョロネロ兵を引き連れ、砂漠の中を行軍していた。

 ふと横を見ると、ラクダの後ろに載ったジョロネロ兵が器用にラクダの背に直立し、望遠鏡で周囲を見回している。


「どうだ? 何か見えるか?」

「見渡す限りの砂漠だミャ。

 どう見ても半径5キロ以内には高さ5メートル幅程度の砂の起伏しか無いミャ」


 俺はラクダの上、ダイヤの後ろ側で騎乗したまま地図を広げる。


「地図によるとあの方角、距離1キロ程にコブレイ渓谷というものがあるが?」

「おかしいミャね。やっぱり何もないミャ」


 俺は反対側に並ぶミツールのラクダの方を向いて、後ろに座るペッパーワーキャット・シャーマンのモクロンに言った。


「モクロン殿、情報によると蜃気楼の魔法とやらで魔王軍の前哨基地が隠され、ペッパーワーキャット・シャーマンならばそれを看破可能と聞いている。

 その看破の技をお見せ頂きたい」

「ほっ、ほっ、ほっ。

 わての出番ですミャ?

 これっ! 助手! 助手やーぃ!

 祭祀の準備をするミャ」


 ブヒュルルルル!

 ブヒュルルルル!


 ミツールの乗るラクダの左右にそれぞれ一騎のラクダが歩み出て並ぶ。

 そして右側のラクダの後部では、助手らしきペッパーワーキャットが小太鼓をラクダのコブに結び付け、両手に二本のバチを持っている。

 左側のラクダの後部では金属製の小型の銅鑼の様な物を片手に持ち、反対の手にやはりバチを持った助手が現れた。


「それでは看破の術を始めるミャ」


 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 カーンカーン! カンカーンカン! カーンカーン! カンカーンカン!


 激しく太鼓と金属の楽器を打ち鳴らし始めた。

 音は絶え間なくなり続け、至近距離で聞いているミツールは耳を抑えて、かき消されそうになりながら大声で叫ぶ。


「うっ、うるせぇぇえ!」


 気付くとモクロンはミツールの後ろでラクダの背に立ち、ノリノリでダンスのような物を始めている。

 そして長細いハチマキを巨大にしたような布を振り回し、右足、左足を上げて片足ジャンプの連続までし始める。


 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 カーンカーン! カンカーンカン! カーンカーン! カンカーンカン!


 ドガッ


「あたっ」


 ドガッ


「いたたっ、な、何を」


 ドガッ


「こ、この野郎!」


 モクロンはミツールの背中を片足で何度も蹴り始める。


「クッよ、貴方の大いなるお力をこの異世界転移者へ降臨させ給えミャ。

 まやかしの幻想を激烈の波動で吹き飛ばすミャ」

「だから蹴るなって、あだっ」


 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 カーンカーン! カンカーンカン! カーンカーン! カンカーンカン!

 バッサ! バッサ! バッサ!


 モクロンは手に持っていた長い布でミツールの顔を後ろから覆い隠し、何度も何度も緩めたり引っ張って顔にぶち当てたりを繰り返す。


「てめぇ、キレるぞこのっ」

「しょわぁっ!」


 ファサッ


 ミツールの顔に巻き付けられていた布が取り除かれた。

 そして顔を真っ赤にしながら、目を閉じていたミツールは警戒しながら目を開く。


「!」

「どうしたミツール?」


「あっち側に巨大な谷が……、ついさっきまで何も無かったのに!」

「ほぅ、看破の術、成功か?」

「異世界転移者のミツール殿が今、覚醒を果たしたミャ。

 幻惑の術は一人が看破すれば、全員にそれを伝播させるのは容易だミャ。

 ミツール殿、この笛を吹き鳴らすんだミャ」


 ミツールはモクロンから受け取ったラッパのような笛を太鼓や小型の銅鑼の音に交じって吹き鳴らす。


 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 カーンカーン! カンカーンカン! カーンカーン! カンカーンカン!

 プォ~~~~、プヒュルヒュル、プッ、プォ~~!


「おおぉぉぉ」

「あれはっ?」

「あんな大きな谷があんな場所に有ったミャか?」

「爺さんから存在は聞いてたけど、ホラだと思ってたミャ」


 ミツールの吹く笛の音で、俺達に掛かっていた蜃気楼の魔法の幻惑も取り除かれる。

 そして全員が砂漠の大きな渓谷を目の当たりにした。

 ほんの500メートルほど先は崖のようになっており、気付かずにまっすぐ進んでいれば落下死していた可能性もある。


「大勢が乗り出すと敵に察知されるかも知れない。

 君達ジョロネロ兵はここで少し待っていてくれ。

 俺達がまず上から渓谷を覗いて様子を見る」

「分かりましたミャ」


 ダイヤと俺の騎乗するラクダ、ミツールとモクロンの騎乗するラクダがゆっくりと先へ進み、崖から渓谷を見下ろした。


 ―――――――――――――――― コブレイ渓谷 ――――――――――――――――――

    ~  ~ ~ ~  ~ ~  ~ ~  ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 

  ~ ~ ~ ~  ~ ~ ~  ~    ~ ~ ~   ~ ~ ~   ~ ~ ~ ~ ~ ~ 

 崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖

 ・。 ・ 竜・。   竜 。冊   。・。   ・  ・ 。   ・  。 ・ 。   。   ・。テテテテテテテテテテ・。テテ

  ・。 ・ 。竜   。・死 冊    ・ 。  騎 ・  。 。    騎   ・  。 ・ テテテテテテテテテテ・。テテ

 冊冊冊冊冊冊冊冊冊。・。・。  ・。  ・   。 騎  。 ・  。  テテテテテテテテテテ・。テテ

 ・。・。・。・。・。・。・。・。・  騎  ・ 。 。  ・ 。   。  。    テテテテテテテテテテ・。テテ

 ・ 。 ・。 ・ 崖崖崖崖崖崖崖 ・  。  ・ 。 ・  騎  。・  ・。テテテテテテテテテテ・。テテ

 ・ 。 ・ 。 崖※※※※※※。・  。・。  ・ 騎  。。  騎    。 テテテテテテテテテテ・。テテ

  ・ 。 ・ 崖※※騎<だれだよ?    騎<何だよウルセーなー  テテテテテテテテテテ・。テテ

  ・ 。 ・ 崖※※※※※※崖崖  ・ 。   。・。・  。  ・ 騎 ・。 ・。・ 騎 ・。・ 。・ 騎 ・

  ・ 。 ・ 崖※※※騎※ 崖・   ・ ・。 。。  ・。・。 。  。・。 騎<ウルセー  ・。・  。・。

 崖崖崖崖※※※※※ 崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖

 ~  ~ ~   ~ ~  ~ ~  ~ ~ ~ ダ ミ ~  ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~    ~ 

  ~ ~ ~~   ~ ~ ~   ~ ~     ~ ~    ~ ~ ~ ~    ~ ~  ~ ~ 

 ~ ~ ~ ~    ~ ~ ~ ~ ~  ~ ~ ~ ~ ~ ~    ~ ~ ~ ~  ~ ~ 

  ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~    ~  ~    ~ ~    ~ 

 ~ ~ ~ ~  ~ ~ ~  ~ ~ ~ ~ジ~ ~    ~ ~  ~ ~ ~  ~ ~ ~ 

  ~ ~ ~ ~  ~ ~ ~ ~   ~ ジジジジジ ~   ~ ~  ~  ~ ~ ~ ~ 

 崖:高さ20メートル程の垂直な崖

 ※:渓谷へと降りるなだからかな道

 ダ:前にダイヤ、後ろに俺の乗ったラクダ

 ミ:前にミツール、後ろにモクロンの乗ったラクダ

 ジ:ジョロネロ兵二匹の騎乗するラクダ

 騎:ドラグウォーカー騎兵。

   ドラグウォーカーの上に軽鎧に身を包んだ紫肌で角の生えた魔人族が乗っている。

   モクロンの儀式がうるさ過ぎて隠密ってレベルじゃなかった。

   こちらの存在に気付き、何事かと上に確認に上がろうとしている!

 テ:魔王軍の駐屯する巨大なテント

 竜:上に誰も騎乗してないドラグウォーカー

 冊:ドラグウォーカーの厩舎を取り囲む柵

 死:餌代わりに無造作に置かれたペッパーワーキャットの死体

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 俺は即座に後ろを振り向いて叫んだ。


「近接戦闘の得意な者!

 俺達と一緒に崖の左の降り口を取り囲んで封鎖しろっ!

 他は崖の上からドラグウォーカー騎兵達を弓で狙い撃て!

 走れえぇぇぇ!」

「うおおお」

「行くミャアアア!」


 ドドドド


 一瞬の時間の勝負。

 崖の降り口を封鎖すれば完全にこちらが優位を取れる。

 ダイヤとミツールは降り口へラクダを走らせ、ジョロネロ兵達も全速力で前進する。


「げげっ」

「何だ貴様らはぁっ!?」

「スキル・クイックショット!」


 バシュウッ!

 ドサッ

 ドサッ


 俺は素早くエイジド・ラブを抜き、なだらかな面から上まで登って顔を出した二名の魔人族に一瞬で三発ずつ鎧の隙間に弾丸を浴びせて倒した。

 俺のクイックショットは早すぎて銃声は一発にしか聞こえない。

 ミツールとダイヤ、そして4、5騎のジョロネロラクダ騎兵が崖の降り口を取り囲んで封鎖に成功する。

 そして降り口付近で倒れた仲間を見た魔人族は一斉に戦闘モードに入った。


「敵襲!」

「敵襲ぅ――!」


 元から騎乗していた魔人兵は一斉に崖の降り口目掛けて突進を始め、テントから出てきた徒歩の魔人兵は慌てて柵で囲われた厩舎へ向かって走る。


「撃つミャアアア!」

「よく狙うミャアアア!」


 崖の上にはジョロネロ騎兵がずらりと横付けになって並び、ラクダの後ろ側に載った弓兵がビュンビュンと矢の雨を降らせる。

 俺は戦況の全体に注意を払いながら叫んだ。


「完全に優位を取った!

 ミツール! ダイヤ!

 奴らが上に登るこの道は死守しろ!」

「分かったわっ!」

「おうっ!」


 魔人兵にも弓を取り出して上へ向けて迎撃を試みる者が出始める。

 俺はそういう連中を優先して狙い、エイジド・ラブで狙撃しつつ檄を飛ばす。


「一瞬で片付けろ! 目に見える敵を最速で殲滅するんだぁ!」


 額に汗をにじませながら剣を構えるミツールが言った。


「もうこれ楽勝でしょルーサーさん。

 相手は登ってこれないし弓で狩り放題ですよ」

「魔王軍はそこまで甘くない!

 ここからは見えなくとも必ず上へ上るルートは複数有る!

 別動隊との闘いはそう遠くない間に上でする事になる!

 数ではこちらが不利なんだ、二正面との闘いになってしまう前に、別動隊との闘いに備え最速で崖の下の奴らを殲滅しておく必要がある!」

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