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魔法銃士ルーサー、酒場で情報収集をする

 俺達は外交官のマルフクと一旦別れ、ジョロネロ国の繁華街にある酒場へと向かっていた。

 ミツールが尋ねる。


「ルーサーさん、どうして皆、情報収集に酒場に行くんですかね?

 やっぱり情報が集まりやすいんですか?」

「まぁ、一番暇な人達が集まって好き勝手喋っている場所ではある。

 だが俺達はこれから情報屋に会いに行くんだよ」

「情報屋?

 ジョロネロ国の酒場に知り合いの情報屋が居るんですか?」


 俺は順を追って教える事にした。


「この世界にはギルドってものがあるのは二人共知ってるな?

 冒険者ギルドに入っているもんな」

「ギルドって冒険者ギルドだけじゃなかったのか……」

「鍛冶屋ギルドとか裁縫屋ギルドとか色々あるわよ」


「その通り、大体のギルドのやる事は同じ。

 情報共有だったり、不足物資や人員、仕事の融通だったりする。

 だがその繋がり方は様々だ。

 例えば商人ギルドだが、税制面での不利益を皆が被れば一致団結して圧力を掛けたりする強さもある反面、状況が変わればお互いが出し抜くべきライバルとなるので、横の繋がりは弱かったりする。

 逆に横の繋がりが極めて強いギルドもある。

 何処か分かるか?」

「全然分からないっすよ」

「どこかしら?

 考えたことも無いわ」


「秘薬屋ギルドだよ。

 秘薬屋ギルドは魔法使いや錬金術師が必要とする様々な薬草、動植物から鉱物を取り扱う。

 薬草や動物のいくらかは人工的に栽培出来るが、レアリティの高い物になってくると険しい自然やダンジョンから見つけるしかない。

 植物の群生地なんてある時は南で爆発的に群生していた物が、翌年完全な不作となり、代わりに東の果てで増殖してたりする。

 そういう情報を連携して安定供給する為に全世界の秘薬屋が結束して最も巨大な一つのギルドとなっている。

 それに入らなければ薬草類を安定して仕入れ出来ないし、ひっそり干されて閉店する事になる。

 彼らの結束は数あるギルドの中で最も固く、単独で他を出し抜いて利益を出さない為に値段どころか休日まで全部統一だ。

 お陰で労働者は忙しくて土日しか自由な時間が無いにも関わらず、世界中のどこの秘薬屋も土日は休みだ。

 独身労働者はまともに薬が買えない」

「うわ、ひっでぇ」

「そういう理由だったのね」


「で、それだけ結束が固く、大きなギルドとなると当然、当然裏の顔も出来てくる」

「それが情報屋ですか」


「そう、情報の売買をする為、全世界の大体の大都市の酒場には秘薬屋ギルドの裏の顔、情報屋の役割をする人間が居座っている。

 見た目では分からないがな」

「客が来るか分からないのにずっと待ってるんですか?」


「その理由はもうすぐ分かるさ。

 ほら、酒場に着いたぞ」


 酒場は二階建ての大きな建物の、一階部分に有った。

 窓からは大勢の人々、商人から冒険者、人間や亜人、中には悪魔族に見える連中も見えた。

 中はしゃべり声や鳴き声、怒鳴り声等で騒々しい程うるさい。


 ガチャ


 俺は板で出来た胸の高さほどの開き戸を開けて中に入り、ミツールとダイヤも後に続いた。

 隅っこの方で開いていた小さな丸テーブル席を見つけ、俺の右にミツール、左ににダイヤが座る。

 するとすぐにエプロンをかけたペッパーワーキャットのウェイトレスが、他の客にビールを運ぶついでに歩み寄ってきた。


「ビールかミャ?」

「えぇと」

「メニュー、メニューはどこ?」


「(大きな威圧的な声)ビールかミャ?」

「はいそれで。3つ」


「分かったミャ」


 ウェイトレスは立ち去った。

 俺は苦虫を噛み潰したような顔をしているミツールの耳にヒソヒソ小声で囁いた。


(我は欲する、リャナンシーの愛。ジョロネロ国の反ミィム王家運動扇動者の諸々。30万ゴールド)


 何事かと思って耳をすまして聞いていたミツールは目をパチクリさせて俺を見て言った。


「はぁ!? ルーサーさん何言ってんですか?」


 突如、酒場の遠く離れた場所でせき込む声が聞こえた。


「ゴホッ! ウォッホンッ! 40万ゴールド!」


 俺は今度はダイヤの耳元で小声で囁く。


(40万ゴールド支払おう)


 ダイヤの顔がパァッと明るくなる。


「ええぇっ!? 本当に!? やったぁ!」

「ダイヤ、ルーサーさん何て言ったの?」


「40万ゴールド私にくれるって」

「いや、違う違う。すぐ分かるさ」


 しばらくすると、とんがり帽子を深くかぶった50代の人間の男が俺達の机に近寄って飲みかけのビールのジョッキを机に置いた。


「ご一緒させて貰って宜しいかな?」

「どうぞどうぞ」


 男は俺達と同じ机を囲み、俺の対面の開いている席に座った。

 何が起こっているのか分かって無さそうな左右の二人に小声で解説する。


「情報屋がずっと酒場に居る理由、それは情報収集なんだよ。

 その役割の人間は訓練と魔法の助力を得て地獄耳を持っている。

 この酒場内ならどんなに離れた場所で、どんなに小声で囁こうと全部聞こえてるってわけだ。

 そしてミツールに言った訳の分からない言葉。

 あれが依頼の合言葉だったんだよ。

 ま、普通の人たちは知らないだろうさ」


 情報屋の男はジョッキのビールを少し飲んでから言った。


「まずは頂くものを頂こうか」

「よろしく頼む」


 俺は机の下で、予め準備しておいた金貨の入った袋を情報屋に手渡す。

 情報屋はそれを受け取り、机の下で手触りで中身を確認して自分のカバンへと仕舞った。

 そして語りだす。


「反ミィム王家運動の扇動者だったな?

 まず注意だがジョロネロ国は光輝の陣営と魔王軍の領土の狭間にある。

 魔王軍の手の者も私が把握しているだけで今、店内に12名ほど居る。

 ここからのやり取りは小声で頼むぞ」

「分かった」

「分かりました」

「分かりました」


「直接糸を引いているのは魔王軍幹部、蜘蛛魔人族のカイエンだ。年齢不詳だが魔王アバドーンよりはるかに高齢との噂もある」

「聞いたことが無いな……」


「さすがの勇者の元パーティーメンバーのルーサー殿でも知らなかったか。

 カイエンは極めて慎重かつ狡猾で、表に自分の存在を出さず、裏から牛耳る事を好む。

 奴はジョロネロ国を崩して魔王軍に引き入れる為、ジョロネロ国の二つの職種に重点的に自分の工作員を大量に送り込んだ。

 弁護士と魔法学院の教師だ」

「何故弁護士と教師なんだ?」


「人権派、まぁここではペッパーワーキャット権派の弁護士として表立って直接的に王家に反対する活動を主導出来るからさ。

 建前の性質上、問答無用で押さえつける事は出来ないからな。

 そして魔法学院は魔法職の極みを目指し、宮廷魔導士になる事に憧れる生徒が集まる。

 必然的に知性が高く、必死でわき目も振らずにガリガリ魔法学の勉強に励み、社会経験が乏しい。

 使える手先を育てる洗脳対象として最適なのさ。

 20年以上前から進められていた計画だ。

 ミィム11世が即位後、何とかしようと足掻いた様だがその時には既に手遅れ、土壌は既に魔王軍の物として育った後だった。

 既に魔法学院で洗脳教育を受けた生徒はジョロネロ国各所に権力者として浸透し、各種情報スクロール配送ギルドの指導層になってジョロネロ国の世論という外堀は埋め終わっていたからな。

 簡単な事だ、ある事無い事騒ぎ立てて扇動しても、ミィム11世の反論が世間に届くことは無かった。

 転覆はあっという間だ」


 じっと聞いていたダイヤが言った。


「その人たちって、国を滅ぼそうとして国に刃を向けて行動しているんでしょう?

 怖くないの?

 私だったら怖くて怖くていられない。

 それに毎日の訓練とかお洒落なアクセサリー捜し歩くので忙しくて、そんな大変な事やる余力なんて無いし。

 私にはそんな人達の事がまったく理解できないわ」

「お嬢さん、若いのに大した想像力といいカンしてるね。

 ルーサー殿、彼女は重宝してあげたほうがいい。

 彼女の言う通り、もちろん普通なら恐怖や不安で押しつぶされてしまう。

 耐えられる人なんて滅多にいない。

 そんな誰にも出来ない事が出来るレアな人を人々は勇者と称えるものだ」


 情報屋は懐から葉巻を取り出し、着火の呪文で火を付けて咥えた。


「彼らが不安に耐えられるのは資金面でも、暴力面でも大きなバックが居るからだ。

 緊急事態に自分たちを保護してくれるな。

 そして彼らが精神を保てるのは、自分の心の帰属意識がここ、ジョロネロ国に無いからだ。

 さらに彼らが平然とした顔で活動出来るのは、それが知られる不安が無いからだ。

 だから同じ空間に生きて同じように生活しているようでも頭の中で見ている世界は全くの別物、理解出来なくて当然だ。

 だが所詮こんな事をやるような、魔王軍に流されるような連中は小物。

 そのバックとの繋がりが断たれて、知られたくないものが明るみに出れば揃ってコソコソ退散するだろう」

「資金の流れの証拠と、彼らが安心出来る暴力の担保が近くに存在すると?」


「ルーサー殿はいきなり切り込んでくるな。

 有る所には有るさ。

 普通の奴なら行っても生きて帰って来れないがな」

「教えてくれ」


「えぇっと、どこだったかな。

 最近年のせいか、ちょっと記憶が怪しくてなぁ」


 俺は机の下から、さらに10万ゴールドの金貨が入った袋を受け渡した。

 その様子を机の下から覗き込んで見てたミツールが顔を上げて俺を見る。


「ルーサーさんって金持ちですね」

「いや……経費だ」


 情報屋は指先で金貨を数えて確認してから言った。


「この町から魔王領方面へは見渡す限りの砂漠が広がっていて、何の用事もないジョロネロ国のペッパーワーキャット達はほとんど踏み入れる事も無い。

 だが3キロほど行った地点に渓谷地帯があり、魔王軍が前哨基地を作っていて、工作員への資金提供をする拠点になっている。

 普段は蜃気楼の魔法で隠されているが、中級クラスの魔法使いか、ジョロネロ国のペッパーワーキャット・シャーマンならば看破可能だ。

 だが行くなら単独とか4、5名のパーティーで行って勝ち目はない。

 武装した200名規模の魔王軍の騎兵部隊、ドラグウォーカー部隊が居るはずだ」

「ドラグウォーカー?

 なんですそれ?」

「ダチョウのように二足歩行する羽の無い小さなドラゴンだ。

 魔王軍が馬の代わりによく使う」

「短距離なら馬より若干早いそうよ」


 俺は立ち上がった。


「ありがとう。

 参考になったよ。

 ミツール、ダイヤ、ジョロネロ兵の駐屯地に戻るぞ。

 攻略には最低でも50名規模の小隊が必要だ。

 ジョロネロ国も一枚岩ではない、賛同してくれる連中は居るはずだ」

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