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魔法銃士ルーサー、ジョロネロ小隊を編成する

 俺達は再びジョロネロ兵の駐屯地に戻り、以前鬼軍曹の右側に居た、魔王軍に否定的な意見を持つ教官に話を持ち掛けていた。


「あんたは教官としていつも兵士達を見てるんだろう?

 つまりそれぞれの兵士の個性は大体把握していると思っていいか?」

「まぁそりゃ、嫌でも毎日顔を合わすミャ。

 狭い中で一緒に兵舎で生活して、1年以上も経てば雌の好みから嫌いな食べ物まで分かってくるミャ」


「魔王軍に否定的な奴、反ミィムの学生運動とかに否定的な奴、光輝の陣営に好意的な奴を集めて欲しい。

 出来るだけ静かにな」

「別に構わないが、何をする気ミャ?」


「集まってから話すさ」

「仕方が無いミャ。

 外交官のマルフクに出来るだけ協力するように言われているから特別ミャ」


 ***


 一時間後、駐屯地の端っこにある兵舎の一室に、ジョロネロ兵が150人ほど集まっていた。

 中央には大きな丸テーブルがあり、俺とミツールとダイヤ、そして教官などが囲んで座る。

 兵士達はその周囲を立ち見状態で取り囲む。

 俺は、借りて来たジョロネロ国周辺地図を机の上に広げた。


「薄々感じている者も居るかも知れないが、今のジョロネロ国は、魔王軍に武力ではなく政治工作で侵略を受けている真っ最中だ。

 ジョロネロ国内の大手情報スクロールの世論操作も、社会的な大きな動きも魔王軍への迎合、光輝の陣営との破局、果てはジョロネロ国の崩壊へと向かっている。

 それがペッパーワーキャット族の多数派の意思だと言うならば仕方が無いが、実際は悪意ある狡猾な連中に大きな力で誘導されて、操られている」


 俺は情報屋から得た情報、国家崩壊の危機にあった昨日の裁判の事などを話した。

 ジョロネロ兵達は隣同士で時々小声で話し合いながらも耳を傾けている。


「そこで俺達は魔王軍のこれらの影響を断つ道を考えている。

 まずここまでで、君たちの意見を聞きたい。

 それでもまだ魔王軍に親近感を感じている、光輝の陣営に反感を感じている、そう思っているならば素直に言ってくれ。

 俺は率直な意見が聞きたいし、君達に俺の考えや方針を強要までする気は無い」


 部屋は一瞬静まり返る。

 しばらくの沈黙の後、黙って机に両腕を置いて指を組んでいた教官ペッパーワーキャットが言った。


「ここに居る連中は皆、魔王軍に支配された地域からの逃亡者を危険を顧みずに助けたり、訓練や任務の途中で魔王軍に支配された村の現状を実際に見た事がある者ばかりミャ。

 我々は常に危険な最前線に居るミャ。

 遠くから来た人間に諭されなくとも、一番良く理解しているミャ」

「それは失礼した。

 では本題に入らせて貰う。

 俺達はここにあるという魔王軍の前哨基地の襲撃を考えている」


 俺は情報屋から聞いた砂漠の渓谷を指さした。


「ここを拠点として工作員に活動資金を流し、工作員達の安全を担保するための武力、ドラグウォーカー騎兵達、200騎の戦力を保持しているという情報を得ている。

 なのでここを壊滅させ、工作を主導する指揮官を捕えるか、流れる資金の証拠を押さえる。

 そしてその情報を公開すればジョロネロ国内の工作員のネットワークは大混乱から崩壊に向かうと考えている。

 そうすることでジョロネロ国は本物の自立を勝ち取る事になるだろう。

 だが俺達3人だけでは厳しい。

 最低でも50人ほどの小隊が必要だ。

 勇気ある参加者を俺達は求めている」


 ジョロネロ兵達の中にどよめきが広がった。

 しばらく黙って周囲の様子を伺っていたが、ジョロネロ兵達はガヤガヤ話し合いを続けるものの、結論が出る様子は無い。


「どうだ?

 これは君達の国を救うための活動だ、君達自身が力を出す事が望ましい。

 参加してくれるという者は居るか?」


 ジョロネロ兵の一人が周囲に揉まれながらも手を上げて言った。


「心情的には理解しますミャ。

 ミャーも心情的には魔王軍は嫌いだし、魔王軍の影響をこの国から追い出したいと考えていますミャ。

 でも、一番重要な問題について、貴方達、人間は言及していないミャ」

「一番重要な問題?」


「ミャーは負け組には付きたくないミャ」

「そうだミャ、そうだミャ」

「俺達も馬鹿じゃないから、自殺なんてしたくないミャー」


 最初に発言したペッパーワーキャットがまた手を上げて言った。


「どんなに口で理想を語っても、負ければ酷い目にあうミャ。

 この国は表向き法治国家と言えども、有力者に睨まれれば投獄されたり、親族一同に嫌がらせされたり、下手すれば拷問を受けたり殺されたりするミャ。

 魔王軍と光輝の陣営の狭間で何度もそれは繰り返され、ミャー達は懲りてるミャ。

 負けてしまう事を恐ろしさ、負け組に入る事の恐ろしさを心の底から理解しているミャ。

 だからそう易々と提案に乗れるものなどここには居ないミャ」

「そうか……」


 俺は考えが甘かった事を悟り、目を閉じて唇をきつく結ぶ。

 だがミツールが立ち上がって俺に言った。


「こんな雑魚共ほっといて僕達だけで行きましょうルーサーさん。

 どうせ3人でも異世界転移者である僕と、勇者サリーの元パーティーメンバーのルーサーさんが居れば、魔王軍の雑魚兵なんて多分余裕ですよ」

「いや、統率の取れた軍隊ってのは魔獣共と違って舐めて掛かっていいもんじゃない。

 相手も高度な知性を持つ軍師や指揮官が居てだな、こっちが嫌がる事をきっちり狙って仕掛けてくるしだな……」

「ちょっとぉ、何でそこに私の名前が無いの?

 私多分まだ、ミツールよりは強いわよ?」


 だがその瞬間、部屋の中の空気が変わり始めていたことに、俺は後で気付く事になる。


「異世界転移者? 異世界転移者って言ったかミャ?」

「そういえばルーサーって名前の人間の事聞いたことあるミャ。

 確か魔法銃という変わった武器を使って魔王軍相手に戦う、勇者サリーの取り巻きだミャ」


 俺は片手を額に当ててぐったりしながらホルスターからエイジド・ラブを取り出してチラチラ見せる。


「魔法銃士ルーサーは俺、そしてこの生意気な人間が異世界転移者のミツールだ」

「おおぉぉ」

「あれ……ひょっとして、勝ち組ミャ?」

「人間のミツールとかいう奴、おミャーが異世界転移者だという証拠はあるかミャ?」


 ミツールはダイヤの頭の上を指さした。

 ダイヤは立ち上がり、両手で自分の頭に載ったスマホティアラを強調しながら左右を見回す。


「これはスマホ。君たちの世界には無いでしょ?

 こんな高度な機械は」

「可愛いでしょ? ね? 可愛いでしょ!?」

「おおおおぉぉぉ」

「多分間違いないミャ、ミツールは異世界転移者だミャ」

「異世界転移者ってあの、何十年か、何百年かに一度異世界からやってきて、必ず当時の魔王を倒していったというあの伝説の異世界転移者かミャ?」

「そうミャよ」

「アバタール、アバタールが来たミャ。

 こ、これは絶対勝ち組だミャ」

「勝ち組……約束された勝利……甘美な響き、勝ち組だミャァアア!」

「ついでに魔王軍幹部とまともに戦えるベテランの魔法銃士ルーサーも居るミャ。

 これは乗るしか無いミャ」


 周囲のペッパーワーキャット達は盛り上がり始める。


「参加するミャ」

「俺も参加するミャ、そして伝説の一部となるミャ」

「俺も、俺も後世の壁画に載るミャ――!」


 参加者は次々と現れる。


 ***


 ペッパーワーキャットの参加者は最終的に百匹ほど集まり、俺達は駐屯地の広場の一角で出撃準備をしていた。

 兵士達は二人一組になってラクダの背に乗り、俺達の方へも二匹のラクダが引かれてやって来る。


「さぁ、異世界転移者のミツール殿も、ルーサー殿も、ダイヤ殿もラクダに乗るミャ」


 プヒュルヒュルヒュル、ベチョ


 ラクダが顔を振って唾を飛び散らせ、ミツールの顔にクリーンヒットする。

 ミツールはそれを手で拭いながら言った。


「臭っ、てか何でラクダなんですか? 馬じゃないの?」


 ジョロネロ兵は答える。


「砂漠方面では馬よりもラクダのほうが強いミャ。

 暑さや渇き、砂煙にも強いミャ。

 そしてラクダの背は高いので視界もいいし、近接戦では上を取れて有利ミャ。

 このラクダは二人一組で乗るミャよ。

 前側は近接戦闘が得意な者、後ろは遠隔攻撃が得意な弓使いとか魔法使いが乗るミャ」

「そうなると……僕とダイヤは前ですかね」

「俺は後ろか?」

「後ろが一つ空くミャね?

 丁度いいミャ、衛生兵をやってるシャーマンのモクロンを載せてやって欲しいミャ。

 シャーマンは回復魔法、デバフやエンチャント、虫を召喚した攻撃魔法と幅広く活躍出来るミャ」


 シルクハットの上にクジャクの尾羽が多数伸びたような変わった帽子を頭に被り、着物姿で扇子を持ったペッパーワーキャットが歩み寄る。


「どうもミャ、わてが伝統あるペッパーワーキャット・シャーマンのモクロンだミャ。

 ふひゅ――、ズビッ。

 さて、わては魔法使いに分類されるので、後ろに乗るかミャ」


 モクロンは話の途中からダイヤの体を舐めるように見回し続け、よだれを落としている。

 ダイヤはとっさに距離を取り、俺に言った。


「ルーサーさん、後ろをお願いします」

「仕方がねぇな」


 ダイヤは乗馬の経験がある為か、ラクダは初めてにも関わらずすんなりと前に登って槍を構える。

 俺は同じラクダの後ろに、背中のコブを挟んでダイヤの後ろ側に跨った。


「前が近接、後ろが遠距離攻撃か。

 なるほど、確かに合理的ではあるな」


 ミツールは何度もずり落ちながら、下から支え上げて貰ってようやく別のラクダの前に騎乗して剣を構えて空中に振りながら鼻の穴を大きくする。

 ペッパーワーキャット・シャーマンのモクロンは残念そうな態度でその後ろに乗った。

 周囲を見回すと、他の兵士達もラクダに騎乗し終わっている。

 前側は長い棒を持ったペッパーワーキャット近接兵、後ろはコンポジット・ボウを構えたペッパーワーキャット弓兵という組み合わせが大半である。

 ミツールは俺に尋ねる。


「何で他の兵士は剣や槍じゃなく棒持ってるんですかね?」

「あぁ、ペッパーワーキャット族は伝統的に棒術が得意なんだよ。

 次に得意なのが動物の骨や皮や腱で強化した短弓だな。

 剣や槍やハンマーは人間やエルフやドワーフから輸入して歴史が浅いので、長年慣れ親しんで彼らの中で武術として体系化されてる棒のほうがいいのさ」

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